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ヴィジュアル系ロックとヘビーメタルの関係

ドキュメント内 ヴィジュアル系ロックの歴史 (ページ 109-126)

はじめに

この章では、ヴィジュアル系ロックに大きな影響を与えた音楽ジャンルであるヘビ ーメタルを取り上げ、ヘビーメタルがヴィジュアル系にどのような影響を与えたのか、

またヴィジュアル系はヘビーメタルとどのような点で異なっているのかを考察してい く。

ヴィジュアル系ロックは 、様々な音楽から影響を受けている。とくにハードロッ ク・ヘビーメタル的なサウンド、歌謡曲的なメロディ、ゴシック的な衣装、自身を女 性的に見せる化粧といった特徴から、日本の歌謡曲や洋楽のパンク、ニューウェーブ、

ヘビーメタルなどの音楽ジャンルが、これまでそのルーツとして指摘されてきた。だ が、その中でもヘビーメタルからの影響はもっとも大きなものである。実際、X(現

X JAPAN。本章では以下 Xと表記する。)をはじめ初期のヴィジュアル系ロックのバ

ンドのメンバーには、ヘビーメタルを出自としている者は多い。例えば LUNA SEA のRYUICHI や SUGIZO、真矢、LA’rc-en-Ciel のhyde、tetsuya も、かつてはヘビ ーメタルバンドで活動していた。

こうした状況が生まれた背景には、ヴィジュアル系ロックの誕生した 1980 年代に おけるヘビーメタルの世界的な流行がある。きっかけとなったのは 1970 年代末のイ ギリスのヘビーメタルムーブメントNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)

である。Iron Maiden、Judas Priest、Def Leppard、Saxonといったバンドが、その 代表的なものとして知られており、彼らの活躍をきっかけにヘビーメタルは世界の音 楽 シ ー ン に 波 及 し て い っ た 。 と り わ け ア メ リ カ へ の 影 響 は 大 き く 、Van Halen や Mötley Crüe、RattなどのLAメタルや、それに続いて、Metallica、Megadeth、Slayer といったスラッシュメタルが登場した。彼らは、多くのヒット曲を産み出し、アルバ ムは、ビルボードのチャートで高順位を獲得した。このようにして、80年代のアメリ

222 本章の内容は、『関西大学大学院 人間科学 −社会学・心理学研究− 87号』に掲載された論文

「ヴィジュアル系ロックとヘビーメタルの関係」(齋藤 (2017b, vol.87, pp.13-31) ) をもとにしてい る。

109 カで、ヘビーメタルは大きな成功を収めた。

日本の音楽シーンにおいても、こうしたアメリカやイギリスの影響を受け、多くの ヘビーメタルバンドが登場した。だが、日本におけるヘビーメタルはアメリカのよう な商業的成功を得ることはできなかった。それだけでなく、ミュージシャンの長髪や きらびやかな衣装といった外見的特徴は、しばしばパロディ・嘲笑の対象となった。

そのなかで、ヴィジュアル系ロックは、そうしたヘビーメタルと決別し、商業的な 成功のために独自の表現を選択してきた。ヘビーメタルの持っていた特徴を日本で受 け入れられやすい形にアレンジしていったのである。まず、ルックスの面では、イギ

リスの Japan などのニューウェーブやゴシックロックといった耽美的なロックの女

性的な化粧を取り入れた。また音楽面では日本的なメロディ、リズムを取り入れ、

BOΦWYなどの歌謡ロックに接近した。ヴォーカルの歌い方もそれに合わせ、ヘビー

メタルのアグレッシブにシャウトする歌い方から、話すときのようなゆったりした歌 い方を用いるようになった。

この試みは功を奏し、90 年代の日本でヴィジュアル系ロックは商業的に成功した。

とくにXやLUNA SEA、L’Arc-en-Ciel、GLAYといったバンドはアルバムを 100万

枚以上売り、スタジアムクラスの会場でライブを行った。ヴィジュアル系ロックの人 気は 90 年代を通して持続し、音楽ジャンルとして一定のマーケットを開拓すること にも成功した。しかしその反面、必ずしも一般的な基準では社会に認知されたわけで はなかった。80年代のヘビーメタルと同様に、ルックス面での特徴は、パロディの対 象となった。また本来は音楽的に同じ系統であったはずのヘビーメタルの側からも本 格的なロックバンドとしては扱われなかったのである。ヴィジュアル系はそういった 状況をどう受け止めていたのだろうか。

本章では、ヴィジュアル系ロックが、ヘビーメタルを商業的成功のために変形させ ていったことを明らかにする。それがどのような形で行われたのかについて、ルック ス面と音楽面の双方から検討する。そして、それがヘビーメタルによって、また社会 によって、どのように受容されたのかをみていくとともに、ヴィジュアル系が、その ような反応をどのように受け止めていたのかについて述べていく。

本章の構成を簡単に紹介しておく。5-1 ではヴィジュアル系ロックとヘビーメタル

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の関係についてみていく。1980 年代のヘビーメタルが、日本でどのように受容されて いたのか、それはヴィジュアル系にどのように影響を与えたのかについて説明する。

5-2 ではヴィジュアル系ロックが、どのようにして自らをヘビーメタルと差別化して いったのかについて検討する。特にルックス面、音楽面での特徴からその経緯を明ら かにする。5-3 ではヘビーメタルと決別したヴィジュアル系ロックが、どのように受 容されたのかついてみていく。それに対するヴィジュアル系の反応がどのようなもの だったのか、またヘビーメタルバンドやそのファンが彼らの選択についてどのように 受け止めていたのかについて述べる。最後に本章の内容について簡単にまとめる。

5-1.ヴィジュアル系と日本のヘビーメタル

ヴィジュアル系ロックは、ヘビーメタルから大きな影響を受けていて、ヘビーメタ ル・カルチャーとの間に多くの共通点が見出せる。例えば、ファンの楽曲へのノリ方 の作法であるヘッドバンギングや、ギターリフにヴォーカリストがメロディを作って のせる作曲方法などである。L’Arc-en-Ciel のヴォーカリスト hyde は、著書『THE

HYDE』(2012) において、これらの点をヘビーメタルバンドに由来するものだと指摘

している223。またヴィジュアル系ロックには、“ファック隊”と呼ばれるミュージシ ャンとのセックスを目的に交際したがる熱狂的なファンがいることが知られている。

このようなファンの存在は、海外のヘビーメタルのバンドとグルーピーの関係と、ほ ぼ同じものである。

さらに、ヴィジュアル系ロックバンドのメンバーには、ヘビーメタルを出自として いる者も多い。とくにXは、ヘビーメタルシーンから登場し、デビュー当時は「お化 粧系のヘビメタ」224、「歌謡メタル」225と呼ばれていた。初期のヴィジュアル系ロッ クの代表的バンドとされるZI:KILLも、当初はポジティブ・パンクとヘビーメタルを

223 寶井 (2012, p.85)。

224 蟹 (2012, p.115)。同書では、はっきり「X」とは書いていないが、当時 Xのライブの警備を担 当していた、株式会社テックスの代表取締役社長である 伊藤英人氏のインタビューが掲載されてお り、そのように推測できる。

225 田中 (1990, p.121)。

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ミックスさせた音楽性から「ポジティブメタル」と呼ばれていた226。またLUNA SEA のRYUICHIやSUGIZO、真矢、L’Arc-en-Cielのhyde、tetsuyaも80年代はヘビー メタルバンドで活動していた。他にもD’ERLANGER、La’cryma Christi、GARGOYLE、

Eins:Vier など多くのバンドのメンバーが、ヘビーメタルバンドとして活動した経歴

を持っている。また東京のライブハウス目黒鹿鳴館では「オールナイトメタルパーテ ィ」というイベントが毎年大みそかに開催されていたが、1990年代には多数のヴィジ ュアル系ロックバンドも出演していた、このこともヴィジュアル系ロックとヘビーメ タルの親和性をうかがわせる。

ヴィジュアル系ロックがヘビーメタルから強い影響を受けている背景には 、1980 年代のヘビーメタルの世界的な流行があると考えられる。1990年代に活躍した多くの ヴィジュアル系ミュージシャンは、そのほとんどが1970年前後の生まれで、80年代 には既に活動を開始していた。したがって、少なからずその影響を受けていたはずで ある。実際90年代に活躍したPENICILLINの千聖や、SOPHIAの黒柳能生、SHAZNA

のNIY、MALICE MIZER のKöziなど多くのヴィジュアル系ミュージシャンが、ヘ

ビーメタルからの影響を表明している227

だが、どうして彼らはヘビーメタルではなくヴィジュアル系ロックという表現を選 択したのだろうか。それは日本の音楽シーンにおけるヘビーメタルの受容のされ方に 原因があると考えられる。

ここで、ヘビーメタルが登場し、世界や日本の音楽シーンに波及していった 80 年 代までの流れを簡単に見ていきたい。ヘビーメタルはJimi HendrixやVanilla Fudge、

Led Zeppelin、Deep Purpleといった、それまでのハードロックを発展させた形の音

楽表現として、1970年代の初めにイギリスで登場した。ブルースからの影響が希薄に なり、歪んだ音色のギター、アグレッシブなヴォーカル、デニムやレザー、金属製の スパイクを用いたファッションが、ヘビーメタルの代表的な特徴として挙げられる228。 その後、1970年代の終わりから 80年代にかけて登場した、イギリスのJudas Priest

226 市川 (2008, p.129)。

227 千聖に関してはフールズメイト (1996, p.45)、黒柳に関してはフールズメイト (1996, p.67)、

NIYに関してはSHAZNA (2008, p.36)、Köziに関しては金井 (1998, p.91) を参照してもらいた い。

228 Hjelm・Kahn-Haris・LeVine (2008, p.1)。

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