第 4 章 Thick-GEM のシミュレーション 28
4.2 Garfield
GarfieldはCERNで開発されたガス検出器に関する、2次元及び3次元に対応したシ
ミュレーションソフトである。太さのあるワイヤーと厚みのない板を空間に配置し、電圧 を印加することで空間内の電場を計算し、電子やイオンのドリフト及びガス増幅などを再 現することができる。また、ガス増幅を起こさない(電場の強さに関係なく増幅の起こる 電場の閾値を無限大にする)ドリフトも再現することができる。Garfieldには粒子のエネ ルギー損失を計算するHeedや、電磁場影響下においてガス中での電子のドリフトを再現 するためのMagboltzと言うシミュレーションプログラムが組み込まれている。
複雑なジオメトリーでの電場計算はGarfield単体では不可能なため、Maxwellでの電 場計算の結果を読み込ませることによって、複雑なジオメトリーでもシミュレーションを 行うことができる。
4.2.1 ガス増幅シミュレーション
Garfieldには2種類のガス増幅シミュレーションがある。ひとつは、実際に電場内に電
子をドリフトさせ、各stepごとに電子・イオン対の増幅や、横方向と縦方向の拡散を計算 するガス増幅シミュレーションである。もうひとつは、初めに計算されたタウンセンド係 数や、吸着係数と電場分布だけをもとに計算していくガス増幅シミュレーションである。
以降本研究では前者のシミュレーションをアバランシェガス増幅シミュレーション、後者 を簡易ガス増幅シミュレーションと呼称する。後者のシミュレーションは前者のシミュ レーションのように電子やイオンのドリフトを追うことはできないが、拡散を考えないの
で計算時間がそれほどかからないという利点がある。本研究では数種類のシミュレーショ ンを行うため、簡易ガス増幅シミュレーションを行った。
4.2.2 step sizeについて
Garfieldで電子やイオンのドリフトをシミュレーションする際、位置を更新する間隔で
あるstep(図4.2)の大きさ(step size)は必須パラメータである。step sizeの単位は時間、
長さ、衝突回数の中から選択する。今回は長さの単位でstep sizeを指定した。
図4.2 step
アバランシェガス増幅シミュレーションにおいて電子の1step内の運動は、その位置で のドリフト速度と拡散の効果によって決まる。
1. まずそれぞれの電場の強さに対する横方向、縦方向の拡散係数を計算する。拡散係 数は電場に依存しているが、1step内の電場は一定として計算している。
2. 電子の位置を更新する際に拡散の効果を加えるため、1.で計算した拡散係数をもと に、乱数を用いて拡散によるstepを求める。
3. 求めた拡散によるstep とドリフト速度によるstep を加えた場所に、電子が移動 する。
電子のドリフトは2.と3.の繰り返しによって再現されるので指定したstep size が大 きすぎると現実とは合わない結果となってしまう。したがって、step sizeはできる限り小 さく設定しなければならない。
簡易ガス増幅シミュレーションでは電子は電気力線に沿ってドリフトする。この場合、
ドリフト速度や拡散は考えないので、1stepの大きさは step sizeと等しくなると考えら れる。
step size は step 回数の上限を超えない範囲で小さく設定する必要がある。Garfield のstep回数の上限は、初期値が 1000回となっている。シミュレーションを行う Thick-GEMの厚さは400µmなので、1000回のstep回数では正しいシミュレーションが行え ない可能性がある。したがって今回はstep回数の上限を10000回に設定してシミュレー ションを行った。
4.2.3 step sizeの決定
step sizeの決定方法を以下に示す。図4.1のモデルでさらに銅箔のエッチングが図4.3 のように施されているものを考える。チェンバー内に流すガスをP5ガスに設定し、極板 間に印加する電圧(∆VGEM)を1500 Vに固定する。
図4.3 銅箔のエッチング
以上の条件下でstep sizeを変化させ、10000イベント中step回数が10000回以内のイ ベントが何%あったかを図4.4に示す。
図4.4 step sizeに対してstep回数が上限内に収まる割合
図4.4より、step sizeが小さいときは、step回数が10000回を超えるイベントが増加 し、正しい増幅率の計算が難しくなる。step size が3µm以上でstep回数が10000回以 内のイベントが95%以上となり正しい増幅率の計算が可能となる。以上から本研究では step sizeを5µmに設定し、簡易ガス増幅シミュレーションを行った。