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認知症の終末期ケアを考える

第1部  基調講演

「人工栄養法と看取り医療」

第1部 基調講演

「人工栄養法と看取り医療」

西村 それでは第 1 部シンポジウム、「人工栄養法と看取り医療」を進めてまいります。

結城 初めにシンポジウムの座長を務めていただきます先生方をご紹介いたします。国立長寿医 療研究センター病院長、日本老年医学会理事、鳥羽研二先生です。(拍手)東京大学教授、日本 老年社会科学会前理事長、そして本事業ワーキンググループ代表、甲斐一郎先生です。(拍手)

西村 それでは、ここからの進行は鳥羽先生と甲斐先生にお任せいたします。先生、よろしくお 願いいたします。

甲斐 ではシンポジウムを始めさせていただきます。今日は 4 人の先生方からご講演をいただい て、そのあと指定発言ということでお 1 人の先生からご発言をいただきます。

 先ほど申し上げたとおりですが、今年 2 月にシンポジウムを開催いたしました。その中でいろ いろわかってきたというか、ご意見をいただいたことがございます。1 つはもちろん、医療福祉 の現場で非常に大きな問題となっている、特に意思決定が非常に難しい問題であるということが 改めて、シンポジウムで確認されたわけです。それからこれも先ほど申し上げましたが老年医療、

老年医学だけではなかなか解決しない問題で、シンポジウムのときに出た意見では歯科あるいは 法律、死生観といういろいろな立場から、この問題を考えていく必要があるというご発言があっ たかと思います。

 今日はお手元の資料をご覧になっていただきたいのですが、嚥下とか口腔ケアの問題について、

下山先生からお話しいただく。それから認知症ケア、特にターミナルの時期になった認知症ケア の問題について、堀内先生からお話しいただく。鈴木先生は PEG の導入時期から、これに深くか かわってこられて、実際に胃ろう、PEG を造設する外科医のお立場から、現場でどういうことが 問題になっているのかということをご提言いただくことになります。4 人目の樋口先生は 2 月の シンポジウムに続いてのご登場ですが、この問題は非常に法と切っても切れない問題であるとい うことで、そういうお立場からご意見を伺うということになっております。最後に指定発言とい うことで、老年医学会でこの問題の検討をずっとしてこられた飯島先生からお話をいただくとい うことになっております。

 それでは鳥羽先生から、趣旨をご説明ください。

鳥羽 このシンポジウムの表紙が「認知症の終末期ケアを考える」ということですので、本シン ポジウムも「人工栄養と看取り医療」ということですが主に認知症、特にアルツハイマーについ てお話しいただきますが、必ずしも認知症だけではなく高齢者の終末期の解説があると思います。

それは人工栄養法というものだけが看取り医療のものではなくて、最善の支える医療、Best  Supportive  Care といったものはいろいろなものがあって、これらのものを組み合わせていく必 要があるというような知識の補充があると思います。また倫理的、法律的な問題についてもとい うことになります。

 ご存じのように認知症は最近の調査では 400 万人を超えて、罹患率から言うと前段階を入れる

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と糖尿病と同じぐらいの非常にありふれた病気です。各々の国民が老後の不安に対して真剣に取 り組むものの中に、このような終末期医療がいいものであれば安心できるのではないかといった ようなことがございます。その意味で人工栄養も含めて、さまざまないいことをやっていること も含めて、まず知識を皆さんでよく共有していただいて、後半の本質論につなげていければと思っ ています。

 それでは講演 1、2 の司会を甲斐先生にお願いいたします。

甲斐 それでは最初のご講演をお願いしたいと思います。東京医科歯科大学の下山和弘先生です。

2 月のシンポジウムに出ていただいて、歯科医というお立場から嚥下、口腔ケアというのはこう いう人工的な水分・栄養補給の問題を議論する際に不可欠であるというご意見をいただいた先生 でございます。

 今日はそういうお立場から、この問題についてご講演をいただきたいと思います。では先生、

よろしくお願いいたします。

下山 ただいまご紹介にあずかりました下山です。「高齢者の終末期における口腔のケア」とい うテーマで、認知症と口腔ケアという 2 つの用語をキーワードとしてお話しさせていただきます。

 まず認知症とお口の健康との関係をみていきます。ここにいくつかの例を示していますが、た とえばアルツハイマー型認知症の危険因子に歯の喪失を挙げている研究があります。歯を喪失し ますと認知症になりやすい、認知症になる可能性が高くなるということを示しております。

 私は子どものときに親や先生から「よく噛んで食べなさい」と言われました。皆さんもそう言 われた経験があろうかと思いますが、よく噛む、咀嚼をするということが脳血流量の増加につな がり、脳の活性化につながるという報告もあります。

 また歯を抜いてしまうと、記憶に関係する海馬の容積や人間として考えて行動するのに必要な 前頭葉の容積が減少するという報告もあります。このほかにもいろいろな報告がありますが、こ こでは紹介する時間がありません。

 ただいま紹介させていただいた報告から、お口の健康と認知症との間には関係があるというこ とがおわかりいただけるかと思います。

 認知症になりたくないという思いはどなたにもあろうかと思います。そうしますと予防したい と思い、自分でできることは何かということをお考えになるかと思います。野菜の摂取、魚の摂 取、それから地中海食がよいというようなことが書かれております。これらを実践しようとする と、よく噛んで飲み込むことが必要です。よく噛んで飲み込むということができないと、これら はいずれも実践できません。このようなことからもお口の健康というのは認知症との関連におい ても非常に大切だということが言えると思います。

 ここで食べることについて簡単に説明させていただきます。食べることは先行期、準備期、口 腔期、咽頭期、食道期の 5 つの期に分けて説明されることが多くなっております。

 先行期とは、食べられるものだということを認識して口に運ぶ時期です。そして準備期は口の 中に入れたものを歯でよく噛む時期です。歯でよく噛むためには頬や舌が歯の噛み合わせの部分 に食物をしっかり乗せる、保持するということが大切です。そしてよく噛んで唾液と混ぜてドロ ドロの状態、飲み込めるような状態にします。これが食塊形成です。準備期とは食塊を形成する 時期です。歯や頬、舌などの状態が悪くなると、食塊形成が上手にできなくなります。

 口腔期は、ドロドロの状態になった食塊を口の前のほうから後ろのほうに送り込んでやる時期

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です。これには舌の働きが非常に重要です。例えば舌がんを切除して舌の動きが悪くなった場合 や、脳血管障害などで舌がうまく動かなくなった場合には、食塊を上手に送り込めなくなり、う まく飲み込めないことになります。

 咽頭期では、「ごっくん」という飲み込みの反射、嚥下反射が起き、食塊は咽頭を通り、さら に食道・胃に向かっていくことになります。脳梗塞の方などですと急性期には嚥下反射がかなり の割合で起きなくなることが報告されています。嚥下反射が起きないと食塊を飲み込めません。

いずれにしても、この 5 つのいずれかの期で問題が生じますと、うまく食べることができなくな ります。うまく食べられない状態を摂食・嚥下障害と呼びます。

 ここで摂食・嚥下障害と認知症との関係を考えてみます。認知症では失認、失行、実行機能の 障害など、いろいろな問題が生じてきます。失認、失行などについて一つひとつ説明する時間は ありませんが、これらの症状によって日常生活が障害されます。それは食べることについてもあ てはまります。食べることに対していろいろな問題が出てきます。

 食べることに問題が生じたときには対応を考えていくわけですが、ここでは食事介助、支援の 例をいくつか挙げてみました。食事介助、支援の例の最下段に口腔ケアと書かれておりますが、

これは食事の後に口のケアをするというよりも、食事の前に口のケアをするということで、書か せていただきました。

 食事の前に口のケアをなぜするかというと、例えば眠っているような方、意識のレベルが落ち ているような方はうまく食事ができません。このような状態で飲み込んだときには気管に入りや すくなります。ですから意識をはっきりさせることが大切です。それから食事の準備運動にもな ります。ケアをすることによって準備体操をしてもらうという意味合いがあります。また口の中 が汚れていますと、汚れたものがうまく飲み込めるとよいのですが、うまく飲み込めずに気管の ほうに入ってしまい、肺に入ってしまうと肺炎が生じるということがあります。口の中の汚れた ものを除去して口の中をきれいな状態に保つと、肺炎を起こす危険性が減少します。食べたもの などが気管に入ってしまうことを誤嚥と呼びますが、誤嚥して生じる肺炎を誤嚥性肺炎と呼んで います。口のケアは誤嚥性肺炎の防止にも役立つということで、食事の前に口のケアをすること も意義があるのです。

 アルツハイマー型認知症の場合、終末期になりますと嚥下反射が起きなくなります。どういう 状態かといいますと、口の中に食べるものを入れてもぐもぐしているけれども、「ごっくん」と いう飲み込みが生じないという状態になります。こうなりますと食事はできなくなります。

 このような食べることの障害が起きるとどうなるかというと、1 つは今申しましたとおり誤嚥 性肺炎の危険性が高くなります。お正月などにはお餅をのどに詰まらせたという報道がよくあり ますが、食べたもので窒息する危険もあります。また、うまく食べられなくなりますから、栄養 が十分とれない、水が飲み込めないということで、低栄養・脱水になります。さらに食べる楽し みの喪失につながっていきます。

 このような場合にどうするかというと、誤嚥の危険と苦悩に対処しつつ、安全かつ最良の摂食 状態をつくることを目標にして対応していくことになります。この最良の摂食状態というのはど のような状態かというと、普通の人と一緒に同じように食べられるということであれば理想です が、中には危険を避けるために口からは食べないということも選択肢の 1 つになります。しかし、

十分な栄養を口から摂れなくても、できれば楽しみとしての一口の摂取ができればよいと考えて

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