学習者の動作を改善するには, 学習者の動作と被験者の動作を比較した際の異なっている 動作を指摘することが有効な手段として考えられる. そのために比較する際の基準となるモ デルが必要である. 本研究で基準とするモデルは, 第3章を踏まえ, 先行研究[2]で構築した モデルを利用する. 今回, シュートフォームのモデルとして定義した動作は次の4つとなる.
1. 膝を使い打ち手の腕を上に押し出すようにシュートする 2. シュート時に手首を返す
3. 打ち手の肘を飛ばしたい方向へ向ける 4. 一連の流れをスムーズに行う
5.1 基準の設定(モデルの構築)
これらのモデルの動作と学習者が行っている動作を比較し, その差異から時系列ごとに指摘 対象を抽出していく. 以下に, モデルを構成する動作について説明する.
5.1.1 膝を使い打ち手の腕を上に押し出すようにシュートする
この動作はシュート時のボールの軌道が高い弧を描くようにするためである. ボールの軌 道が低い場合, ボールがゴールに斜めに進入してしまい, ボールから見るとゴールが楕円に 見え, ボールが通過すべき領域の面積が狭くなる. 結果, ゴールにボールを通しにくくなり シュートが成功しにくくなる. また, 押し出すように打つことで下肢の力を意識しやすいと も考えられる. このモデルを構成する動作とその条件を以下に示す.
1. 膝を伸ばした状態から膝を曲げる
膝を曲げた状態とは, 体が全体的に下がった時である. そのため, 立っている状態より も腰の位置が下がる, 腰よりも両膝が前に出る, 両踵よりも両膝が前に出るといった動 作が見られた場合, 膝を曲げたと判断する. しかし, 膝を曲げすぎると上肢のバランスが 取りにくく, 身体的な負荷もかかりやすい. そのため, 膝を曲げすぎている状態を定義す る必要がある. ここでは, しゃがんでいる状態、つまり腰が両膝よりも低くなった動作 を曲げすぎていると定義する.
2. 膝を曲げた状態から膝を伸ばす
膝を伸ばすとは, 膝を曲げた後, 体が全体的に上がった状態時である. そのため, 腰や 膝の位置が上方向へ上昇する. 両膝が腰の後ろ方向へ向かっていく動作が見られた場合, 膝を伸ばしたと定義する.
3. 膝を曲げ, 膝を伸ばしている最中は上肢を安定させる
上肢を安定させるとは, 体を捻ったり, 前後左右に傾けないという動作の状態である. 体を前から見た場合に,左肩が右肩に隠れて見えない場合, 左肩が右肩よりも上に上がっ ている動作と定義する. 左右の場合があるため逆の動作も含む.
4. 膝を曲げ, 膝を伸ばしている最中に右腕を上に伸ばす
5.1 基準の設定(モデルの構築)
右手を上に伸ばすとは, 膝を曲げた状態から膝を伸ばしている最中に、右手の位置を 頭の上まで上昇させつつ, 右手首と右肘、右肩の成す角度が180 度に近づいていく状態 である. そのため, 膝を伸ばしている状態において, 右手が頭よりも上にある, 右手から 右肩までの成す角度が170〜190 度の場合右手を伸ばしたと定義する. しかし, 右手を 上に伸ばす際に右手の位置が頭の後ろを通った場合, 上下の運動ではない前後の動きが 加わり余分な動きとなるため, 行ってはならない.
5. 膝を曲げ, 膝を伸ばしている最中に右肘が上がる
右肘が上がるとは, 上に右手を伸ばした際に関連して行われる状態である. 右手を 上に伸ばした際に, 右肘が頭と同じ高さにある動作が見られた場合, 右肘が上がったと する.
6. シュートを打つ
シュートを打つとは, 学習者の右手が右肩よりも上の位置で手首を返した状態である. この動作については, 5.1.2節で説明する
7. 膝を伸ばした時にシュートを打つ
膝を伸ばしてシュートを打つとは, 膝を伸ばした際に手首が返されている状態である. 膝の力を使い, 上方向へ力を伝えるために必要である. そのため, 膝を曲げ, 膝を伸ばし ている時間を計測し,シュートのタイミングが遅れていないかを判断する. ここでは, 膝 を伸ばしている時間の1 秒以内にシュートすると膝を使ってシュートをしたとする. 1 秒と設定したのは, シュートまでの総時間が経験者では1.5 秒程度であることを参考に した.
5.1.2 シュート時に手首を返す
5.1.1 節の動作を行った際にボールは上方向の力しか働いていないため, 真上へ放り投げ
るようになってしまい前に飛ばない. しかし, 手首を返すことでボールに前方向の力が加わ り, 斜め上方向に飛ぶようになる. ここでの手首の返しとは, 掌が地面に向いている状態であ る. 以下にこのモデルを満たす条件を示す.
5.1 基準の設定(モデルの構築)
1. 膝を伸ばしている
膝を伸ばしている状態とは, 5.1.1節のモデルの動作に含まれている膝を伸ばしている 動作と同様の動作であり, 膝を曲げた状態から膝を伸ばしている最中の動作を意味する. 2. シュート時に右手首を返す
手首を返すとは, 右手首が右肩よりも高い時に, 右掌が地面を向いている状態のこと である. 手首を返す動作は右手の高さが最大まで増加した後, 減少している最中に見ら れるため,その最中のみがこの動作であると判別する. 含まれている動作としては,右手 が右肩よりも高い, 右手の高さが最大まで増加し減少中である, 左手が右手首よりも前 に出る, とする. これらの動作が見られた場合に右手首を返したとする.
3. 右手首を返す際に左手を右手に添えている
左手を右手に添えているとは, シュートする際に左手を右手に添えている状態を示し ている. 一般に, 片手のみでシュートを行うと,ボールは大きいため落としやすくバラン スがとりにくい. そのため, 右手だけではなく左手も使いボールを頭の上に持っていく. 動作としては, 左手が頭よりも高い場合とする
5.1.3 打ち手の肘を飛ばしたい方向へ向ける
右肘をゴールリングの位置へ向けると, 肘を伸ばした際に腕や手がゴールリング方向へ自 然と向くようになる. 肘は, 一方向へのみ曲がる関節であり, 肘を伸ばした方向へ手も向くこ とになる. 肘がゴールリングの位置以外に向いてる場合に肘を伸ばすと手も同じ方向へ向く ため, 手首や肩を使って方向を修正するという複雑な動きが加わってしまう. そのため,肘は 打ちたい方向へ向けなければならない. 以下にこのモデルを構成する動作について説明する.
1. 膝を曲げる前に両足は肩幅程度開く
足を肩幅程度に開くとは, 両足を肩幅程度に開いている状態を示す. 肩幅程度に開く ことで, 開いていない状態よりも膝を曲げやすくなり, 下肢を安定させた状態でシュー トできる. しかし, 開き過ぎの場合は逆に下肢に対して負荷がかかってしまう場合があ
5.1 基準の設定(モデルの構築)
るため, 開きすぎているという判断は, 両足の幅が肩幅の2 倍よりも開いている場合と する.
2. 膝を曲げる前に右足を左足よりも前に出す
足を左足よりも前に出すとは, 右足が左足よりも前に出ている状態を示す. シュート を打つ際には, 右足を左足よりも前に出すことで, 身体が半身気味の状態となり上で述 べた右肘を内側に向けやすくなる. 動作としては, 右足が左足よりも前に出て,右足が左 肩よりも前にあるとする. この動作には, 右足を出しすぎているという状態があるため, 出し過ぎは右足と左足の前後の幅が肩幅程度になった場合とする.
3. シュートする際に右肘は右肩よりも内側へ向ける
肘を右肩よりも内側へ向けた状態とは, 右肘が右肩よりも内側であり, ゴールリング の位置へ向いているということである. 動作としては, 右肘が右肩と同じか内側に向い ている場合とする. しかし, 右肘を開きすぎている状態や内側に閉じすぎている状態が あるため, 右肘と右肩の前後の位置が同じか右肩よりも後ろにある場合は, 右肘を開き すぎているとする. また, 右肘が顔の前にある, 頭よりも左肩方向にある場合は内側に閉 じすぎているとする.
5.1.4 一連の流れをスムーズに行う
ボールを構えた状態から, シュートまでの一連の動作は1.5 秒程度で行われていることが 判明しており, 下肢の力を上肢に伝える場合において動作の組み合わせは素早く行った方が 良い. また, 動作の毎に時間がかかっていると, 力が発散してしまう恐れがあり, 1.5 秒以内 に収まっていないシュートはスムーズでない一連の動作の組み合わせとして定義する. 以上 が経験者の動作におけるモデルとして本研究では定義し, このモデルに近づけるよう学習者 を支援する.