―大地を寿ぎ、大きな種を蒔く
撮影= Taka Mayumi ヘアメイク= yoboon
取材・文=岡﨑 香
p.120
「都市と自然」をテーマに、今年の 7 月から 9 月にかけて、
北海道札幌市で新たな芸術祭が開催される。北海道立近代 美術館や札幌芸術の森美術館、札幌市資料館やモエレ沼公 2014年 春/夏号 日本語編
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園などを主会場に、現代アートを中心とした展示や音楽、
パフォーマンスを展開する「札幌国際芸術祭 2014」(以下 SIAF2014)だ。そのゲストディレクターを務めるのは、世界 的な音楽家、坂本龍一さん。1980 年代初頭にYMO(Yellow Magic Orchestra)としてテクノ&ニュー・ウェイヴのムーブ メントを巻き起こし、また『戦場のメリークリスマス』(Merry Christmas, Mr. Lawrence)や『ラストエンペラー』(The Last Emperor)といった映画音楽の作曲などでも知られている。
「札幌国際芸術祭のゼネラルプロデューサーを務める 30 年 来の知人を介して、最初に札幌市長から依頼されたときは、
僕でいいんだろうか?とまず思いました。それでも引き受け たのは、その非常に熱意ある要請にできる限り応えようとい う気持ちと、初めて訪れたときから感じている、北海道や札 幌に対する愛着からです。僕がまず魅せられたのは、日本 のほかのどの地域にもないような、北ドイツや北欧、ある いはカナダといった異国を感じさせる風景。それでいて、ど こか懐かしさを感じる空気の匂いにも心惹かれるからです」
そう話す坂本さんは、キュレーターを決めたり、会場に合っ た展示やパフォーマンスの選定はもちろん、予算やスケ ジュールの監視、担当者との連絡、さらにスポンサー探しや、
E メールを使った出品作家への直接依頼もしているという。
“ ゲスト ” ディレクターどころではない活躍ぶりだ。
「僕はアート業界の慣習をよく知らないので、自分独自のや り方でがむしゃらにやっている感じですね(笑)。一番望んで いるのは、普通の札幌市民が身近に感じ、参加意識を持っ てくれるようなフェスティバルになること。少しずつでも将来 への種を蒔くことで、多くの皆さんに愛される持続的なフェ スティバルになっていけばと思います。今年は初回なので、
ぜひ大きな種を蒔きたいですね」
そんな坂本さんの原動力の一つになっているのが、昨年、
山口情報芸術センター(以下 YCAM)の 10 周年記念祭でアー ティスティック・ディレクターを務めた経験だ。「大変でした が、僕個人の音楽の活動にも大きな刺激になりました」と いう坂本さんは、「アート」「環境」「ライフ」をテーマにした、
アーティストの高谷史郎さんとのコラボレーションによる 3
つのインスタレーションを YCAM で同時公開。関連イベン トのコンサートなどにも出演した。
そのインスタレーションのうち、樹木の微弱な生体電位を 音楽に変換する「Forest Symphony」が、YCAM との提携で、
SIAF2014 にも登場する。会場は、坂本さんが「もとはゴミ 処理場であった場所の自然を再生し、公園にしたイサム・
ノグチの遺作。芸術祭のテーマとも非常にリンクする」と語 る、モエレ沼公園だ。
また SIAF2014 のオープニング関連企画では、能楽の原 点といわれる祝祷曲『翁』の上演を提案したいと坂本さん は話す。『翁』は正月や慶事に人々と大地への祝福を祈祷し て演じられる特別な演目で、芸術祭の成功を祈願するととも に、北海道という土地を寿ぎたいという。
「今年に入ってからは、これ以上新しい発案をしないように 自分を一生懸命抑えています。アイデアは湧いてくるんです が、予算も限られていますし、思いつきでいうと、周りの皆 さんが慌てふためくことになるので(笑)」
そう話す坂本さんは、実に好奇心旺盛で、しかも勤勉家。
「いつも何かに興味を持ち、それが移り変わっていくので、
Amazon で本や DVD を買い過ぎてしまうのが悩みの種」だ と笑う。ニューヨークを活動拠点に、音楽やアートのみなら ず、環境問題や地雷ゼロ運動、震災復興支援にも積極的に 取り組み、現在 62 歳。坂本さんがそれらに関心を持つよう になったのは、1992 年頃に「自分の老化を自覚したこと」
がきっかけなのだとか。
「僕はわりと体が強くて、それまでは乱暴にものを食べ、毎 日朝まで酒を飲み、12 時間仕事をして……というような生 活を送っていたんですが、40 歳を過ぎて身体の衰えがガクッ ときた。そこから身体や食べ物に気をつけるようになり、水 や空気、そのほかの環境すべてに関心を持つようになりま した。徐々にではありますが、人間性もずいぶん変わったと 思います」
そんな坂本さんがいま最も興味を持ち、今後もテーマに していこうと思っているのが「水」。10 年ほど前から、雲や 氷や海といったさまざまな形に変化する「水」に惹かれ、5
年前にグリーンランドで氷河に触れた際は、自分でも不思 議なほど、懐かしく、いとおしい気持ちになったという。
そしてもう一つは、前でも触れた能楽。坂本さんが講師 を務める NHK・E テレの音楽番組「スコラ 坂本龍一 音楽の 学校」でも、2 月に「日本の伝統音楽」として声明や雅楽、能・
狂言、浄瑠璃、歌舞伎などの音楽を取り上げたばかりだ。
自分で勉強しているうちに、浄瑠璃にもハマってしまったそ うで、「能楽や浄瑠璃の源流を探ることで、多面的な日本の 歴史を知ることもできて本当に面白い」と顔をほころばせる。
「年をとっていいなと思うのは、自分がいかにものを知らな いかということが、より客観的にわかるようになること。今 は時間が足りないほど勉強したいことがたくさんあって、プ ライオリティを決めるのが大変です。とはいえ今年は、とに かく札幌国際芸術祭と、来春リリースするソロアルバムの制 作に集中して取り組むつもりです。ぜひ札幌で、アートと食 を楽しんでください」
(P.120)
札幌市民に向けたプレイベントとして昨年 11 月に札幌で開催された、
坂本龍一さん自らの選曲・演奏による特別ソロコンサート。
写真= Masaya Takagi
(P.121・左)
山口県にある YCAM の 10 周年記念祭で公開された
「Forest Symphony」。
(P121・右)
Forest Symphony が展開される予定のモエレ沼公園内のガラスのピラ ミッド「HIDAMARI」。
札幌国際芸術祭 2014 7 月 19 日〜 9 月 28 日
www.sapporo-internationalartfestival.jp
・北海道立近代美術館 札幌市中央区北 1 条西 17 丁目 www.aurora-net.or.jp/art/dokinbi/
・札幌芸術の森美術館 札幌市南区芸術の森 2 丁目 75 sapporo-art-museum.jp
・札幌駅前通地下歩行空間(チ・カ・ホ)
www.sapporo-chikamichi.jp/
・札幌大通地下ギャラリー 500 m美術館 札幌市中央区大通西 1 〜大通東 2 丁目
(地下鉄大通駅と地下鉄東西線バスセンター前駅を結ぶ地下コンコース
〈地下 2 階相当〉内)
500m.jp
・モエレ沼公園
札幌市東区モエレ沼公園 1-1 www.sapporo-park.or.jp/moere/
・札幌市資料館
札幌市中央区大通西 13 丁目 www.s-shiryokan.jp/
・北海道庁赤れんが庁舎 札幌市中央区北 3 条西 6 丁目
www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/sum/sk/akarenga.htm
ほか
アート
文=工藤索太郎、住吉智恵、宮本ゆみ子