地域学は、自分の在る地域の歴史や文化、産業、自然などを見つめ直し、地域の魅力 や可能性を発掘しようとするものである。
地域学は、地域に暮らす人にとっては当たり前にあるもの(地域資源)やこと(生活・
生産文化)の価値や意味を、外部の人の視点も借りながら掘り起こし、産業振興などの 地域づくりに活かすものであり、従来の郷土史や民俗学とは異なり、住民自身が当事者 となって調べ、考え、ものや地域、生活をつくっていくことを目指すものである。した がって、その成果が調査者に独占されたり、ただ何かを知って満足するだけの「もの知 り学」には終わらないものである。
近年の地方分権化のうねりは、いきおい地方に自立を求めることになり、地域の活性 化に地域学を取り込み、活用していこうとする動きが各地に見られるようになってきて いる。地域の個性化、アイデンティティの確立が、これまで以上に強く求められ、勢い を増している。
こうした状況の中で、地域学の果たすべき使命は、ふるさと創生はもちろんのこと、
その地域住民が過去からいかなる自然的風土を培って、長い間、衣・食・住を通じた暮 らしをして、歴史的風土を築いてきたかを、地域住民が学習し、地域における生き方、
まちづくりの方法等、その他未来にかけての創造をよりよく促進させることである。
地域学は、ファジーな「学」であるが故に、その基盤、底流に、高度に専門分化した 縦割りのジャンルの「学」には望むことのできないアマチュアリズムの参入が期待でき、
多様な価値を持つ人々の参加を通じて地域コミュニティの活性化の可能性もうかがわ せるものである。
住民の地域学への参加は、自然や文化という身の回りの現象や世界と同様に、そこに 生活する自分自身さえも学習資源として対象化することにもなり、地域社会を担う地域 の主体者としての意識形成に大きく寄与するものである。
地域学は、住民一人ひとりの個性に磨きをかけ、潜在化していた能力に弾みをつけ、
彼等自身が自信を備えることによって、自らが勇気づき、自己の中に元気を取り戻す。
地域コミュニティもまた、住民たちの成長と活気によって地域そのものも開かれ、魅力 を増し、可能性を高めていく。住民にとって地域学は、自己の存在と向き合う格好の機 会であるとともに、自己の社会的存在証明にもつながり、その存在証明は、まちおこし、
まちの活性化といった新たな地域環境の形成にも貢献する。この意味で、地域学は、そ れを学び、活用する人には同時代に生きるという、当事者意識を強く感じさせるととも に、地域社会をともに構成し形成していくという、社会性への目覚めにも大きな役割を 果たすものと考えられる。
以上のことから、地域学の考え方を整理すると次表(図表5-1)のとおりとなる。
【図表 5-1:地域学の考え方】
2 北東北学の特徴
北東北学は、北東北の地域学であり、当然に地域学の一般的な特徴を有している。し たがって、北東北学は、北東北に住む人々や関わりのある人々が、北東北の自然・社会・
文化・産業等の諸領域にわたり、生活の視点に立って北東北を多面的・総合的に知り・
探求しながら、さらに学んだことを活かして創造していく中で、自らのアイデンティテ ィの確立や地域の望ましい姿の実現に向け、長期的な視点に立って、取り組む住民主導 型・総合型の学びである。
また、北東北学を通じて、地域住民が自らの足元を見つめ地域を考えること、そのこ とが契機となって地域社会のありようを住民の側から発言するという行政と住民との協 働関係を取り戻すことも期待できる。住民による郷土学、学識者や行政に取り仕切られ るのではなく住民自身が主体となって取り組むべきものである。
次に、独自性をもった北東北学ならではの点としては、
① 県境を越え青森県、岩手県、秋田県の北東北3県を一つの地域としてとらえている 広域性を有すること、
② 北東北という広域的な地域を対象とするため、その中に内包する各地域の多様性を 有すること(図表5-2)、
③ 各地域の多様性があるがゆえに交流・連携の可能性を有すること
地
域
学
人文科学や自然科学などの諸学を当該地域固有の風土の 視点から総合化し、横断的で学際的な取り組みを特色と する「学」である。
住民のイニシアティブのもとに地域の民・学・官が手を 携え、地域の優れた資源、能力を発見・発掘し、当地域 に新しい息吹を起こすことによって地域の活性化を目指 す「学」であり、一方では、“地域力”の醸成を支援する 住民主体の「学」である。
地域おこしの有力な観光資源としての資質と可能性を持 ち、他地域から当地域への集客を誘発し、地域固有の文 化的アイデンティティとして機能する「学」である。
地元に暮らす人々にとっては当たり前にあるものやこと の価値や意味を、外部の人の視点も借りながら掘り起こ し、地域づくりに活かす「学」であるとともに、住民自 身が当事者となって調べ、考え、ものや地域、生活をつ くっていくことを目指す自学自習の「学」である。
総合・学際
連携・協力
運 動
創造・発信
があげられる。(図表5-3)
また、北東北学の特徴を地域資源の視点から見ると、①白神山地などの北東北の恵ま れた自然環境、②北東北の風土に根ざした伝統文化、③縄文遺跡などにその足跡を残す 北東北の歴史④個性ある地域の先人たち・・・などがあげられる。
北東北学は、北東北の特徴・特性を踏まえ、北東北にある地域資源を有効に活用しな がら、従来のステレオタイプ化されたイメージではない“北東北ならではの視点”で取 り組んでいくべきものである。
【図表 5-2:北東北学の特徴イメージ 1】
【図表 5-3:北東北学の特徴イメージ 2】
地域
地域
特徴 特徴 特徴 特徴
北東北3県の 各地域
各地域の特徴
共 通 す る 特徴
異 な る 特 徴
北 東 北 地 域 の 特 徴
北 東 北 学 の 特 徴
北
東
北
学
豊 か な 自 然 環境
伝統的文化 歴 史 地 域 資 源 か ら見た特徴
他 の 地 域 学 と の 対比による特徴
広 域 性
多 様 性
交流・連携性 個 性 あ る 先
人たち
3 北東北学の実践的・学際的な性格
北東北学は、北東北の地域学であり、住民主体型・総合型の学びであるが、①運動あ るいは地域活動としての「北東北学」と、②科学あるいは学問としての「北東北学」と いう二つの面を併せ持つと考えられる。(図表5-4)
運動あるいは地域活動としての「北東北学」は、第1に住民に北東北という地域につ いての多面的かつ的確な知識・情報を提供する(北東北を知る)こと、第2に「北東北 学」への関わりを通じて地域住民としてのアイデンティティの確立を促す(地域を認め ること)、第3は「北東北学」への関わりによって培われた資質・能力・知識などを地域 活性化・地域づくりに役立てていく(地域をつくる)ことを目標とするものである。
科学あるいは学問としての「北東北学」は、北東北という地域を対象とする既存の学 問の分野における成果をもとに、それらを地域研究として総合化し、より深めていこう とするものであり、北東北グラフィ(百科辞典的・博物誌的な学問)ではなく、北東北 トロジィ(科学的で有機的な統一性・体系を持つ)を目指すものである。
北東北学は、地域の固有の人文科学や自然科学などの諸学を、地域の風土(郷土)の 視点から総合化していこうとする横断的な「学」である。
【図表 5-4:北東北学の実践的・学際的な性格】
北東北学
【実践的性格】
運 動 又 は 地 域 活 動 としての北東北学
【学際的な性格】
科 学 又 は 学 問 と し ての北東北学
① 北東北を知る
住民に北東北という地域について の多面的かつ的確な知識・情報を提供 するもの。
② 北東北を認める
「北東北学」への関わりを通じて地 域住民としてのアイデンティティの 確立を促すもの。
③ 北東北をつくる
「北東北学」への関わりによって培 われた資質・能力・知識などを地域活 性化・地域づくりに役立てていくも の。
北東北という地域を対象とする既存 の学問の分野における成果をもとに、
それらを地域研究として総合化(統一 性や体系を持つ)し、より深めていこ うとするもの。