(水文化の継承・再生・創出)
地域の人々が河川や流域に働きかけて上手に水 を活用する中で生み出されてきた有形、無形の伝 統的な水文化は、地域と水との関わりにより、時 代とともに生まれ、洗練され、またあるものは失 われることを繰り返し、長い歳月の中で醸成され てきた。
例えば、滋賀県高島市針江地区では、「生しょうず水」
と呼ばれる湧水が川か ば た端10という仕組みによって暮 らしに利用され(写真1-9)、この地域独特の川と 生活が密着した美しい風景が作り出されている。
一方で、地域社会の衰退に加え、自然と社会の 急激な変化がもたらした水循環の変化とその影響 による様々な問題により、一部の地域では、多様 な水文化の適切な継承が困難な状況も生じている。
このため、流域の多様な地域社会と地域文化について、その活性化の取組を推進し、適切な維持を 図ることにより、先人から引き継がれた水文化の継承、再生とともに、新たな水文化の創造を推進す ることが求められる。
(国際的な連携の確保及び国際協力の推進)
世界では渇水、洪水、水環境の悪化に加え、これらに伴う食料不足、貧困の悪循環、病気の発生等 が問題となっている地域が存在し、さらに人口増加や経済成長などの要因がそれらの問題を深刻にさ せているなど、世界の水問題は引き続き取り組むべき重要な課題である。例えば、記録的な豪雨によ り多くの死者等の人的被害が発生する災害や、サプライチェーンへの影響により世界経済にまで影響 を及ぼす災害が発生している。また、平成25年(2013年)にはカリフォルニア州で観測史上最悪の干 ばつが発生しており、平成26年(2014年)1月には州知事によって非常事態が宣言された。カリフォ ルニア大学デービス校流域科学センターの調査によると、同年5月時点で同州の大規模農業地帯であ るセントラルバレーの水不足により1万4,500人の雇用喪失、17億ドルの経済損失があったと推計さ れている。(図表1-36)
また、世界的には、安全な飲料水や基礎的な衛生施設(トイレ)へのアクセスはいまだ不十分であ ることに加え、経済成長・都市化に伴う水質汚濁や生態系への影響が懸念されることから、水供給施 設や排水処理施設の整備の充実が重要な課題となっている。
こうした課題も踏まえ、平成12年(2000年)9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サ ミットにおいて、21世紀の国際社会の目標として国連ミレニアム宣言が採択された。同宣言では、平 和と安全、開発と貧困、環境、人権とグッドガバナンス(良い統治)、アフリカの特別なニーズ等を 課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性が提示された。この国連ミレニアム宣言 を基に、1990年代の主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠
国際的協調の下での水循環に関する取組
図表1-36 近年における海外の主な水関連災害
アメリカ(2012年~)
ブラジル(2013年12月)
中国(2013年8月)
南アフリカ
(2014年3月) インド・ネパール
(2013年6月)
パキスタン(2013年8月)
ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、
セルビア(2014年5月)
(2011年9月~12月)タイ インド・ミャンマー・
バングラデシュ
(2015年7月)
フィリピン
(2013年11月)
アメリカ(2012年10月)
スリランカ
(2014年10月)
集中豪雨により、ドナウ川など各地 で洪水が発生。自動車工場の操業 停止や発電所の停止等を通じてサ プライチェーンへの影響が発生。
バルカン半島で、過去120年で 最悪となる豪雨に伴い洪水が発 生。死者は82人。
降り続く豪雨により中国 北東部、ロシア極東部で 国境を流れる河川等が氾 濫し洪水が発生。中国で の死者は118人。
2013年にはカリフォルニア州 で観測史上最悪の干ばつを記 録。2014年1月には州知事が 非常事態宣言。農産物や雇用に も影響。
29日20時頃、ハリケーン・
サンディが米国ニュージャー ジー州に上陸。米国等で死者 147人、800万世帯に及ぶ大 規模な停電が発生。
12月中旬から続く豪雨により、
南東部の2つの州で洪水、土砂 崩れが発生。多くの道路が破損 し、インフラ被害も発生した。
死者は64人。約4万人が被災。
フ ィ リ ピ ン 中 部 に 台 風
「Haiyan(ハイエン)」が 上陸。死者・行方不明者が 合計約7,400人。住宅被害 は、約114万戸に及んだ。
タイ北中部において継 続的な降雨により洪水 被害が発生。7月下旬 以降死者815人。日系 企業にも大きな影響。
7月29日よりサイクロン Komenにより豪雨が続く。
死者は3か国で248人。
ネパールを含むインド北 部各地で、早期に到来し たモンスーンによる豪雨 により洪水・土砂災害が 発生。死者は6,320人。
9月中旬からのモンスーン の豪雨の影響により、大 規模な地滑りが発生。死 者・行方不明者は38人。
3月始めから続く豪雨に より、北東部地域で洪水 が発生。死者は32人。
道路や住宅も浸水した。
モンスーンによる豪雨の影響 で洪水被害が相次いだ。死者 は234人、約15万人が被災。
ヨーロッパ中央部
(2013年6月)
資料)国土交通省
図表1-37 国際的水資源問題に関する議論の経緯
国連「命のための水」国際行動の10年(2005~2015)
2004~2015 国連水と衛生に関する
諮問委員会
リオ地球1992 サミット
ミレニアム2000 サミット
2002
*1 WSSD ヨハネスブルグ
CSD162008
CSD202012
「リオ+20」
2004
*2 CSD12 CSD132005
2001ボン 淡水会議
TICAD Ⅳ アフリカ開発会議第4回
グリーン経済2011
「ボン+10」対策会議
第1回1997 モロッコ
第5回2009 トルコ
第6回2012 フランス 第4回2006
メキシコ
第7回2015 韓国
第8回2018 ブラジル
*1WSSD:持続可能な開発に関する世界首脳会議
*2 CSD:持続可能な開発委員会
閣僚級国際会議の 成果として、閣僚 宣言及び水行動集
(PWA)を発表 2013
第2回タイ
第3回2017 未定
「世界水ビジョ ン」の発表及び ハーグ宣言の採 択 非国連組織に よる水に関す る世界最大規 模の最初の会 議
「水の安全保障」の達成をキー メッセージの一つとして閣僚声 明が取りまとめられる
2007 第1回日本 第3回2003
日本 第2回2000
オランダ 国連ミレニアム開発目標
(MDGs)
・2015年までに、安全な 飲料水を利用出来ない 人々、適切な衛生施設を 利用出来ない人々の割合 を半減
ヨハネスブルグ実施計画
・2015年までに、安全な飲料 水を利用出来ない人々、適切 な 衛 生 施 設 を 利 用 出 来 な い 人々の割合を半減
・2005年までに総合水資源管理 (IWRM)及び水効率計画を策定
国連(G8など)水分野 〔世界水フォーラム〕 水サミットアジア・太平洋
2008 G8 北海道洞爺湖
サミット 2003 G8
エビアンサミット
SDGsの達成
MDGsの評価・次期開発目標の策定(SDGs)
2015 ~2030頃
資料)国土交通省
第1章
水循環の現状と課題1
組みとしてとりまとめられたものがミレニアム開発目標(MDGs11)である(図表1-37)。MDGsは、
8つの目標を掲げており、その下により具体的な21のターゲットと60の指標が設定された(図表 1-38)。
このうち、水に関するターゲットは、「環境の持続可能性確保」の目標の下に設定されており、そ の内容は「平成27年(2015年)までに、安全な飲料水及び基礎的な衛生施設を継続的に利用できない 人々の割合を(平成2年(1990年)より)半減する」というものであった。この達成状況について、
国連が発表した「TheMillenniumDevelopmentGoalsReport2015」によると、安全な飲料水を継続 的に利用できない人口の割合を半減するとの目標は達成されたものの、依然として世界全体で約6.6 億人の人々が安全な飲料水を継続的に利用できない状態にある。
また、もう一つの目標である基礎的な衛生施設を継続して利用できない人口の割合は、世界全体で 平成2年(1990年)の46%から平成27年(2015年)には32%へと改善したものの、約24億人の人々が トイレなどの衛生施設を継続的に利用できない状態にあり、目標を達成できていない状況である。改 善に向けてなお一層の努力が求められる。(図表1-39、40)
一方、食料不足や農村の貧困問題に対しては、農業用水の効率的利用を進めることが必要であるが、
農村コミュニティにおける水管理は組織・技術の両面で不十分な状況にあることから、我が国の知見 を活かした国際協力が重要である。
以上のような状況の中で、世界における水の安定供給、適正な排水処理等を通じた水の安全保障の強 化を図るためには、我が国の水循環に関する分野の国際活動を更に強化し、国際機関及びNGO12等と連 携しつつ、途上国の自助努力を一層効果的に支援するなど、世界的な取組に貢献していくことが重要で ある。その際、我が国の優れた水関連制度、技術及びそれらのシステム等の海外展開を行うことは、世 界の水問題解決だけでなく、我が国の経済の活性化にも資するものであり、更に推進する必要がある。
図表1-38 MDGsにおける目標と主なターゲット
資料)外務省ウェブサイト 目標と主なターゲット
*ロゴは「特定非営利活動法人 ほっとけない 世界のまずしさ」が作成したもの。
目標1:極度の貧困と飢餓の撲滅
・1日1.25ドル未満で生活する人口の割合を半減させる
・飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる
目標5:妊産婦の健康の改善
・妊産婦の死亡率を4分の1に削減する
目標7:環境の持続可能性確保
・安全な飲料水と衛生施設を利用できない人口の割合を 半減させる
目標6:HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病 の蔓延の防止
・HIV/エイズの蔓延を阻止し、その後減少させる
目標8:開発のためのグローバルなパートナー シップの推進
・民間部門と協力し、情報・通信分野の新技術による利 益が得られるようにする
目標2:初等教育の完全普及の達成
・すべての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を 修了できるようにする
目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上
・すべての教育レベルにおける男女格差を解消する
目標4:乳幼児死亡率の削除
・5歳未満児の死亡率を3分の1に削減する
11 MillenniumDevelopmentGoals
12 Non-GovernmentOrganization:非政府組織