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本章では、これまで議論してきた内容を踏まえて国際化をイノベーション・センターと して活用するための方法論を提言する。

第1節 事例研究のイノベーション・モデル

  第3章で述べた事例を第2章第5節で述べたイノベーション・モデルを用いて整理する

(図表4−1)。

図表4−1:イノベーション・モデル

 

    出所:筆者作成

  第3章での事例研究8社については、第2章第5節で述べたイノベーション・モデル(図 表1−7)を用いて分類することが可能であり、国際化によるイノベーションを考える上 で有効なフレームワークであることが分かった。しかし、今回の事例研究では、進出国か らみた多角化ゾーン(国際多角化モデルおよび迂回型水平垂直統合モデル)の事例を示す ことができなかった。理論的には、このゾーンのイノベーションも可能であるが、本業と の関連性が最も低いため成功の確率は低くなると思われる。

  本業波及型モデルでは、ブランド(佐藤繊維、日プラ)、海外人材による企業変革(YK K)、そして危機感の醸成(P&G)というイノベーションが見られ、一つのモデルであっ ても様々なバリエーションがあった。子会社自立型モデルも様々なバリエーションがあっ た。進出国から第3国への進出(重光産業)、進出国での市場拡大(NUMMI)、新市場

の発見(ネスレコンフィクショナリー)などであった。

  今回の事例研究で特徴的なことは、本業波及型のイノベーションが最も多かったという ことである。一般的には、海外に進出することで、海外市場を獲得し、グループとしての 成長を目的とすることが多いことを考えると意外な結果であるように見える。しかし、意 外であるが故に重要な点を示唆していると考える。国際化というひとつの意思決定が、本 業に波及する可能性があるということを認識すべきであるという教訓である。CSRの観 点から、海外での不祥事が本体に悪影響を及ぼすという認識は高まりつつある。もちろん この観点も重要であることに変わりはないが、それ以上に本業に対するイノベーションの 可能性があるという点を認識し、国際化についての位置づけを捉えなおす必要があると考 える。

  さらに本事例研究での特徴的なことは、国際化によるイノベーションは必ずしも一つだ けではないということである。オリエンタルランドの事例では、新製品輸入型モデルと新 製品開発型モデルの2つのイノベーションを達成している。P&Gジャパンでは3つイノ ベーションが観察された。これらの事例は、国際化がイノベーション・センターとして機 能した典型的な事例であるといえよう。2社に共通していることは、国際化から相当の年 数を経ているということである。そもそもイノベーションそのものが、そう簡単にできる ことではないこと、そして海外の状況に適応するためにある程度の時間が必要であること を示していると考える。長い目で見た国際化、しつこく粘ることが重要なのかもしれない。

第 2 節 国際化によるイノベーションが起こるメカニズムに関する考察

  第3章で例示した国際化をイノベーション・センターとして活用していた事例を通して、

国際化によってどのようにイノベーションが起きるかについて考察する。

  国際化によってイノベーションが引き起こされるのは、次の7つのステップを踏んでい ると思われる(図表4−2)。

図表4−2:国際化によりイノベーションが起きるメカニズム

出所:筆者作成

  第1のステップは、国際化をするという意思決定である。母国から海外へと進出する。

  第2のステップは、「認知的不協和の発生」である。母国から海外に進出し、母国と違う 状況に出会い、戸惑う状況が発生するということである。通常、海外では、母国での常識 が通用しないことが多い。たとえば、母国とは、顧客の要求が違ったり、競合の戦い方が

異なったり、商習慣が違うということである。当初は、母国でのやり方が絶対的であると とらえていたものが、徐々に「何かおかしい」と気付き始めることになる。

  第3のステップは、「危機感の醸成」である。海外での活動の当初、母国との常識の違い により、認知的不協和が発生する。そして、母国の常識が通用しないために経営が当初の 予定通り運ばないため、社内に強烈な危機感が生まれると考えられる。特に、母国から派 遣された人材に芽生える危機感がより大きなものになると考えられる。なぜなら、母国で 培った常識が通用しないという事実だけでなく、財務的な責任者である場合が多いからで ある。通用しないという事実だけでも危機感は醸成されるが、そこに財務的な責任が加わ ることで、「何とかしなければならない」という気持ちはますます強まるのである。

  第4のステップは、「新しい方法の模索」である。このステップの段階では、母国でのや り方が通用しないという事実を受け入れ始める。そして、新しい方法を試し始める。恐ら く、最初は失敗の連続のはずであるが、失敗しながら現地に適した方法を学習し、徐々に ノウハウを蓄積し始める。

  第5のステップは、「現地での成功」である。何を持って成功というか、議論があるとこ ろだろう。一般的には、財務的な成果であろう。現代のファイナンス理論からいえば、投 下した資本に対して、資本コスト(WACC)を上回るキャッシュフローを得ることが成 功とみなされる。仮にこれを「成功」の定義とした場合、この成功に至るまでに様々なこ とにトライし、失敗を重ねながら多くのことを経験することになる。恐らく、母国で得た 経験や知識といった情報的資源をベースとして、母国で得た情報的資源を一部見直し、現 地との違いを埋めるための「新しいやり方(ビジネスシステム)」「市場情報」「競合情報」

「サプライヤー情報」「ブランド力」「信用力」などの「新しい情報的資源」を獲得して初 めて、財務的な成功が見込まれよう。たとえば、現地に適した新製品の開発が、キャッシ ュフローを生み、同時に顧客からの信用を高め、その信用をテコにビジネスが拡大するよ うなケースである。この「新しい情報的資源」は、母国で蓄積した情報的資源に現地で適 合するための情報的資源を追加的に蓄積された情報的資源であり、新旧の情報が複合化さ れたものであると考えられる。この新しく複合化された情報的資源が、イノベーションの 源泉であると考える。しかし、新しく複合化された情報的資源を獲得するためには、必ず しも財務的な成功は必要ではない。財務的には失敗であったとしても、危機を乗りきり、

現地に対応するための行動を通じて様々な情報的資源を獲得することができる。

  そして、第6のステップが、「情報の複合利用」である。第5のステップである「現地で の成功」によって蓄積した情報的資源を別の場所で再利用し、そこでのイノベーションに つなげるということである。第3章の事例研究でのイノベーション・モデルは、この第6 のステップをどのように行ったかを示したものであ。獲得した情報的資源によって応用で きるイノベーションの方向性は異なる(図表4−1)。

 

第 3 節 権限委譲とイノベーション

本章第2節で述べたメカニズムは、どのような国際化においてもある程度自然と起きう るものであると考えられるが、このメカニズムを促進するなんらかのドライビングフォー ス(駆動力)があると考えられる。筆者は、それが「権限委譲」ではないかと考えている。

海外を担当する人材に高い権限と責任を持たせることが重要であるということである。権 限がある故に、現地に適応するための方策を自らの考えで推し進めることが可能となると 考えるからだ。そのためには、分権的な組織構造が必要になろう。集権的な組織の場合、

現地にて自由な意思決定がしにくいからである。「現地のことは現地が最もよく知ってい る」と言われることがあるが、これはまさしく事実である。そして、権限に伴う責任の大 きさもイノベーションを促進すると考える。権限を委譲されたものは責任を果たすために、

我武者羅に取り組み、時に大きな力を発生することがあるからである。

海外進出の場合、この権限移譲が自然と行われることに意義がある。インターネットの 発達により、海外であったとしても中央での集権的な管理はある程度可能である。しかし、

海外と本国との間にある「距離」は今なお歴然としているため、権限を委譲せざるを得な いからだ。これが、国際化がイノベーションを生む構造的な要因のひとつであると考える。

第 4 節 海外子会社に求める役割とイノベーションの関係

  第 1 章おいて国際化の目的には様々なことがあることを見てきた。ここでは、海外に何 らかの目的で進出し、子会社を設立した場合、海外子会社の役割とイノベーションの関係 について考察する。

  母国の本体との関係でみた場合、海外子会社の役割は、「製造のみを担当する場合」と「製 造も含めた販売」までを担当する場合の二通りがある。

製造だけを担当する場合は、「コスト・センター」としての役割を担うため、「規定の製 品」を「できるだけ安いコスト」で製造することが主な役割となる。たとえば、キヤノン、

パナソニック、ブラザーなどの弱電メーカーが中国に工場を建設する場合などである。こ れらの工場は、直接中国内で全く販売していない場合が多い(中国で販売されているもの は、香港や日本に一度輸出されたものが、中国に再輸入されたものである)。中国内で組み 立てられた製品は、日本や欧米などに輸出されている。これは、所謂「保税加工貿易」と 言われるもので、原料や部品などすべて海外から輸入し(一部中国内で手配する場合もあ る)、組み立てを行い、すべての製品を海外に輸出する。中国で行うメリットは、安い人件 費、安い建設費、そして優遇税制処置などの「固定費」の削減である。あえて誤解を恐れ ずに言えば、このような国際化は実はかなり「簡単」である。もちろん、複雑な貿易の仕 組みや中国流の商習慣に適応しなければならないため難しい面はあるが、日本でのモノづ くりの仕組みを移転するだけでかなりの効果が見込まれるのである。中国に合った仕組み