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国連海洋法条約第121条3項の適用問題

ドキュメント内 島の制度と比中南シナ海仲裁判決 (ページ 36-76)

 第3項の規定によって、岩は

EEZ

又は大陸棚を有しないことは明白であ る。それでも、岩は、領海と接続水域を有するのか。 チャーニー教授、フ

シロ(

Fusillo

)教授はともに、第121条3項が「岩が

EEZ

及び大陸棚を有す

ること」を否定するということは、「岩が領海及び接続水域を有すること」

を認めるという意味であると指摘する123)。 ダフ(

Duff J

.)教授は、領土主 権の視点から、不毛の島であれ、植物が生い茂る島であれ、島の主権を有し たからには、これを所有物として保護する権利を有し、この所有物を保護す るためには、その周辺水域を支配するのが非常に重要なことになると解釈す る124)。したがって、領土を保護するためには、領海も存在するということ

になる。なお、沿岸国の主権は、領海に及び、12海里を超えない範囲でその 領海の幅を定める権利を有することを規定している海洋法条約第2条、第3 条に従って、岩の主権が領海に及ぶため、領海は主権に属すものであり、主 権的権利に属すものではないことは明白である。第3次国連海洋法会議の期 間中、カナダは、小島や岩の海洋権利を考慮しないとしても、主権は人口の 規模によって決められるものではないと主張した125)。これにより、たとえ 人間の居住及び独自の経済的生活を維持することができない岩であっても、

それ自体の領海及び接続水域を有するということは確かである。

 次に、第3項では、なぜ「維持しない(

do not

)」ではなく、「維持するこ とのできない(

cannot

)」という文言が使用されているのかについて考えな ければならない。もし海洋地形が同時に人間の居住及び独自の経済的生活を 維持している場合、「島」とみなされるであろう。しかし、人間の居住及び 独自の経済的生活を同時に維持していない海洋地形は「島」であるかどうか がはっきりしないであろう。よって、第3項がいう「国際法上の岩」とは、

特に検証の対象となる無人島を含め、人間の居住及び独自の経済的生活を同 時に維持していない海洋地形を指し、そしてかかる地形は、人間の居住又は 経済的生活を維持できるかどうかを確認できるまで、岩という法的地位にと どまるのであろう。第3次国連海洋法会議起草委員会のネルソン(

L

.

D

.

M

.

Nelson

)委員長は、「『

cannot sustain

』とは現在を扱うことを意味すべきで ある。何世紀も前に起きたことは、岩が現在人間の居住又は独自の経済的生 活を維持できるかどうかとは無関係である。したがって、現在のこの岩のよ うな地形の能力に関しては、現在何が起きているのかについて検証しなけれ ばならない126)」と述べる。したがって、海洋法条約が「維持しない」では なく「維持することのできない」という用語を使用する理由は、おそらく、

特に検証の対象となる無人島を含め、人間の居住及び独自の経済的生活を同 時に維持していない海洋地形に対して、人間の居住又は経済的生活を維持す

125) 2 UNCLOS III OR, supra note 56, at 284, paras. 59-60. (Canada)

126) KwiatkowskaandSoons,supranote 34,at 160-161.

る能力があるかどうかを検証することにあろう。しかし、

SCS

裁判所は、「で きない」とは岩が自然の状態において(in its natural form)の能力を指し、

それは過去にあった人間の居住又は独自の経済的生活に関する歴史的証拠に かかわるものという異なる意見を持ち127)、さらに、第3項が制限規定であ ることを前提に、「自然に形成されたこと」と「独自の経済的生活」という 文脈を一致させるために、「できない(

cannot

)」を「人工的追加がなければ 維持できない(

cannot

,

without artificial addition

,

sustain

)」と解釈しなけ ればならないとの見解を示した128)。しかし、条約法条約第31条4項によれば、

「できない」という用語に対する

SCS

裁判所の解釈は、「特別の意味を与え ることを意図していた」ということになろう。締約国間においては「人工的 追加がなければ維持できないこと」というような共通の認識が存在している か否かは、国家実行をみれば、そのような認識が存在しないことが分か る129)。チャーニー教授は、さらに、起草過程において、諸国代表は、当時、

海洋区域を拡大する沿岸国の利益を支持し、200海里の水域を

EEZ

として、

そこに最も価値のある鉱物と生物資源を沿岸国に与える一方、

EEZ

に対し て、特別な機能的規定を制定し、他の国の利益を保護することにしたが、共 同の海洋空間にある資源のほとんどが確認されておらず、

EEZ

ほどの価値 があるとはされなかったことを指摘する130)。確かに、第3次国連海洋法会 議のシンガポール、ルーマニア、コロンビア及びデンマーク諸代表、そして 最近の

SCS

判決の訴訟当事国である中国とフィリピンが

CHM

について言及 した以外、第121条3項は「深海底」の侵入を阻止するための制限規定であ ると指摘する国又は国際判例はなかった。さらに、「人工的追加がなければ 維持できないこと」が決定的な要素であるとする国もない。この他、フラン ス、イギリスは、ともに海洋境界画定の際に、第121条3項が島の効果を判

127) South China Sea Arbitration, supra note 2, at 206-207, paras. 483-484.

128) Ibid, at 214, paras. 509-510.

129) 詳細については、本章「4 国連海洋法条約第121条3項の法的性格」参照。

130) Charney,supranote 60,at 865-866.

断するための根拠とし、「人工的追加がなければ維持できないこと」が「深 海底」を侵入することにつながるかどうかについてまで、意識はしていない。

つまり、今までの国際判例では、

SCS

判決のみが、「できないこと」を「人 工的追加がなければ維持できないこと」と解釈したのである。

1 「人間の居住(human habitation)」

 海洋法条約が「島」に対して設定した第5の要件は「人間の居住(

human

habitation

)」である。そもそも、「人間の居住」とは何を指すのか。1923年

の大英帝国会議(

Imperial Conference

)第4決議によれば、島は、恒久的に 高潮線上にあり、使用できる又は居住できるすべての領域を包含するとし、

その解釈覚書では、「使用できる」とは「人工的追加なしで」(

without artificial addition

)、特定の商業上又は安全保障上の目的で一年中にわたり使 用できることであり、「居住できる」とは「人工的追加なしで」、永久的な人 間の居住(

permanent human habitation

)ができることであると記してい る131)。しかし、「人工的追加」についての説明はない。ハーグ会議第2委員 会において、英国は、永久的な居住という主張を放棄し、その代わりに、「島 とは、陸地であって、水に囲まれ、通常の場合、恒久的に高潮線上にあるも のをいうが、実効支配及び使用できない領域は含まれない(

not include a piece of territory not capable of effective occupation and use

)」と提案した。

また、ドイツは、人工島には人間の居住者(

human inhabitants

)がいる場合、

島とみなされると主張したが、結局、両国の提案はどちらも採用されなかっ た。一方、1954年、ローターパクト(

Hersch Lauterpacht

)教授は、

ILC

に おいて、「実効支配と管理(

capable of effective occupation and control

)」と いう文言を島の定義に導入するよう提唱したが、フランソワ(

François

)特 別報告者は、すべての岩は、気象観測所・無線局の設立によって、実効支配・

管理することができるという反対の意見を示した132)。ともあれ、1958年の

131) Brown supra note 43, at 151.

132) 他方、スーンズ教授は、灯台、気象観測所や無線局などが人間の居住を維持することがで

大陸棚条約は、すべての島に対して、大陸棚を有する法的地位を付与するこ とにし、第3次国連海洋法会議まで、人間の居住を島の要件とするかどうか という議論は棚上げされてきた。人間の居住とは「安定した共同体」(

stable community of people)であると主張するバンダイク教授は「人間の居住」

とは、真の意味では、海洋地形の資源に対して責任(

commitment

)を約束 することを含意し、「安定した共同体」が当該地形に住み、その周辺水域を 利用する場合にのみ、当該地形が広大な海洋空間を有すると合理的に主張で きると説明し133)、よって、探査又は科学調査のため、時に又は不定期的に 訪問する科学者は、「安定した共同体」とはみなされないとする134)。さらに、

SCS

裁 判 所 は、「 居 住(

habitation

)」 と は 一 時 的 な 存 在(

non

-

transient presence

)ではなく、生存(

survive

)するだけではなく、地形に定住するこ とを意味すると指摘する135)。したがって、人間の居住とは、海洋地形を支配・

管理することだけではなく、海洋地形に「居住」することとそこを「利用」

することを意味する。また、ジデル教授(

G

.

Gidel

)は、人間の居住は永久 的でなければならないとする136)。第3次国連海洋法会議において、アフリ カ14カ国提案は、海域は衡平の基準に従って決定されるべきとした。その中 で、示された2つの基準は住民の需要・利益と、永久的居住を妨害する条件 の有無としている137)。しかし、チャーニー教授は、海洋法条約の起草過程 においては、共同体が海洋地形において永久的に居住しなければならないこ

きるという要件をみたすとしている。海洋地形において、気象観測所や無線局を設立すること は、「実効支配と管理」と認められるが、人間の居住を維持することができるかどうかは議論 の余地が残る。Kwiatkowska and Soons, supra note 34, at 163-165.

133) Jon M. Van Dyke and Robert A. Brooks, “Uninhabited Islands: Their Impact on the Ownership of the Ocean’ Resources,” Ocean Development and International Law, V. 12, N.

3/4, 1983, at 286.

134) Van Dyke, supra note 113, at 437-438.

135) South China Sea Arbitration, supra note 2, at 208, para. 489.

136) ジデル教授は、一定の季節における漁民(seasonal fishermen)や調査団の訪問(visting survey teams) に よ る 時 折 の 居 住(occasional habitation) は、「 安 定 し た 人 間 の 居 住(la résidence stable de groups humains organisés)」という要件をみたさないとする。B. Gidel, Le Droit international public de la mer (1934), at 681. Bowett, supra note 31, at 8.

137) Symmons,supranote 26,at 46-47.

ドキュメント内 島の制度と比中南シナ海仲裁判決 (ページ 36-76)

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