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呼吸器感染症迅速診断の展望

公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央 病院呼吸器内科

石田 直 感染症の治療は,原因微生物を同定して至適な抗菌薬を

投与することが原則であるが,多くの場合,原因不明でエ ンピリックに治療を開始することになる.しかしながら,

原因が判明すれば,適切な治療が早期より施行でき,狭域 の抗菌薬を使用することにより,耐性菌の誘導も防止する ことができる.

近年,被験者の傍らで,または診察室で迅速に検査結果 の得られる,POCT(Point of Care Testing)の考え方が 広まってきた.呼吸器感染症において迅速診断が必要にな る対象の病原微生物としては,特異的な治療薬が必要とな るもの(インフルエンザ,レジオネラ症など),薬剤耐性 菌の増加や重症化等の点で疫学的に重要なもの(肺炎球菌,

インフルエンザ菌など),培養や抗体上昇に時間を要する 非定型病原体(マイコプラズマ,クラミドフィラなど)が 想定される.これらの病原微生物の抗原検出のための種々 の検査法が開発されてきている.

なかでも,注目を集めているのが,リボゾーム蛋白 L7!

L12 である.L7!L12 は,リボゾームを構成している蛋白 の 1 つであり,すべての細菌のリボゾーム中に存在してい る.L7!L12 の構造には菌種により特異的な領域が存在し,

その菌固有の領域を識別するモノクローナル抗体を用いる ことで,目的とする細菌の L7!L12 の菌種に固有な領域を 識別でき,理論上すべての細菌が同定可能であり,ひいて は網羅的に菌検索を行う可能性もある.

細菌学的検査における近年の 3 大技術革新は,自動同定 感受性機器,質量分析,遺伝子解析の導入といわれている.

なかでも,質量分析法により,菌種の培養,同定までの時 間が,以前よりはるかに短縮できるようになったが,耳慣 れない菌種が報告されるようになったことや,培養結果と 感受性結果の報告にタイムラグがでること,菌種によって は鑑別が困難なことなどの問題点もあり,現場に些かの混 乱が生じることもある.

本講演では,従来からの迅速診断法に加えて,新たに採 用された検査や開発中の迅速検査法,また質量分析法につ いて,自験例や治験の成績も一部含めて紹介してみたい.

将来の迅速診断法としては,感度の高い検査や多菌種を鑑 別できるキットの開発,薬剤感受性を判定できる迅速検査 などが要望される.

ランチョンセミナー 6

呼吸器感染症の病原微生物の変貌―見えてきたウイルス 性呼吸器感染症のアウトブレイク―

琉球大学大学院医学研究科感染症・呼吸器・消化 器内科学(第一内科)

藤田 次郎 呼吸器感染症の診断においては,起炎病原体を同定する ことがきわめて重要である.従来はグラム染色,および細 菌培養などで起炎菌が決定され,その情報に基づいて抗菌 薬の選択がなされてきた.一方,抗インフルエンザ薬の開 発に伴い,インフルエンザウイルスの迅速診断キットが飛 躍的に進歩し,インフルエンザ診療は早期診断および早期 治療が導入されている.これによりインフルエンザの診療

体系は一変したといっても過言ではない.近年の診断技術 の進歩により細菌のみならず様々な病原体にも迅速診断 キットが応用されつつある.肺炎球菌,レジオネラ,マイ コプラズマ,A 群溶血性連鎖球菌,インフルエンザウイ ルスに代表される呼吸器ウイルスにおいては,ベッドサイ ドで簡便に施行でき,迅速に結果が得られる抗原検出キッ トが市販されている.良質な検体が採取できない場合やグ ラム染色では観察できない病原微生物による感染症におい て,これらの抗原迅速検出キットは有用といえる.また従 来,マイコプラズマ感染症の診断は血清抗体価測定が主流 であったが,近年,抗原を検出する種々の検査手法が開発 され,2013 年 8 月に保険適用をとった 2 つの迅速抗原検 査キット(プライムチェックマイコプラズマ抗原,リボテ ストマイコプラズマ)は感度・特異度が 90% 以上と高く,

ベッドサイドで施行可能で 15 分以内に結果判定ができる 優れた検査である.

呼吸器感染症の原因となるウイルスのうち,インフルエ ンザウイルス(A 型,または B 型の判定が可能),RS ウ イルス,アデノウイルス,そしてヒトメタニューモウイル スは迅速抗原検査が市販されている.これらはすべてベッ ドサイドで施行でき,5〜15 分以内に結果を得ることがで きる.なお RS ウイルス迅速検査は,①入院患者,②乳児,

③パリビズマブ製剤の適応となる患者のみ,またヒトメタ ニューモウイルス迅速検査は 6 歳未満の患者で画像診断 上,肺炎が強く疑われるときのみ算定できる.インフルエ ンザウイルス感染症の発症早期は体内のウイルス量が少な く検査の陽性率が低くなることが知られており(発症後 12 時 間 以 内 で 35%,12〜24 時 間 で 66%,24〜48 時 間 で 92%),強く疑う場合には時間をおいて再度検査を行うこ とが望ましい.さらに我々の施設では,multiplex PCR を 活用し,非定型病原体,および呼吸器ウイルス感染症の遺 伝子診断を実施してきた.その結果,インフルエンザウイ ルスのみならず,ヒトメタニューモウイルス,RS ウイル ス,またはパラインフルエンザウイルスによる肺炎や院内 アウトブレイクを多数経験するようになった.これまで見 えなかった成人の呼吸器ウイルス感染症の実態を知ること ができるようになったことから,これらの疾患の成人にお ける臨床像,およびアウトブレイクの事例を紹介したい.

ランチョンセミナー 7

嫌気性菌感染症の遺伝子診断と抗菌化学療法

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診 断学

森永 芳智 私たちの体には無数の微生物が共存していて,ヒトの生 命機能や疾患とも深くかかわっている.遺伝子解析の技術 は,培養では知る得ることができなかったヒトと微生物の 関係に光を当て,新しい疾患の理解が広がりつつある.遺 伝子解析による網羅的な細菌叢のデータをみると,嫌気性 菌がいかに多いか実感する.私たちの体には,培養が困難 で,目で捉える機会が少ない微生物がいて,お互いに関係

を持ちながら日常を過ごしている.

嫌気性菌を検出するために,先人たちは様々な工夫を凝 らした培地や培養条件を開発してきたが,遺伝子解析の技 術がもらした情報によって,私たちは培養にも限界がある ことを同時に学ぶこととなった.仮に培養可能な嫌気性菌 であっても,日常検査では,検体の保管,輸送条件などに よって培養できていないことがしばしばある.適正な抗菌 薬の使用が重要視される中,原因微生物の特定が困難であ ることは,抗菌薬の有効性を評価するうえで,科学的な検 証の面で劣っているといえる.このように,臨床微生物学 的な工夫が更に必要と考えられるが,私たちは嫌気性菌に ついてもっと知る必要があり,やはり遺伝子学的手法がそ のカギとなる重要なツールとなると思われる.

わが国は高齢化社会であるように,誤嚥性肺炎の診断・

治療面での質の向上はこれからも求められると思われる.

嫌気性菌が口腔内から下気道に侵入すると考えられている が,その証明は難しい.いろいろな呼吸器検体を利用して 遺伝子の検出を試みてみると,嫌気性菌の遺伝子が観察さ れることがある.明らかな誤嚥のエピソードがないことも あり,下気道における嫌気性菌の存在と病態のかかわりは 今後解明していくべき課題である.一方で,腹腔内感染症 では,もともと嫌気状態である腹部臓器を由来とするため に,嫌気性菌が関わっていると推測される.しかしながら,

感染巣によっても微生物の特徴が異なり,材料の質によっ て遺伝子学的手法の阻害の受けやすさが異なるなど,簡単 には腹腔内感染症での嫌気性菌の関与を整理できない実情 もある.

嫌気性菌感染症では,β―ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシ リン系薬や,カルバペネム系薬が用いられるものの,微生 物学的な証明が得られないままに使用しなくてはならない ことも多い.

嫌気性菌の中には,β―ラクタマーゼ産生株も多くおり,

薬剤選択の裏付けとなるような微生物学的な情報が必要で ある.近年はカルバペネム耐性腸内細菌の問題もあり,適 正な抗菌薬使用を推奨するうえでは,遺伝子学的手法を含 めた耐性情報を入手することが望ましい.カルバペネム系 薬へ一辺倒とならないようにするためには,薬剤選択の資 料となる情報収集が一層大切となってくる.

個別の感染症症例の診断に遺伝子検出を活用できればよ いが,実際はまだまだ難しい.マスの視点をうまく組み合 わせることで嫌気性菌の情報を収集し,その手段としても 遺伝子学的手法が期待される.

ランチョンセミナー 8

気管支喘息 COPD 患者とインフルエンザ 岸和田市民病院呼吸器内科

加藤 元一 2014!15 のインフルエンザシーズンは,ワクチンの有効 性に乏しく,その有効率は 23% と報告され,特に青壮年 層では 12% にすぎず(MMWR 2015;64:10-15.)多数の 感染者を認め,合併症を持つ方や高齢者に多数の死亡者が

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