第 5 章 物理特性の変更
5.2 周波数応答解析
前節で,裏板を自由振動させることでヤング率を推定した.そこで,木材を等方性と仮 定したギターの胴モデルに材質を青銅とした弦の連成モデルを基本モデルとし,裏板部分 を実験から求めたヤング率を適応したモデル,弦の材質をステンレス鋼としたモデルに変 更し,固有値解析と周波数応答解析を行い音質にどのような影響を与えるか検討した.加 振点と計測点を図4.10と同様に,矢印部分を加振しAを計測点とした.
また,ステンレス鋼の弦はヤング率 197[GPa],ポアソン比 0.34 とし,初期ひずみ以外 の解析条件は前節のギターモデルと同じものを用いる.
(a) 基本モデル
(b) 弦変更
5.3 考察
本章では提案する楽器のように材質を変更することで振動特性がどのように変化するか を検討した.今回はその一例として弦の材質をステンレス鋼に変更した場合と,裏板に異 方性のヤング率を適応した二例を検討した.
まず,基本モデルと弦の材質を変更したモデルを比べると,基本モデルでは110Hzを基
音とし220Hz,330Hzと整数倍に近い周波数でピーク値を取ることが確認できるが,弦の
材質をステンレス鋼に変更した場合も 110Hz,220,330Hz と整数倍の周波数でピーク値 取ることが確認できる.しかし,各ピーク値で強さが異なることがわかる.また,胴に異 方性のパラメータを適応したモデルでも同様に周波数の一致は見られるが,強さが異なる ことがわかる.
各モデルともピーク値の取り方が異なることが確認できた.音色は周波数成分の大きさ によって決定されることから,胴や弦の材質を変更することで音質が変化すると考えられ る.
第 第 第
第 6 6 6 6 章 章 章 章 振動波形 振動波形 振動波形 振動波形の の の算出 の 算出 算出 算出
本節では,モード歪エネルギー法により減衰比を,弦の弾く位置を考慮した初期モード変 位を算出し,それらの計算結果を基に自由振動応答波形を算出する.さらに,計算によっ て求められた振動波形を音声波形に変換することで,振動の見地から音を創生し,減衰や 弦を弾く位置が音質にどのような影響を及ぼすか検討を行う.
6.1 減衰比の算出
6.1.1 モード歪エネルギー法
まず,全体の減衰比を
ζ
,弦の減衰比をζ
s,胴の減衰比ζ
bをとする.振動モードUUUUは
=
b s
U U
U
(6.1)となる.このとき弦
s
の両端は胴側b
とする.また簡単のために両端の変位は無視するも のとすると,モード全体の歪みエネルギーの2倍をkとすればKU U
Tk =
(6.2)となる.ここでKは全体系の剛性マトリックスである.
次に,弦の歪みエネルギーの2倍をksとすれば
s s T
k = U
sK U
(6.3)となり,全体の歪エネルギーに対する弦の歪エネルギーの分担率εsは
k k
ss
=
ε
(6.4)となる.よってモード減衰比ζは
(
s)
b s
s
ε ζ ε
ζ
ζ = + 1 −
(6.5)で表せる.
6.1.2 計算結果
弦と胴の減衰比を任意の値として全体の減衰比の計算を行う.まず,表6.1に弦の歪み エネルギーの分担率を,表6.2にそれから得られる減衰比を示す.表はすべて左側に振動数 が基本振動数の整数倍の場合,右側は振動数が整数倍でないモードである.
表6.1 分担率
mode 分担率 mode 分担率
4 0.99204022 8 0.04279244
6 0.96177345 14 0.00488721
10 0.99622157 18 0.05069148
表6.2 減衰比 (a)ζb=0.05,ζs=0.001
mode 減衰比 mode 減衰比
4 0.001390 8 0.047903
6 0.002870 14 0.049761
10 0.001185 18 0.047516
(b) ζb=0.15,ζs=0.003
mode 減衰比 mode 減衰比
4 0.004270 8 0.143710
6 0.008619 14 0.149284
10 0.003555 18 0.142548
まず,分担率について見ると整数倍モードでは弦の分担率は,約 1 と大きく,弦が支配 的である.逆に整数倍でない振動モードでは分担率が小さく胴の振動が支配的なモードで あることがわかる.
次に減衰比を見ると,弦の減衰比は胴の減衰比に比べ小さいため,弦の支配的なモード では胴が支配的な整数倍でない振動モードに比べ減衰比が小さくなる.また,材質を変更 を仮定して減衰比を変更すると全体の減衰比が変化することが確認できる.
6.2 j次モードの初期モード変位
ϕ
i0の算出方法x
を弦を弾く方向と仮定し,xi(i=1~n)を弦の初期変位の形状とすると∑
=
j j
s
U ϕ
0 x
(6.6)
モードの直行性よりi≠ jなら
= 0
i T
j
MU
U
(6.7)となるので
∑
=
=
=
nj j j j j
T j
s
m
1
ϕ ϕ
MU U
0 x
UM
(6.8)
=
=
0 x M
U M U 0
x M M
U U 0
x
UM
sT
b b
s s s
b s
T
b s s
0
0
(6.9) ここでmjはj次のモード質量,M
sは弦の質量マトリックス,M
bは胴の質量マトリックス である.
したがってj次モードの初期変位ϕj0は
{ }
j n
i i i
s
j
m
n X x M ∑
=
=1 0/
ϕ
(6.10)となるので,j次モードの系全体の初期変位u 0
j は
j j
j
U ϕ
u
0=
(6.11)となる.この場合,
U
が振動モードであり,ϕ
は各モード成分である.n X x M
n
n
i i i
s s
s T s
∑
=
== U M x
π ( 弦長 )
初期変位 弦
a
( ) ny
sin
b
z
y
π ( 弦長 )
初期変位 弦
a
( ) ny
sin
b
z
y
6.3 加振点による弦の振動の違い
本節では弦を弾く位置での振動の変化について検討する.
図6.1
全体の弦長を
π
として,弦の任意の位置,ここでは点a
の位置で弦を弾くと仮定し,弦 の端からの距離をb
とし,図の放物線をsin
nyとすれば,点a
の位置はbc
a =
(6.12)となる.
初期変位を1とした場合,弦の式は
y a
z
1= ( 1 / )
( 0 ≤ y ≤ a )
(6.13)y a z a
+ −
− −
= π
π π
1
2
( a ≤ y ≤ π )
(6.14)となる.
jy z
n
j j
sin
1
∑
=
= ϕ
(6.15)と置き直交条件を利用すれば,モードごとの変形量を求める積分式は
表6.2に計算で求めた各モードの初期振幅,図6.2に各モードに6.1節で求めた減衰比を 適応し,フーリエ変換を行った結果を示す.
まず,表について見ると,初期変位は基本的に高次モードほど振幅が小さくなることが わかる.また,b=0.5の場合,2の倍数のモードで初期振幅がほぼ0になり,b=0.333の場 合では3の倍数モードで初期振幅が0に近くなる.
次にFFT結果についてみると,初期変位の場合と同様に,b=0.5の場合では2の倍数モ ードでピーク値を取らず,b=0.333では3の倍数モードでピーク値を取らない.
よって,弦を弾く位置を
1 / x
とすると弦の振動はx
n次モードで振幅はほぼ 0 という関係 が成り立つ.表6.2 各モードの初期振幅 モード 初期振幅
(b=0.9)
モード 初期振幅 (b=0.5)
モード 初期振幅 (b=0.333)
1 0.347889 1 0.405285 1 -0.394860
2 -0.330862 2 0.000000 2 -0.197430
3 0.303595 3 -0.135095 3 4.77465×10-7
4 -0.267673 4 0.000000 4 -0.098715
5 0.225158 5 0.081057 5 -0.078972
6 -0.178448 6 5.30092×10-17 6 -4.77465×10-7
7 0.130112 7 -0.057898 7 0.056408
8 -0.082715 8 0.000000 8 0.049358
9 0.038654 9 0.045032 9 4.77465×10-7
10 -2.65046×10-16 10 -8.83487×10-17 10 -0.003949
(a) b=0.769
(b) b=0.5
(c) b=0.333 図6.2 FFT結果
6.4 振動計算結果
前節までに,計算により初期変位と減衰,また有限要素法解析により変形量を得られた.
本節ではそれらの結果から図4.10に示すA点の時刻暦波形の算出を行う.その計算結果を 図6.3に示す.減衰比と同様に左側に整数倍の振動数,右側に整数倍でない場合を示す.
(a) ζb=0.05 ζs=0.001
(b) ζb=0.15 ζs=0.003 図6.3 時刻暦振動波形
右側の整数倍でない振動数のモードを見ると,整数倍のモードに比べ減衰が早いことが わかる.さらに,減衰比を変更することで振動の様子が変化することが確認できる.
このことから,減衰比を変更することで音質の変更は可能であると考えられる.
6.5 音声波形の出力
本節では,前節の弦の初期変位と胴の変形量から振動の見地から,ギターの音質につい て検討する.
弦を弾く位置をb=0.769,b=0.5とし,それぞれ,減衰比を =0.001, = 0.05
s
ζ
bζ
とした場合と,減衰比を
ζ
s = 0.003,ζ
b = 0.15とした場合をそれぞれ図 6.4,6.5 に示す.このときの弦の振動は,
x
nからx
n+1までは,x
nの振動が支配的であると仮定し,ANSYS による変形量結果から算出した.計算結果を以下に示す.図は,上から0~5秒の振動波形,0~0.5秒までの振動波形,パワースペクトル波形である.
(a) b =0.769
(a) b = 0.769
6.6 考察
本章では,減衰比と初期変位の算出から振動波形の導出し,音質の評価を行った.
まず,減衰比についてみてみると,振動数を取るモードでは減衰比が小さく,整数倍で ないモードでは減衰比が大きくなる.また,弦と胴部の減衰比を変更すると全体の減衰比 が変化することがわかる.
算出した減衰比と解析によって得た変形量により導いた振動波形を見ると,整数倍の振 動数は整数倍でない振動数と比べると初期振幅が大きく,さらに,整数倍でない振動成分 は減衰が早く,ある程度時間が経過すると振動が非常に小さくなることがわかる.また減 衰比を変化することで振動の様子が変化する.
また,弦を弾く位置での振動の変化では,弦の1/2の位置を弾くと2倍の振動モードで,
1/3 の位置では倍の振動モードでピーク値を取らないことが確認でき,
1 / x
の位置を弾くと
x
nモードで振動が得られないという結論を得た.減衰比と計算により求めた初期変位から弦のみの振動モードと胴の振動モードを考慮し た振動波形を算出した結果では,弦を弾く位置により得られない周波数も存在するが整数 倍の振動数でのピーク値を確認した.しかし,胴の振動モードを考慮し,b=0.9とした場合 では整数倍以外でもピーク値を確認できる.これは,b=0.5とした場合は,
x
nからx
n+1までは,
x
nの振動が支配的であると仮定したため,初期変位が0となったモードが多くなり,整数倍のみでのピーク値となり,b=0.9の場合では,弦,胴ともに変形するモードでピーク 値を得たと考えられる.
以上から,振動波形は減衰比,初期振幅,弦を弾く位置が大きく影響していることがわ かる.しかし,減衰比,初期振幅は計算により算出可能であり,変更も可能である.この ことから,それらを調節することで,音質の変更は可能であるといえる.
第 第
第 第 7 7 7 7 章 章 章 章 結論 結論 結論 結論
7.1 まとめ
本研究では,演奏者好みの音を創生する楽器の開発を目指し,ギターの音は弦と胴の部 分の連成振動であり,減衰や初期振幅が音質に大きく影響していることから,以下のよう な手法から音声波形の創生を目指した.
ANSYS により,形状,弾性率,密度を与え,弦と胴の連成からギターモデルを構築し,有
限要素法による固有値解析を行った.また,弦と胴の材料減衰と固有値解析の結果からモ ード歪エネルギー法を用いてモード減衰比の計算,さらに,弦を弾く位置と固有値解析の 結果から弦を弾く場合の初期モード変位の計算を行い,それらの結果を基に自由振動応答 波形を算出し,音声波形の創生を行った.
その結果,多くの固有振動数のうち弦の振動が支配的なモードで基本周波数の整数倍の 固有振動数を持ち,さらに,減衰比は整数倍以外の固有振動数を持つモードが大きく振動 がすぐに減衰する.また,弦を弾く位置により各モードの大きさが変わる.これらは,実 際の現象とある程度一致する結果が得られた.
これらから,提案する手法により,楽器の形状,材料特性,さらに弦の弾く位置を設定 を行うことで,自分好みの音を創生可能になった.
7.2 今後の課題
自分好みの音を創生可能であると見通しを得たが,今回は表板の一点のみの振動から得 た結果である.よって,各点の波形を導き,空気系を考慮する必要がある.