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7.4 排 泄

8.2.1 吸 入

8.2.1.1 複合的エンドポイント

NTP試験では、0、690、1400、2900 mg/m3に1日6時間、週5日、2週間暴露したF344 ラットおよび B6C3F1 マウス(各種各群雌雄各 5 匹)に、明らかな毒性や広範囲な組織に影 響を及ぼす顕微鏡的所見はみられなかった。6000 mg/m3で、マウス肝の脂肪細胞に空胞化 が認められた。12000 mg/m3で、呼吸困難、自発運動の抑制、麻酔作用、失調性歩行に続 き、両種に死亡が発生した(NTP, 1986)。

報告は不十分ではあるが、1件の試験で700 mg/m3に1日7時間、17日間にわたって13 回暴露したモルモット7匹に有害作用はみられなかった。1400 mg/m3に1日7時間、18 日間にわたって14回暴露したモルモットは、成長低下、肝重量増加、軽度の脂肪肝組織変 性を示した。11000 mg/m3に1日7時間、25日間にわたって18回暴露したラットに、行 動への明らかな影響、体重減少、肝・腎腫大(組織損傷を伴わない)がみられた。肝臓の脂肪

変性が、1日に同濃度で8日間暴露したモルモットで観察された。重度の中枢神経系抑制が、

17000 mg/m3に1日7時間、18~39日間にわたって13~28回暴露したラット、ウサギ、

モルモットで観察された。全 3 種が肝組織変化を示したのに加えて、混濁腫脹がモルモッ トの腎臓で観察された(Rowe et al., 1952)。

8.2.1.2 神経毒性

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NTP試験で、B6C3F1マウスとF344ラット(各種各群雌雄各10匹)を、0、およそ690、 1400、2800、5500、11000 mg/m3に、1日6時間、週5日、13週間暴露した。神経毒性 の明らかな徴候は、ラットではいずれの濃度でも、マウスでは1400 mg/m3まででは報告さ れていない。2800 mg/m3のマウスは、円背位となり運動が低下した。5500 mg/m3群では 浅速呼吸と興奮が、最高暴露レベルでは協調運動の欠如と意識消失がみられた(NTP, 1986)。

16週齢F344 ラット(各群雌雄各12匹)を0、340、1400、5500 mg/m3に1日6時間、

週5日、13週間暴露して、包括的な神経毒性検査が行われた。神経毒性の明らかな徴候に ついて試験期間を通じて動物をモニターし、米国環境保護庁の機能観察バッテリーに基づ き月1回の“念入りな症候観察”を行った。握力テストを月1回行った。第14週に、閃光 視覚誘発電位、クリック音およびトーンピップに対する聴性脳幹反応、体感覚性誘発電位、

尾側神経活動電位、直腸温の各測定を組み入れた電気生理学的試験バッテリーを行なった。

波形を視覚的に分析した。脳、視神経、脊髄および神経根、後根神経節、末梢神経、骨格 筋の包括的な神経病理学的検査を、最高暴露群の雌雄各 5 匹で行なった。暴露に起因する 唯一の影響は、5500 mg/m3において視覚野で記録された閃光視覚誘発電位における微妙な 変化(長潜時誘発電位の大きな振幅)であった。この試験での無毒性濃度(NOAEC)は 1400 mg/m3であった(Mattsson et al., 1998)。

オープンフィールドテストにおいて、行動変容(自発運動の増加)が、純度不明のテトラク ロロエテン1400 mg/m3に1日6時間、4日間吸入暴露した雄ラットで観察された。自発運 動の増加が最後の暴露から1時間で有意に認められたが、17時間では認められなかった。

数回の暴露を追加した後、脳でみられた生化学的変化はRNA量の減少と非特異的コリンエ ステラーゼ量の増加であった。脳組織検査は行われなかったため、これらの所見を脳構造 の損傷に関係づけることはできない(Savolainen et al., 1977)。

テトラクロロエテンの明らかな神経学的影響が、脳におけるテトラクロロエテンによる 生化学的変化の可能性を解明する、ラット、モルモット、スナネズミを用いる一連の検査(de

Raat, 2003から転載して、Table 6にまとめた)を促進させた。これらの影響をひとまとめ

にして考えると、テトラクロロエテンへの長期呼吸器暴露は、脳細胞(おそらくはグリア細 胞)の消失として、脳膜の構成成分のある程度可逆的な構造変化として、脳細胞の構造タン パク質の代謝への干渉として、脳に構造変化をきたすことがあると示唆される。観察され た生化学的変化はわずかであり、機能変化との関係は不明である(de Raat, 2003)。

8.2.1.3 肝毒性

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NTP試験で、B6C3F1マウスとF344 ラット(各種各群雌雄各10匹)を、0、およそ690、

1400、2800、5500、11 000 mg/m3 に1日6時間、週5日、13週間暴露した。690 mg/m3 のマウスに肝毒性はみられなかった(この暴露濃度ではラット肝を調べていない)。1400 mg/m3以上への暴露ラットは、軽微から軽度のうっ血肝を示した。1400 mg/m3への暴露マ ウスに細胞分裂の軽度変化がみられたが、2800 mg/m3以上では肝に軽微から軽度の白血球 浸潤、小葉中心性壊死、胆汁うっ滞がみられた(NTP, 1986)。

マウスを60 mg/m3に30日間連続暴露すると、相対肝重量の有意な増加が観察された。

520 mg/m3では、肝重量は倍加した。肝細胞の肥大および空胞化が60 mg/m3で観察された

が、暴露を中止すると肝臓は正常に戻った(Kjellstrand et al., 1984, 1985b)。マウスを1400 mg/m3で1日4時間、週6日、8週間暴露したところ、80%ほどの肝臓に大量の中心性脂 肪浸潤が認められた。肝臓の脂肪含有量は暴露の第 1 週に倍加したが、その後それ以上増 加しなかった。肝硬変や壊死は報告されていない(Kylin et al., 1965)。

別の試験で、F344ラットとB6C3F1マウスを1400 mg/m3に1日6時間、28日間、あ るいは2800 mg/m3に1日6時間、14~28日間暴露した。肝臓のカタラーゼ活性は、両種 ともに影響を受けなかった。ラット肝や両種の腎臓でペルオキシソーム増殖は観察されな かったが、マウス肝では脂質蓄積とペルオキシソーム増殖がみられた。テトラクロロエテ

ン1400 mg/m3への6時間の単回暴露後、トリクロロ酢酸が主要代謝物として認められ、そ

の血中ピーク値はマウスではラットより13倍高くなる。テトラクロロエテンのトリクロロ 酢酸への代謝にみられるマウスとラットの違いは、肝臓のペルオキシソーム増殖に種差を きたし、これが肝発がん性にみられる種差の原因と考えられている(Odum et al., 1988)。

報告が不十分ではあるが、1件の試験でモルモットを700 mg/m3に7時間、185日間に わたって 132 回暴露したところ、肝重量増加といくつかの脂肪小空胞がみられた。肝脂肪 変性が、1400 mg/m3 (7時間暴露、220日間にわたって158回)で起きた。2800 mg/m3で1 日7時間反復暴露したラット(雌雄各15匹)、ウサギ(雌雄各2匹)、サル(雌雄各2匹)では、

有害影響は報告されていない。総暴露回数は183 日間で 130 回(ラット)、222 日間で 159 回(ウサギ)、250日間で179回(サル)であった。236日間にわたって169日間同様に暴露し たモルモットで、成長抑制と肝臓への影響(重量増加、脂肪変性、軽度肝硬変)がみられた (Rowe et al., 1952)。

組織損傷とともに AST、ALT、グルタミン酸脱水素酵素の血漿中濃度の上昇が、19000 mg/m3に1日4時間、週5日、9週間暴露したウサギでみられた(Mazza, 1972)。

8.2.1.4 腎毒性

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B6C3F1マウスとF344ラット(各種各群雌雄各10匹)を、0、およそ690、1400、2800、

5500、11000 mg/m3に1日6時間、週5日、13週間暴露した1件のNTP試験で、最低濃 度を除くすべての濃度でマウスの腎尿細管(細胞)に巨大核がわずかにみられた(発現頻度は 0、690、1400、2800、5500、11000 mg/m3でそれぞれ0/20、0/20、14/20、20/20、20/20、

13/14)。

16000 mg/m3に1日4時間、週6日、45日間暴露したウサギの尿中クレアチニンおよび

p-アミノ馬尿酸の濃度変化により、尿細管機能が糸球体能力よりも大きく影響を受けると結

論された(Brancaccio et al., 1971)。この試験は詳細な報告に欠けるとの批判を受けた (USEPA, 1986; HSE, 1987)。

別の試験では、ラットとマウスを1400 mg/m3に1日6時間、28日間、あるいは 2800 mg/m3に1日6時間、14~28日間暴露した。腎に病理組織学的変化は見つからなかった。

雌マウスで、ペルオキシソ-ム増殖(シアン非感受性パルミトイルCoA酸化酵素活性の亢進) がわずかに認められ、両種において腎のカタラーゼ活性は影響を受けなかった。試験実施 者らは、ペルオキシソームの増殖は、トリクロロ酢酸を比較的効率的に産生するマウスに おいてさえ、テトラクロロエテン腎毒性の大きな原因にはならないと結論した(Odum et al., 1988)。

最高5500 mg/m3までのテトラクロロエテンを1日6時間、28日間暴露した雌雄F344 ラ ットで、腎臓の形態、α2u-グロブリン濃度、腎毒性の血漿および尿中の生化学的マーカー に変化はみられなかった(Green, 1997)。2800または6900 mg/m3で28日間吸入暴露した 雄F344ラット(雄ラットおける腎腫瘍誘発機序の調査において)は、高濃度では近位尿細管

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の P2 セグメント内に小滴状タンパク質沈着を示したが、2800 mg/m3では示さなかった (Green et al., 1990)。

8.2.1.5 他の影響

副腎ホルモン(皮質および髄質ともに)のわずかな増加(統計的に有意とはいえない)が、

1500 mg/m3で1日1時間、週6日、15日間暴露したウサギでみられた(Mazza & Brancaccio, 1971)。

260 mg/m3に30日間連続暴露したマウスで、血漿中ブチリルコリンエステラーゼがおよ

そ2倍になった。60 mg/m3では影響はみられなかった(Kjellstrand et al., 1984)。同研究者 らによる第 2 の試験では、この影響が肝毒性によるものか、内分泌に原因があるのかが詳 しく調べられた。マウスを1000 mg/m3に1ヵ月間連続暴露した。精巣摘出およびテストス テロン投与の影響も調べられた。その結果、ブチリルコリンエステラーゼ活性への影響は、

テストステロン濃度や肝毒性とは直接関係していないことが認められた(Kjellstrand et al., 1985b)。変性ブチリルコリンエステラーゼ活性の有意性がはっきりしないのは、この酵素 の生化学的/生物学的役割の大部分がわかっていないからである。ブチリルコリンエステ ラーゼ活性と血漿中アセチルコリンエステラーゼ活性との相関性は低い(de Raat, 2003)。

いくつかの血液パラメータに及ぼすテトラクロロエテン反復暴露(930 mg/m3を1日6時 間、週5日、最高7.5週間まで、あるいは1900 mg/m3を11.5週間まで暴露し、続いて3 週間の非暴露期間を設ける)の影響が、マウスで調べられている。末梢血では、リンパ球・

単球・好中球数の減少が観察されたが、非暴露期間では完全に元通りになった。暴露期間 中・後の網状赤血球増加は、赤血球系の代償反応を指摘していた。骨髄の多能性幹細胞へ の影響はみられなかった。赤血球系細胞数は抑制され、顆粒球系細胞の障害がわずかに認 められた(Seidel et al., 1992)。

ドキュメント内 68. Tetrachloroethene テトラクロロエテン (ページ 50-55)

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