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「 台湾野菜」から特徴づけられる日本の食文化

第一節 「台湾野菜」 を受け入れなかった理由と日本の食文化

「台湾野菜」 をなぜ受け入れてこなかったかを推論し、そこから見えてくる日本の食文 化の特徴を考えてみる。

① 山 菜 か ら 始 ま っ た 日 本 の伝 統的 調 理 法 に 合わ な い 「台湾野菜」 は 受 け 入 れ な か っ た (日 本 の 食 文 化 :「伝統的な野菜の調理法は限られたもので、 いずれも油をほとんど使用しな い。」)

野菜はすべて自生しているものを栽培に移して作った作物である。 前述したように日本 に自生しているもの、つまり山菜は変異性が低いため、品種の分化や改良がすすまず、現 在日本で食べられている多くの野菜は渡来した外来野菜である。

外来野菜が導入される前に、生理的に必要不可欠な野菜を摂取するために、 日本人は自 生していて食べられる山菜をすべて食料として利用していたと考えられる。 また、 日本の 場合は食生活が仏教から受ける影響が大きかったので、 これらの山菜は和え物やお浸し、

煮 物 、そして漬物や汁物などのような油の使わない調理法で食されるようになった。 山菜 はこういう食べ方で長年続けられ、 日本の食文化としてしっかりと定着されていた。 その 後 、 日本に渡来した野菜が受け入れられるかどうかは、その基準の一つとしてはこの食べ 方で決めたのではないかと推測している。 つまり、導入された野菜は山菜と同じような調 理法で作って食べられれば、その野菜を受け入れることにし栽培利用するが、そうでなか ったら、食わず嫌いで、最初からその姿が消されてしまうのではないかとの推測である。

日本は明治時代に積極的に世界中の野菜を網羅し日本に導入していた。 しかし、その中 の多くの野菜が、 「台湾野菜」の中のカイランやヨウサイなどはその例になるが、普及でき なかった。 それは食べ方、例えば炒め物という調理法に対する食わず嫌いという理由もあ ったのではないかと推測している。 そして、 「台湾野菜」 の中でも日本在来のものであるノ カンゾウとマコモは、いずれも山菜として利用されている(pp.46〜4 8参 照 )。 現在も山菜 が盛んに食べているところでは食べ続けられている。 他 に 、 ヒユナやハヤトウリはほとん ど栽培されず野生化になってしまったが、調べによると、 ヒユナは昭和初期には山菜とし てお浸しや和え物などで利用されていた(p .4 2参 照 )。ハヤトウリも現在は限られた地域で あるが、その果実は主に漬物で食されている(p .4 1参照)。 こ の よ う に 「台湾野菜」の中に は、 山菜として利用できれば、または食べ方は典型的な油の使わない調理法であれば、そ のまま利用し続けられている。 したがって、 日本の野菜は山菜から始まり、 山菜の食べ方 はその後の外来野菜の取捨選択に大きな決め手になっている。 同じ食べ方で食べられれば 存続し、そうでなかったら消失するのではないかと推測している。

以上から見えてくる日本の食文化を改めて整理すると次のようになる。

日本では、野菜が広く食べられてきたが、その調理法は固定されており、和 え 物 •お 浸 し•煮 物•漬 け 物• 汁物であった。 一方、天ぷらを除いて油を使う野菜の調理法は普及せ ず 、炒め物が一般化したのはつい最近のことである。

新しい野 菜 も 、つい最近までは油を使わない和え物やお浸し等の伝統的調理法に合わな い限り利用されなかったと推測できる。

②料理用の食材以外の利用法があるものを食さない傾向がある。 (日 本 の 食 文 化 :「多用途 の利用をせず、へチマやニガウリは限られた地域でしか食用としなかった。 またユウガオ はカンピヨウの原料に限られる地域が多かった。J)

1 1種 類 の 「台湾野菜」のなかには日本では食用以外の用途に用いられている。へチマ、

ユウガ オ 、ニ ガ ウリ、ノカンゾウ、マコモはその例である。へチマは、沖縄や南九州の地 域なら食用にもするが、他の地域ではほとんどスポンジの代わりに利用するだけであった。

台湾のように食用にもするし、スポンジとしても利用するような多用途の利用法を日本で はしないようである。 また、ユウガオは日本では器にすることもあったが、食用としては 産地だけはそのままウリとしても食するが、 ほとんどの地域ではユウガオから作った力ン ピヨウの利用しかないと言ってもい いほど、ユ ウガオの栽培はカンピヨウ作りのためであ る。 そして、奇妙な形をする果実を結ぶニガウリは、 日本ではヨーロッパと同じように観 賞用にしていた。 近年になってようやく広範囲で食べられるようになったが、それまでに は沖縄など南の地方以外ではほとんど食べられていなかった。 ノカンゾウはユリ科の植物 であり、綺麗な花を咲かせるため、ニガウリと同じく観賞用にされている。 山菜を盛んに 食べているところでは食用にすることもあるが、普通は食用できることさえ知らないので ある。 マコ モはその茎葉がお盆や七夕の行事に使用されるござや敷物などを作る材料とし て使われている。 現在も東北や関東地方などでは同じように利用されている。 マコモの芽 を山菜として食べているところはごく一部の地域に限られている。

このように、 日本では食べられる野菜であっても、その野菜が料理用の食材以外の用途 に利用されてしまうと、その野菜はもう野菜として重要視されない傾向があるように思わ れる。 こういうものに対し、一点張りにしか利用しない考えは、その野菜が日本で普及し ない理由になるのではないかと推測している。

以上から見えてくる日本の食文化を改めて整理すると次のようになる。

日本の場合は、食用の野菜であっても、その野菜が一旦食用以外の用途にされると、野 菜としてもう重要視されないという傾向があるように見える。

③野菜は一部の利用が広まると、他の部位を利用しなくなる傾向が強い(日本の食文化:「野 菜はたとえ利用できても、 とことんの利用法をしない。 ハヤトウリは果実だけを食し、新 芽と若葉を食しない。」)

トウガンを例にすれば、熱帯地方の国々ではトウガンの果実だけでなく、その若い葉や 蕾も食用にされ、また種子も生薬として利用する。ハヤトウリも果実をもちろん食べるし、

その新芽と若葉も野菜として食べる。熱帯地方なら、多年生になるので、その塊根もデン プン質が多く利用されている。

しかし、 日本ではこういう利用できれば隅から隅までとことんの利用法をしないところ

もあるように思われる。 カイランが普及しない理由もこれで説明できるのではないかと思 う。 つ ま り 、 キャベツの仲間であるカイランは葉っぱを食べるだけではなく、その太い茎 から伸びた、いわばとうの立った花茎も食べる。この葉っぱの間から飛び出ている花茎は、

日本の場合からみれば大根やハクサイのとうの立った花茎と思われ、吉田氏が言ったよう に と う が 立 っ た 花 茎 を 食 べ な い (p . 4 2参照) ことにしただろう。 もう一つ、 日本人にもよ く知られているハスを例 にすることにしよう。 中国でも台湾でもハスはレンコンだけでな く、ハスの実も食材として美味しく食べている。葉っぱは物を包んだり料理なら材料を包 んで蒸したりするなど包装材として使われている。 しかし、 日本の場合は、ハスはただレ ンコンを食するだけであって、 中国や台湾のような利用できる部分をすべて利用するよう な利用法をしないようである。

以上から見えてくる日本の食文化を改めて整理すると次のようになる。

日本の場合は、野菜はほとんどその野菜の一部分しか利用しないように見える。 よその 国のような利用できれば、すべて利用するようなとことんの利用法をしないようである。

④ 昔 か ら 食 べ ら れ て い た 「台湾野菜」が時代に合わなくなり、伝統的調理法も好まれなく なったから、食 さ れ な く な っ て い る (日本の食文化:「このニ、三十年間に、西欧化がすす み 、食嗜好が大きく変化し伝統的な調理法が好まれなくなってきている。」)

サツマイモのつるは昔から食べていた野菜である。 特に戦時中や戦後の食糧難の時期に は欠かせない食料であった。 ところが、時代とともに食べ物が豊かになり、食糧難の時期 に利用していた食料まで利用しなくでもいいと思うようになり、 またその味も今一つであ るので、サツマイモのつる’ を食べなくなり姿が消えてしまったのではないかと推測してい る。 ところが、 サツマイモのつるには優れた栄養成分が含まれているため、台湾では健康 野菜として見直されている。 日本でも現在は茎の皮を剥かなくていい、もっと味の良くて 食べやすい新品種が開発されている。しかし、こういう改良された新しい野菜は、一部の 地域に限って利用されているだけである。 まだ全国普及するまでには至っていなレヽ。

トウガンは本論文の調査結果から、昭和初期には日本全国の各地でよく食べられていた。

現在の少人数の家族構成では、大きなトウガンは食べ切れない欠点があると考えられる。

また、農業従事者の高齢化につれて、重労働の必要とする重量の重い野菜は少なったこと もある。 そして、淡白な味がするトウガンに対し、西洋料理を食べ慣れてきた日本人は嫌 い な 野 菜 に な っ て い る (p .1 4参照)。 しかし、 トウガンは体温を下げる働きがあり、夏場の 健康野菜であるので、小型のミニトウガンが開発されてよかったが、 これ以外にもっと食 ベて もらうために、従来のレシピと異なった濃い味、 かつ作りやすいレシピも必要がある

と思う。

ハヤトウリは短日性植物である。秋になれば果実が収穫できるが、果実を多産するハヤ トウリは一株で何百個の果実も結ぶので、 とても少人数の家族では自家消費では無理であ ったし、 また収穫期が短すぎ、量がいっぺん多くあるため、捌き切れなかったし、売るに も安値しか売れなかったので、ハヤトウリを栽培する気にならなくなり、野生化になって

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