第 3 章 実験 31
3.2 可視光分光方法
3.2.1 ビームライン
ECRISで生成された多価Erイオンを15 - 20 kVの電位差で引き出し,分析用電磁石に
よって価数選別した後,切り替え用電磁石によって測定ビームラインへ導く.従来のビーム ラインを図3.2.1に,衝突チェンバー内に設置された衝突セル及び, 周辺レンズ系を図3.2.2 示す.
静電型イオン分析器へ
図3.2.1 電荷交換断面積測定用ビームライン
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図3.2.2 衝突セル及び, 周辺レンズ系
表3.2 衝突セル部及び,レンズ系の各種名称と中心径
番号 名称 径
⃝1 ,⃝2 コリメータ ϕ2
⃝3 ,⃝4 レンズ ϕ6
⃝5 衝突セル 入口ϕ3,出口ϕ4
⃝6 ガス導入 1/4インチパイプ
⃝7 ガス圧測定 1/4インチパイプ
⃝8 , ⃝9 , ⃝10 , ⃝11 グラウンド ϕ6
衝突チェンバーに入射した多価イオンは,まずϕ2の2枚のコリメータで,平行成分のみ 抽出する.コリメータを抜けたイオンビームは,2枚のレンズを用いて,入り口径がϕ3,全
長100 mmの衝突セルにうまく入るように電圧を調節する.衝突セル内に満たされたター
ゲットガスとの電荷交換反応によって放出された可視光は, 集光レンズ系方向に空けられた 径ϕ2の発光観測穴を通り, 集光レンズによって集光され, 入口径ϕ1の光ファイバーへと導 入される,光ファイバーを通過した可視光はCzerny-Turner型分光器によって分光される. 本研究では, より発光強度を高めたEr分光測定を行うため, 入口径がϕ8, 全長80 mm, ϕ10 の発光観測穴の衝突セルの設計を行った. 衝突セルの下方から出ているパイプの一方から は,ターゲットガスを導入する.典型的なターゲットガスの圧力は3×10−3−1×10−2 Pa 程度としたが,これはイオンビームの平均自由行程が衝突セルよりも十分に長い単一衝突条 件を満たすようにした.もう一方のパイプにはキャパシタンスマノメータ(バラトロン)が 接続されており,圧力の絶対値を測定することが可能である.これにより,反応断面積の絶 対値を測定することが可能となった.
3.2.2 衝突セル部
切り替え用磁石によって可視光分光用ビームラインへ導かれたErイオンビームは, 衝突 チェンバー内に設置された衝突セルに入射する.従来の衝突セル及び, 周辺レンズ系は入射 イオンビームをϕ2の2枚のコリメータを抜け, 入口径がϕ3の衝突セルに導入される.そし て電荷交換反応によって放出された可視光は, 集光レンズ系方向に空けられた径ϕ2の発光 観測穴を通り, 集光レンズによって集光され, 入口径ϕ1の光ファイバーへと導入される,光 ファイバーを通過した可視光はCzerny-Turner 型分光器によって分光される. 衝突セル及 び, 衝突チェンバーの概略図を図3.2.3及び,図3.2.4に, 詳細な部品図を付録Aに記載する.
図3.2.3 衝突セル及び,衝突チェンバーの概略図(上)
図3.2.4 衝突セル及び,衝突チェンバーの概略図(横)
図3.2.5 衝突セル及び,衝突チェンバーの写真(下流側)
3.2.3 イオン電流の検出
本装置において最下流のファラデーカップに流れるイオン電流の大きさはnAオーダーで ある. 電流を電圧信号に変換し, 1MΩの抵抗を介してデジタルマルチメータで読み取った値 をPCへ転送, Labviewで単位時間当たりの平均電圧をリアルタイムでモニターする. オー ムの法則に従って, 1 nAのイオン電流は1 mVの直流電圧に対応する. 使用したデジタルマ ルチメータはIWATSU製のVOAC7521Aである. この製品では, 0.001 mVまで表示が可
能なので, 0.001 nA程度のイオン電流の測定が可能である. 実験前にはイオン電流がない状
態の直流電圧値も測定し, オフセットとして用いた.
第 4 章
結果および考察
本章では, 衝突エネルギー15 - 20 keV/uでEr多価イオンと標的中性ガスArおよびN2
を衝突させた分光測定結果についての結果を示す.
4.1 Er 多価イオン電荷交換分光
Er4+-Ar, N2 およびEr5+-Ar, N2 の4 つの衝突系において, いずれも場合も 442, 500,
568 nmにErからのものと思われる発光を観測した.これは4価イオンの一電子捕獲および
5価イオンの二電子捕獲によって生成した3価のErイオンからの発光と考えることができ る.また, Er5+-Ar, N2 の場合でのみ観測された454, 546, 611 nmの発光は, 5 価イオンの 一電子捕獲によって生成した4価のErイオンからの発光と考えることができる.285 - 875 nmの波長領域で測定を行い, イオンビーム強度は4価のErイオンの場合5 - 20 nA, 5価 のErイオンの場合10 - 100 nmであった.Erと思われる発光が観測されたのは以上の4つ の波長のみだが, イオンビーム調整によってより強いビーム強度で測定をすることで, 新た な発光を観測することができる可能性がある.また, 測定したすべての波長領域のスペクト ルは付録Bに記載する.
4.1.1 発光スペクトル
Er4+
図4.1.1 Er4+ - Ar, N2の発光スペクトル(435 - 465 nm)
波長領域435 - 465 nmのEr4+ - Ar/N2の発光スペクトルにおいて440, 442, 446 nmに 発光が観測され, Erからのものと考えられる.
図4.1.2 Er4+ - Ar, N2の発光スペクトル(490 - 520 nm)
波長領域490 - 465 nmのEr4+ - N2の発光スペクトルにおいて500 nmに発光が観測さ れた.
図4.1.3 Er4+ - Ar, N2の発光スペクトル(550 - 580 nm)
波長領域550 - 580 nmのEr4+ - N2の発光スペクトルにおいて611 nmに発光が観測さ れた.
Er5+
図4.1.4 Er5+ - Ar, N2の発光スペクトル(435 - 465 nm)
波長領域435 - 465 nmのEr5+ - Ar/N2 の発光スペクトルにおいて454 nmに発光が観 測され, Erからのものとかんがえられる.
図4.1.5 Er5+ - Ar, N2の発光スペクトル(490 - 520 nm)
波長領域490 - 520 nmのEr5+ - Ar/N2 の発光スペクトルにおいて500 nmに発光が観 測され, Erからのものとかんがえられる.
図4.1.6 Er5+ - Ar, N2の発光スペクトル(520 - 550 nm)
波長領域520 - 550 nmのEr5+ - Ar/N2 の発光スペクトルにおいて546 nmに発光が観 測され, Erからのものとかんがえられる.
図4.1.7 Er5+ - Ar, N2の発光スペクトル(550 - 580 nm)
波長領域550 - 580 nmのEr5+ - Ar/N2 の発光スペクトルにおいて568 nmに発光が観 測され, Erからのものとかんがえられる.
図4.1.8 Er5+ - Ar, N2の発光スペクトル(605 - 635 nm)
波長領域605 - 635 nmのEr5+ - Ar/N2 の発光スペクトルにおいて611 nmに発光が観 測され, Erからのものとかんがえられる.
Er4+ & Er5+
図4.1.9 Er4+/Er5+ - Ar/N2の発光スペクトル(435 - 465 nm)
図4.1.10 Er4+/Er5+ - Ar/N2の発光スペクトル(490 - 520 nm)
図4.1.11 Er4+/Er5+ - Ar/N2の発光スペクトル(520 - 550 nm)
図4.1.12 Er4+/Er5+ - Ar/N2の発光スペクトル(550 - 580 nm)
図4.1.13 Er4+/Er5+ - Ar/N2の発光スペクトル(605 - 635 nm)
442 nm, 500 nm, 568 nmの発光は, Er4+, Er5+ のいずれの場合でも観測された.また, 400, 446 nm, 454 nm の発光はEr4+, 454 nm, 546, 611 nmの発光はEr5+ でのみ観測さ れた.
表4.1 Er4+/Er5+ - Ar/N2のピーク波長 発光イオン 波長 [nm]
ErIV 440
442 446 500 568
ErV 454
546 611
4.1.2 Er
3+の微細構造間遷移
4価および 5 価のEr イオンの基底電子配置は4f10 および4f9 であるから, 電子捕獲に よって生成した3価イオンの電子配置は4f11 と考えられる.これらの開殻電子配置には多数 の微細構造準位が存在しているため, 現状遷移の同定が非常に困難であり, それらの理論計 算も存在しない.しかし, Er3+ のエネルギー準位に関する理論計算[39]から, 可能性として 4f11および4f106s電子配置の微細構造遷移の推定を行った.その遷移を以下に示す.
表4.2 Er3+の微細構造遷移の推定 実験値[nm] 理論値[nm] 遷移
446 447.38 2G2 → 2H2
500 499.50 2F2 → 2D1
568 567.72 4G → 4I
568 569.56 4D → 4F
第 5 章
まとめと今後
入射イオンEr4+, Er5+ を中性ガスAr, N2 と衝突させ, 紫外-可視光領域において電荷交 換分光を行った. 4価および5 価のErイオンとAr, N2 を衝突させたとき, いずれも442 nm, 500 nm, 568 nmにErからと思われる発光スペクトルが観測された. 低価数イオンの 電荷移行反応では二電子捕獲が支配的になる場合もあることから, これは4価イオンの一電 子捕獲および5価イオンの二電子捕獲によって生成した3価のErイオンからの発光と考え ることができる. また5価の場合でのみ454 nm, 611 nmにも発光が観測されたが, これら は5価イオンの一電子捕獲によって生成した4価のErイオンからの発光と考えることがで きる.しかし, Er3+ は最外殻4f軌道に11個の電子が配置し, 基底電子配置が364個存在し, 電子状態が非常に複雑であるため, 遷移の同定が困難である. 現在3価のEr イオンに関す る理論値が存在しないため, 今回の実験結果を用いて理論計算を行い, 遷移の同定をしてい く必要がある.また, 4価の場合でのみ観測された446 nmの発光は, 標的ガスをHe にして 測定し, 3 価のErイオンの分光測定を行い, 発光スペクトルを比較することで, 一電子捕獲 による3価のErイオンからの発光であるのか, 二電子捕獲による2価のErイオンからの発 光であるのか発光価数を特定することができる.
より発光強度の高い測定を行うため, 衝突セルおよび衝突チェンバーの設計を行い, 従来 のセットアップと比較して約 10倍の発光収量を得ることができるようになったことから, 衝突領域, 集光機構の改良といえる.しかし, 光軸の調整や集光レンズの位置決定が不十分な ため, これらを改善することで, さらに発光収量を増加させることができるだろう.
付録 A
衝突セル , 衝突チェンバー - 部品図
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付録 B
スペクトル
参考文献
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