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古代庭 園の植生復原

ドキュメント内 1  遺構変遷 (ページ 55-63)

甕 A    9   155

7  古代庭 園の植生復原

庭 園 に植 栽 され る植物 は、景観 を整 え る衣裳 であ り、石 、水 とともに庭 園 を構 成 す る重 要 な 要素 であ る。

余 良時代 の宮廷 人が いか に 自然 を尊 び、愛 してい たか は、 わが 国の古代 文学 の 中で詠 まれ た 多 くの詩歌 か らうかが うこ とが で きる。

当時の庭園には、松、梅、桃、李、桜、柳、椿、蝦手、萩、馬酔木などが好んで植栽 されて いたようである。これらの樹木は、形態美、色彩美等の点で人々の嗜好に合致 したものの中か ら選ばれ、植栽 されたのであろう。はたしてこれらの樹種が実際に植栽 されていたのかどうか

1)

を実証することは、鳥羽離宮跡の庭園遺構 の発掘例 の ように、根株等の遺存体が出土 しないか ぎりはむずか しい。

平城宮内には、南苑、西池宮、松林苑、城北苑、楊梅宮、内嶋院などの宮苑があ り、 また長 屋王、藤原宇合などの貴族の邸宅 にも庭園のあったことは文献史料か ら知ることがで きる。

近年、奈良時代の庭園遺跡が相次いで発掘 されて きたが、なかで も東院庭園 (宮跡内)、 北宮 庭園 (平城京左京三条二坊六坪

)は

、遺存状態が よく、園池の地割、水深、汀線の勾配、池の築 造方法、庭石 の石質等 を知 る上で きわめて貴重 な遺跡である。その上、東院庭 園 (平城宮跡第 99次発掘調査

)の

発掘では、地中の堆積土か ら多量の枝類 と少量の種子や棄 などの遺存体が出 土 した。 これ らの遺存体 は、出土状況か ら判断 して、この庭園が存続 していた時 に植栽 されて いた可能性の高い植物遺存体であ り、これ らの樹種名が判明すれば、廃絶する直前の庭園の植 生復原 を試みる上で格好の資料 とな りうる。

これ らの大形植物遺存体の樹種名 を明 らかにする方法 としては、木材組織の解剖学的識別に よる樹種鑑定法がある。 この方法 は、木材の木口面、柾 目面、板 日面の

3断

面の超薄片 を作製 し、生物用顕微鏡 によつて、各断面の木材組織 を観察 し、樹種 を決定 してい く方法である。

本稿では、平城宮跡第99次 発掘調査で出土 した大形植物遺存体 について樹種鑑定法 を適用 し、

2)

先 に行 われた花粉分析結果、種子 ・葉の鑑定結果 とを比較検討 し、東院庭園の植生復原 を試み ることとする。

大 形 植 物 遺 存 外 の 出 土 層 位

園池の土層 は

4層

か らなる (Fig 80)。 まず上か ら、第

1層

は、現在の水 田耕作土である。第

2層

は、耕作土直下の床土 とよばれている土層で、灰褐色砂質土か らなる。その厚 さは20cm程 度である。第

3層

は、暗灰色粘質土で厚 さが約1 5cmある。最下層の第

4層

は、上層園池の礫敷 の直上 にあ り、厚 さは10cm程 度の泥炭化 した黒褐色砂質土層である。多量の大形植物遺存体は、

この土層か ら出土 した。同様 に、アシ・ヒシ・マツモ等の池沼性植物の遺存体 もこの層か ら出 土 した。

出土植物遺存体の多 くは、大小の枝類が主である。 これ らは、総数300点 以上 にものぼった。

それ らは、長年堆横土中に埋 れていたために、

 

トウフ状 に柔 らか く変質 したものが多 く、顕微 鏡で木材組織 を観察する際に現生の木材組織 と同 じ特徴がすべて確認で きるとは限 らず、 しば

東 院 庭 園 、 北 宮 庭 園

物 体

恥 存

大 遺

209

V章  

 

W

木 材 組 織

耕±

 2 

床±

 3 

暗灰色粘質±

 4 5 

上層園池礫敷

 6 

黒褐色砂質±

 7 9 

黒褐色粘質±

 10 

下層園池石敷 ll

黒褐色砂質土

青白色粘±

 8 

黒褐色土 灰色砂土 (地山)

ng.80 

園池 堆 積 土 層 図

しば困難 を生 じた。顕微鏡用 の切片標本 は、

PEG含

浸処理 済みの出土植物遺存体 か ら

5剛

角程 度 の ブ ロ ックを採取 し、 これ を滑走式 ミクロ トームで、木 口・柾 目・板 目の

3断

面 の超 薄片 を 作 り、 プ レパ ラー トに仕 上 げ た。 また、 ミクロ トームを使用 しない場合 には、 カ ミソ リ刃 を用 い て切片 を作製 した。鑑定 にあた っては、以下 の項 目に留意 しなが ら、最終 的 には手元 にある 現生木 の対照標 本 と照合 し、樹種名の決定 を行 なった。

針棄樹

 

木 口面 :春材 か ら夏材 にか けての移行 の度合 、垂 直 ・水平樹脂道 の有無、傷害樹 脂道 の有無、樹脂細胞 の有無 お よび分布状態 、エ ピセ リウム細胞 の有無 な ど。柾 目面 :仮道管壁 の 有縁 膜孔 の配列 具合 、 内壁 の螺旋肥厚 の有無、春材部 にお ける分野膜孔 の形 と数、放射仮道管 の有無 、放射仮 道管 内壁 の螺旋肥厚 の有無、放射仮 道管 の膜壁 にあ らわれる鋸歯状 の突起 の有 無 な ど。板 目面:放射組織 の高 さ、樹脂細胞 の上下膜 の結節状 の状態、水平樹脂道の有無 な ど。

広葉樹

 

木 口面 :道管 の配列 が環孔材 ・散孔材 ・放射孔材 ・紋様孔材 か どうか、春材 か ら夏材 へ の移行 の様子 、孔 圏外 の道管 の配列 、管孔 の形 と状態 、放射組織 の幅、柔細胞の分布 の様子 な ど。柾 目面 :道管 の穿孔 の形 、螺旋肥厚 の有無、道管壁 の膜孔 の形佼互状 、対列状、階段状 、 放射組織 の構 成 が 同性 か異性 か、結 晶細胞 の有無、柔細胞 の性状 、繊維細胞 の性状 な ど。板 目 面:放射 組織 の細胞 数 とその高 さ、放射組織 の形 とその分布状態 、分泌細胞 の有無 、柔細胞 の 分布状態 や層階状配列 の有無 な ど。

結 果 お よ び 考 察 i樹種鑑 定上 の解剖学的拠点

鑑 定総 数 は

311点

であ る (Fig 81〜84)。 木材組織 の劣化 が著 しく、識別が困難 な もの につい て は、最 も可能性 の高い樹種 名 をあげて、

 ?を

付 し、全 く識 別 で きない物 は不 明 と した。判 明 した樹種 は、針 葉樹 で はマ ツ属

186点

、 ヒノキ45点の

2種

で あ り、大 半 を占め る。広棄樹 は、

ツツジ属11点、 シキ ミ11点、ヤ ナギ属

9点

、 ア カガ シ亜属

8点

、 セ ンダ ン

6点

、 スモ モ亜属 5 点 、サ カキ

3点

、 モモ

3点

、 ツバ キ

3点

、 グ ミ属

?3点

、 リ ョウブ

3点

、サ クラ亜属

2点

、 シ

ャシ ャソポ

2点

、 ス ダジイ

1点

、 カキ ノキ

1点

、 ネム ノキ

1点

、 クマ シデ属

1点

、 イボ タノキ 属

?1点

の18種である。

以下 にこれ らの解剖学的性 質 を記す。

マ ツ属 (Prntts Linn―

Diploxylon)マ

ツ科

 

構 成要素 は、仮 道管 、放射柔細胞 、放射仮 道管 お よび垂 直 ・水平両樹脂道 とこれ を と りか こむエ ピセ リウム細胞 の

5種

類 で あ る。春材 か ら夏 解 剖 学 的

  

JH

G JF

E

D

C JB

A KS

KO KN KM KL

Fig.8ユ

 

針葉樹出上位置図

材 へ の移行部 ない し夏材部 にか けて正常垂 直樹脂道が見 られ る。放射組織 の中央部 には、水平 樹 脂 道 をか こんでい るエ ピセ リウム細胞 が あ る。放射組織 の分野膜孔 は、窓状 であ る。 また、

放 射仮 道管 の膜 に二葉松 の特徴 で あ る鋸 歯状 の突起 が見 える。放射組織 は単列 で、 い くつかの 水平樹 脂道 を含 んだ紡錘形 の放射組織 が見 られる。以上 の特徴 か らマ ツ属 (二葉松)と鑑 定 した。

木材組織 の上 で は、 アカマ ツか クロマ ツかの判別 は困難 であ るが、同 じ堆積 層 か らア カマ ツの 球果 が多数 出土 した こ とは、 ア カマ ツの枝類 である可能性が きわめて高 い。

ヒノキ (cねamaθcttaFersο/229 0btusa Endl)ヒ ノキ科

 

構 成要素 は、仮 道管 、村 脂細 胞 お よび放 射柔細胞 の

3種

類 であ る。春材 か ら夏材へ の移行 はゆ るやかで、夏材部 の幅 も狭 い。主 に夏材 部 を形 成 す る仮 道管 に混 つて、樹 脂様物 質 を含 んだ樹 脂細胞 が点 々 と点在 してい る。柾 目面 で は、樹脂細胞 が夏材部仮道管 の 中 に黒 い内容物 を持 った状態 で見 られ る。分野膜孔 は典型 的 な ヒノキ型 である。放射組織 は大体単列 で あ り、夏材部 の仮道管内 に短冊型 の樹 脂細胞 が見 られ る。以上 の特徴 か ら、 ヒノキ と鑑定 した。

スモモ亜属 (Subgen Prunus)バ ラ科

 

環子し材 で、子し圏部道管 の環孔配列細胞層 は

2〜 3で

あ る。

孔 圏外 の道管 の配列 は散点状 で、 なか には斜状又 は放射状 に散在 してい る。道管 の移行 はやや 急 で あ る。複合道管 の数 は

2〜 3で

あ る場合 が多 い。タト傷垂直 ゴム溝 が存在 してい る。木繊維 は層 階状 の配列 をす る傾 向が あ る。放射組織 の形 は、多列 の ものが多 く紡錘 状 を呈 してい る。

放射組織 の幅 は 1〜

7で

あ る。放射組織 は異性 である。

以上 の特徴 か ら、スモモ亜属 と鑑定 した。枝 の特徴 か らみて も、 ウメの可能性 が高 い。

モモ (乃Шvs Persゴca Batsch.)バ ラ科

 

環子L材 で年輪界 は明瞭である。道管の移行 は急 である。

R  

︹Ч   P K   K   K

 

 

 

 

V章  

 

H

G JF

E

D JC

B JA KS KR KQ KP KO KN KM KL

Fig.82 

常緑樹出上位置図

孔 圏部道管 の環孔 配列細胞層 は

3〜 6層

で 、孔 圏外 の道管 は散 点状 、 まれ に斜状又 は放射状 に 配列 して い る。道管 の大 きさは孔 圏部 にて大 で あ り、孔 圏外 にて は小 で あ る。道管数 は孔 圏部 で も多 く、孔 圏外 で も一段 とその数 を増 す。道管 中 に黒 色 の物 質 をみ た してい るこ とが多 い。

放 射組織 の形 は、単列 の もの は針状 を呈 し、多列 の もの は紡錘状 お よび連続紡錘状 を呈 してい る。放射組織 の並列細胞 数 は1〜

5で

放 射組 織 の形 は異性 であ る。以上 の特徴 か ら、モモ と鑑 定 した。

サ クラ亜属 (Snbgenoccrasus Pers.)バ ラ科

 

散孔材 で年輪 界 は明瞭であ る。道管の大 きさはお お むね小 であ るが、年輪界 に近い一層の春材 部道管 はやや大 きい。夏材 部道管 は、斜状 、散 点 状 を呈 す る。柔細胞 の配列 は、散点状 または まれ に周 囲状 でた まに結晶 を有す る柔細胞があ る。

放 射組織 は単列 の もの は針状 であ り、多列 の ものは紡錘状 を呈 す る。放 射組織 は異性 であ る。

以上 の特徴 か ら、サ クラ亜属 と鑑定 した。

ヤナ ギ属 (Sガfx Lina.)ヤ ナギ科

 

散孔材 で年輪界 は明瞭である。道管 の配列 は短斜性 または長 斜 性 の散 点状 で あ る。道管側 壁 の壁孔 の配列 はおお むね錯列状 で放射組織 は異性である。道管 壁 に條線 が存在 す る。放射組織 はすべ て単列 に してその形 はすべ て針状 である。 この ような特 徴 を有 して い る もの にヤ ナギ属 とハ コヤ ナギ属 が あ るが 、放射組織 が異性 であ る こ とか ら、 ヤ ナギ属 と鑑定 した。 この属 には、 シダレヤナギ、 カワヤ ナギ、 コ リヤナギ、 アカメヤナギ、 オ ノエ ヤナギ な どが含 まれ る。 これ らは、組織構造 が きわめて よ く似 てお り、区別す るこ とは難 しい。

ツツ ジ属 (Rねο」οJendrοねLinn.)ツツジ科 散孔材 で、道管 の配列 はおお むね均等 である。単一

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