無線LANデバイスは、厳格な受信機性能特性の対象となります。 それぞれの受信機計測では、低電力、
高電力、干渉の存在時など、様々な状況下で受信機が送信信号を復調する能力を評価します。
送信機計測と同様、無線LAN受信機計測は、802.11の複数の特定セクション(セクション16.4.8、
18.3.10、20.3.21、22.3.19)で定義されています。 表4.1で、802.11の2012レビジョンは、802.11acを 除く全ての規格に適用されます。 802.11acに適用されるのは、802.11の2013 D5レビジョンです。
計測 DSSS OFDM HT VHT
最小入力感度 16.4.8.2, 17.4.8.2 18.3.10.2 20.3.21.1 22.3.19.1 最大入力レベル 16.4.8.3, 17.4.8.3 18.3.10.5 20.3.21.4 22.3.19.4 隣接チャンネル除去 16.4.8.4, 17.4.8.4 18.3.10.3 20.3.21.2 22.3.19.2 非隣接チャンネル除去 N/A 18.3.10.4 20.3.21.3 22.3.19.3 受信チャンネル電源表示 16.4.8.6, 17.4.8.6 18.3.10.7 20.3.21.6 N/A
表4.1. 受信機計測向け802.11仕様
最小入力感度( Minimum Input Sensitivity )
最小入力感度は、受信信号強度が低い場合の受信機性能を評価するものです。 感度が優れていると、受信機 は送信機から離れた場所でも伝送を正しく復調することができます。
感度テストのセットアップ
無線LAN受信機感度のテストセットアップでは、既知電力レベルにおいて特定のデータレートで無線LAN 信号を伝送するようVSGを構成します。 また一般的なテスト構成では、計測器とDUTの間に固定アッテネ ータも使用します。
図4.1. 無線LAN感度のテストセットアップ
固定アッテネータを使用すると、計測器の出力ノイズレベルが受信機のノイズレベルに影響しません。 また、
DUTに供給される電力レベルの精度も向上します。 VSGは、一般にパワーメータで校正可能な高電力レベ ルにおいて優れた出力電力の精度が実現可能なので、固定アッテネータを使用するとより高精度の電力範囲で VSGを使用することができます。 さらにVSGと受信機の間にアッテネータを配置することで、DUTにおける インピーダンス整合性も向上します。
感度仕様(Sensitivity Specification)
無線LAN受信機の感度は、デジタルインタフェース経由でDUTによりレポート出力されるパケット誤り 率(PER、packet error rate)で指定します。 受信機規格を満たすために必要な最小PERは、DSSSでは 8%、OFDM、HT、VHTでは10%です。
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最小入力感度を厳密に定義すると、受信機が指定のPER基準を実現できる最低電力レベルとなります。
DSSSの最小要件を表4.2に示します。
DSSSタイプ PERしきい値(%) 最小感度(dBm)
DSSS 2 Mb/秒 8 -80
DSSS 11 Mb/秒 8 -76
表4.2. DSSS受信機の最小入力感度制限値
OFDMベースの技術を利用した無線LAN規格の場合、最小入力感度は変調方式、コードレート、入力帯域 幅の組み合わせによって決まります。 表4.3に示すように、最小要件はOFDM、HT、VHTのどの仕様でも ほぼ一定です。
変調方式 コード レート
最小感度
(20 MHz BW)
最小感度
(40 MHz BW)
最小感度
(80 MHz BW)
最小感度
(160 MHz BW)
BPSK ½ -82 dBm -79 dBm -76 dBm -73 dBm
BPSK1 ¾ -81 dBm N/A N/A N/A
QPSK ½ -79 dBm -76 dBm -73 dBm -70 dBm
QPSK ¾ -77 dBm -74 dBm -71 dBm -68 dBm
16-QAM ½ -74 dBm -71 dBm -68 dBm -65 dBm
16-QAM ¾ -70 dBm -67 dBm -64 dBm -61 dBm
64-QAM 2/3 -66 dBm -63 dBm -60 dBm -57 dBm
64-QAM ¾ -65 dBm -62 dBm -59 dBm -56 dBm
64-QAM2 5/6 -64 dBm -61 dBm -58 dBm -55 dBm
256-QAM3 ¾ -59 dBm -56 dBm -53 dBm -50 dBm
256-QAM3 5/6 -57 dBm -54 dBm -51 dBm -48 dBm
1. ¾コードレートのBPSKは、OFDM規格のみでサポートされており、HTまたはVHTではサポートされていません。
2. 5/6 コードレートの64-QAMは、HTおよびVHT規格のみでサポートされており、OFDMではサポートされていません。
3. 256-QAMはVHT規格のみでサポートされており、OFDMまたはHTではサポートされていません。
表4.3. OFDM、HT、VHTのEVMの無線LAN受信機感度
表 4.3から、変調方式の複雑さと求められる受信機感度に強力な相関関係があることがわかります。 例えば、
256-QAMのような高次変調方式の場合、受信機のSNRを高くして、BPSKなど堅牢性の高い方式と同じフ
レーム誤り率になるようにする必要があります。 Wi-Fiデバイスは、適応変調テクニック(adaptive
modulation techniques)を使用するよう設計されています。適応変調テクニックとは、SNRが低い環境では 堅牢な変調方式を用い、チャンネル環境が良好な状況では高スループットの方式を採用するものです。
最大入力レベル( Maximum Input Level )
最大入力レベルとは、受信強度が高い状況での受信機性能を評価するものです。 この計測により、受信機 が送信機の近くにある場合に、受信機が期待通りに動作することを確認できます。 そのような場合、受 信信号のSNRはかなり高くなりますが、受信信号の入力電力が高いと、受信機のフロントエンド成分が飽和 されて、信号が歪む可能性があります。
デバイス性能の最大入力レベルの計測基準は、最小入力感度の計測基準と全く同じです。
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最大入力レベルのテスト構成では、表4.4に示すように、高出力信号をDUTに供給する必要があります。
PHY PERしきい値 2.4 GHz時の電力 5 GHz時の電力
DSSS 2 Mb/秒 8 -4 N/A
DSSS 11 Mb/s 8 -10 N/A
OFDM 10 -30 -30
HT 10 -20 -30
VHT 10 N/A -30
表4.4. 受信機の最大入力レベル制限値
最大入力レベルを計測するには、受信機に供給する変調信号の電力レベルが必要な入力レベルよりわずかに 低くなるようVSGを構成します。 VSGの電力レベルを、既知電力レベルからPERしきい値に達するレベル までゆっくりと上げます。 受信機がPERしきい値(8%または10%)に到達できる最高入力電力レベルが、
受信機の最大入力レベルです。 受信機のダイナミックレンジを厳密に定義すると、最小入力感度と最大入力 レベルの差となります。
隣接チャンネル除去 (Adjacent Channel Rejection 、 ACR)
Wi-Fi製品は、実用的には無線環境で動作するよう設計されていますが、無線環境は他のWi-Fiデバイスを含
む多様な無線デバイスが共有しています。 そのため無線LAN受信機は、隣接帯域に信号強度が存在する状 況で、最小性能基準を実現することが求められます。 隣接チャンネル除去(ACR)計測は、基準チャンネル に隣接するチャンネルに比較的高電力信号が存在する状況での受信機性能を評価します。
ACR計測のテストセットアップでは、RF VSG 2つと電力結合器が必要です。 図4.2に示すように、プラ イマリVSGが無線LAN信号を生成し、それを受信機が復調します。 セカンダリVSGは、基準信号より高電 力の干渉信号を生成します。
図4.2. ACR計測のハードウェアブロック図
図4.3は、2つの無線LAN信号を同時にDUTに供給するACRのテスト構成を示しています。
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図4.3. DUTに供給される信号のスペクトル図
ACR をテストするには、PER しきい値に達するまで、干渉信号の電力レベルをゆっくりと上げま す。 主要信号と干渉信号の間の電力レベル差が、受信機のACR性能となります。
ACR の受信機PER性能基準は、DSSS、OFDM、HT、VHTいずれの規格でも最小入力感度と最大入力レベル
の基準と同じです。 DSSSのACR計測の場合、受信機のフレーム誤り率は8%に到達する必要があります。
OFDM、HT、VHT伝送では、10%のフレーム誤り率が必要です。
DSSS伝送でACRを計測する際は、基準信号を感度制限値の6 dB高い電力レベルに設定します。 この構成 では、表4.5に示すように、受信機のACRは35 dBを上回る必要があります。
伝送 入力基準 チャンネル電力
隣接チャンネル 除去
DSSS 感度 + 6 dB 35 dB
表4.5. DSSS伝送のACR要件
OFDM、HT、およびVHT規格で必須とされるACR基準は、変調方式とコードレートの組み合わせによって決
まります。 表4.6は、各方式の必要な性能基準を一覧にしたものです。
電力
干渉信号
主要信号
(基準)
周波数
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変調方式 コード レート
入力基準 チャンネル
電力
隣接チャンネル 除去(OFDM)
隣接チャンネル除去
(HT、VHT – 80+80を除く)
隣接チャンネル 除去
(VHT 80+80)
BPSK 1/2
感度 + 3 dB
28 dB 16 13 dB
BPSK1 3/4 27 dB N/A N/A
QPSK 1/2 25 dB 13 10 dB
QPSK 3/4 23 dB 11 7 dB
16-QAM 1/2 20 dB 8 5 dB
16-QAM 3/4 16 dB 4 1 dB
64-QAM 2/3 12 dB 0 -3 dB
64-QAM 3/4 11 dB -1 -4 dB
64-QAM2 5/6 N/A -2 -5 dB
256-QAM3 3/4 N/A -7 -10 dB
256-QAM3 5/6 N/A -9 -12 dB
1. 3/4コードレートのBPSKは、OFDM規格のみでサポートされており、HTまたはVHTではサポートされていません。
2. 5/6コードレートの64-QAMは、HTおよびVHT規格のみでサポートされており、OFDMではサポートされていません。
3. 256-QAMはVHT規格のみでサポートされており、OFDMまたはHTではサポートされていません。
表4.6. ACRの性能基準
表4.6を見ると、主要(復調済み)信号の正確な基準チャンネル電力は、変調方式、コードレート、信号の 帯域幅によって決まります。 さらに具体的にいうと、この電力レベルは、表4.3に示す受信機の最小入力感 度を3 dB上回ります。
非隣接チャンネル除去
非隣接チャンネル除去は、非隣接チャンネルに干渉信号を配置します。 非隣接チャンネル除去は、
OFDM、HT、VHT規格のみで指定されています。 DSSS伝送には、非隣接チャンネル除去要件はありません。
より厳密に定義すると、中央の伝送から2チャンネル帯域幅以上離れたチャンネルの除去として定義されま す。 例えば、20 MHzチャンネルの場合、非隣接チャンネルの中心周波数は、基準チャンネルの中心周波数 から少なくとも40 MHz離れています。 同様に、40 MHz伝送における非隣接チャンネルの中心周波数は、
基準チャンネルの中心周波数から少なくとも80 MHz離れています。
干渉信号の周波数は基準チャンネルにそれほど近くないため、非隣接チャンネル除去の要件はACRに比べ
14~16 dB高くなっています。 非隣接チャンネル除去に使用される主要基準信号は、基準チャンネル電力を
3 dB上回ります。 表4.7は、変調方式とコードレートの様々な組み合わせにおける具体的な非隣接チャンネ ル除去要件を示したものです。