第 7 章 内積空間 97
7.2 正規直交基と直交行列
この節でも V は内積 ( , ) を持つ R 上の有限次元 vector 空間を表すものとする. また Rn は標準内積を持つ内積空間を表すものとする.
定義7.2.1 dim(V) = n とする. {u1, · · ·, un} は V の基で (7.2.2) (ui,uj) =δij ( 1≤i, j ≤n)
を満たすとする. この様な基を 正規直交基 と称する. 実際, 7.1.8, 5.5.11, および仮定 dim(V) = n により, (7.2.2) が成り立てば,{u1, · · · , un} は基となることに注意せよ. 命題7.2.3 ( Gram-Schmidtの直交化2)) {v1,· · · ,vn} を V の基とする. このとき V の 正規直交基 {u1, · · · , un} で
⟨v1, · · · , vr⟩R=⟨u1, · · · , ur⟩R (1≤r≤n) となるものが存在する. (記号については5.5.1を見よ. )
証明 まづu1 = ||v1
1||v1 としてr = 1 の場合が成り立つ. 次に v′2 =v2−(v2,u1)u1, u2 = ||v1′
2||v′2
とおくと (u2,u1) = 0, ||u2|| = 1 となることがわかるから r = 2 のときも成り立つ. 一般に u1, · · ·, ur が所望の条件を満たすとき,
v′r+1 =vr+1−
∑r i=1
(vr+1,ui)ui, ur+1 = ||v′1
r+1||v′r+1 とおけば (ur+1,ui) = 0 (i≤i≤r) であり,ur+1 の作り方から
⟨u1,· · · , ur, ur+1⟩R =⟨u1,· · · , ur, vr+1⟩R=⟨v1, · · · ,vr, vr+1⟩R となる.
定義7.2.4 内積空間 V 上の線形変換T が, 任意の u,v ∈V に対して, 等式 (T(u), T(v)) = (u,v)
を満たすならば, T は 直交変換 と呼ばれる.
注意7.2.5 {u1, · · · , un} を内積空間 V の正規直交基とする. u = a1u1+· · ·+anun, v = b1u1+· · ·+bnun と書くとき,
(u,v) =
∑n j=1
∑n i=1
aibj(ui,uj) =a1b1+· · ·+anbn.
2) 生まれ. Erhard Schmidt (1876-1959) Estonia生まれ.
命題7.2.6 {u1, · · · , un} を内積空間 V の正規直交基とする. V の線形変換 T が直交変 換であるためには, {T(u1), · · ·, T(un)} が内積空間 V の正規直交基であることが必要十 分である.
証明 (必要性) T は直交変換だから
(T(ui), T(uj)) =δij (1≤i, j ≤n)
である. dimV =n であるから, {T(u1),· · · , T(un)} は正規直交基である.
(十分性) u, v ∈V とし, u =a1u1+· · ·+anun, v =b1u1+· · ·+bnun とすれば, 7.2.5 によ つて
(u,v) =a1b1+· · ·+anbn.
しかるにT(u) =a1T(u1) +· · ·+anT(un),T(v) =b1T(u1) +· · ·+bnT(un)でもあるから,仮 定により
(T(u), T(v)) = a1b1+· · ·+anbn= (u,v) を得,T が直交変換であることがわかる.
注意7.2.7 高校までで学ぶ 3 次元以下 Euclid 空間において, 原点を中心とする回転移動や, 原点を通る1本の直線あるいは 1枚の平面に関する対称移動, さらにそれらの合成変換は任意 の 2 点間の距離を変へない. 直交変換はそれを内積空間 (Euclid 空間の自然な一般化) へ拡張 したものに他ならない. 余談であるが,距離が定められてゐないのに,あらゆる滑らかな曲線と曲線の 交点に角度のみが定義されてゐる様な空間も存在する. その様な空間から,それ自身への角度を変へな い変換が考へられる(等角写像と呼ぶ). その例は複素函数論で学ぶであらう.
定義7.2.8 実正方行列 A が tAA=I を満たすとき A は 直交行列 であるといはれる.
問7.2.9 次の行列は直交行列であることを確かめよ.
[ cosθ −sinθ sinθ cosθ
] ,
[ 0 1 0 0 0 1
−1 0 0 ]
,
[ cosϕ −sinϕ 0 cosθsinϕ cosθcosϕ −sinθ sinθsinϕ sinθcosϕ cosθ
] .
問7.2.10 直交行列の行列式は 1 または−1 であることを示せ.
命題7.2.11 A= [a1 · · · an]∈Mat(n,R) について, 次の3 つは同値. (1) A は直交行列.
(2) {a1, · · · ,an} が Rn の正規直交基. (3) TA は直交変換.
証明 (1) ⇔(2). AtA= [(ai,aj)] であることからわかる.
(2) ⇔ (3). 7.2.6 を V =Rn, {u1, · · · , un}={e1, · · · , en}, T =TA として適用せよ.
演 習 問 題
7.2.12 R4 における 3つの vectors
−1 1 1 1
,
1 3 3
−1
,
1
−3 3 5
の生成する部分空間を W とする. この vectors を, この順序に関して Gram-Schmidt の直交 化により, 直交化し, W の直交基を求めよ.
7.2.13 R[x]2 を 7.1.4 の内積に関する内積空間とする. このとき,次の基を Gram-Schmidtの 方法で正規直交化せよ.
(1) {1, x, x2} (2) {1 +x, x+x2, 1}
7.2.14 P が直交行列であれば P−1 も直交行列であることを示せ.
7.2.15 2 つの直交行列の積もまた直交行列であることを示せ.
7.2.16 T を V の線形変換とする. T が直交変換であるためには ∥T(u)∥= ∥u∥ が全ての u∈V について成り立つことが必要十分であることを示せ.
7.2.17 M ∈ Mat(n,C) を n 次正則行列とし, その固有値を α1, · · ·, αn とする. このとき, M−1 の固有値は α1−1, · · ·,αn−1 であることを示せ.
7.2.18 交代行列 H ∈Mat(n,R)は −1 を固有値に持たないことを示せ.
( Hint : u とAu との標準内積を利用して Au=−uならば u=0 となることを示せ. )
7.2.19 直交行列 A∈ Mat(n,R) について |A|= −1 ならば −1 は A の固有値であることを 証明せよ.
( Hint : 行列式が−1であるいくつかの直交行列の固有多項式を挙げておく:
t3−37t2−37t+ 1, t4+49t3−49t−1, t5−35t4−25t3−25t2−35t+ 1. 7.2.17も使ふ. )
7.2.20 H が成分を有理数とする交代行列のときf(H) = (I−H)(I+H)−1 は, −1を固有値 に持たず, しかも成分がすべて有理数である様な直交行列であることを示せ. さらに,f は
{H ∈Mat(n,Q)|H は交代行列} から
{T ∈Mat(n,Q)|T は |T|= 1 かつ −1を固有値に持たない直交行列}
への全単射であることを示し, これの逆の対応を求めよ. (f はCayley 変換 と呼ばれる. )