第 3 章 欠陥分布と表面モフォロジー
3.3 原子間力顕微鏡による表面粗さ評価
3.3.1 クロスハッチパターン
前述したように、ミスフィット転位の発生による歪の不均一な分布により、Si あるいは SiGeの成長レートが局所的に変化しクロスハッチパターンが発生する[6 - 13]。これは、化 学エッチング法による評価で見たように、成長中にミスフィット転位が層内で随時発生す る組成傾斜SiGe層を用いる場合には顕著になる。組成傾斜SiGe層成長当初は、s-Siとは逆 にSiGe層には圧縮ひずみが加わる。この歪はミスフィット転位の発生により転位周辺で緩 和され、成長ガス分子の吸着レートを変化させる。評価したサンプルのように緩和SiGe層 をCMPにより平坦化した場合でも、歪の分布は残りその後の成長で再度クロスハッチパタ ーンが出現してしまう。表面の凹凸はMOS-FET作製プロセスにおいて障害となるばかりで はなくチャネル移動度の低下をもたらし、また、歪の分布は素子間の性能のばらつきを誘 起する。歪分布が酸化レートに影響するという報告もある[14, 15]。現在のSi基板はオング ストロームオーダーの平坦性を維持しているが、そのために、成長後のバルク結晶から切 り出したウエハーを研削・研磨し、その際に導入されたダメージをRIE(Reactive Ion Etching) などで除去している。この処理では数10から数100µmの厚みが消費されるため、s-Siなど のエピタキシャルウエハーに適用することは困難であり、エピタキシャル層成長時点での 表面平坦性が必要とされる。
図3.10にGe濃度20%の緩和SiGe上に成長させたs-Si表面のAFM像を示す。<110>方向
に3~5µm間隔で波打つクロスハッチパターンが確認できる。
図3.10 s-Si表面AFM像 (a)平面像 (b)断面図 (c)三次元像
(a)
(c) (b)
A B
<110>
A B
5µm
1 2 3 4
0 10 20 30
Ge content (%)
S u rf a c e r o u g h n e ss ( n m ) l
図3.11 表面粗さのGe濃度依存性
0 5 10 15
500 600 700 800 900 1000 1100
Annealing Temperature ( ℃ )
S u rf ac e ro u g h n es s (n m ) e
x=0.15 x=0.20 x=0.25
図3.12 表面粗さの熱処理温度依存
0
3.3.2 Ge濃度依存性
表面粗さ(Surface Roughness)のRMS (Root Mean Square:二乗平均平方根) をGe濃度に対 してプロットしたグラフを図3.11に示す。Ge濃度の増加により、表面粗さも増加している ことが確認できる。SiGe 成長中のミスフィット転位の発生による周辺の歪緩和が成長速度 の局所的な上昇を引き起こし、表面粗さを創出すると考えられる。700℃以上での SiGe の エピタキシャル成長の際、Ge濃度の増加により成長速度が変化することが知られており[16]、
ミスフィット転位周辺とそれ以外の場所での成長速度差がGe濃度の増加につれてひろがる ことにより表面粗さのGe濃度依存性が現れると考えられる。先に述べたエッチングの際に 転位周辺部が高くなっていたのは(図 3.6)、転位周辺部は歪が緩和された状態でエネルギ ー的に安定なため、エッチングレートが遅くなっていると考えられる。過去の報告による と、組成傾斜SiGe層のGe濃度勾配(Grading Rate)が表面粗さに影響するという結果もある が、勾配が比較的緩やかな今回のサンプル(7 ~ 12 % / µm)ではGe濃度増加が速すぎて緩和 が追いつかないということは無く、濃度勾配の影響は無視できると考えられる。
s-Si層が臨界膜厚を超えミスフィット転位が発生した場合、s-Si成長中に更なる表面荒さ の増加が起こると考えられるが、Ge濃度20 %のサンプルにおける表面粗さのs-Si膜厚依存 性は確認できなかったので、これらのサンプルは臨界膜厚以内だと考えられる。
3.3.3 熱処理温度依存性
図3.12に窒素雰囲気中で1時間、温度600 - 1000℃で熱処理をほどこしたサンプルの表面 粗さの変化を示す。800℃までは徐々に増加傾向にあるが 800℃を超えると低下しているの が確認できる。また、Ge濃度依存性はどの温度でも維持されている。Sugiiらは950℃から
1000℃で s-Si 表面に歪緩和とスリップラインの出現に関連した転位が形成され表面粗さが
増加し、それ以上の温度でSiGe層からのs-Si層へのGeの拡散により歪が緩和し、表面が 安定化して表面粗さが減少すると報告している[17]。表面粗さのピークは1000℃付近にある としている。歪緩和とそれに伴うミスフィット転位の生成と運動が、表面粗さの増加を起
起き始める900℃, 1時間では、Geの拡散長は6 nm程度であり、表面に影響を与えるとは考 えにくい。また、Geの拡散が原因であればs-Si 層の厚さが薄いほど影響を受けやすくs-Si 膜厚依存性が出ると思われるが、Ge濃度20 %におけるs-Si膜厚の異なるサンプルでの実験 結果からはその影響は確認できなかった。