本論文では、Si-MOS デバイスにおけるテクノロジーブースターとして期待される歪 Si、
特に転位低減を目的とした組成傾斜SiGe層を用いた2軸性の伸張歪を印加した歪Si基板に ついて、その基本的な特性を解明することを目的として評価した。
環境負荷の少ないDashエッチャントを用いて歪Si / 緩和SiGe / 組成傾斜SiGeヘテロ構 造内の貫通転位密度の変化を捉えられることを示し、その変化が主として緩和SiGe層と歪 Si層の界面で起きていることを示した。また、組成傾斜SiGe層内では貫通転位密度の変化 はほとんど見られず、エッチング後の断面SEM観察の結果から組成傾斜SiGe層のGe濃度 の変化領域において転位が界面へ抜けることを示した。
歪Siの表面粗さはミスフィット転位による局所的な歪緩和の影響により、基板SiGe層の Ge濃度の増加と供に悪化して行き、熱処理を加えてもその依存性は維持される。熱処理温
度 800℃までは転位の影響によると思われる表面粗さの増加が確認できたが、800~1000℃
における低下の原因が、SiGe層からのGeの拡散による表面の安定化であるという意見につ いては、歪Si膜厚依存性が見られなかったことから疑問がもたれることを示した。
カソードルミネッセンス(CL)法による評価の結果、欠陥からの発光のピーク強度加速電圧 依存性を調査することにより、D1, D2 の歪Si基板内での変化を捉え、D1の起源となる転 位種が主としてSi基板側に存在することを示した。また、熱処理により1000℃で転位の大 きな変化があることを捉え、酸素関連のピークとの強度比の考察から、D1が酸素と相互作 用していることを示した。酸素雰囲気中での熱処理からもこのことを示すデータが得られ、
D1の起源となる転位種がLomer-Cottrell転位、D2がフランクの部分転位からの発光である 可能性を支持する結論が得られた。
基板へのダメージの少ない熱拡散法によるAsの歪Siへの拡散を行い、歪Si薄膜での移 動度のGe濃度依存性を初めて示した。その際、Asの拡散係数が基板SiGeのGe濃度、つ まり歪量に依存すること、緩和 SiGe 層での拡散係数と同程度の値を持つことを確認した。
よる移動度向上が不純物散乱による移動度低下の効果を上回ることが確認できた。
以上の結果を踏まえ、今後の展望について述べる。
現在、組成傾斜SiGe層を用いても歪Si表面では104cm-3オーダーの貫通転位が存在して おり、従来の無転位Si基板に比べるとその差は歴然としている。緩和SiGe層をテンプレー トとして用いる歪Siの場合、緩和 SiGe層内の転位密度を減らさない限り歪Si層への転位 の伝播は抑えられない。本研究で解明したように、SiGe 層内の界面方向へのミスフィット 転位としての“抜け”を促進するためには、組成傾斜領域が重要な役割を果たす。組成傾 斜領域内では、緩和によるミスフィット転位の発生とその後の上昇運動、その転位を緩和 中心としたミスフィット転位の発生が繰り返し行われていると考えられる。貫通転位密度 を減らすにはミスフィット転位の上昇運動を防ぐか、貫通転位を積極的にミスフィット転 位として界面へ逃がす必要がある。CLの結果からは、転位と基板中の酸素との反応を示唆 しているが、これが不動化によるものならエピタキシャル層成長中に意図的に酸素もしく は不純物を導入することにより、転位の挙動に変化を与えることが可能かもしれない。
薄膜での歪 Siの移動度測定には合金散乱の影響を完全に排除する必要性があると共に、
更なる高歪量(緩和SiGe層のGe濃度)でのデータを得るためには、臨界膜厚により膜厚 が制限されるため歪Si層への浅い接合の形成が必要になる。浅い接合形成にはイオン注入 法が今回用いた熱拡散法より有利であるが、イオン注入による結晶へのダメージの影響を 考慮しなくてはならなくなるだろう。
以上、本研究で得られた知見が今後の歪Si 基板作製において転位密度低減・移動度向上 の最適化に貢献できると考えられる。
謝辞
本研究を進めるにあたり、適切な御指導、御助言を賜りました慶應義塾大学理工学研究 科 松本 智 教授に感謝いたします。また、本論文をまとめるにあたり御助言をいただきま した、慶応義塾大学理工学研究科 太田 英二 教授、高橋 信一 准教授、斎木 敏治 准教授 に感謝いたします。
貴重な歪Siサンプルを御提供くださり、御教授、議論していただいた株式会社SUMCO 中 前 正彦 氏、二宮 正晴 氏、東芝セラミックス株式会社 泉妻 宏治 氏、仙田 剛士 氏に 感謝いたします。
カソードルミネッセンス測定装置を借用させて頂き、御指導頂いた慶應義塾大学理工学 研究科 高橋 信一 准教授と高橋研究室の諸氏に感謝いたします。
転位とカソードルミネッセンスに関する不躾な質問に快く応じてくださった独立行政法 人 物質・材料研究機構 ナノマテリアル研究所 関口 隆史 氏に感謝いたします。
測定装置類の整備と御指導いただいた三谷 智明 氏を始めとする慶應義塾大学理工学部 中央試験所の方々に感謝いたします。
学部時代に御指導頂き、本論文執筆を後押ししていただいた元学習院大学理学部物理学 科 小川 智哉 教授に感謝いたします。
学部時代から研究生活について御意見頂いた、東北大学多元物質科学研究所 津留 俊英 助教に感謝いたします。
研究遂行にあたり協力・議論していただいた、慶應義塾大学理工学研究科松本研究室の 諸氏に感謝します。
最後に、長年に亘る学生生活を理解し物心両面で支えてくれた両親に感謝します。
発表論文及び学会講演リスト
1. 本研究に関するもの
1.1 定期刊行誌掲載論文
(1) *Takamichi Sumitomo, Haruki Kita and Satoru Matsumoto
“Investigation of dislocations in composition graded and strain relaxed SiGe epitaxial layer by cathodeluminescence”, Materials Science in Semiconductor Processing, Vol. 9, 2006, pp.
794-797
(2) *Takamichi Sumitomo, Satoru Matsumoto
“Cathodeluminescence investigation of relaxed Si1-xGex layer and composition-graded SiGe layer”, Japan. J. Appl. Phys., Vol. 46, 2007, pp. 1463-1465
(3) *Takamichi Sumitomo, Satoru Matsumoto
“Diffusion of Arsenic through Strained Si /Relaxed Si1-xGex Heterostructure”, (accepted for publication in Journal of The Electrochemical Society)
1.2 国際会議発表
(1) *Takamichi Sumitomo, Haruki Kita and Satoru Matsumoto
“Investigation of dislocations in composition graded and strain relaxed SiGe epitaxial layer by cathodeluminescence”, E-MRS Spring Meeting 2006, Nice, France, May 29 - June 2, 2006
(2) Takamichi Sumitomo, *Satoru Matsumoto
“Arsenic Diffusion in strained Si/relaxed Si1-xGex and its electrical characteristics”, The 7th International Workshop on Junction Technology (IWJT2007), Kyoto, Japan, June 8-9, 2007