7.1 本研究の成果
本論⽂は,協創スケッチ法の実践を分析し,協創スケッチ法や協創の場の効果を解明し,
協創の展望について述べることを⽬的として⾏われた.
参加型デザイン(Participatory Design)[Sanders, Stappers, 2008]は,多様な⼈々の知恵の 共有と活⽤を重視し,デザイン開発⼯程の初期段階から当事者を許容し,協働による課題解 決を⽬指す考え⽅である.製品やサービスの開発の⼀員として,市⺠の参加を許容し,容易 に設計できるシステムのデザインとその理論化の研究が求められている.しかし,多様な⼈
が協創するためのデザイン⼿法の研究は,始まったばかりである.そこで本論⽂では,多様 な⼈が,習熟度や意欲の差によって萎縮せず,同じ⽬線で主体的に活動できる創造活動の実 現を⽬指し,協創スケッチ法を開発した.そして,協創スケッチ法を⽤いた様々なデザイン 実践を分析することで,協創スケッチ法によってもたらされる協創現象や協創の場への効 果を⽰してきた.
第1章では,市⺠と専⾨家との協働で社会課題の解決を指向するデザイン開発の現状の 考察と,筆者のこれまでのデザイン実践から⾒出した本研究の⽬的を述べた.
第2章では,本研究に関連する研究を概観し,本研究の社会的意義を明らかにした.関連 研究では,参加型デザイン研究,創造活動研究,協働的活動研究,ファシリテーション研究 について考察した.参加型デザインは,参加型デザインに参加する市⺠である参加者が,互 いの⽴場・考え⽅を尊重した相互学習をすることで,参加者個⼈の創造性とチームの創造性 を向上させる.その活動を形づくるヒントが,実践知を豊富に持つ参加者と,デザイナの創 造知を共有する⾏為の中にあり[岡本, 2014],互いの知の背景を探るには,表現⾏為が有効 である[e.g. 岡本, 2014; Sanders, Stappers, 2008].しかし,参加者らが主体的に協創できる
⼿法開発には⾄っていないことが明らかになった.従来の創造活動研究では,個⼈の創造性 の熟達化には,物事の多様な捉え⽅を促す拡散的思考の獲得と技法の習得,そしてそれらを 醸成させるための⼀定の時間が必要なことが明らかになった.そして,多⼈数の創造性を活 性化させる⼿法は,参加者の社会的地位や⽴場,能動性や受動性,声の⼤⼩などの特性,あ るいは⼿法の熟知度合いによって,アイデア創出や協⼒の機会損失がある.さらに,現象や 状況を伴うアイデア創出には不向きである.そのため,様々な利害や問題が絡む社会課題を 協働で解決するために利⽤する場合は,多くの⼯夫を要することが明らかになった.スケッ
せるためには,ファシリテータは,参加者と対等な⽴場で,なおかつ伴⾛者のような関わり
⽅で,中⽴的なファシリテーションをする必要があることが明らかになった.以上のことか ら,スケッチや図を介して,多様な⼈が意⾒交換することで,お互いを理解し,同じ視点に
⽴って,協創を活性化させる⼿法構築の⽬処が⽴った.そして,協創の⽣成過程とその条件,
さらに協創の場を⽀えるファシリテータの役割を解明することで,協創を活性化させる⼿
法が,参加型デザイン⼿法開発の⼀助となることが⽰された.
第3章では,多様な⼈の協創を実現する⼿法として開発した協創スケッチ法の開発経緯 や概要,そしてこれまでの実践から得た研究課題が⽰された.協創スケッチ法は,就労⽀援 事業所の障碍者による新製品開発を⽀援するため,障碍の状態や個⼈の性格に左右されず に協創できる⼿法として作り上げた.そして様々な実践でこの⼿法を⽤い,改良を加え続け てきた.これらの実践からは,スケッチを⽤いて多⼈数の考えや想いを描き合うことが,創 造活動の⾼度化につながる可能性があると分かった.スケッチを⽤いた意⾒交換によって,
意⾒交換がしやすい状況をつくる可能性,他者の意⾒を理解しやすい状況をつくる可能性,
参加者の創造活動に対する不安感を和らげる可能性である.つまり,協創スケッチ法は,障 碍者の創造活動の⽀援が考案の発端だが,市⺠の創造活動も⽀援に⽤いることができるこ とが⽰された.さらに,協創スケッチ法による協創の⽣成過程とその条件,協創を⽀えるフ ァシリテータの役割が解明するため,協創スケッチ法の実践である協創ワークショップを 質的に分析する必要があることが分かった.
第4章では,協創スケッチ法による協創の⽣成過程を解明した.スケッチを介した参加者 同⼠の関わり合いが,どのようなアイデア創出の過程を協働的に発⽣させているかを明ら かにするため,実務者であるプロデザイナと学⽣が参加した協創ワークショップを観察対 象とし,スケッチを⽤いた参加者同⼠の関わり合いによって発⽣する現象を分析した.その 結果,デザイン経験の少ない⼈でも,スケッチを⽤いた参加者同⼠の関わり合いによって,
拡散的なアイデア創出過程を協働的に実現し,平等に意⾒表明できる環境も作ることが観 察された.つまり,協創スケッチ法は,参加者らの多層的・連鎖的な意⾒の描き込みによっ て,個⼈では思いつかない多様な視点が参加者にもたらされ,参加者の解釈,類推,着想が 促進される状態を構築することが分かった.さらに,スケッチによって創造過程が可視化さ れることは,参加者全員の想いや考えを理解する⼿がかりにもなり,協創を活性化させる要 素となることが⽰された.
第5章では,協創スケッチ法による協創の認識にもたらす変化を解明した.協創スケッチ 法の経験が,デザイン経験が少ない参加者の協創の認識に,どのような変化をもたらすか を,協創ワークショップの参加者のアンケートとヒアリングの質的な分析から探った.その 結果,協創スケッチ法の「創発スケッチ」ステップで,参加者が,他者の参与によって,他 者がアイデアを発展させてくれることを期待し,他者の⼒を借りてアイデアを深める状態 が観察された.特に複数回参加経験のある参加者は,意図的に他者の参与を利⽤していた.
他者が参与しやすい状況をつくるため,描き込み量を減らし余⽩をつくるなど,⼿描きスケ
ッチの特性である粗く未完成な印象を活かしていたことが分かった.つまり,「創発スケッ チ」ステップは,参加者が他者の視点を尊重し,多視点の参与によって創造過程を学び合う 環境を構築していることが明らかになった.
第6章では,協創を⽀えるファシリテータの役割を解明した.協創ワークショップのファ シリテータである筆者⾃⾝の発⾔や⾏為に着⽬し,筆者⾃ら⼀⼈称視点[e.g. 諏訪ほか, 2010, 2015a, 2015b]で分析した.その結果,協創ワークショップで,ファシリテータである 筆者⾃⾝が参加者と関わる際の⾏動の特徴として,個々の参加者のささいな活動や発⾔が ヒントに参加者の状況を推察する「創発的な状況推察」をし,参加者の次の⾏動を予測的に 判断して⽀援⽅法を検討する「予測調整的な⽀援」をしていることが観察された.さらに,
参加者に伝える際は,全員に,要点のみ,もしくは別な事例に喩えて⽰す「ゆるい導き」を することも観察された.ファシリテータである筆者⾃⾝は,参加者の創造性を管理するので はなく,スケッチの変化と,参加者の変化に注⽬し,参加者との関わり⽅を⼯夫していた.
そして,参加者らが判断する余地を残した簡素な型とプロセス,そしてファシリテーション によって,スケッチを介した⾃発的な相互学習を参加者に促し,参加者らが⾃発的に相互学 習の状況をつくるプロセスを⽀援していた.つまり,協創ワークショップのファシリテータ の役割は,アイデア創出に関わるものではなく,多視点の参与による創造過程の学び合いを デザインする参加者らの活動に参与する存在であることが明らかになった.
以上の考察から,協創スケッチ法は,スケッチを⽤いて協創過程を外化することを⼿掛か りに,多視点の参与によって創造過程を学び合う環境を,多様な参加者とファシリテータが 連携して構築していることが⽰された.協創スケッチ法は,デザインの専⾨的な教育を受け ていない市⺠でも,参加者の活動を相互に参照し,創造過程を主体的に学び合うことで,円 滑に創造活動の活性化ができる環境である.さらに,他者の知を集めることで,個⼈で創造 するよりも,多様なアイデアが創出できる.よって,協創スケッチ法が,参加者の知を相互 に関わり合わせ解決策を模索する協創を実現する⼿法であることが解明された.
7.2 システム情報科学における本研究の意義
不確定で流動的な要素が多層的に関係する現在の社会課題の解決には,多分野を横断し,
異分野と連携して活動することが求められる.そのため,情報科学にデザイン分野を内包し た,システム情報研究の重要性は増している.
情報システムで,新サービスの開発⼯程の初期段階から,多様な当事者と専⾨家の参加を 許容し,アイデア創出するための⼿法として,協創スケッチ法は貢献できる.さらに,多様