2.6 半導体デバイスの変位損傷に対する設計標準
JERG-2-143 NOTICE-1
ΔCTE(E)=K・NIEL(E)・Φ(E)
(2.6-1)ここで、Φ(E)は陽子のフルエンスである。従って、軌道上でのΔCTEは次式により計算される。
∆CTE = K NIEL(E )
0
∫
∞dΦ(E )
dE dE
(2.6-2)上記に基づく変位損傷の予測フローを図2.6-1に示す。
2.6.3 各デバイスの変位損傷に対する耐性
表2.6-1に、変位損傷の影響を受ける半導体デバイスをまとめた。変位損傷の影響が大きいと
考えられるデバイスについては、あらかじめ変位損傷に対する耐性の評価及び軌道上における劣 化予測を行うこと。また、必要に応じシングルイベントやトータルドーズの影響評価も実施する こと。デバイスによってはトータルドーズと変位損傷をあわせた影響評価が必要となる場合があ る。一般に、少数キャリア寿命や生成キャリア寿命が特性を支配するデバイスや、特定のパラメ ータできわめて高性能が要求されるデバイスは変位損傷に対する耐性が低い。
表2.6-1 変位損傷の影響を受ける半導体デバイス デバイス 変位損傷の影響 変位損傷に対する耐性 CCD 電荷輸送効率(CTE)の低
下、暗電流の増加
変位損傷の影響を受けやすい リニアCCDは耐性大
受光素子 応答速度の低下 暗電流の増加
用途により耐性は異なる
フォトトランジスタは変位損傷の影響を受けや すい
MSMフォトダイオードは耐性大 発光素子(LED、レ
ーザーダイオード)
光出力の低下
電流しきい値の増加(レ ーザーダイオード)
変位損傷による影響は比較的小さい
LED の方がレーザーダイオードよりもやや耐性 が小さい
両性ドープLEDは耐性小
フォトカプラ 電流伝達率(CTR)の低下 放射線に対するレスポンスは複雑 耐性は目的、用途により大きく異なる フォトダイオードを用いたものが最も耐性大 フォトトランジスタを用いたものはやや耐性小
JERG-2-143
(1) CCD
CCDが変位損傷を受けると、CTEの低下、平均暗電流の増加、個々のピクセルにおける非常に大
きな暗電流、出力アンプのノイズの増加、等がみられる。
CCDの最も重要なパラメータはCTEであるが、陽子の照射により形成された欠陥準位に信号電荷 が捕獲され、捕獲時のクロックサイクル終了後に放出されることにより、その信号が本来のサイ クルの画像ではなく放出されたときのサイクルの画像に現れることになり、画質が低下する。従 って、デバイスの読み出し方法やクロック周波数により変位損傷のCTEへの影響が決まる。リニ アCCDはクロック周波数が1MHz以上と速く、信号が欠陥準位に捕獲されることなく伝送されるた め、変位損傷の影響を受けづらい。CTE 低下への対応策は現在も研究中であるが、デバイスを冷 却してキャリア捕獲を減らすことでCTEの低下を若干緩和することができる。更に対策が必要な 場合には厚いシールドを施すことになるが、陽子とシールド物質との衝突によって発生した二次 粒子による変位損傷の影響が大きくなる。
暗電流については、平均暗電流と、個々のピクセルに現れる非常に大きな暗電流(スパイク)
があるが、ピクセル面積の大きいものを用いることで信号対雑音比(S/N)を改善することができ る。
CCD の変位損傷対策としては、以下の項目が考えられる。トータルドーズの影響を受けやすい
デバイスについては、併せてその影響も考慮すること。
・ 機器のシールド
・ CCDの冷却
・ 変位損傷に強いデバイスの選択
・ 変位損傷の影響を受けにくい運用条件、信号処理の選択
・ ピクセル面積の大きいCCDの使用
(2) 受光素子
受光素子としては、PN接合フォトダイオード、PINダイオードやフォトトランジスタ等があり、
変位損傷の影響としては、空乏層で生成されるキャリアによる暗電流の増加、少数キャリア寿命 の低下による応答性の劣化などが挙げられる。フォトトランジスタは、その利得が少数キャリア の寿命に大きく影響されるため、変位損傷の影響を受けやすい。一方、MSM フォトダイオードは 多数キャリア素子であり、変位損傷への耐性は大きい。いずれのデバイスにしても、その用途に
フォトダイオードは種々の用途に特化したものが供給されており、放射線の影響は設計により 大きく異なる。また、変位損傷による永久損傷の他に、用途によっては電離による出力電流の一 時的な増加の影響を受ける場合がある。
(3) 発光素子
レーザーダイオードは変位損傷の耐性が比較的大きいが、電流しきい値が大きく変化すると出 力の低下を招く可能性がある。
LED はレーザーダイオードには劣るものの、変位損傷に対する耐性が大きいものが多い。ただ
し、大出力用、高速用等、その用途によりその耐性は異なる。例外的に、両性ドープLEDは変位 損傷の影響を受けやすいことが知られている。
(4) フォトカプラ
フォトカプラは、LED(光源)、受光素子、及び光カプリング物質から構成されるハイブリッド モジュールで、回路間を電気的に分離する目的で広く用いられている。フォトカプラの重要なパ ラメータは電流伝達率(CTR)であり、光検出素子のコレクタ電流のLED順方向(ドライブ)電流 に対する比で表される。フォトカプラには様々な設計があり、また用途も大きく分けてデジタル フォトカプラとリニアフォトカプラがある。フォトカプラの放射線に対するレスポンスは、設計 及び用途に大きく依存する。フォトカプラはトータルドーズやシングルイベントによる影響も受 ける。1MHz以上の高速用途のフォトカプラでは変位損傷に加え、SETの影響を考慮する必要があ る。LEDとしては両性ドープAlGaAs LEDが最も変位損傷の影響を受けやすく、かつ以前のフォト カプラよりも現在のフォトカプラの方が耐性が低い傾向にある。
フォトカプラの放射線に対するレスポンスは、以下の理由により複雑なものとなっている。
(a) ハイブリッドモジュールであるため、放射線耐性の個体差が大きい。
(構成部品の素性を明確にできない)
JERG-2-143 NOTICE-2
ランジスタを使用している場合には、光応答性の劣化の影響も受ける。全体としては、フォトダ イオードを用いたフォトカプラが最も変位損傷耐性に優れている。
CTR の評価を行う際には、用途に応じた評価を実施すること。デジタルフォトカプラであれば
広い波長範囲全体におけるCTRの評価を実施する必要があるし、リニアフォトカプラであれば、
使用する特定の波長範囲におけるCTRを評価する。
(5) バイポーラトランジスタ
バイポーラトランジスタ単体は比較的変位損傷に対する耐性が大きいが、アナログバイポーラ ICは変位損傷を受けやすい。リニアICの耐性はプロセスやデバイス設計等により大きく異なる が、横型pnpトランジスタを含むものがもっとも変位損傷を受けやすいことが知られているは、
横型pnpトランジスタを低電流で入力部に使用しているものは耐性が低い可能性がある。また、
非常に小さい入力オフセットやバイアス電流、低ノイズ等の高性能が要求されるデバイスも変位 損傷の影響を受けやすい。一方、SiGe等のへテロ接合を持つバイポーラトランジスタは変位損傷 に対する耐性が大きい。
2.7宇宙放射線以外の影響