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加齢に伴い生じる運動器の障害

ドキュメント内 サリドマイド胎芽症診療ガイド (ページ 54-59)

サ症の加齢に伴う健康上の問題で、運動器の障害は 精神的問題と並んで頻度の高いものである。運動器障 害の中で多いのは、四肢の関節炎や関節痛・筋痛、背 部や頚部の疼痛であり、他に神経に由来する痛みやし

1

3 アザラシ肢(phocomelia

両側の上腕骨・橈骨低形成があり、手は残っているが母指低形 成を認める。

4 上肢の左右非対称の低形成

いずれの症例も一見右上肢は正常に見えるが、母指球の低形成 を伴っている。

5 両上腕骨低形成による肩関節亜脱臼と肩鎖関節突出

6 両股関節の低形成と変形性股関節症

びれも報告されている5)。日本のサ症に多い上肢低形 成において運動器障害が生じる機序をまとめると、図 7のように考えられる。すなわち上肢低形成の程度 が比較的軽い場合には、日常生活活動(Activities of Daily Living : ADL)において上肢を使うことが多いが、

加齢に伴い過用(overuse)や誤用(misuse)による 変化が蓄積し、上肢の関節障害や腱鞘炎、末梢神経障 害が生じる。過用とは正しい使い方をしていてもそれ が過剰である状態であり、誤用とは本来の使い方と異 なる動きをすることであり、例えば母指が欠損してい る場合に他の指同士でものをつまむ、などといったこ とを誤用と称する。一方、上肢低形成の程度が比較的 重い場合には、日常生活活動に下肢を用いることが多 く、加齢に伴い過用や誤用による変化が蓄積し、脊椎 の障害や下肢の関節障害が生じる。食事や洗顔などに 下肢を用いるには、脊柱を強く屈曲する必要があり、

これが脊椎の障害につながると考えられる。しかしこ れらの障害は過用・誤用だけで生じるとは限らず、前 項の「出生時より認める運動器の形態異常」で記述し た四肢・脊椎の先天的な形態異常が症状発現に関係し ている場合がある。

加齢に伴い生じる上肢の障害として、肩関節の疼痛 や変形性関節症6)、上肢筋の脱力感や硬結が多く、こ れには肩関節の低形成や軟部組織の異常が関係してい

7)。肘や手関節の不安定性と過用によると思われる 疼痛、手指の腱鞘炎などを生じることもある(図8)。

上肢の末梢神経障害としては、手関節部での正中神 経圧迫による手根管症候群が多い8)。これは橈骨形成 不全に合併することが多く、手根骨の低形成に伴い手 根管断面積が小さいことが発症に関係していると考え られる9)。サ症に伴う手根管症候群では、母指の低形 成のために感覚障害や神経伝導検査による診断が困難 であり、示指・中指の感覚障害や、他の臨床検査(Tinel

徴候やPhalen徴候)、神経生理学的検査の結果を総合

的に判断する必要がある10)

加齢に伴い生じる脊椎の障害としては、頚部痛、背 部痛、頚椎・腰椎部の神経根障害が多い4,5,8,11)。これ には、過用・誤用に伴う変化に加えて、前述の先天的 な椎体終板や椎間板の異常が関与し、変形性脊椎症な どのX線像を示す(図9)。

下肢の障害としては、股関節と膝関節の変形性関節

症が多い6,12)。変形性股関節症は先天的な股関節形成

不全による二次性変形性関節症と考えられる(図6)。

膝関節では大腿骨外顆や顆間窩の低形成と外反膝を認 める場合が多いが、大腿骨近位部の低形成を伴わない 患者の多くは軽度までの関節症にとどまり、症状を呈 することは少ない12)

7 サリドマイド胎芽症の上肢低形成から運動器障害を生じる機序

8 母指・母指球の低形成があり、過用により他の指の    腱鞘炎を生じた

サリドマイド胎芽症における上肢低形成

サリドマイド胎芽症に伴う先天的な形態異常 上肢の関節障害・腱鞘炎

(肩関節・手指など)

末梢神経障害

(手根管症候群など)

加齢に伴う 過用・誤用

ADL における 上肢の使用

脊椎の障害

(頚椎・腰椎など)

下肢の関節障害

(股関節症など)

加齢に伴う 過用・誤用 ADL における 体幹・下肢の使用

55 文献

1) Vargesson N: Thalidomide-induced teratogenesis:

history and mechanisms. Birth Defects Res C Embryo Today 105: 140-156, 2015.

2) Smithells RW, Newman CGH: Recognition of thalidomide defects. J Med Genet 29: 716–723, 1992

3) 栢森良二: サリドマイド胎芽病者の50年. Jpn J Rehabil Med 50: 957-961, 2013

4) Edwards DH, Nicholas PJR: The spinal abnormalities in thalidomide embryopathy. Acta Orthop Scand 48: 273-276, 1977

5) Newbronner E, Atkin K: The changing health of Thalidomide survivors as they age: A scoping review. Disabil Health J 11: 184-191, 2018 6) Bent N, Tennant A, Neumann V, et al: Living with

thalidomide: health status and quality of life at 40 years. Prosthet Orthot Int 31: 147-156, 2007 7) Merkle TP, Beckmann N, Bruckner T, et al: Shoulder

joint replacement can improve quality of life and outcome in patients with dysmelia: a case series.

BMC Musculoskelet Disord 17: 185, 2016

8) Nicotra A, Newman C, Johnson M, et al: Peripheral nerve dysfunction in middle-aged subjects born with thalidomide embryopathy. . PLoS One 11:

e0152902, 2016

9) Kimura H, Ikuta Y, Ishida O: Carpal tunnel syndrome in radial dysplasia. J Hand Surg Br 26:

533-536, 2001

10) Oshima Y, Okutsu I, Hamanaka I, et al: Carpal tunnel syndrome accompanying radial dysplasia due to thalidomide embryopathy. J Hand Surg Br 31: 342-344, 2006

11) Ghassemi Jahani SA, Danielsson A, Ab-Fawaz R, et al: Degenerative changes in the cervical spine are more common in middle-aged individuals with thalidomide embryopathy than in healthy controls.

PLoS One 11: e0155493, 2016

12) Ghassemi Jahani SA, Danielsson A, Karlsson J, et al: Long-term follow-up of thalidomide embryopathy: malformations and development of osteoarthritis in the lower extremities and evaluation of upper extremity function. J Child Orthop 8: 423–433, 2014

[芳賀信彦] 

9 下位腰椎における椎間板腔の狭小化とすべり症

整形外科・リハビリテーション科の診療 

 診断と評価・検査 1

ポイント

キーワード

薬物療法、変形性関節症、変形性脊椎症、疼痛、末梢神経障害、しびれ

薬物療法は、疼痛やしびれに対し、副作用に注意しながら行われる

治療と支援 1 薬物療法

サ症の加齢に伴う運動器の症状は、大きく変形性関 節症や変形性脊椎症による疼痛、神経根を含む広義の 末梢神経障害によるしびれや痛み、これらの原因によ らない疼痛に分けられる。

変形性関節症や変形性脊椎症による疼痛のメカニズ ムは複雑であり、単に関節内の炎症による疼痛ではな く、炎症は関節内のみにとどまらず関節周囲組織に及 び、骨髄病変も関与することが指摘されている1)。従 来は薬物療法として、アセトアミノフェン(解熱鎮痛 剤、カロナール®)や各種の非ステロイド性抗炎症薬

(nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs) が用いられてきたが、NSAIDsでは長期使用による消 化管出血、心血管イベント、腎機能障害などのリス クがあり、投与量、投与期間を考慮する必要がある。

NSAIDsの中のCOX-2選択的阻害薬(セレコキシブ

など)には胃腸障害の副作用が少ないとされているが、

心血管イベント、腎機能障害のリスクはあるため注意 が必要である。非麻薬性オピオイド(トラマドール: トラマール®)は胃腸障害が少ないため、非オピオイ ド鎮痛剤で治療困難な慢性疼痛に用いることがあり、

アセトアミノフェンとの合剤(トラムセット®)を用 いることもあるが、吐き気や嘔吐、便秘、めまい、眠 気などの副作用に注意が必要である。脳内の神経伝達 物質の働きを改善することにより疼痛を抑制する作用 のあるセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害 薬(デュロキセチン:サインバルタ®)も変形性関節

症の疼痛に対して用いられることがある。変形性関節 症に適応のある外用剤には、NSAIDsを含有するいわ ゆる湿布薬、ゲル、ローションなどがある。変形性関 節症の疼痛緩和目的に関節内に注射する薬剤として、

ヒアルロン酸ナトリウムとステロイドがある。前者は 関節の潤滑を介して疼痛を緩和するが、変形性膝関節 症(一部の薬剤は肩関節周囲炎も)にのみ適応がある。

後者は抗炎症と鎮痛作用を持つが、軟骨代謝の抑制に よる軟骨破壊という副作用があり、繰り返す注射を避 けるべき、という意見が多い。

末梢神経の障害によるしびれや痛みには、生体内補 酵素型ビタミンB121種であり、末梢神経を修復す る効果があるとされるメコバラミンが用いられる。末 梢神経障害による痛みは神経障害性疼痛に含まれ、プ レガバリン(リリカ®)やミロガバリン(タリージェ®) が適応となりうる。

上記以外の疼痛であっても、そのメカニズムに組織 の炎症や末梢神経の異常が関与していることが多く、

これまで述べたような薬物を使うことが多い。一方で 一般成人の腰痛の85%は原因が明らかでない「非特 異性腰痛」とされており、運動療法などの非薬物療法 が第一選択とされている。

[芳賀信彦、栢森良二、前原康宏] 

2

整形外科・リハビリテーション科の診療

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ポイント

キーワード

人工関節置換術、手根管症候群、手根管開放術

肩関節や股関節の変形性関節症に対し、人工関節置換術が行われる

治療と支援 2 手術と適応

薬物療法やリハビリテーションなどの保存的治療で 解決できない運動器の症状に対しては、手術が適応と なることがある。しかしこの場合、サ症に伴う先天的 な形態異常と病態を十分に把握し、適応を判断する必 要がある。

変形性関節症として多い肩関節と股関節では、人工 関節置換術が行われることがある2,3)。肩関節では関 節構成要素の低形成のため、通常の肩関節置換術では

なくhemiarthroplastyと呼ばれる上腕骨側のみの置

換術が行われ、疼痛と関節可動域の改善が得られたと の報告がある2)。股関節に関しては詳細な報告がない。

手根管症候群に対しては、一般に装具療法などの保 存的治療がまず選択されるが、サ症に伴う手根管症候 群では保存的治療の効果に関する報告がない。保存的 治療に抵抗する場合は手根管開放術が行われるが、日 本からは内視鏡下の手根管開放術が有効であったとの 報告がある4)

[芳賀信彦、栢森良二] 

文献

1) 石田高志、関口剛美、川真田樹人: 関節炎による痛み のメカニズムと薬物治療の最新の進歩. 日本ペインク リニック学会誌 25: 53-62, 2018

2) Merkle TP, Beckmann N, Bruckner T, et al: Shoulder joint replacement can improve quality of life and outcome in patients with dysmelia: a case series.

BMC Musculoskelet Disord 17: 185, 2016 3) Ghassemi Jahani SA, Danielsson A, Karlsson

J, et al: Long-term follow-up of thalidomide embryopathy: malformations and development of osteoarthritis in the lower extremities and evaluation of upper extremity function. J Child Orthop 8: 423–433, 2014

4) Oshima Y, Okutsu I, Hamanaka I, et al: Carpal tunnel syndrome accompanying radial dysplasia due to thalidomide embryopathy. J Hand Surg Br 31: 342-344, 2006

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整形外科・リハビリテーション科の診療 

   治療と支援

(1)

物療法 

(2)

術と適応

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整形外科・リハビリテーション科の診療

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