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加速器中性子源の開発

134..中間評価結果への対応

2. 研究開発項目毎の成果

2.1 加速器中性子源の開発

(FFAG-DDS研究機構、IHI、NHV、日本製鋼所、日立製作所、三菱重工、三菱電機、京都大学) 2.1.1 研究課題

がん治療におけるホウ素中性子捕捉療法(BNCT:boron neutron capture therapy)、すなわち熱 あるいは熱外中性子(この線源そのものでは治療効果のない低エネルギーの中性子線)とホウ素の 核反応によって生じる強力な粒子線であるα線治療を行う手法は、正常細胞に対する損傷を出来 るだけ少なくし腫瘍細胞だけを選択的に治療することが出来るため古くから理想的ながん治療法 として知られていた。しかし、現在のところBNCT療法に必要とされる大線量の低エネルギー中 性子が原子炉からしか得られないという制約があり、理想とされるBNCT療法の医療としての普 及を妨げる大きな要因となっている。

このため原子炉と同程度の中性子を得る手段として、加速器による方法が世界各地で検討され ているが、大強度な加速器の開発などの問題を解決して実用化するにはまだ至っていない。

加速器駆動の中性子源の技術的困難には様々なものがあるが、特に大きな問題は次の3つであ る。

① ビーム強度が大きい。

BNCT療法では、熱または熱外中性子といわれる非常にエネルギーの低い中性子が必要である。

加速器を用いてこのような中性子を発生させる核反応の候補としては、7Li あるいは9Beのよう な軽元素標的による(p,n)もしくは(d,n)反応がもっとも有力である。これらの核反応を効率良く行 わせるためのビームエネルギーは10 MeV程度であるが、高強度に中性子を発生させるにはビー ム強度を充分大きくする必要がある。ビーム強度としては10 mAを超える大強度のものが要求さ れる。このような大強度を得る加速器は現状の加速器技術においては不可能とはいえないまでも きわめてチャレンジングなものである。

② 中性子発生標的の熱負荷が過大である。

エネルギーが10 MeV程度でその強度が10 mA超えるビームでは、そのビームパワー(ビーム

電力)が100 kW程度の大きさとなる。一方、このビームパワーは、大きな阻止能のために標的

中の1 mm程度以内のところでほとんど失われることになる。したがって標的の熱負荷はきわめ て大きなものである。標的の冷却には大きな困難がある。

③ 加速器本体の放射線遮蔽が大変である。

10 mAを超えるビーム強度の加速器本体の放射線遮蔽は、そのエネルギーが10 MeV程度と低 いとはいえ従来の商用加速器のレベルを超えており、加速器本体の放射線遮蔽には充分な配慮が 必要であり、そのコストも大きなものとなる。

このように従来から提案されている方式の加速器中性子源には解決すべき大きな問題がある。

本事業では、これらの困難から免れることができかつ十分な強度の中性子を得る新たな方式と

してFFAG-ERITを提案している。従来の加速器中性子源では加速器からビームを取り出して用

いるのに対し、この案ではFFAG(Fixed Field Alternating Gradient)加速器をビーム貯蔵リン グとして用い、そのリング内に置かれた標的から中性子を発生させる内部標的方式となっている。

貯蔵リング内で周回するビームの周回ビーム電流はきわめて大きく、陽子加速器では100 mA程

度は比較的容易に得られる。

一方、内部標的の場合の最大の問題点は、ビームと標的内電子との衝突・散乱によるビームエ ミッタンスの増大(3次元方向)であるが、これはイオン化冷却という手法で回避できる。この 手法では、リング内の別の場所に設けた高周波加速装置でビームを再加速することにより1ター ンのうちにビーム進行方向のエネルギー減少(損失)を完全に補償する。その効果により3次元 すべての方向にわたってビーム冷却効果をもたせ、ビームエミッタンスの増大を抑えることがで きる。これをERIT(Energy/Emittance Recovery Internal Target)と名付けている。

FFAG-ERIT方式では、そのビーム電流は従来の固定標的方式で想定されていたものよりもさ

らに一桁上であり、標的も薄くでき10μ程度のもので必要な中性子強度が得られる。このため標 的内でのエネルギー損失はかなり小さくなり(数10 keV)、標的でのビームによる熱負荷もkW レベルに抑えられ、標的周りの冷却も固定標的に較べて極めて軽減される。

さらにFFAG-ERIT方式はビーム貯蔵リングであるので、入射器から供給する平均ビーム量は そのリング内に貯蔵されるビーム周回数に逆比例して少なくてよい。たとえば、1000ターンのビ ーム周回とすると、入射器からの平均のビーム電流はリング内の周回ビーム電流の1/1000となる。

周回ビーム電流を100 mA程度とすれば、入射器からは100μAで良いことになる。この程度の平 均ビーム電流の入射器はリニアックであれその他の加速器でも現状の技術レベルで容易に実現で きるものである。

このようにFFAG-ERIT方式は、BNCTのために検討されているこれまでの中性子源用加速器 の限界を解決する新しい方式であり、本事業では、これを病院内設置が可能なBNCT用中性子源 加速器として開発する。

2.1.2 研究の目的

従来の原子炉利用に匹敵する中性子強度を得ることのできる BNCT 療法のための病院内設置 可能な加速器型中性子源を開発する。

このために(1) FFAG ビーム貯蔵リングに必要なビームを供給するための入射器システム、(2) ライナックから入射された陽子ビームを効率良く加速/貯蔵するための小型FFAG加速器システ ムと(3) 周回する陽子ビームから効率良く中性子を発生するため内部標的と高周波加速装置を組 み合わせたエネルギー回復型内部標的法(ERIT)によるビーム制御技術を開発し、BNCT 療法 のための新しい概念による加速器型中性子源の原型機を開発、ビームの入射・貯蔵周回試験およ び中性子発生の検証を行なう。

また内部標的から発生する中性子の収集効率を高め中性子線のエネルギーの調整を行なうため の加速器型中性子源用モデレータの開発を行う。

加速器の構成概要を図A-1に示す。加速器システム全体の大きさは、病院内設置が可能なサイ ズとして120 m2程度が目標とされる。

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図A-1 中性子捕捉療法用小型FFAG加速器システムの構成概念図

加速器システムにおけるビームの入射、周回、中性子発生および運転の繰り返しの概要は以下 のようなものとする。

陽子ビームはライナックによって必要エネルギーまで加速され、FFAG-ERITリングにフルエ ネルギーで入射される。FFAG-ERITリングはビーム蓄積リングとして機能し、ライナックから 入射された陽子ビームを長い時間軌道に保ち周回させる。中性子を生成するためFFAG-ERITリ ングの軌道上に内部標的を置く。内部標的は陽子ビームの周回を可能とするためBeの薄膜を用 い、中性子の生成は陽子ビームとの9Be(p,n)B 反応によって生成する。陽子ビームのエネルギー は、内部標的での中性子生成効率(反応断面積)及びそのエネルギー依存性を考慮し、〜10 MeV の範囲で検討される。図A-2に9Beの陽子ビームエネルギーに対する反応断面積の大きさを示す。

図A-2 9Beの陽子ビームに対する反応断面積

図に見られるように陽子エネルギーの10 MeV周辺の領域において比較的に大きな断面積と安 定なエネルギー依存性が得られる。

一方陽子は薄膜標的内部で多重散乱によりエネルギー損失を生じるが、エネルギー回復用高周 波加速装置にて再加速を行なう。また陽子ビームは内部標的のBe原子核との多重散乱によりそ のエミッタンスは次第に増大し、そのままではリングを周回し続けることが不可能となるが、陽 子ビームは一方でイオン化ビーム冷却の効果によりエミッタンスの増大が抑制され、継続的なリ ングの周回が可能とる。

リングを周回するビームは、1時間程度の照射治療に必要な換算中性子線量を想定し、ピーク

電流70 mA、ビームの周回数は1000回、またはそれ以上を目標とする。ビームの周回周波数と

しては想定されるリングの大きさからおおよそ3〜4 MHz程度の範囲となる。

以下に本研究開発の目的と達成のための技術的課題を述べる。

2.1.2-1 入射器の開発研究

FFAG加速器にビームを供給するため、ビームのソースとなるイオン源とイオン源からのビー ムを加速しFFAGへ入射するためのライナックの開発を行う。

基本的な開発目標は、FFAGリングにおいて陽子ビームエネルギー〜10 MeV、リングの平均周 回電流・1〜10 μAを得ることが出来るための十分なビーム電流を供給出来るものとする。ビー ムエネルギーはイオン源出口で30 KeV程度、ライナック出口では〜10 MeVとし、FFAGリン グにフルエネルギーで入射する。FFAGリングで目標とする周回電流を得るため、入射器の運転 は、繰り返しを200 Hz、1 mA (目標5 mA)のHビームの加速が可能なものとする。

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以上、入射器としてビーム電流は大強度を要しないが、電流値、エネルギー、およびビームエ ミッタンスの安定な動作を重点に開発を行う。病院内設置が可能なサイズとする観点から、コン パクトな入射システムを目指す。

2.1.2-2 FFAG加速器本体の研究開発

FFAGリング本体の研究開発の目的は、FFAG加速器システムを用いて病院内設置が可能な程 度に小型でありながら、原子炉利用に匹敵する中性子のビーム強度が得られる加速器原型機を実 証的に開発する。このためFFAGリングのサイズとしてコンパクトでありながら、ビームの入射 からリング内の周回、中性子発生、ビームエネルギー回復の行程全体に渡って、ビームを安定に 保つためのビーム軌道条件、そのための機器コンポーネントの開発が重要となる。

研究開発の主な項目内容は、①効率の良いビーム入射システムの開発、②安定なFFAG加速器 のラティス構成の開発、③これを実現するための電磁石と周辺機器の開発である。

入射器からのHビームは、荷電変換されFFAGリングに入射される。FFAGリングへ多重入 射するため、ビームシミュレーションにより最適なビーム入射軌道の設計と、それを実現するた め入射軌道電磁石等の入射機器の開発、コンパクトで安定な荷電変換のための荷電変換膜など、

ビームロスが少なく効率の良い入射方式の開発を行う。

FFAG加速器本体の電磁石の形状は大きく分けて、ラディアルセクター型とスパイラルセクタ ー型があり、ラディアル型は更にシングレット、ダブレット、トリプレットに分けられ(図A-3 参照)、これらの電磁石形状及びその並び方により加速器のライティス構成が決定される。

図A-3 FFAG加速器の電磁石形状例

ラティスの選択は加速器の特性を左右するもので、リングの開発研究において最も主要な研究 課題の一つである。医療用小型FFAG加速器としてのビーム入射の容易さ、加速器の運転操作性

・安定性、加速器製作の容易性などの観点からラティスの最適化を図る。

前述のようにラティスの基本構造は、使用する電磁石の形状とその並び方によって決まるため、

ラティス構成の検討・選択は電磁石の開発と相補的に行う必要がある。一方電磁石は機械的にも FFAG加速器の主要部分であり、その設計においては常にFFAG加速器装置全体の構成を考慮し なければならない。そのため複数の案を候補として求め、磁場分布や機械的大きさなど電磁石の 具体的な評価結果をフィードバックさせながら、SAD・ICOOLなど(ビームシミュレーション

シン グレッ ト トリプレッ ト スパイラル型

DFD 型の例 D

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