上記①の理由を挙げる者の具体的な意見は,「被疑者は
,録
音・録画時に自由に 供述できるのであるから,検
察官に とって不利な供述をすることもできるのであ り,か
つ,そ
の供述が録音・録画 された以上,検
察官はその供述が証拠採用 され るリスクを負つている。 このような状況は,到
底,検
察官か ら見たいいところ取 りであるとは言えない。」,「人の日に蓋をすることはできないのであって,仮
に取 調べに問題があれば,被
疑者が何 らかの主張をするはずである。」,「一部の録音・録画であつても
,取
調べ過程に問題があれば,そ
れが如実に現れる。」,「録音・録 画開始後に,い
つでも自由な発言ができるのであり,終
了する前にも,『この機会 に何か言いたいことがあった ら何でも言いなさい。』.と発言の機会を与えてお り,公正に行っている。」など
,被
疑者に自由な供述の機会を与えていることを根拠 と するものであった。上記②に関しては,「自白調書の任意性の立証をどのようにするかは
,立
証責任 を負つている検察官の裁量によることは当然であ り,立
証が足 りないと判断され れば証明できないとい う不利益を負 うだけある。J,「取調べをしたからといって,必ず しも調書を作成するわけではなく
,録
音・録画もこれ と同じように考えれば,批判は当を得たものではない。」などとい う回答が多かった。
上記③に関しては,「録音・録画に際 して
,被
疑者が突然検察官の予期せぬ発言 や不都合な供述を始めた場合でも,中
断す ることなく,録
音・録画を続行する取 扱いとなってお り,公
正 さを欠 くとは思えない。」,「否認に転 じた場合でもそのま ま録音・録画を続行 してDVDが
証拠化 されるのであるから,批
判は当たらない と思 う。Jな
どの回答があつた。上記④に関しては,「将来の公判で
,任
意性が問題になり得るようなこ とを中心 に質問 している。1,「犯人性や犯意を裏付ける行為態様など,争
点になりそうなポ イン トについて実施 してお り,こ
れを避けて,争
点にならない点だけを録音・録 画するわけでは│ない。」,「現行方式の録音・録画でも,各
事案に応 じ,任
意性に疑 いを生 じさせる事由の有無‐について発問 し,回
答を得ている。仮に任意性に疑い を生 じさせる事由があれば,録
音・録画の中でその事実が必ず明ら―かになる.はず である。」など,将
来,任
意性‐に関して争われる可能性のある事情の有無を明らか にする質問をして,被
疑者が応答する状況を録音・録画 していることを根拠 とす る回答であつた。'
上記⑤に関しては,「録音・録画の結果が任意性立証│の観点からはマイナスであ つても
,公
判前整理手続の中で証拠開示請求があればすべて開示することになっ ているし,実
際に―開示 さ―れたDVDを
見て任意性がないことを弁護人が:主張 した り,取
り調べられ.たDVDの
みで任意性がないと判断 した裁判例 もあると聞いて いる。J,「録音 。録画の中で,任
意性に疑いを生じさせる事実の有無は必ず明らかになるはずであり
,例
えば,誘
導等による自白として,検
察官調書の証拠調べ請 求が却下された事例がある。」など,録
音・録画したDVD‐
は立証上の有利・不利 を問わずに証拠 として用いられるものであり,内
容いかんによっては,任
意性を 否1定する方向でも有力な証拠となるものであることを根拠にする回答であった。181 全面的な取■べの録音・録画の是非について 原則 として
,全
事件・全取調べのすべての過程を録音・録画すること
(以下 「全面録音 ̀録画
Jと
いう。) についてどう思 うかとの質問につい て,「そ うすべきではない」 とす る もの│が115人 (88%1)と
圧倒的 に多 く,「どちらでもよいJが 5人
(4%),「
分か らない」が10人
(8%)で
,「そ うすべきである」 とす る回答はなかった (表20).
そ うすべきでないと回答 した者が指摘する主な理由は
,重
点の置き方により,①取調べの持つ真相解明機能を害する
,②
裁判員裁判における効果的・効率的立 証につながらない,③
実現が困難である,④
取調べに代わる真相解明の代替手段 がない,⑤
その他の五つの角度からのものに大別できた (表 21)。①の回答をした者が挙げる真相解明機能を害する理由は
,②
録音・録画の影響で 被疑者が萎縮 し,ま
た,取
調官が本来の取調べができない,⑦
したたかな犯罪者を 処罰できなくなる,②
取調官と被疑者との信頼関係の醸成が難 しくなる。○実際に 試行 した事件において,全
面録音・録画していたとすれば,事
件の真相が明らかとならず
,真
犯人を検挙できなかったなど,様
々な角度からのものであった。取詞ぺの構つ真相解用機師
‐裁判員識lll=おける効果的・知事的立調こつなが境Lヽ
ま椰 困欺 ある 取調ドに代わう真相解明Dための代替手段がなtl
その他
I表211「そうすべき7mlJの 具伸的理由の内訳
0 10 20 10 41 50 00 70 80 00 11,
【表20】 覇用として,全事件・全取菫べのすべての 過程轡録音・録画するこ日=ついてどう思うか
分 か リ エ ヽ 念%
る すべきである 0%
お うも 良い
瘍
そうすべきでない
=編
主な意見は
,以
下のようなものであつた。①②の意見の代表的なものとしては,「被疑者に真実を語 らせるためには
,取
調 官は,被
疑者 と一人の人間として相対 し,時
に厳 しく被疑者の供述内容の矛盾点 0不 合理な点を追及 し,時
に被疑者 自身の不遇な生い立ちや事件 とは直接関係な い不平不満,被
疑者 自身が公にされることを望まない事実 (本職が経験 した例で 言えば,周
囲か ら変人として疎ん じられていること,家
族に対 しても様々な不満 を持っていることなど。また,取
調官自身が他人には知 られたくない自らの体験 談等を話すこともある。)に
も触れることによつて,被
疑者 も喜怒哀楽を露‐わにし た り,被
疑者 自身涙ながらに自らの苦 しみや犯行に至るまでの事情などを語 り,徐々にその心を解 きはぐして信頼関係を築き
,紆
余曲折を経て最後に真実を供述 する気持ちにさせ,初
めて重大犯罪を犯 した者か らも自白を得るこ―とができるの である̀し
かしなが ら,そ
の全過程を録音・録画 し,こ
れが公開される可能性が あるとなれば:取
調官は被疑者の供述の矛盾点・不合理な点―を厳 しく間 うことに 意識的あるいは無意識に躊躇 し
,十
分な追及ができなくなって しま うこと,被
疑 者が述べる犯行動機がいかに身勝手で理不尽なものでもその言い分を十分に聞き 取 り被疑者の心を開かせようとしても,そ
のや りとりが公になることで,被
害者 や遺族感情を逆撫でしてしま うとの懸念か ら十分な応答をすることができなくな ること (自分の非よりもまず;被
害者の落ち度,被
害者に対する悪 口を言いたい だけ言わなければ気が済まない被疑者もいる),被疑者 自身が録音・録画を意識 し,第二者に知 られずに語 りたいことを語つた り
,感
情を露わにすることす らできな くなって しまって,か
えってその態度を硬化.させ,真
実を述べ させることが極‐め て困難になることは必至であ り,ひ
いては悪質重‐大事案の真実解明を著 しく妨げ ることになるのは明白であると思われる。」,「被害者又は遺族感情も考慮 しなけれ ばならない。いかに極悪犯罪を行つた被疑者 と相対峙 したとしても,取
調べにお いては,人
と人 との接触で│あ り,真
実を吐露 させ るためには,時
には雑談や笑い もある。そのような場面を被害者又は遺族が目の当た りにした とき,彼
らは,捜
査機関に対 して
,極
度の不信感,嫌
悪感を抱くかもしれない。」などで―あった。①④の意見としては,「全面録音 。録画を実施すれば
,取
調べの持つ真相解明機 能が害 され,自
白以外に犯人であることの決め手の証拠に欠ける.重大殺傷事件や 組織犯罪の犯人の一定数が検挙できなくなるが,そ
れでいいのか,取
調べ以外に 有効な真相解明の手段がない現在の1実務の中で,し
たたかな凶悪犯罪者が社会で 野放 しになつてしま う結果になつた場合に誰が責任を取るのか,国
民にもきちん と理解を求めた上で,全
面録音・録画に反対すべきであ―る。」などが代表的な意見 であつた。次に
,①
②の意見は,「捜査官が否認する被疑者に対してまずは雑談から始めて被疑者の胸襟を開こうとしても
,取
調べで 自分が笑った りすると,そ
の映像を見 られると情状が悪 くなるのではないかと考 えて感情を不 自然に抑制 しようとする などして,か
えって被疑者に非人間的な態度を強いることにつながった り,そ
も そも取調べで,被疑者の胸襟を開くことさえ難しくなるのではないかと思われる。」など
,取
調べの過程で被疑者との人間関係を構築.し,捜
査官に対する信頼を得て, 被疑者に真実を供述 させるとい う過程を経‐ることができず:取
調べにより真相解 明を図ることが困難になるとい うものが多かつた。上記①
Oの
意見は合計8件
寄せ られてお り,こ
の8件
については,回
答者から の聞き取 り調査結果等も踏まえ,後
記第4の
「検証」の中で更に分析する (第4,3(2))。
② の裁判員裁判 にお ける効果 的・ 効率的立証 につ なが らない とい う意見には,「全 面録音・録 画 を した として
,実
際に 法廷 に顕 出で き るのであろ うか。一体:再
生 に何十 時間かか るのか,裁
判員 はそれ に耐 え られ るのか,極
めて疑間である。」な ど,裁
判員裁判 にお ける効果 的・ 効 率的立証 の観 点か ら全 面録音・ 録画 には問題 が多い とす るもの(22人 )と
,「全事件・ 全取調べ を録音・ 録画す ることの経費 及び労力 と,任
意性 が問題 とな る事件数 等 を比較すれ ば,い
かに膨大 な無駄 が出 るかは明 らか と思われ る。」,「そ もそ も任意性 が争 われ るケース はほ とん どな く,一部の例外 的な事件 だ けを見て
,取
調べ が果 た してい る重要 な役割 を考 えず に全 部録音・録画すべ しとい ぅことには現場の検察官 として非常に抵抗がある。 もう 少 しこのような問題点を国民に正確に伝えるべきである̀」
など
,任
意性が問題 と なる事例は少なく,そ
もそも全面録音・録画する必要がないとするもの(4人
) があった。全面録音・録画が裁判員裁判における効果的・効率的な立証につなが らないと の回答については
,そ
の理由の詳細について回答をした検察官から聞き取 り調査 を行つてお り,こ
の点は,・ 後記第4の
「検証」の中で更に分析する.(第 4, 2(3) ウ)。⑤その他の意見の中には,「自由の獲得が困難 となれば
,真
相解明が不十分とな るだけでなく,被
疑者が捜査及び公判で事実‐を否認 し,た
とえ有罪 となって刑 服 した としても,全
く改善更生 しないまま社会復帰する結果 とな り,ま
た,被
'こ害者あるいはその遺族の崚烈な被害感情が癒 されることもない。被疑者の改善更生 や被害者等の被害感情緩和とい う観点か らも
,被
疑者の自白は必要不可欠であ リー,それを阻害する可能性―の極めて大きい全面録音・録画は
,実
施すべきではない。Jなどの意見があつた。
.
上記のとお り