東京大学大学院農学生命科学研究科 ミニ特集:PPV(ウメ輪紋ウイルス)の現状と対策
ックスウイルス検出キット」について概説する。
LAMP
は4
〜6
種類のプライマーと耐熱性鎖置換型DNA
合成 酵素を用いる迅速・高感度な等温遺伝子増幅法である(TOMITA
et al., 2008)。逆転写酵素の添加により RNA
の 検出も可能であり(RT―LAMP),幅広い分野で遺伝子
検査技術として利用されている。本キットでは,
PPV
の保存領域を標的としたプライマ ーセットを採用しており,従来のRT―PCR
や海外で報告された
RT―LAMP
と比較しても検出感度は10
倍以上で,迅速性にも優れる。さらに,一般的な核酸抽出工程を,
爪楊枝を葉に刺すだけでよい簡易核酸サンプリング法で 代替し,蛍光発色液による遺伝子増幅の可視化を採用し ているため,温湯と魔法瓶を用いて反応液を
63℃前後で 30
〜60
分間保つだけで,目視による結果判定が可能である。実験機器(遠心機やサーマルサイクラー,電気泳 動装置,ゲル撮影装置)を必要としないので,あらかじ め試薬を分注しておけば,現場での診断も可能である。
III
改良型RT
―LAMP
による遺伝子診断 一般に抗体診断は遺伝子診断と比較して検出感度が劣 るものの安価なため,スクリーニングに用いられること が多い。PPV根絶事業の場合も同様に,発生地域の特 定を主眼として,比較的安価なイムノクロマトキットが スクリーニング(1次診断)に利用され,2次診断をRT
―LAMP
キットが担ってきた(なお,財産権の観点か ら誤処分の可能性を極力排除するために,両キットで陽 性となった場合に感染樹と判定される)。全国の発生状況調査が進むにつれ発生地域がほぼ特定
②ウイルスタンパク質が吸い上げられる (毛細管現象)
③ウイルスタンパク質が 金コロイド標識抗体と結合
④さらに吸い上げられる
①粗汁液を滴下 サンプルパッド 試薬紙 判定紙
判定ライン
:金コロイド標識抗体
:固相化抗体
:粗汁液
:ウイルスタンパク質 吸収帯
⑤ウイルスタンパク質が固相化抗体と結合
⑥金コロイドの判定ラインが出現
A
B
図−1 イムノクロマトの原理 A.試験紙の各部位の名称.
B.反応の原理.粗汁液を加えた後は自動的に反応が進行し15分で検出される.
33 PPVの簡易迅速な診断技術の開発
されたと考えられたため,
PPV
根絶事業は,発生地域 における感染樹の早期発見・処分を通じた早期清浄化が 求められる段階に入ってきた。そこで,東京大学植物病 院®では1
次診断の時点から高感度なRT―LAMP
を用い る有用性について検討した。課題として,2×2 cmの 葉の粗汁液を用いるイムノクロマトと比べて,爪楊枝の 先端で葉を刺突するRT
―LAMP
ではサンプリング範囲 が狭く,偽陰性となる可能性が懸念された。そこで,イ ムノクロマトと同様に葉の粗汁液を用いて診断すること ができる改良型RT―LAMP
キット「プラムポックスウ イルス検出キットVer.2 for Turbidimeter
」を開発した。本キットは蛍光ではなく濁度により判定するため濁度測 定装置および電源が必要となるが,試薬組成の改良によ り
30
分以内に結果が得られるため,世界で最も迅速なPPV
の遺伝子診断技術である(図―2
)。そのうえ,従来 のRT
―LAMP
キットと比べて検出感度が向上し,単価 もイムノクロマトキットを下回るため,PPV根絶事業 の1
次診断に適した仕様である。本キットは2013
年8
月に(株)ニッポンジーンにより製品化された。本キットを用いた
1
次診断により,イムノクロマトキ ットと比べて取りこぼしの可能性が格段に低くなるだけ でなく,陽性となった検体の粗汁液をそのままイムノク ロマトによる抗体診断に使用できるため,作業も大幅に 簡略化され,1時間以内にPPV
の遺伝子診断および抗 体診断の実施が可能である(図―2
)。今後の活用が期待 されるとともに,本試薬組成の利用により他のLAMP
診断系の改良も期待される。1.葉(2×2 cm)をプラス
チックパックに入れる
遺伝子診断キット
「プラムポックスウイルス検出キット Ver.2 for Turbidimeter」
抗体診断キット
「プラムポックスウイルス イムノクロマト」
2.抽出液1.3 mlを入れる
(スポイトで2回分)
4.抽出液に漬けた爪楊枝を チューブ内の検査液に浸す
4.抽出液0.65 mlチューブに移す 5.試験紙を抽出液に15分浸す
5.濁度測定装置を用いて 65℃で30分反応させる 3.パックの口を閉じて
葉をすり潰す
共通工程遺伝子診断︵
30
分︶抗体診断︵15
分︶非感染 感染
非感染
control PPV
感染 濁度が上昇すれば陽性
ラインが二本出れば陽性 一本出れば陰性 図−2 植物粗汁液を利用した遺伝子診断・抗体診断キットによる診断手順
共通のテンプレートを用いて1時間以内にRT―LAMPおよびイムノクロマトによる診断が可能.