国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門生産・流通研究領域 病害ユニット ミニ特集:PPV(ウメ輪紋ウイルス)の現状と対策
41 各種核果類果樹におけるPPVによる病徴
種の
ʻ南高ʼ
では著しい病徴が葉に現れ,果実の外観にも 影響するため,果実生産への被害リスクを考慮した対処 が必要である。2 ヨーロッパスモモ
接ぎ木接種当年に
ʻスタンレーʼ
の葉に病徴と考えられ る黄色汚斑の発生が認められ,イムノクロマト検定でも 陽性となった。接ぎ木接種の約3
か月後には病徴が現れ,供試した核果類果樹の中では病徴発現までの期間が最も 短かった。ʻプレジデントʼにおいても輪紋症状が観察さ れた(図―
3 ,
口絵③)。一方,ʻプレジデントʼの果実に果 皮の着色ムラと果実表面の凹凸が観察され(図―4,口絵④)
,これらの症状を呈した果実はいずれもイムノクロ
マト検定でPPV
陽性となった。果実におけるこれらの 外観異常はPPV
の感染に起因するものと考えられるが,調査果実数が少ないため,継続した観察が必要である。
以上から,国内に存在する
PPV
株はヨーロッパスモモ の果実生産に被害を及ぼす可能性が高いと考えられた。3 ニホンスモモ
接ぎ木接種から
5
年以上経過しても供試品種ʻ大石早
生すももʼおよびʻソルダムʼ
の葉にPPV
の感染に起因す ると考えられる症状は観察されない。しかし,RT―PCR法や
RT―LAMP
法によってPPV
が検出されることから,これらのニホンスモモ品種では葉に症状を現さない可能 性が高い。
RT
―LAMP
法やRT
―PCR
法ではPPV
陽性と なるが,一部の葉から検出されるだけであり,樹体内で ウイルスの局在性が高いか,ウイルス濃度が全体的に低 いのではないかと考えられる。一方で,ʻ大石早生すももʼ に結実した果実において,果面に大型の輪紋症状と果面 の凹凸症状が認められた(図―5 ,口絵⑤)。大型の輪紋
症状部位と他の見かけ部位をイムノクロマト検定してみ ると,輪紋部位は明らかにPPV
陽性と判定できること から,輪紋部位ではウイルス濃度が高まっていることが 図−2 ʻ南高ʼの果実における輪紋症状図−1 ʻ南高ʼの葉における輪紋症状 図−3 ʻプレジデントʼの葉における輪紋症状
図−4 ʻプレジデントʼ果実の輪紋様症状および凹凸症状
示された。果実に発症するまでには
5
年以上の期間が必 要である可能性があり,また,年を経るごとに重症化し ている可能性もあることから,今後の継続した観察と調 査が必要であると考えられる。4 モモ
接ぎ木接種から
5
年以上経過してもʻあかつきʼ,ʻ白鳳ʼ
およびʻ川中島白桃ʼ
の各品種の葉にPPV
の感染に起因 すると考えられる症状は観察されない。ただし,台木部 から伸長した新梢の葉において,葉脈に沿ったモザイク 症状や奇形等が観察され(図―6,口絵⑥),これらの葉
ではイムノクロマト検定でもPPV
の感染を確認できた。モモの各新種の葉について
RT
―PCR
法で検定すると,一部の葉で陽性となるが,検出されない葉も散見され る。ニホンスモモと同様に,樹体内でのウイルスの局在 性が高いか,ウイルス濃度が全体的に低いのではないか と考えられる。一方,果実については,ガラス室内で管 理している影響か着果させることが難しい。ʻあかつきʼ で着した果実では,果頂部が尖る果形異常が認められる ものがあり,イムノクロマト検定で陽性を示した。しか し,ガラス室内での着果が難しく,再現できていないた め,ウイルス症状であるかどうか不明である。少なくと も試験に使用している
3
品種では,葉の症状は確認され ていないが,ニホンスモモのように葉では無症状であっ ても果実に発症することもあるため,被害リスクを評価 するためにはさらに調査が必要である。5 アンズ
ʻ信州大実ʼ
では,接ぎ木接種した翌年に,輪紋症状が 葉に発症し,イムノクロマト法による検定でPPV
の感 染が確認された。その後もごく少数の葉にPPV
に起因 すると思われる軽微な症状を発症している(図―7,口絵⑦)。一方,ʻ平和ʼでは,接ぎ木翌年に,葉に輪紋やモ ザイクを発症し,無病徴葉からもイムノクロマト法で
PPV
が検出された。さらに接種3
年目には,葉に凹凸 を伴った激しいモザイク症状,輪紋,縮葉の各症状が観 察された。その後,目立った症状は現れなくなった。こ れらから,アンズでは感染初期にやや激しい症状を発症 するものの,その後はほとんど無病徴に近い状態となる 可能性が示された。6 甘果オウトウ
接ぎ木による接種が成立しなかったため,ʻ佐藤錦ʼの 実生
20
個体にアブラムシ媒介によりPPV
を接種し,感 染の可否および病徴の確認を試みた。接種3
か月後の各 種検定で1
個体が陽性となり,甘果オウトウにも感染す る可能性が示された。しかし,翌年に同じ個体を再調査 し た と こ ろ,PPV
は 検 出 さ れ ず,我 が 国 に 発 生 し たPPV
のオウトウに対する感染性および病原性について は,現在のところ明らかでない。図−5 ʻ大石早生すももʼの果実における輪紋様症状と凹凸症状
図−6 ʻあかつきʼ台木葉の退緑モザイク症状
図−7 ʻ信州大実ʼの葉における軽微な輪紋症状
43 各種核果類果樹におけるPPVによる病徴
お わ り に
2009
年から国内で栽培されている主要な核果類果樹 におけるPPV
感染による被害リスクについて調査して きた。本稿で示した病徴やそれらに基づいた被害リスク はガラス室内での調査によるものであり,野外では異な る結果となることも考えられる。しかしながら,ウメに 加え,ニホンスモモやヨーロッパスモモの果実にも輪紋 症状や奇形症状が現れ,PPVがこれら樹種の果実生産 に被害を及ぼすリスクがあることが示された。現在,農 林水産省では国内からの根絶を目指した防除を実施して おり,早期に根絶が達成されることを願いたい。これら一連の調査は農林水産省の「新たな農林水産政
策を推進する新技術開発事業」および「農林水産業・食 品産業科学技術研究推進事業」において実施されたもの である。
引 用 文 献 1) IPPC(2016): ISPM27 DP2 : 1〜15.
2)加藤綾奈・星 秀男(2013): ウメ輪紋ウイルス根絶を目指し た暫定マニュアル(農研機構果樹研究所編),農研機構果樹 研究所,茨城,p.32.
3) LEVY, L. and A. HADIDI(1994): Bulletin OEPP/EPPO Bulletin 24 : 595〜604.
4) NAKAUNE, R. and M. NAKANO(2006): J.Virol. Meth. 134 : 244〜 5)中畝良二ら(2015)249. : 樹木医学研究 19 : 25〜28.
6)島根孝典(2013): ウメ輪紋ウイルス根絶を目指した暫定マニュ アル(農研機構果樹研究所編),農研機構果樹研究所,茨城,
p.23〜29.
7) WETZEL, T. et al.(1991): J.Virol. Meth. 33 : 355〜365.
登録が失効した農薬
(28.11.1〜11.30)
掲載は,種類名,登録番号:商品名(製造者又は輸入者)登録失効年月日。
「殺虫剤」
NAC水和剤
5133:ホクコーミクロデナポン水和剤85(北興化学工業)
16/11/1
ダイアジノン粒剤
10691:日農ダイアジノン粒剤5(日本農薬)16/11/8
エチルチオメトン粒剤
13810:ダイシストン粒剤(バイエルクロップサイエンス)
16/11/28 ホサロン乳剤
13836:大塚ルビトックス乳剤(OATアグリオ)16/11/28
「殺虫・殺菌剤」
ジノテフラン・バリダマイシン粉剤
22052:ホクコーバリダスタークル粉剤DL(北興化学工業)
16/11/14
「殺菌剤」
トリフルミゾール水和剤
19469:ヤシマトリフミン水和剤(協友アグリ)16/11/9 ジラム・チウラム・メパニピリム水和剤
19101:プラウ水和剤(クミアイ化学工業)16/11/28 プロシミドン・マンゼブ水和剤
15626:ホクコージマンレックス水和剤(北興化学工業)
16/11/30
「除草剤」
ピリミスルファン・フェントラザミド粒剤
22807:ヤイバ1キロ粒剤(クミアイ化学工業)16/11/9 セトキシジム乳剤
16228:ヤシマナブ乳剤(協友アグリ)16/11/9 イマゾスルフロン・エトベンザニド・ダイムロン粒剤
19099:ヤシマキックバイ1キロ粒剤(協友アグリ)
16/11/28
は じ め に
2009
年に国内でウメ輪紋病が発見され,その根絶に 向けた取り組みが直ちに開始された。樹病の場合には,関係する宿主植物をすべて伐採すれば病気を根絶するこ とができる。しかし,現実には伐採や薬剤防除を実行す る際には様々な意味でコストが発生する。一方,病気を 国内から根絶できない場合には,我が国は植物検疫上の
「汚染国」となる。その場合に被る恒久的なコストも考 慮して,いま実行すべき対処法を適切に決める必要があ る。本稿では,どのような対策を行えば根絶が達成でき るかについて,統計学的な面から議論を行いたい。説明 の便宜上,本稿では,感染した樹を「感染樹」と呼び,
感染後に潜伏期を過ぎて目視で発病を確認できる感染樹 を「病樹」と呼んで区別することにする。潜伏期間は