1.1 分析の背景
近年、電気通信サービスを巡る環境は著しい変化を続けている。移動系通信ネットワークに おけるLTEやBWA等の超高速ブロードバンド提供の一般化、端末におけるスマートフォン、タ ブレットPC等の高機能機種の普及、多様なコンテンツ、アプリケーション等のマルチプラット フォーム化等を背景に、用途に応じて単体のみではなく、複数のネットワーク、端末、サービ ス等を組み合わせて利用する姿が日常的にみられるようになっている。
また、ビジネスモデルも従来の音声通信、データ通信の個別サービスから、ドコモ光、au スマートバリュー、SoftBank光等の固定と移動等の組合せに代表される連携サービスの提供へ と大きく様変わりしてきている。更に、コンテンツ、SNS、検索、動画配信や音楽配信等のプラ ットフォーム、端末といったネットワーク以外の上位下位レイヤーのサービスや他業種との業 務提携等も積極的な取組が進められている。
このような状況を踏まえ、経年における各通信サービスの利用動向や、上位レイヤー利用と の相関性等を把握する観点から、2011年度から京都大学大学院経済学研究科の依田高典研究室 との共同で「固定ブロードバンド・モバイルインターネットの上流サービス利用分析」を継続 的に実施しており、本分析は当該調査結果を踏まえたものである。
なお、移動系通信の高速ブロードバンド化の進展に伴い、固定系通信を利用せず、移動系通 信のみを利用する者が増加している状況を踏まえて、前年度(2013年度)から、調査対象とし て同対象者を加える形で拡充を行った。具体的には今年度(2014年度)は、従来の調査対象で ある「移動系通信・固定系通信の両サービスを利用する者」(n=2,129)に、「固定系通信を使わ ない、移動系通信サービスのみの利用者」(n=1,037)を加えて調査・集計・分析を行っている。
【図表Ⅰ-補 1】 京都大学大学院経済学研究科依田高典研究室との分析協力の推移
1.2 調査・分析手法
本分析では、移動体通信サービスの利用者について、ネットワークレイヤーにおける消費者 調査の結果について述べた後、下位レイヤー(端末レイヤー)におけるスマートフォンの普及 に関する消費者調査の結果について述べ、続いて上位レイヤー(コンテンツ・プラットフォー ムレイヤー)における消費者調査の結果を述べる。
なお、分析に当たっては、京都大学大学院経済学研究科依田高典研究室を中心に、東京経済 大学経済学部黒田敏史研究室、静岡大学情報学部髙口鉄平研究室の協力により実施している。
2 移動系通信市場の上流サービスの利用分析 2.1 アンケート結果における利用者実態
(1) 利用者の移動系通信に関する選択
移動系通信の種別選択については、3GからLTEやBWAへの移行が過去4年で急速に進展し
ており(2011年度2.1% → 2014年度64.0%)、超高速ブロードバンドへの移行がみられる。
一方でPHSについては、多少の変動はありつつも、過去5年はほぼ横ばい(2010年度1.7%
→2014年度1.4%)で推移しており、一定規模の利用が継続している。
移動系通信事業者の選択に関して、「最も良く利用するサービス」として利用者から回答の
あった事業者をシェアの推移からみた場合、NTTドコモ、KDDI及びソフトバンクモバイルの三 事業者のシェアは、多少の変動はありながらも、おおむねそれぞれ横ばい傾向を示している。
なお、これはあくまでアンケートによる限定された結果であり、実際のシェアと必ずしも一 致していない点には留意が必要である。
【図表Ⅰ-補2】 移動系通信の種別、事業者選択別の利用状況の推移
出所:競争評価2005~2014利用者アンケート
(2) 移動系通信端末の端末形態ごとの利用状況
利用者が現在利用している端末について、端末形態別(従来型携帯電話、スマートフォン、
タブレット、データ通信端末の別(複数回答可))の利用状況を尋ねたところ、スマートフ ォンの利用率が 53.3%(2013 年度 46.5%)であり、従来型端末の利用率の 46.8%(2013
年度59.9%)を超える結果であった。また、最もよく利用している端末についても、スマー
トフォンが51.2%で最多の回答を得ており、スマートフォンが利用の中心となっている状況 がうかがえる。また、タブレット端末を最もよく利用していると回答した者は、今回は3.6%
(2013年度0.9%)と伸びを見せていることから、利用者の用途に応じた端末選択が広がっ ているのではないかとの推測が可能である。
事業者ごとに、従来型端末、スマートフォン、タブレット端末、その他の端末形態の利用 状況をみると、NTTドコモでは、従来型端末利用者が最多(47.1%)、タブレット(41.8%)
とスマートフォン(39.1%)はほぼ同程度であるのに対して、KDDIとソフトバンクモバイル はそれぞれスマートフォンが最多(KDDI:30.6%、ソフトバンクモバイル:27.2%)であり、
事業者別の利用実態が異なる状況がうかがえる。
スマートフォン・タブレットを使用OSのシェアからみると、スマートフォンではAndroid とiOSの上位二つのOSが市場の98.6%(2013年度96.7%)、タブレットではAndroidとiOS の上位二つのOSが市場の91.0%(2013年度58.8%)を占めており、いずれも両OSによる 寡占化傾向がうかがえる。
【図表Ⅰ-補3】 端末形態ごとの利用状況、事業者シェア、OS シェア
出所:競争評価2014利用者アンケート
(3) 移動系通信端末の用途別の利用意向
移動系通信端末の利用用途について、どの端末でどのようなサービスを利用したいかを尋 ねたところ、従来型端末では、通話43%(2013年度49%)、携帯メール52%(2013年度56%)
であり、他のサービスに比べると突出して高い利用意向率であった。この2つのサービスは 対前年度比で微減にとどまることから、利用習慣が定着したサービスが継続利用される様子 が、また他の比較的新しいサービスでの利用率の伸び悩み(例:SNS 2013年度3%→ 2014
年度2%、オンラインショッピング 2013年度2%→ 2014年度2%)からは、従来型端末で
は、新規サービスの利用が広がっていないとの様子が、それぞれうかがえる。
スマートフォンは、通話(34%)や携帯メール(37%)のほか、SNS(42%)、地図(52%)、 音楽(42%)、スケジュール(41%)、Web/PCメールの閲覧(41%)など、幅広いサービスで 一定の利用意向率を示しており、これらのサービスがスマートフォンを中心に利用されてい る様子がうかがえる。
タブレットでは、スマートフォンで利用意向率の低い、電子書籍・コミック購読(スマー
トフォン15%、タブレット41%)、オフィスドキュメントの閲覧・作成(スマートフォン14%、
タブレット31%)の利用意向率が高い。また、Web閲覧(34%)も一定の利用意向率を示し ている。一方で、従来型端末で利用意向率の高い、通話(5%)や携帯メール(2%)のサー ビスは圧倒的に低い数値を示している。
各サービス中、パーソナルクラウド(53%)、オフィスドキュメントの閲覧・作成(54%)
の利用については、「どれも当てはまらない」との回答が過半数を占めた。このように各サー ビスで端末による利用意向率が大きく違う結果から、移動系通信端末のみではなく、固定系通 信も含めて用途に応じた使い分けが進んでいるのではないかとの推察が可能と思われる。
【図表Ⅰ-補4】 用途別にみた移動系通信端末の利用意向
出所:競争評価2014利用者アンケート
(4) 移動系通信端末の組合せ保有の意向
移動系通信端末の多様化に伴い、いずれかの端末を1台だけを保有するのではなく、複数 の移動系通信端末を保有、用途に応じて使い分けて利用する者が出ていることから、端末の 保有意向を尋ねたところ、複数台持ちを希望する者が増えている(2013年度38% → 2014年
度42%)一方で、1台持ちを希望する者が減っている(2013年度50% → 2014年度47%)
との結果が示された。
また、移動系通信端末について、どの端末とどの端末を組み合わせて保有したいのか等の 意向を尋ねたところ、
・ 従来型端末+スマートフォンは横ばい(2013年度11% → 2014年度10%)、
・ 従来型端末+タブレットは増加(2013年度13% → 2014年度15%)、
・ スマートフォン+タブレットは増加(2013年度12% → 2014年度15%)
等との結果を得た。この状況からは、複数台利用が定着しつつあること、利用端末の選択が 多様化している様子がうかがえる。
【図表Ⅰ-補5】 移動系通信端末の組合せ保有の意向
出所:競争評価2013・2014利用者アンケート
2.2 移動系通信における上流サービスの利用分析
移動系通信における上流サービスを、メールサービス、検索サービス、SNS、電子書籍スト ア、動画サイト、音楽サービス、アプリマーケット、決済サービス、個人向けクラウド及び 地図サービスに分類した上で、各サービスの利用状況について尋ねたところ、回答者全体で 利用率が過半数を超えたのは、メールサービス(93.3%)、検索サービス(66.8%)及び地図 サービス(52.7%)の三サービスのみであり、その他のサービスでは利用率が半数未満との 結果であった。
一方、スマートフォン利用者に限定した場合の上流サービスの利用率をみると、地図サー ビスが77.3%、アプリマーケットが72.2%、動画サイトが71.2%、SNSが70.8%であり、端 末を限定しない場合に比べて高い利用率を示していた。また、スマートフォン・タブレット のOS 別の利用率をみた場合、Android 端末の利用者に比べて、iOS端末の利用者の方が、多 くのサービスで高い利用率を示していた。
なお、上流サービスの利用が通信事業者の選択に影響を与えるのではないかという仮説に 対しては、多くの移動系通信端末やサービスが複数事業者から提供されるようになった現状 を踏まえれば、利用者は単に嗜好で端末やサービスを選択しているに過ぎず、ネットワーク 選択には影響を与えていないのではないかとの指摘が、競争評価アドバイザリーボードの構 成員から行われている。
【図表Ⅰ-補6】 移動系通信端末からの上流サービスの利用状況
出所:競争評価利用者2014アンケート