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処置による二次的影響の可能性がある場合の新たな対策手法 3-1. 処置による二次的影響に関する問題点と事前対策手法

本節においては、処置効果の対象毎の安定性条件(SUTVA)のうち処置による二次的影 響の不存在性(SUTVA-NI)に問題を生じる可能性がある場合について、拡張した固定効果 モデルを用いて問題点の所在を明らかにするとともに、実験的手法を用いる場合での当該 問題への典型的な事前対策手法であるHudgens and Halloran(2008)*209による方法論と その限界について議論する。

3-1-1. 処置による二次的影響に関する議論の前提と説明に使用するモデル (式3-1-1-1参照)

最初に、処置効果の対象毎の安定性条件(SUTVA)のうち処置による二次的影響の不存 在性(SUTVA-NI)について議論するために用いるモデルについて説明する。

処置による二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)に問題を生じる場合について議論するた めには、2-1-1で説明した固定効果モデルを更に政策措置などの処置による二次的影響に よる部分を誤差から区分して明示的に取扱えるよう拡張することが必要である。

仮に、処置による二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)に問題を生じ政策措置などの処置 による二次的影響が他の処置群・対照群の対象に及んでいる場合には、時点tにおいて処置 群又は対照群の対象iについて、同一時点での処置群の対象k(i≠k)から処置の直接的効果 の大きさに比例した二次的影響による間接的効果(αki(t+u)・YFk(t+u))が処置群及び対照 群の対象に発生しているもの*210と考えられる。ここで二次的影響による間接的効果の係 数αkiは直接的効果の大きさを超えることはないと考えられるため、通常は-1と1の間に ある(-1≦αki≦1, ∀k,i)ものと考えられる。

以下本節においては2-1-1で説明した固定効果モデルを拡張し、当該政策措置など処置 による二次的影響部分を誤差から明示的に区分して取扱ったモデルを説明に用いることと する。

また問題の複雑化を避けるため、以下本節での議論においては各対象の処置の二次的影 響による間接的効果(αki(t+u)・YFk(t+u))について、定数項や時間変動部分など他の項及 び誤差から独立であると仮定する。また、二次的影響に起因した三次的影響など高次の影 響については当該影響の連鎖が均衡に達しており全て二次的影響の一部として扱うことが

できるものと仮定する。

[式3-1-1-1. 政策措置などの処置による対象間での二次的影響(SUTVA-NI)の問題を 考慮した固定効果モデルの拡張]

1) 政策措置Fの処置実施前の時点の対象 ((Di=1,0),Ti=0,Si=0)

Yi(t-s) = Yic + Ya(t-s) + Ybi(t-s) +εi(t-s) "式301"

2) 政策措置Fの処置実施後の時点での処置群のうち、処置が直接実施されかつ他の処置群の対象からの 二次的影響がある対象i (Di=1,Ti=1,Si=1)

Yi(t+u) = Yic + Ya(t+u) + Ybi(t+u) +YFi(t+u) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)) +εi(t+u)

"式302"

3) 政策措置Fの処置実施後の時点での処置群のうち、処置が直接は実施されていないが他の処置群から の二次的影響がある対象i (Di=1,Ti=0,Si=1)

Yi(t+u) = Yic + Ya(t+u) + Ybi(t+u) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)) +εi(t+u)

"式303"

4) 政策措置Fの処置実施後の時点での対照群のうち、処置を受けた処置群の対象からの二次的影響が 及んでいる対象i (Di=0,Ti=0,Si=1)

Yi(t+u) = Yic + Ya(t+u) + Ybi(t+u) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)) +εi(t+u) ( 3)と同じ )

"式304"

5) 政策措置Fの処置実施後の時点での対照群のうち、処置の二次的影響が及んでいない対象i (Di=0,Ti=

0,Si=0)

Yi(t+u) = Yic + Ya((t+u) + Ybi(t+u) +εi(t+u) "式305"

Yi(t) 時点tにおける対象iでの分析対象とする観察指標 t, t-s, t+u 時点t, 処置実施前の時点t-s, 処置実施後の時点t+u

Di 処置群・対照群の選択ダミー (処置群 Di=1, 対照群 Di=0)

Ti 処置の実施・不実施の選択ダミー (実施 Ti=1, 不実施 Ti=0) Si 処置の二次的影響の存在・不存在ダミー (存在 Si=1, 不存在 Si=0)

Yic 対象i毎に個別的な定数項

Ya(t) 時点tにおける対象全体に共通的な時間変動に相当する部分

Ybi(t) 時点tにおける対象i毎に個別的な時間変動に相当する部分 YFi(t) 処置実施後の時点tにおける処置群の対象iでの政策措置Fの効果

YFk(t) 処置実施後の時点tにおける処置群の対象k(k≠i,Tk=1)での政策措置Fの効果 αki(t) 時点tにおける処置群の対象k(k≠i,Tk=1)から対象iへの二次的影響に関する係数

(-1≦ αki ≦1, ∀k,i) n, m 全体の試料数n (2 << n), 処置群の試料数m (0< m <n) εi(t) 時点tにおける対象iでの誤差項

3-1-2. 横断面前後差分析(DID)と処置による二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)が 成立たない場合の問題点

(式3-1-2-1参照)

1) 処置による二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)が成立たない場合

問題の所在を明確化させるため、3-1-1で拡張した固定効果モデルを用いて処置の二次 的影響による間接的効果が存在し処置による二次的影響の不存在性(STUVA-NI)の前提条 件が成立していない状態において、敢えて通常の横断面前後差分析(DID)を試行した結果 を式3-1-2-1に示す。

当該結果は式3-1-2-1中の"式315”において明らかなとおり、処置による二次的影響の

不存在性(SUTVA-NI)が成立っていない状態で通常の横断面前後差分析(DID)を行った場 合には、分析の目的とする処置効果に相当する政策措置Fの直接的効果の平均値(Σi(YFi(t +u))/m)に対して、その二次的影響による間接的効果(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))の処置 群と対照群での平均値の差異分が加算されて推計結果に偏差として残留してしまうことが 理解される。

仮に処置群の対象iについて、他の対象kから受ける二次的影響による間接的効果を当該 対象iの直接的効果と識別せず「政策措置などの処置の(総)効果」と考えた場合であっても、

対照群に対する二次的影響による間接的効果(Σi(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))/(n-m)|Di=0) に相当する部分はなお偏差として推計結果に残留してしまうことが理解される。

2) 処置による二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)が成立たない場合への対策の方向性 当該結果から、当該処置による二次的影響に起因した偏差の問題への対策として、事前 に二次的影響の有無が異なる群を設けて結果を観察するか、あるいは事後に二次的影響の 程度を個別に推計して補正するという2つの方向性があることが理解される。

a. 事前に処置群・対照群内の対象毎の二次的影響の有無別に群を分割しておく方法

処置群内において二次的影響のみが存在する対象と二次的影響による間接的効果が存 在しない対象("aki(t+u)=0")を実験設計段階などにおいて事前に識別・設定しておき、

これらの群の対象間での観察指標の差分をとることによって、二次的影響による間接的 効果(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))部分を推計する方法が考えられる。

b. 事後に対象毎の二次的影響の係数の情報から間接的効果を推計する方法

何らかの方法で事後的に対象i毎の二次的影響による間接的効果の係数(aki(t+u))を 識別して二次的影響による間接的効果(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))の部分を個別に推計す ることにより、処置による二次的影響による間接的効果部分を推計・補正する方法が考 えられる。

[式3-1-2-1. 処置による二次的影響の不存在性(SUTVA-NI)が成立たない場合での 通常の横断面前後差分析(DID)と偏差]

(処置群前後差)

Yi(t-s) |Di=1 = Yic +Ya(t-s) +Ybi(t-s) +εki(t-s) |Di=1 ”式306”

Yi(t+u)|Di=1 = Yic +Ya(t+u) +Ybi(t+u) +YFi(t+u) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u))

+εi(t+u) |Di=1 (k≠i) "式307"

△Yi(s',s)|Di=1 = Ya(t-s')-Ya(t-s) +Ybi(t-s')-Ybi(t-s) +εi(t-s') -εi(t-s) |Di=1 "式308"

△Yi(u,s)|Di=1 = Ya(t-u)-Ya(t-s) +Ybi(t-u)-Ybi(t-s) +YFi(t+u) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)) +εi(t-u) -εi(t-s) |Di=1 (k≠i)

(対照群前後差) "式309"

Yi(t-s) |Di=0 = Yic +Ya(t-s) +Ybi(t-s) +εki(t-s) |Di=0 "式310"

Yi(t+u)|Di=0 = Yic +Ya(t+u) +Ybi(t+u) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)) +εki(t+u) |Di=0 "式311"

△Yi(s',s)|Di=0 = Ya(t-s')-Ya(t-s) +Ybi(t-s')-Ybi(t-s) +εki(t-s') -εki(t-s) |Di=0 "式312"

△Yi(u,s)|Di=0 = Ya(t-u)-Ya(t-s) +Ybi(t-u)-Ybi(t-s) +Σk(αki(t+u)・YFk(t+u))

+εki(t-u) -εki(t-s) |Di=0 "式313"

(横断面前後差(DID))

E(△Yi(s',s)|Di=1 -△Yi(s',s)|Di=0)

= +Σi(Ybi(t-s'))/m -Σi(Ybi(t-s))/m |Di=1

*211 Hudgens and Halloran(2008) 参考文献105 を参照。

*212 Hudgens and Halloran(2008)においては、理論的考察に関するHalloran and Struchiner(1991・1 995)を具体的な実験設計のための方法論に展開し、更にSobel(2006) 参考文献103 による住宅補助の効果 の推計や、Ali他(2005)によるバングラデシュでのコレラワクチンの投与の効果の推計への応用について具体 的に議論をしている。

-Σi(Ybi(t-s'))/(n-m) +Σi(Ybi(t-s))/(n-m) |Di=0

~ 0 "式314"

E(△Yi(u,s)|Di=1 -△Yi(u,s)|Di=0)

= +Σi(Ybi(t-u))/m -Σi(Ybi(t-s))/m |Di=1 -Σi(Ybi(t-u))/(n-m) +Σi(Ybi(t-s))/(n-m) |Di=0 +Σi(YFi(t+u))/m

+Σi(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))/m |Di=1 (k≠i) -Σi(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))/(n-m) |Di=0

= +Σi(YFi(t+u))/m

+Σi(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))/m |Di=1 (k≠i)

-Σi(Σk(αki(t+u)・YFk(t+u)))/(n-m) |Di=0 ”式315"

Yi(t) 時点tにおける対象iでの分析対象とする観察指標 (観察可能)

△Yi(u,s) 時点t+uと時点t-sの間における対象iの観察指標の前後差 t, t-s, t+u 時点t, 処置実施前の時点t-s, 処置実施後の時点t+u

Di 処置群・対照群の選択ダミー (処置群 Di=1, 対照群 Di=0)

Yic 対象i毎に個別的な定数項

Ya(t) 時点tにおける対象i全体に共通的な時間変動に相当する部分

Ybi(t) 時点tにおける対象i毎に個別的な時間変動に相当する部分 YFi(t) 処置実施後の時点tにおける対象iでの政策措置Fの効果

YFk(t) 処置実施後の時点tにおける処置群の対象k(k≠i)での政策措置Fの効果 αki(t) 時点tにおける処置群の対象k(k≠i)から対象iへの二次的影響に関する係数

(-1≦ αki ≦1, ∀k,i) n, m 全体の試料数n (2 << n), 処置群の試料数m (0< m <n)

εki(t) 時点tにおける対象iでの誤差項

3-1-3. 事前対策としてのHudgens and Halloran(2008)による方法論と問題点 (図3-1-3-1、式3-1-3-1参照)

1-2-3で紹介したとおり、Hudgens and Halloran(2008)*211はHalloran and Struchi ner(1991・1995)の考え方を基礎として、処置による二次的影響が他の対象に及んでいる 可能性があり横断面前後差分析(DID)の前提条件のうち処置による二次的影響の不存在性 (SUTVA-NI)が成立しない可能性がある場合において、事前の実験設計によって当該問題 を回避するための実感的手法における方法論*212を提唱している。

以下当該方法論の概要、実用上の問題点及びその限界について説明する。

1) Hudgens and Halloran(2008)による方法論の概要

当該方法論は、実験的手法であって処置群・対照群の選択及び処置群の対象への処置の 実施の選択がランダム化により決定されており、かつ処置群の中でのみ二次的影響が生じ 得るが処置群と対照群の間には二次的影響が生じないよう措置されていることを前提とし た上で、対象を処置の実施の有無と二次的影響の有無に基づいた群を分けた複数種類の推 計を行うことによって、処置の「直接的効果」と「間接的効果」を識別し偏差のない政策措置 などの処置の効果の推計を可能とするものである。

*213 "Observatinal study/anakysis" が当該事後的な判別・選択に該当する典型的な場合である。

当該方法論の要点は、処置群の中で処置が実施されておらず二次的影響(「間接的効果」) のみが存在する対象と、政策措置の直接的・間接的影響のいずれもが存在しない対照群の 対象をそれぞれ独立した群として設定し、これらの間での観察指標の差分を分析対象とす ることによって二次的影響による間接的効果分を「間接的効果」として単離して推計する点 にある。

従ってHudgens and Halloran(2008)の方法論は、3-1-2.2)で述べた対策の方向性の うち「事前に処置群・対照群内の対象毎の二次的影響の有無別に群を分割しておく方法」に 該当するものと理解される。

2) Hudgens and Halloran(2008)による方法論の実用上の限界と問題点

1)で概略を説明したHudgens and Halloran(2008)の方法論は、事前の実験設計の段 階で予め群を分けておき、処置を実施しない処置群と対照群の間での処置の二次的影響の 有無を利用して偏差部分を推計することによって、政策措置などの処置の効果が何らかの 二次的影響を生じる場合においても偏差のない政策措置効果の推計を可能とするものであ り、概念上は極めて優れた方法論であると評価できる。

特にこの方法論は処置群・対照群の選択や処置群の中での処置の実施・不実施について多 数の試料を用いたランダム化による計画的実測ができる環境下では、当該方法論はほぼそ のまま実用的な実験設計手法として応用できる点が非常に重要である。

しかし、統計的(非実験的)手法への応用や実験的手法であってもランダム化を行うこと が困難な場合への応用を考えた際には、当該方法論にはなお下記のような問題点が存在し ており、これを実地で応用できる範囲・場面は限定されるものと考えられる。

a. 処置群・対照群及び処置実施対象の事前選択やランダム化抽出に伴う問題

現実の政策措置など処置効果の評価においては、災害対策や連鎖倒産対策など処置群

・対照群や政策措置による処置の実施対象を事前選択できない場合があり、実験的手法 に近い条件下で評価が行えるとは限らない問題がある。

政策措置などの処置の直接的な対象になった処置群は判別できることが多いものの、

対照群などについては分析対象とする観察指標が得られる対象の中から限られた情報の 下で事後的に判別・選択しなければならない場合*213がある。

また、規制政策・租税政策など政策の内容により政策措置などの処置の実施対象の要 件が予め厳格に定まっており、ランダム化などにより対象毎の処置の実施・不実施を選 択することが制度上困難な場合など、実験的手法を用いる場合であっても倫理上・制度 上の制約などからランダム化による対象の設定・抽出が困難な場合がある。

b. 対照群の存在と適格性・妥当性の問題

現実の事例においては、寡占的産業構造下にある財サービスの需給分析や二大政党の 政策変更と選挙での得票率分析など、政策措置などの処置の直接的な対象になった処置 群以外の全ての対象が処置群・対照群を問わず何らかの二次的影響を受けてしまってお り、二次的影響がない対照群が存在しない場合がある。

また、事後的に対照群を判別・選択した結果、平行推移性条件(CT・PT)など横断面前 後差分析(DID)の他の前提条件が満たされなくなってしまい、対照群としての適格性・

妥当性を有する対照群の対象が事実上なくなってしまう懸念がある。

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