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ドキュメント内 1 (ページ 51-84)

 

(1)凍結精子における細胞傷害と受精能低下との相関 

[目的]生命科学研究において遺伝子改変マウスは遺伝子機能解析や疾患モデルとして汎用されている。将

来的には 60 万系統の遺伝子改変マウスが作製されると予測されており、これらの膨大な数のマウスを効率 的に保存する技術の開発が求められている。現在、遺伝子改変マウス系統の効率的な保存法として、精子凍 結法が用いられているが、遺伝子改変マウスの主要系統である C57BL/6 マウスの凍結融解精子では、受精 能が極めて低い(0-20%)という問題を有している。そこで本研究では、凍結融解精子に認められる細胞 傷害に注目し、受精能低下との関係について検討を行った。 

[方法]凍結融解精子において受精能低下が認められる系統;  C57BL/6、BALB/c、受精能低下が認められ ない系統;  DBA/2N を用いて、新鮮精子、凍結融解精子の運動性、受精能、形態異常頻度の比較を行った。

形態学的観察は走査型及び透過型電子顕微鏡を用いた。また、先体に含有されるアクロシン(透明帯分解酵 素)が蛍光標識されて発現する acr3-EGFP-transgenic  mouse を用いて、凍結融解精子のアクロシンの挙 動を蛍光顕微鏡下で観察した。C57BL/6 凍結融解精子では、透明帯通過能を確認するために透明帯除去卵

(zona-free)を用いた体外受精も行った。 

[結果・考察]体外受精による受精率は、新鮮精子では 3 系統間に有意な差は認められなかったが、凍結融 解精子では DBA/2N(93.6%)を除く 2 系統(C57BL/6;  17.0%,BALB/c;  24.2%)で、新鮮精子に比べ 有 意に 受 精 率 の低 下 が 認 め られ た 。 凍 結融 解 精 子 の運 動 率 は 、全 て の 系 統で 新 鮮 精 子 に比 べ 低 下

(C57BL/6;  67.6%,  BALB/c;  43.4%,and  DBA/2N;  60.0%)したが、系統間に差は認められなかった。

形態学的観察では、C57BL/6 凍結融解精子において高頻度(83.7%)に形態異常が認められた。細胞傷害 は主に精子の頭部で高頻度(81.2%)に発現しており、特に先体頂端部原形質膜に著しい損傷が観察され た。一方、DBA/2N 凍結融解精子では、これらの形態異常は低頻度(10.2%)であった。acr3-EGFP  Transgenic  mouse 凍結融解精子で、高頻度にアクロシンの消失(fresh;  14.7%  vs.  frozen-thawed; 

50.9%)が認められた。また、zona-free  assay により、C57BL/6 凍結融解精子の透明帯の通過障害が受 精率の低下(zona-intact;  17.0%,  zona-free;  56.5%)に関与していることが示された。  以上の結果より、

C57BL/6 マウス凍結融解精子の受精能低下には、先体部分の原形質膜の傷害による酵素の漏出が関与して いる可能性が示唆された。 

 

(2)マウス精子における新規凍結保存液の開発 

[目的]近年,遺伝子改変マウスが実験動物として普及するに伴い,その飼育スペースの枯渇や増大するコ ストが大きな問題となってきている。この問題の一つの打開策として,遺伝子改変マウスの精子を凍結保存 する方法が挙げられるが,従来の中潟らの方法では,C57BL/6 系統をバックグラウンドにもつ遺伝子改変 マウス精子を効率的に保存することができない  (Nakagata,  2000)。そこで本研究では,C57BL/6 系統を も安定的かつ恒久的に保存することができる新規マウス精子凍結保存法の開発を行った。 

[方法]今回の研究には,最も精子凍結が難しい C57BL/6 系統と,比較的容易な DBA/2 系統,その中間 の性質を示す BALB/c 系統のマウスを用いた。体外受精には我々の研究室で調製した HTF 培地を用い,媒 精 10 時間後に Whole-mount 標本を作製して,体外受精率を算出した。また,媒精 24 時間後に 2  cell  stage の胚を偽妊娠雌に移植した。 

[結果・考察]凍結融解後の体外受精率は,従来法ではそれぞれ C57BL/6J;  10.8 4.5%  (n=5),

DBA/2N;  82.2 10.7%  (n=5),BALB/cA;  41.2 21.5%  (n=5)であるのに対し,新規マウス精子凍結保 存液を用 いた場 合は, それ ぞれ C57BL/6J;  51.5 7.0%(n=5), DBA/2N;  88.9 10.4%  (n=5),

BALB/cA;  55.4 24.2%  (n=5)であった。また,新規マウス精子凍結保存液を用いて凍結した C57BL/6 系統マウス精子由来受精卵の移植後の産仔率は,60.1%であった。 

このように,本研究で開発した技術を用いることで C57BL/6 系統を含む様々な系統のマウス精子を安定的 かつ効率的に保存できることが明らかとなった。なお、本研究の成果については,特許出願済みである。 

   

⑤株式会社三和化学研究所「チンパンジーの ES 細胞樹立に関する共同研究」920,000 円. 

 

(1)人工膣によるチンパンジー精液の採取 

[目的]チンパンジーは、遺伝学的にヒトに一番近い大型類人猿であることから、我が国では、主に認知科学 などの分野で盛んに研究が行われ、きわめて大きな成果を挙げている。また、近年においては、ウイルス性 肝炎研究、医薬品の評価研究、遺伝子・ゲノム関連の研究に用いられている。しかしながら、その一方では、

チンパンジーは絶滅に瀕している野生動物であるにもかかわらず、生殖生理学的な研究や生殖細胞の保存は、

あまり成されていないのが現状である。そこで、私たちは、現在までに 9 頭の雄チンパンジーから様々な方 法で精子を採取、凍結保存を行ってきた。本研究では、長期間の訓練により人工膣に馴らせ、これを用いて 採取した精子の凍結保存を試みた。 

[方法]三和化学研究所熊本霊長類パークで飼育中の雄 3 頭から人工膣法により射出精液を採取した。すなわ ち、人工膣には、羊・山羊用の人工膣(西川式  緬山羊人工膣:富士平工業)を用い、訓練を重ねることに より、勃起したチンパンジーのペニスを 37℃に保温した人工膣内に導き、射精させた。採取した精液は、

等量の培養液で懸濁,37℃の輸送用容器を用いて約 1 時間かけて熊本大学まで輸送した。到着後,遠心

(400 g)することにより希釈液を除去した。精子は、Gabriel  et  al.の方法(2000)に従って凍結保存 した。融解は,約 1-4 週間後に行い,目視により運動精子の割合および活力を算出した。また,ハムスタ ーテストを行ない,媒精後 24 時間のハムスター卵子を固定,染色することで侵入した精子を観察した。 

[結果・考察]すべての個体において,融解後の精子活力は良好であった。また、すべての個体の凍結精子は、

ハムスター卵子へ進入可能であった。 

以上のことから,チンパンジーを訓練することにより、人工膣を用いた精液の採取は可能であり、その射出 精子は良好に凍結保存できることが明らかとなった。今後、人工授精により、産子の作出を試みる予定であ る。 

 

(2)チンパンジー凍結射出精子からの受精卵の作出   

[目的]チンパンジーは、遺伝学的にヒトにもっとも近く、人類の進化を知る上で非常に重要な類人猿であ る。しかしながら現在、チンパンジーは野生環境下において世界的な絶滅の危機に瀕しており、その個体数 の保護が必要とされているのが現状である。このことから、チンパンジーにおける生殖工学技術の確立およ び生殖生理学的研究は、野生動物としての保護への貢献につながるだけでなく、その個体数の増加によりヒ トに関する遺伝学的基礎研究に大いに役立つと考えられる。私たちは、チンパンジー射出精子を凍結保存す ることにすでに成功しており、現在それらの融解後の受精能について詳細に検討している。本実験では、凍 結射出精子をチンパンジー卵子と受精させることで、凍結射出精子の受精能および受精後の胚の発生能につ いて検討した。 

[方法]精子は、Gabriel  ら(2000)の方法において凍結保存された射出精子および新鮮射出精子を用い た。凍結精子は、37℃、10 分間湯温中で融解し、その後遠心洗浄した。卵子はホルモン投与により卵胞の 発育を誘起し、その後超音波画像診断装置を利用した経膣採卵法により採取された。得られた精子および卵 子は、体外受精および卵細胞質内精子注入法(ICSI)を用いて受精させた。授精後 15~17 時間に前核期卵 を確認、選別した。得られた胚は、その後も培養を続け胚盤胞期まで経時的に観察を行った。 

[結果・考察]体外受精において受精させた卵子においては、新鮮精子および凍結精子ともに 80%以上の 卵子が前核期卵に発生した。さらに得られた前核期卵の約 60%が胚盤胞期まで発生した。ICSI により受精 させた卵子においては、精子導入後ほとんどの卵子が生存し、70%以上の卵子が前核期卵に発生した。こ れらの胚を培養した結果、新鮮精子で約 50%、凍結精子で約 20%の胚が胚盤胞期にまで発生した。以上の 結果より、チンパンジー凍結射出精子は、融解後もその運動性および受精能を保持しており、体外での受精 が可能であることが示された。また、得られた胚においても体外で高率に発生することが示された。 

 

(3)チンパンジー成熟(MII 期)卵における細胞質の形態異常 

[目的]胚性幹細胞の樹立に使用するため、GnRH アゴニスト(Lupron,  武田)と hMG(Humegon,  オルガ ノン)、hCG(Pregnyl,  同左)を併用した卵胞刺激法により採取された、チンパンジーの成熟(MII 期)未受精 卵 46 個(使用した雌チンパンジーは 5 頭、12~32 歳)について、細胞質の状態を光学顕微鏡的に評価し、

培養成績への影響を比較した。 

[方法]受精卵は、顕微授精後 12−14 時間で前核を確認し、10%SPS(Serum  Protein  Substrate,SAGE  BioPharma)を添加した培地(Quinnʼs  Advantage  Cleavage  Medium および Blastocyst  Medium,同 上)にて胚盤胞まで培養した。気相条件は 5% CO2,5%O2, 90% N2 とした。細胞質形態の分類は、ヒト未 受精卵についての報告(Van Blerkom and Henry,1992)に準じて行った。 

[結果・考察]5/46 は細胞質がほぼ均一な正常卵と思われ、3/5 が胚盤胞まで発生し、89%(41/46)は 軽度~重度の異常が見られ 9/41 が胚盤胞まで発生した。顕微授精による授精率は 74%(34/46)であった。

ヒトの場合と比較して、我々のチンパンジーでは高頻度に細胞質の異常が見られ、形態的にもヒトの体外受 精時の未受精卵に観察される所見と酷似していた。調査に使用した未受精卵数は限られたものであるが、ヒ トと同様、こうした細胞質の所見は各卵母細胞および、各個体に特異的であり、胚盤胞への体外培養の結果

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