検出 数 nL 注入
陽極 陰極
キャピラリー電気泳動法の概略
・ 毛細管を用いて溶液中の金属イオンを分離する方法
・ 簡易な装置、試料量少ない、廃液量少ない
図2.2.2-1 キャピラリー電気泳動法の概要
具体的な操作としては,キャピラリーの両端を泳動液槽に浸し,片方から加圧してキャピラリ ー内に泳動液を充填し,その後,一定量の試料溶液をキャピラリーに注入してから,泳動液槽に 浸した電極に10~30 kVの電圧を印加する。キャピラリー内を金属イオンが移動し,金属イオン の移動度の違いによって異なる金属を分離することが可能となる。金属イオンが分離されるとき のキャピラリー内のイメージ図を 図2.2.2-2に示す。
2.2-8
試料成分
(+イオンの場合)
②電気浸透流(常に-極向き)
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+
-+ 極 --極
①静電的な力 キャピラリーの表面
(-に帯電)
キャピラリー(毛細管)の内部模式図
図2.2.2-2 キャピラリー電気泳動における分離のイメージ図
例えば,試料成分の金属イオンが+に帯電している場合には,静電的な力のため,試料成分は
-極へ引き寄せられる(①静電的な力)。また,キャピラリーの内壁は,-極に帯電しているため,
定常的に+極から-極への流れ(電気浸透流)が発生しており,試料成分は-極へ移動する(② 電気浸透流)。試料成分の金属イオンは,+の電荷が大きいほど速く移動し,イオンのサイズが小 さいほど速く移動するので,このような移動速度の違いによって,異なる金属イオンを分離する ことが可能となる。得られる電気泳動図の例を 図2.2.2-3に示す。
0.000 0.002 0.004 0.006
5 10 15 20 25 Migration time / min
Absorbance
0.000 0.002 0.004 0.006
0 5 10 15 20
Migration time / min
Absorbance
Eu Ho Ca
泳動時間 (min)
吸 光度
図2.2.2-3 電気泳動図の例(吸光検出器の場合)
試料溶液: [Eu], [Fe], [Al], [Ca] = 0.1 mM, [Ho] = 0.2 mM, [ABEDTA] = 1 mM, [borate] = 20 mM, pH
= 12, 泳動液: [borate] = 20 mM, [CO32-] = 20 mM, pH=12.3
この例は吸光検出を利用した場合の電気泳動図である。縦軸は吸光度,横軸は泳動時間(検出 される時間)を表しており,化学的性質の似ているランタノイド(Eu,Ho)についても分離でき ることを示している。このように,キャピラリー電気泳動法を利用することにより,簡易な仕組 みによって金属イオンの分離を行うことが可能である。その後,分離した試料を回収して放射線
2.2-9
測定を行うためには,目的とする成分を正確に回収する必要があり,泳動中に分離挙動をモニタ しながら回収操作を行うことが求められる。キャピラリー電気泳動法で一般的に用いられる吸光 検出による検出限界はppmレベルであり,例えば,評価対象核種のランタノイドのうち,152,154Eu
や166mHoのように安定同位体を有する核種については,安定元素を添加した試料溶液を調製する
ことによって,試料溶液中の金属イオン濃度を吸光検出可能な濃度範囲にコントロールすること が可能であるため,泳動中の分離挙動を容易にモニタすることができる。しかしながら,アクチ ニドのように安定同位体のない核種においては,安定元素を添加した試料溶液を調製することが できないため,試料溶液中に存在する微量の金属元素を高感度に検出する手法が求められる。ア クチニドを高感度に検出するためには蛍光検出が利用できる。蛍光検出を行うためのアクチニド 分離用試薬の例を図2.2.2-4に示す。
HN
O O
OH
HN S COOH
N N
COOH COOH
COOH COOH
M
+検出部位 金属結合部位
図2.2.2-4 アクチニド分離用試薬の例
アクチニド分離用試薬は,蛍光検出を行うための検出部位及びアクチニドイオンと結合するた めの金属結合部位から構成される。本検討では,検出部位には,高感度検出を実現するために量 子収率の高いフルオレセイオン骨格を有し,金属結合部位には,様々は金属イオンと結合する能 力を有する非環状型6座配位のエチレンジアミン四酢酸であるフルオレセイン-アミノベンジル エチレンジアミン四酢酸(以下,FTC-ABEDTAという)を利用した。FTC-ABEDTAを用いた蛍光 検出により得られる電気泳動図のイメージを図2.2.2-5に示す。
ML L
泳動時間
蛍光強度
M’L
異なる金属イオン(M、M’)が分離検出される様子
図2.2.2-5 アクチニド分離用試薬を用いた電気泳動図のイメージ
(2) キャピラリー電気泳動分離・回収装置
アクチニドの分離・回収を目的として整備したキャピラリー電気泳動分離・回収装置の概略図
2.2-10
を図2.2.2-6に,実際に設置した整備した装置の外観を図2.2.2-7に示す。
+極 -極
電極 電源
泳動液槽 キャピラリー
キャピラリー電気泳動分離・回収装置 泳動液(キャピラリー充填液)
移動度の違いにより 金属イオンが分離される
検出器 移動方向
キャピラリー内壁
放射線測定 電気泳動部
試料分取ステージ 回収部
ポンプ 分離用試薬(プローブL)
液体試料又は 試料溶液 固体試料溶解液
混合 M ML
図2.2.2-6 キャピラリー電気泳動分離・回収装置の概略図
図2.2.2-7 キャピラリー電気泳動分離・回収装置の外観
サンプルコレクタ 装置外観
電気泳動部(フード内に設置)
高圧電源 送液ポンプ
サンプルコレクタ制御盤
サンプルコレクタ
装置外観
電気泳動部
サンプル容器
電気泳動部
放射線測定
送液
サンプルコレクタへ 検出部モニタ
陽極 陰極
2.2-11
本キャピラリー電気泳動分離・回収装置の基本性能は以下の通りである。
キャピラリー材質 :溶融シリカ製
キャピラリーサイズ :内径50 μm,外径375 μm 電源 :電圧±30 kV,電流0.25 mA以上
:定電圧/定電流機能を有する 送液ポンプ :流量設定範囲0.001~0.999 ml/分
:最大吐出圧20 MPa
恒温槽温度範囲 :15~25 ℃(±2℃以内)を設定可能 恒温槽内サイズ :幅300×奥行300×高さ450 mm サンプル分取数 :60枚(25 mmφの測定用金属板)
分取設定 :時間にて設定可能 検出器励起波長 :488 nm
レーザーダイオード :20 mW以上
測定波長範囲 :515-700 nmを測定可能である 検出感度 :1.0×10-12 M以上(FITCの場合)
シングルノイズ比 :10以上(FITCの場合)
ベースラインドリフト :1%以下
本キャピラリー電気泳動分離・回収装置では,あらかじめ分離用試薬を添加して調製した試料 溶液をキャピラリー末端から一定量注入して電気泳動を行う。電気泳動を行う部分を恒温槽内に 設置することにより,一定温度において電気泳動を行う機能を有している。これにより,再現性 の高い電気泳動分離が期待できる。さらに,電気泳動による分離を行った後,陰極部に接続され た送液ポンプから回収用溶離液を流すことにより,電気泳動によって分離した試料を試料板に回 収する機能(サンプルコレクタ機能)を有している。これにより,試料の放射線計測を行うため の線源調製を簡易に行うことが可能となる。
(3) キャピラリー電気泳動分離・回収装置を用いた泳動試験
キャピラリー電気泳動法による化学分離・回収システムを確立するために整備したキャピラリ ー電気泳動分離・回収装置を用いた泳動試験を実施した。以下に検討項目を示す。
a) 分離・回収条件の検討
① 試料の逆流を防止するために,陰極部に接続した回収用キャピラリーの内径を調整した。
② 試料成分の泳動時間を適正化するために,陰極部に接続した送液ポンプの流速およびキャ ピラリーへの印加電圧を調整した。
③ 上記①②で決定した泳動条件を用いて電気泳動を行い,再現性を確認した。
④ 上記①②で決定した泳動条件を用いて,本装置の分離性能を確認した。
b) アクチニド分離用試薬の適用性確認
・アクチニド分離用試薬の本キャピラリー電気泳動分離・回収装置への適用性を確認するため
に,上記1)で決定した分離・回収条件に基づき,電気泳動後に試料を回収し,回収した試料
の放射線測定が可能であることを確認した。
2.2-12 1) 分離・回収条件の検討
① 回収用キャピラリー内径の決定
本検討で使用したキャピラリー電気泳動分離・回収装置のうち,電気泳動部分の概略を図2.2.2-8 に示す。
回収用溶離液
(ポンプで送液)
白金線
検出器(蛍光測定)
+極 -極
電極 電源
泳動液槽 分離用キャピ ラ リー
(内径:50μm) 移動方向
回収用キャピ ラ リー (内径:50μm→250μm) 陰極部
試料注入
電気泳動部
図2.2.2-8 電気泳動部の概略図
本装置は,一般的なキャピラリー電気泳動装置と異なり,陰極側に試料回収系を付加した特殊 な構造をしており,陰極部には試料をサンプルコレクタへ導くための回収用キャピラリーを付加 し,回収用溶離液をポンプで送液している。電気泳動部本体の分離用キャピラリーの内径は50 μm であり,回収用キャピラリーも同じ内径50 μmにすると,陽極側へ試料が逆流し,試料を回収で きないことがわかった。そこで,試料の逆流を防止するため,回収用キャピラリーの内径を変更 した。市販品として入手可能なキャピラリーのうち,内径50 μm(初期値),100 μm,150 μmおよ び250 μmのキャピラリーを用いて電気泳動を行ったところ,内径250 μmのキャピラリーを用い たときに,試料の逆流がなく,電気泳動が可能であることがわかった。本試験では,試料として アクチニド分離用試薬と類似した構造の発蛍光性試薬(FITC)を使用し,蛍光測定により電気泳 動図を取得して電気泳動の可否を判断した。回収用キャピラリーの内径を250 μmに変更した際に 得られた電気泳動図の例を図2.2.2-9に示す。