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公民館の現代的役割と新たな取り組みについて

第 5 章 1990 年代以降の変革期における公民館の状況と新たな取り組みについて

6 公民館の現代的役割と新たな取り組みについて

(1)これからの公民館はどうあるべきか

これまで述べてきたように戦後間もなく生まれた公民館は戦後の復興と民主化、そして青少年や婦人を中 心に教育の場を提供するという重要な役割を担ってきた。しかし、その後の高度経済成長期を通して高学歴 化、テレビの普及、娯楽・余暇の過ごし方の多様化により1960年代に公民館は衰退期を迎える。そして現 代においてはインターネットの普及、生涯学習の一般化・大衆化により教育の機会は巷にあふれている。こ うして公民館の存在意義や行政が行う社会教育の必要性が問われるようになる。

他方、地域住民高齢化、人間関係・連帯意識の希薄化、人口減少社会を迎え地域には様々な問題・課題が 山積している。こうした問題を一朝一夕に解決することは不可能だが、小さな取り組みの積み重ねによって 状況は、少しずつ良い方向へ向かっていくことができるだろう。大切なことは知恵を絞って出来ることから 取り組むことである。本節では、現代における公民館においてどのような取り組みを行うべきかを公民館の 担い手の多様化、民間活力を導入、協働、生涯学習推進のための新たな担い手の発掘、タテ割りの弊害を乗 り越えた多様な機能・役割を公民館に担わせる、という観点から近年取り組まれている、公民館に関連した 注目すべき事例について紹介・検討するとともに、これからの公民館のあり方について考えていきたい。

104文部科学省生涯学習政策局「平成27年度社会教育調査」(文部科学省ホームページ)

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/04/24/1378656_03_1.pdf(平成29年5月8日閲覧)

105文部科学省生涯学習政策局「学校基本調査-平成27年度(確定値)結果の概要-」(文部科学省ホームページ)

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/08/12/1365622_2_1.pdf(平成29年5月8日閲覧)

103

(2)公民館運営の担い手の多様化について

①民間活力の導入による公民館運営

NPOぐんまの行った調査によると福島県会津坂下町では、2004(平成16)年度から公民館の運営を請負 契約に基づき地域住民による運営組織が行政・NPO法人と連携し、行っている。そして、公民館を ① 住 民による自主的な活動の場 ② みんなが気楽に集う場 ③ 地域づくりの拠点としての役割を持たせるとい う三つの目標を掲げ、地域住民が自ら公民館の運営を行う「自主公民館」に切り替えた106

公民館運営上の特徴としては、もともとあった運営委員会と2003(平成15)年8月に設立されたNPO 法人NIVO(ニボ)から派遣された生涯学習推進員がコーディネーター役となり公民館運営が推進されてい ることである。そして、非常勤特別職の公民館長以下、住民の自主性や主体性を生かした運営を目指し、教 育や文化に精通した者、スポーツの得意な者といった多様な才能を持った住民を加え、運営委員を幅広い年 齢層から20名程度に増員し、組織を改革した。委員の選任においても自治会・婦人会・老人会などの団体 代表や地区内全体から人材を集めるため団体推薦と公募により「やりたい人」、「出来る人」、「お願いしたい 人」といった多様な方法により人選を行った。運営委員会の主な任務としては、公民館事業の企画・立案、

そして生涯学習推進員と協力し事業を実施することである。委員の任期は2年で公民館事業の企画から実施 まで自主性を持って行えるよう、各運営委員会(委員長)は、町教育委員会(教育長)と事業委託契約を締 結し、それまで教育委員会が行っていた施設運営から会計管理まで包括的に運営委員会が執行する形へと改 めた107

そのほか会津坂下町の取り組みの最大の特徴として地域住民による自主性を生かした公民館の運営や生 涯学習を通した地域づくり・人づくりを行うため、NPO法人と専門の人材である生涯学習推進員の協力を 得て活動が行われていることが挙げられる108

生涯学習推進員の役割としては、① 地域住民とのコミュニケーションとレクリエーションの場を提供す

る、② 公民館の事業運営全般に係る事業を推進する、③ 各種事業の連携・調整を行う、④ 文書の発送な

ど庶務的な業務、⑤ 貸館・保守・業務管理、⑥ 各種団体との相談業務と活動の支援、⑦ 地域づくり・人 づくりのための包括的な活動等を行うとしている109

この生涯学習推進員を派遣し、行政と運営委員会をとの橋渡しを行う、市民活動支援組織である「NPO

法人NIVO」は、1999(平成11)年11月、第4次会津坂下町振興計画策定のため、町民の公募による「ま

ちづくり2001委員会」が組織された際、その中に作られた部会の一つである「しくみづくり部会」から発

106 関西情報・産業活性化センター「NPOとの協働による公民館地域運営」(関西情報・産業活性化センターホームページ)

http://www.think-t.gr.jp/NPM/index.html(平成29年5月19日閲覧)

107 同上

108 同上

109 同上

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展・組織されたもので、振興計画策定後も計画の具現化のため活動を継続することとなった。2003(平成 15)年2月、しくみづくり部会の部員を中心に「市民活動支援組織NIVO」を設立、同年8月には福島県 からNPO法人として設立認証を受けている。このNIVOという名称は、Nonprofit(非営利)Independent

(独立した)Voluntary(自発的な)Organization(団体)の頭文字を採り命名されている110

また、生涯学習推進員、NPO法人とともに各地区の自主公民館の活動を支えているのが行政機関である 中央公民館(教育委員会)である。中央公民館の役割は、①自主公民館の維持管理、② NPO法人が派遣 する生涯学習推進員の受け入れと再配置、③ 自主公民館の事業の企画・運営を支援・協力する職員の配置、

④共催事業(補助事業)の実施、⑤教育委員会・国・県等からの情報提供および外部への情報発信、⑥ 公 民館相互の連絡調整、⑦ 公民館活動に関する研修と人材育成、⑧ 町の事業との連絡調整などである。こう した地域住民(運営委員会)、NPO(生涯学習推進員)、行政(中央公民館)の三者の連携により①地域の 課題やニーズに応じた事業を企画・実施することができる、② 協働による地域の連帯感(コミュニティの 醸成)が図られる、③ 地域住民の主体性の向上が図られる、④ 約1,500万円の行政コストの削減が図られ る。こうした取り組みにおいては、とかく行政対住民といった相対の構図となったり、縦型の命令・拝命の 関係になりがちである。そのためうまく機能すればよいが、両者の関係がうまくいかなければ事が運ばない という結果に陥ることが多かった。この会津坂下町での運営は、運営事業すべてを丸投げするのではなく任 命を受けた公民館長(非常勤特別職)以下および委嘱を受けた公民館運営委員会委員(地域住民)、委託を 受けたNPO法人(生涯学習推進員)、中央公民館(教育委員会)という三つの組織の協働を成り立たせた ところに特色がある。また、中立的立場に立つNPO法人の存在は、多様な考えを取り組みに反映させ、行 政と住民両者の潤滑油となり効果が期待できる111

そして、2013(平成25)年4月1日には町内7地区の自主公民館がコミュニティセンターへ移行した。

当時の竹内町長は、町政をめぐる財政・社会状況、そして町全体で取り組むべき方針を次のように述べてい る。

「現在地方自治体は大変厳しい財政状況にあります」が、「地方自治の目的は『住民自治』の実現にあ ると思います」。そのために考えていかなければならないことは、「少子高齢化が進む中で、その機能を失 いつつある『地域コミュニティ』を再生していくことです。そのためには、『人と人』、『人と地域』、『地 域と行政』を強い絆で結んでいかなければなりません」。「個人や家族で出来ることは自ら行う。個人、家 族を超えるニーズは地域が助けていく。地域を超えるニーズは町が支援していくという、自助、共助、公

110 同上

111 同上

105

助の『新たな公共のしくみ』が大切です。『共に生き、支え合う』という地域コミュニティの必要性を再 認識し、役所依存の体質から、自分たちで地域を形成していこうとする気概と行動を起こしてもらいたい と思います」(2010: 49)。

こうした方針の下、コミュニティセンターでは、これまでどおり運動会・球技大会等、公民館で行われて いた活動も行いつつ、生涯学習・社会教育事業の枠を超えて、地域住民が助け合い、「創意工夫により人材・

特産物・伝統文化といった地域資源を活用し、防災・防犯・福祉・子育てなど総合的な地域づくりに取り組 んでい」く112としている。こうした新たな担い手と地域住民による、まちづくりへの取り組みが始まって いる。こうした取り組みを「行政主導」のまちづくり113、と揶揄する声もあるが、“無い袖は振れない”の である。こうした住民との協働によるまちづくりこそ、今後の地域社会を支えていく原動力になるのである。

② 生涯学習推進のための新たな担い手の発掘

1986(昭和61)年、臨時教育審議会第二次答申において「生涯学習体系への移行」という概念が打ち出

された。各地の公民館では、主に主婦層を対象にしたさまざまな講座・教室が開かれることになるが、それ は意図せず、公民館のカルチャーセンター化をさらに推し進める要因となった。そして、1990年代に入る と地方自治体における生涯学習への取り組みに変化が見られるようになる。それは、同時期、筆者の勤務す る自治体や近隣市町村でも顕著に見られるようになるのであるが、公民館で講座・教室が開かれた後、参加 した受講者同士で、サークルへと発展させるという取り組みがさかんに行われるようになる。その中には指 導的立場に立つ者がおり、その活動が継続されていく。つまり「教わった者」を「教える側」へシフトさせ る、さらにこうした者の中には公民館の講座等で、講師を受け持つ者も出てくる。行政は、「きっかけづく り」、「橋渡し」だけを行えばよいことになり、こうした活動の循環によって地域住民が主体の生涯学習体系 への移行が可能になるのである。

こうした流れを受け、筆者の勤務する厚木市では、市民の多様な学習意欲に応え市民が生涯学び続ける場 所と機会を提供するため講師となる人材を市民の中から募集し、その講師による自主企画・運営を基本とす る、市民と行政の協働による生涯学習事業である「輝き厚木塾」を企画、実施している。担当課は首長部局 の文化生涯学習課で、2006(平成18)年にスタートした。講師は、自ら習得したことや学習したことを他 の人に教えたいという市民を対象に募集し、「厚木市生涯学習リーダー」として養成する。この「厚木市生

112会津坂下町政策財務課『広報あいづばんげ2013.4』7面(会津坂下町ホームページ)www.town.aizubange.fukushima.jp

(平成27年9月26日閲覧)

113松田武雄・東内瑠璃子・河野明日香・後藤誠一・肖蘭「自治体内分権と公民館・地域づくり松本市和田地区の調査を中心に―」

(日本教育学会ci.nii.ac.jp/naid/110009573084 平成271月15日閲覧)、上田(2013)など