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光波面を変調する技術

ドキュメント内 Instructions for use (ページ 45-57)

光波面を変調する技術はGaborにより発明されたホログラフィに始まる.初期のホログラフィで は物体光と参照光の干渉縞強度分布を記録した写真乾板などに参照光を再度照射することで物体光 の波面を再生していたが,干渉現象の利用や所望の波面を有する物体の用意など実験的な制約が多 かった.近年では,計算機上で所望の波面をもとに設計した構造を実光学系上に再現することで任 意の波面を生成する計算機合成ホログラム計算機合成ホログラム(computer-generated hologram CGH)が登場し,再生する波面が実在する物体に制限されないなど,その自由度の高さから光波面 変調技術の中核をなしている.以下では,CGHについて代表的な手法である軸外CGHと二重位 相ホログラムに加えて,本論文で取り扱うデュアルフェーズモジュレーションと空間クロスモジュ レーションについて述べる.

3.3.1

軸外計算機合成ホログラム

軸外CGHでは,図3.9に示すように,空間振幅変調器(amplitude-type SLMASLM)もしくは 空間位相変調器(phase-type SLMPSLM)に表示した回折格子パターンによって生じる+1次回 折光に所望の波面を有した光波が出力される.SLMからは+1次回折光以外にも複数の回折光が生 じることから,空間フィルタによって+1次回折光のみを抽出することで所望の波面を得る.また,

軸外CGHASLMPSLMのいずれによっても実現可能であり,以下ではそれぞれの場合にお ける変調パターンと動作原理について述べる.

3.9 軸外計算機合成ホログラムによる波面変調

A.振幅変調による軸外CGH

振幅変調による軸外CGH [8]では,透過率もしくは反射率分布を変調するASLMに周期的な分 布を与えて回折を生じさせ再生像を得る.ASLMに与える分布は式(3.15)で示した干渉縞の強度分 布のcos項そのものであり,Ades(x,y)exp[iφdes(x,y)]を所望の波面とした際に+1次回折光の回折 角をθxとすると

Acgh(x,y)=Ibias+2Ades(x,y)cos[k xsinθxdes(x,y)] (3.18)

3.3 光波面を変調する技術 33 と求められる.ここで,簡単のためにθy0=0と置いた.式(3.18)の右辺第1項のIbiasAcgh(x,y) を常に正の値に取るためのバイアス項であり,

Ibias=−min

x,y {2Ades(x,y)cos[k xsinθxdes(x,y)]} (3.19) で与えられる.また,変調素子のダイナミックレンジを最大限に活用するために,変調パターンに は最大値が1となるように規格化処理が施される.

式(3.18)を表示したASLMに対して一様な振幅 Arを有する平面波を照射すると,以下のような

回折光が得られる.

Acgh(x,y)Ar= IbiasAr+Ades(x,y)Arexp[ik xsinθx+des(x,y)]

+ Ades(x,y)Arexp[−ik xsinθxiφdes(x,y)] (3.20) 上式の右辺第2項より所望の波面 Adesexp[iφdes(x,y)]が回折光に現れることがわかる.また,式 (3.16)より,上式の右辺は第1項からそれぞれ0fx0,−fx0の空間キャリア周波数を有しているこ

とから3.2.2節のフーリエ変換法と同様,fx0を中心としたバンドパスフィルタを通すことで所望の

波面を抽出することができる.

振幅変調によるCGHにおいては,液晶などの素子を用いて空間的に減衰を与えることにより振 幅を変調するため,変調そのものに損失が生じる.加えて,+1次光の回折強度は通常0次光よりも 低く,また同程度の強度で−1次光も生じるため,振幅変調による軸外CGHでは最終的な回折効 率は10%程度にとどまる.なお,入力画像の輝度値に比例して光波の強度を変調するようなSLM を使用する場合は式(3.18)2乗した分布を入力画像とする必要がある点に注意しなくてはなら ない.

B.位相変調による軸外CGH

位相変調による軸外CGH [10,11]では,屈折率もしくは厚さの空間的な変化によって生じる位相 分布に周期的な変化を与えることで回折を生じさせ再生像を得る.このとき与える周期構造により ブレーズド回折格子型[11]と正弦格子型に分類されるが,ここでは回折効率が高いブレーズド格子 型について述べる.

位相変調では,図3.10に示すように格子パターンの位相深さにより0次光と+1次光に回折する 光量比を調節することによって強度の変調が実現される.したがって,空間キャリア周波数を与え るブレーズド格子状位相パターンφfringe をsin1[Ades(x,y)]で重みづけすることにより以下のよう にPSLMに表示するパターンが得られる.

φcgh(x,y)=φdes(x,y)+φfringesin1[Ades(x,y)] (3.21) ここで,Ades(x,y)の値域は[0,1]である.式(3.21)の分布を表示したPSLMに対して,一様な振幅 Arを有する平面波を照射ことにより,振幅変調の場合と同様+1次回折光に所望の波面を得ること ができる.

位相変調による軸外CGHでは,変調そのものは理想的には無損失のため,振幅変調の場合より も高い回折効率を達成することができる.また,ブレーズド回折格子型のCGHの場合は正弦格子 型に比べて0次や−1次など再生に寄与しない回折光の強度を低く抑えることができるため,比較 的高い効率で波面変調が可能である.

振幅,位相変調のいずれにおいても,+1次回折光の回折角は光源の波長λと表示する格子パター ンの周期dによって定まり,よく知られている回折格子の式を解くことによって以下のように求め

られる.

dsinθ=λ

∴θ=sin1

d )

(3.22) すなわち,dを小さく取ることで+1次光の回折角は大きくなり,フィルタ面における0次光との距 離を大きく取ることができる.しかしながら,ナイキストの定理よりdは表示素子のピクセルピッ チの2倍以上は確保する必要があるうえ,dを小さく取ると回折効率が低下する点に注意する必要 がある.空間フィルタの開口サイズについては,0次光を除去できるサイズであれば自由に設定可 能であるが,再生像を構成する最大空間周波数を決定することから,他の回折光を分離可能な範囲 での最大値となるように選択することが望ましい.また,CGHではSLMを回折格子として動作さ せることから,図3.11に示すようにθ の整数倍の角度にも僅かに回折光が生じる.ここで,d SLMのピクセルピッチに対して半端な値に取ると不要な回折光が生じるため,dはピクセルピッチ の整数倍に取ることが望ましい.

なお,本節ではx軸方向に格子構造を持たせた場合について述べたが,変調素子の画素配置に対 して斜め方向に格子構造を持たせることも可能である.このとき,+1次回折光の空間スペクトル 分布の中心座標はx軸とy軸の両方がシフトした状態で得られる.変調素子の実効領域が矩形の場 合,フーリエ面における0次光の強度分布はsinc関数で表されることから,斜め方向に格子構造を 持たせることで出力に混入する0次光成分を低減することができる.しかし,この場合は x軸とy 軸の両方にエリアシングが生じることとなり,所望の回折光に対する回折効率は低下する.

3.10 ブレーズド格子の位相深さと0次光および+1次光への回折効率 の関係

3.3 光波面を変調する技術 35

3.11 位相変調による軸外計算機合成ホログラムから生じた回折光の空 間スペクトル分布.異なるd によるブーレズド格子パターンから得られた 空間スペクトル分布をCCDで取得した

3.3.2

二重位相ホログラム

二重位相ホログラム[9]は,先述した軸外CGHと同様に光波の回折を利用した光波面変調技術 であるが,図3.12に示すように,軸外CGHとは対照的に0次光に所望の波面を有する光波が出力 される.PSLMには図3.13のようなチェッカーボードパターンによってエンコードされたCGH 表示され,パターンのコントラストを空間的に制御することにより,位相変調による軸外CGH ように回折光の光量比を調節する.

PSLMに表示する分布はチェッカーボード関数

CB(x,y)= {

1 (x+y=even)

−1 (x+y=odd) (3.23)

を用いて以下のように表される.

φdph(x,y)=φdes(x,y)+CB(x,y)cos1[Ades(x,y)] (3.24) ただし,式(3.23)(3.24)に限り,空間座標(x,y) は画素位置と対応した整数値をとるものとす る.また,Ades(x,y) の値域は[0,1]である.このとき,式(3.24)の右辺第2項は所望とする振幅 Ades(x,y)にい応じてチェッカーボードパターンの濃淡が変化するようになっている.これは,位相 変調による軸外CGHの場合と同様,チェッカーボードパターンからの回折強度を制御することに

より強度分布が変調されることを意味しており,二重位相ホログラムでは所望の波面が0次光に出 力される点が異なっている.

二重位相ホログラムでは,チェッカーボードパターンの各領域を構成する変調素子のピクセル数 は任意に設定することが可能であるが,領域サイズが大きくなると不要成分を有した+1次回折光 の回折角が小さくなるため,空間フィルタの開口サイズを小さくする必要がある.これにより出力 光を構成する空間周波数が制限されることとなるため,通常はチェッカーボードパターンの各領域 は1ピクセルで構成する.このとき,1次回折光にはSLMで表現可能な最高の空間周波数スペクト ルが与えられ,空間フィルタの開口サイズを大きく取ることができることから,再生像には比較的 高い空間周波数成分を持たせることができる.また,再生像の回折効率はチェッカーボードパター ンの細かさに依存しないため,軸外CGHと比べて高効率な変調が可能である.しかし,再生像が 0次光に乗ることから,SLMの不完全性などから生じる変調と無関係な光波が出力に混入し,変調 精度の低下をもたらす.この問題点については4.4.1節で詳細に述べる.

3.12 二重位相ホログラムによる波面変調

3.13 二重位相ホログラムで用いるチェッカーボードパターン

3.3 光波面を変調する技術 37

3.3.3

デュアルフェーズモジュレーション

図3.14に示すように,任意の複素数は2つの位相ベクトルの和の形式で表すことができ,この様 子を数学的表すと以下のようになる.

Aexp(iφ)=exp(iθ1)+exp(iθ2) (|A| < 2) (3.25) デュアルフェーズモジュレーション(dual-phase modulationDPM[33]はこの加算処理を光学的,

そして空間的に行う技術である.光学系は図3.15のように,2台の反射型のPSLMとビームスプ リッタ(BS)によって構成され,各PSLMに与える位相変調量は以下の式によってそれぞれ求め られる.

θ1(x,y)=φdes(x,y)+cos−1[Ades(x,y)] (3.26) θ2(x,y)=φdes(x,y) −cos1[Ades(x,y)] (3.27) ここで,Ades(x,y)の値域は[0,1]である.BSにより2光路に分岐された入力光は各PSLMへと入 射し,それぞれ式(4.1),式(4.2)による位相変調を受ける.各PSLMによる変調を受けた光波は再 度BSに入射し,干渉することで

Eout(x,y)= 1

2 {exp[iθ1(x,y)]+exp[iθ2(x,y)]}

= Ades(x,y)exp[iφdes(x,y)] (3.28) となり,所望の複素振幅分布を有した光波が出力として得られる.なお,BSの透過光と反射光には 相対的にπ/2の位相差がつくことから,各PSLMで変調を受けて入力方向へと戻る光波は式(3.28) に対してπの位相差を有した状態で干渉することとなるため,

Erev(x,y)= 1

2{exp[iθ1(x,y)]+exp[iθ2(x,y)+iπ]}

=√

1− [Ades(x,y)]2exp[iφdes(x,y)] (3.29) と表される.このErev(x,y)Eout(x,y)に対して干渉の明暗が反転した状態であり,全空間位置で

|Eout|2+|Erev|2=1が成り立つ.

3.14 位相ベクトルの加算による複素振幅の表現

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