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働きがいと誇りの持てる業務のあり方に 関する研究

ドキュメント内 あんけん Vol.4 (ページ 38-45)

36 あんけん Vol.4(2011)~研究成果レポート~

* 九州大学大学院 人間環境学研究院

1 はじめに

この研究は、運転士が働きがいと誇りを持って日々の仕事に取り組めるように、会社 組織として今後どのような点をどのように改善していかなければならないかを明らかに することを目的としています。その第一歩として「運転士の働きがいや誇りとはどうい ったものなのか」「働きがいや誇りと仕事中の行動とはどのような関係にあるのか」「各 運転士の働きがいや誇りの感じ方を規定している要因とは何か」についての仮説を立て ることを目標に、参与観察と呼ばれる方法を用いた現場調査を行いました。

2 参与観察による運転士の調査

(1)参与観察とは

参与観察は、研究対象の現場における課題点や改善点を検討するための「生きた資料」

を得ることを目的に、研究者が研究対象の現場に入り込み、そこにいる人々と共に行動 し、また適宜、コミュニケーションを取り、時には作業にも参加する、ということを通 して、その現場の「日々の営み」の実態をつかみ取る、という方法です。

「日々の営みの場」とは別に「面接の場」を設けて行う一般的なヒアリング調査に比 べ、その時々の状況の中で生まれてくる「生きた声」を拾うことができ、また第三者と して外から観察するだけでなく、実際に作業の状況に研究者自身が入り込むことによっ て、「実体験」を通したその場の人々の行動の理解ができるという特長があります。

(2)調査の実施概要 ① 観察の観点

今回の調査では、以下のような点を主な観点として参与観察を行うこととしました。

・ 運転士はどの程度、働きがいや誇りを感じながら仕事をしているのか。

・ 働きがいや誇りの有無と日々の行動との間にどのような関係があるのか。

・ 運転士は働きがいや誇りというものについてどのように考えているのか、どのよ うに感じているのか。

・ どのような要因が、現在の運転士の働きがいや誇りについての考え方・感じ方に 影響を与えているのか。

5 働きがいと誇りの持てる業務のあり方に

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あんけん Vol.4(2011)~研究成果レポート~ 37

② 参与観察の進め方

今回の参与観察では、1名の運転士につき1名の研究員が、図1に示すような期間随 行することとしました。研究員が随行する運転士は、京阪神地区を主に担当する乗務員 区所に所属する、運転士経験年数 10 年未満の若手から経験年数 30 年以上のベテランを 含む6名の運転士としました。観察日数は6名で延べ 36 日(18 勤務)としました。

研究員について、参与観察では、一切の予断を持たずに「まっ白な目」で現場を観察 する必要があります。そこで、協力運転士に随行する研究員は、現場での勤務経験を持 たない一方で、大学で心理学等について学んだ経験のある研究員としました。

なお、今回の調査目的は、研究員が随行する運転士個人を分析するのではなく、あく まで協力運転士との随行を通して、運転士全体の姿をつかみ取ることです。そこで、随 行中は他の多くの運転士の行動も可能な限り観察することとし、また、区所・詰所で居 合わせた他の運転士とも積極的にコミュニケーションを取ることとしました。

(3)調査の結果

① 3つのタイプの運転士

参与観察を通じて見聞きした多くの運転士の行動・言動をもとに、運転士を「働きがい と誇りを持っている運転士」「働きがいや誇りが見えていない運転士」「働きがいや誇りと いうものを意識することがなくなった運転士」の3つのタイプに大別して捉えることとし ました。それぞれのタイプの言動・考えの特徴を整理したものを図2~4に示します。

なお、図の中で雲形の吹きだしは言動や考えなど明確に意識されているものを表してい ます。一方、破線・角丸四角の吹きだしは、体に染み付いた行動やノウハウ、あるいは暗 黙の前提となっている価値観など、明確には意識されていないものなどを表しています。

また、図の中で示している言動や考えの例は、それぞれのタイプの特徴がよりわかりやす

一日目の業務 2日目の業務

勤務開始の報告 乗務員宿泊所 勤務終了の報告 にて宿泊

出勤・更衣 更衣・帰宅

研究員が随行する期間

(備考)

研究員は乗務員宿泊所に宿泊する。

制服・制帽を着用する。

図1 観察の流れ

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くなるように、参与観察を通じて見聞きした多くの運転士の言動や行動を参考にしながら 作成したものです。

鉄道会社の社員である以上 は、お客様の安全で快適な 旅を提供するために、全力で 尽くすべし!!「運転士だか ら操縦だけしていればいい」

ではない!

基本的に、運転士という仕 事をしている自分が好き。仕 事内容として「運転士」とい う仕事に満足している。

規定や重点取り組みの背 景に過去にどのような事 故・事象が起こっていた のかは勉強している。

規定に書いてなくても自 分で必要だと思うことは 積極的に取り入れている

実際に自分が率先して動くかどうか は別にして、各自のこだわりに基づい て「こうすればもっと会社がよくなるよ なぁ」ということをよく考える

正直、仕事が面倒だ、やりた くない、と思うことはあるけど、

仕事の目的から考えれば、

必要なことはやっぱりやらな いといけないと思う。

図2 働きがいと誇りを持っている運転士

何か違う気がするけど、何 が違うのか、本当にしたい ことは何か、どうすればし たいことができるのか、は よくわからない

やっぱり事故は怖いし、エラーは自分 としても嫌やし、怒られるのも嫌だから、

それはしないように気をつけとこう。

接客はあんまり得意 じゃない。好きじゃない。

生きていくうえでは仕事 はしないといけないし・・・。

Kでないし、「格好いいね」

と言われるし、慣れたら楽 だし、自分の自由時間も多 いし、給料もいいし、基本 的に今の仕事には満足し ている。

ダイヤが乱れると 嫌かな。

だけど、上手く接客できたら

「よっしゃ!」って思う

ブレーキがばっちり決ま るとうれしいかな。

図3 働きがいや誇りが見えていない運転士

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あんけん Vol.4(2011)~研究成果レポート~ 39

ア 働きがいと誇りを持っている運転士

このタイプの運転士においては、「働きがいや誇りを感じていますか?」という質問 に対して「感じている」と明確に答える運転士もいれば、「そんなものはない」と否定 的な回答をする運転士もいます。しかし、普段の会話の内容やそのときの口振り・表 情、さらには普段の行動・立ち居振舞いから、いずれの運転士も運転士という仕事に 対する自分なりの捉え方を明確に持っており、各自なりのこだわりに基づいて、よく 考えた上で行動していることがうかがえました。さらにそのことに自分として充実感 や満足感、自負心(すなわち働きがいや誇り)を感じていることがうかがえました。

イ 働きがいや誇りが見えていない運転士

このタイプの運転士の多くは、「働きがいや誇りを感じていますか?」という質問に 対しては、「働きがいを感じていない」という回答をするのではなく、「働きがいや誇 りといわれてもイマイチ、ピンと来ない、よくわからない」と答えます。

また、普段の行動や言動からうかがえることとして、「運転士の仕事」というものが 自分の中でまだ明確に捉え切れておらず、「指示された通り・教えられた通りに行動し ていればよい」という意識で仕事をしている様子でした。ただ、運転士という仕事に ついては、待遇面や社会的地位などの面から、概ね満足していました。

ウ 働きがいや誇りというものを意識することがなくなった運転士

このタイプは、ベテラン運転士に多く見られるタイプです。その言動や行動からは、

運転士という仕事を長年経験する中で、自分の人生を生きることと運転士という仕事

長い運転経験の中で培われた職人芸的 な運転技術と多様な事象の経験から身に

つけたノウハウ

どのような列車状態・線路状態で あっても、「所定運行(ダイヤ・停止位 etc…)」を守る!!

できる限り衝動なく列車を止める!

これができなければ免許をも らっている意味はない!!

「やりがいがあるから運転士をし ている」とかいうのではなくて、そ れが自分の仕事だから。今更、

どうこう言うこともない。

一日平穏無事に、所定で仕事 が終わると「ふぅ~、今日も無 事に仕事が終わった~。さぁ 帰って○○(各自なりの趣味)

するか~」。

事故やエラーを起こす、なんてことは全く 考えていない。起こさなくて当たり前。起こ さないような方法を完全に自分の体に染み 込ませている。

あらゆる行動が体に染み込ませられた 行動・「それをするのが当然」であり「自 然」になっている行動・無意識的にでき ている行動。

図4 働きがいや誇りというものを意識することがなくなった運転士

ドキュメント内 あんけん Vol.4 (ページ 38-45)

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