の細胞層で酵素の誘導因子が生成される可能性は十分に考えられる。しか しながら現在,カボチャの果肉に傷を与えた時にどのような因子が生成さ れるかはわかっていない。
果肉から切片を調製した後,インキュベーションを開始する前に,水処 哩(水中に切片を浮かべてスターラーで静かに撹拝する)を短時間行うと
82
その後のACC合成酵素, PALの誘導は著しく抑制された19)。5分間水処理 を行うことによりすでに有意な抑制効果が得られた。水処理を行うことに より,誘導因子,あるいは誘導因子の前駆物質が組織より溶出し,失われ るのかもしれない。一一一万この水処理することが,傷害組織中にその後形成 されてくる誘導因子生成機構を抑制する結果になっているかもしれない。
水処理する際にN‑アセチルーキトヘキサオース(N‑acetyl‑chitohex‑
aose,ACH)を水溶液として, 1mM,5mMの濃度で与えるとその後の両 酵素の誘導抑紬まある程度回復された。 ACHのモノマーであるN‑アセチ ルーブルコサミンは効果がみられなかった。しかしこの化合物が誘導因子と どのような関係にあるのか,この化合物を組織に与えることにより細胞の 生理活性にどのような変化をもたらすのかは不明である。これらに関して Ryanらが行った研究35),すなわちトマトの葉のプロティナ‑ゼインヒビ ターの誘導にペクチン分解物と共にキトサンやその加水分解物が効果があ るということは興味のあることである。またRobyら34)はメロン植物でキ テナーゼの誘導にキチンを加水分解して得られたN‑アセチルーグルコサ ミンのオリゴマ‑が有効であると報告している。これらの事実は植物細胞 における酵素誘導に細胞壁由来の加水分解物やキチン,キトサンのオリゴ マ‑が何らかの生理活性を有することを示唆して興味深い。
ⅠX.結 論
植物の傷害組織でエチレン生成が誘導されることは多くの研究により実 証されてきた。高等植物におけるエチレン生合成経路はYangらの研究を 中心に明らかにされて来た。このメチオニンーACC経路において,傷害は第 一義的にACC合成酵素を誘導し,著しくこの酵素の活性を増大させる。そ の結果として,ACC生成が顕著となり,組織中のACC含量が高くなり,エ チレン生成量が増大する.一方,エチレン生成酵素も傷害により活性が増 加することも認められている。
機械的な細胞の切断がその後内部の隣接健全細胞層でどのような誘導因
子を生成させ,その誘導因子が上記のACC合成誘導を中心としたエチレン生成系にどのように作用するのか,それらの機構はまだほとんど明らか
傷告と1ナレン 83
にされていない。
傷害により生成されたエチレンはどのような生理作用を有するのであろ うか。考えられることの1つは,傷害エチレンはフェこルプロパノイド合 成を促進し,生成されたクロロゲン酸,フラボノイド,リグニンなどの物 質が傷害組織の防御,保護として用いられることであろう。この点で傷害 組織でPALの活性が増大することは意味があり,またエチレンがPALの 誘導を促進することは興味深い。傷害カボチャ果肉組織では,生成したエ チレンはACC合成酵素の誘導を抑制し, PALの誘導を促進すると考えら れる。今後より一層内生エチレンの作用を明確にする必要がある。
植物は生態系の中で,風や雨,微生物,昆虫の侵入,烏や大型動物など により容易に傷害を受ける。これに速やかに反応してエチレンが生成され る。エチレンは植物の生長,分化を制御し,落葉,落果,花や果実の老化 (成熟)を促進する。一一一万エチレンは酵素を誘導し,代謝を促進する。これ らの反応は植物が外界からの要因に対し,エチレンを通して積極的に対応 している姿であり,その生理的意味は大きい。
謝 辞
ここに述べた筆者らの研究を行うにあたり,多くの御教示,御討論をい ただいたカリフォルニア大学デーヴィス校のShang Fa Yang教授に感謝 する。
またここに述べた研究に関連して,中埜酢店中埜生化学研究所より研究 費の補助を受けた。感謝の意を表する。
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病害抵抗性誘導とエチレン
関 沢 泰 治
Ⅰ.はじめに‑背景と動機
防御機能を持ち体内を移動するように分化した細胞類がなく,土に根を おろし固着生活を営む植物が,どのような誘導防御機構によって,多種の 病原体に対抗しているかという課題は,植物病理学,植物生理学,生物化 学,分子生物学の領域にわたり関心を持たれて来た。
植物の抵抗性誘導とエチレンとの関係について興味ある仮説を提唱した のは, Stahmannl)であった。サツマイモ塊根組織片を低濃度の外因性エチ レンで処理すると,サツマイモ黒斑病菌による感染に対して抵抗性を誘導 することが観察された。感染組織からは比較的多量のエチレン溢散が見ら れ,躍病組織から隣接組織へと拡散して,結果的にポリフェノール,オキシ ダーゼの活性増加を示した。すなわち,病害抵抗性反応の誘導が内因性エ チレンに依存していることを示唆したのである。同系の実験がImaseki ら2)によって報告され,サツマイモ黒斑病菌の培養液からはエチレンの発 生は認められないが,サツマイモに感染すると顕著なエチレン溢散が観察 された。エチレンが溢散する部位は菌の侵入組織とその周辺の非侵入組織 に限定されていた。さらに,Imasekiら3)は外因性エチレンに依存してサツ マイモ塊根片でベルオキシダーゼ(POX)が誘導されることを示した。エ チレンの溢散はサツマイモ塊根の切断付傷によっても見られ,その量が傷 害の程度に関係することが報告されている4)。
玉川大学農学部
88
これらの現象に対して, Sequeira5)は当時の実験的証拠からは,感染植物 のエチレン溢散は感染の結果として単に引き起こることで,抵抗反応のエ チレン依存性を支持し難いと反論した。 AdamsおよびYang6)によってエ チレン生合成経路が明らかにされた。実験の方法論上の問題も克服されて, 再び多くの研究者が抵抗反応のエチレン依存作について興味を持つに至っ
ている。
イネ葉身の病害抵抗性誘導とエチレンとの阻係の解析研究は,非殺菌性 防除剤の一一一つであるプロベナゾ‑jL,のイネいもち病防除効果がアブシジン 醍(ABA)によって強く浩抗された実験的事実を動機として始められた7)Q 同じ時期に, YoshiiおよびImaseki8)は,モヤシマメ腔軸片を用いてβイ ンドール酢酸(IAA)による1‑アミノシクロプロパンー1‑カルボン酸(ACC) 合成酵素の誘導がABAの存在によって阻害されることを明らかにした。
イネいもち病発病試験でIAAのスプレー予処理が誘導抵抗反応を約1口 間保持し..2.4‑Dでは強抵抗反応が少なくとも2 u間は持続する結果が得 られた。その他,エセホン(エチレン発生剤, ETP)の適用が感染型を強 く抵抗性に転換し, ABAはIAAの抵抗性誘導に括抗性を示すことを確認 した9)。さらに, ETPの適用はイネ葉身のベルオキシダーゼ活性を,感染 時と同じく高進し,その活性の誘導をシクロ‑キシミド(CY)が阻害する
ことも明らかにした10)。
ⅠⅠ.プロベナゾ‑ルの作用機構の推定
非殺菌僅防除剤プロベナゾ‑ルはイネいもち病菌胞子の発芽および菌糸 伸長を阻害せず,コロニーで産生される色素にも変化を与えず,さらにイ
ネ体での代謝による活性化によって抗菌性あるいは植物ホルモン活性を呈
するものでないことが証明されている11)。その後,Sekizawaら12)はプロベ ナゾ‑ルの経根施用によって,イネいもち病菌の感染時における早期一過
性呼吸高進の動態が親和型から不親和型に転換し,その呼吸高進にはスー
パーオキシド(021)生成を伴うことを明らかにした。このような経緯から, プロベナゾ‑ルの作用機構として, 1)感染植物初期の信号伝達系におい病害抵抗性誘導とエチレン 89
て感染型を抵抗性に転換する, 2)初期の信号伝達系は各種の誘導抵抗反 応群の発現を制御する, 3)それらの抵抗反応に関連する酵素頬の誘導が 内因性エチレンに依存するなどの仮説を得るに至った。
ⅠⅠⅠ.誘導抵抗性の発現に関与する諸酵素の感染による誘導の エチレン依存性
ⅠHa.感染によるイネ葉フェ二ルアラ二ン アンモニアーリアーゼ (PAL)誘導のエチレン依存性
いもち病菌胞子付傷接種あるいは同菌細胞壁プロテオグルコマンナン (RIF)13‑15)の付傷適用によるPALの誘導および活性測定法は既報によっ た16)。イネ葉身に不親和性および親和性いもち病菌胞子の付傷接種あるい はRIFを付傷適用するとPALが誘導されることが確認された。PAL誘導 の速度が最大になるシグモイド曲線の中点を計算によって求めtm17)とし た。生化学的にtmは単位時間当たりの誘導速度が最人になる接種後の時
間に相当する。PAL誘導の順序性では不親和性組合せが親和性組合せより
早く誘導された。 PAL誘導は自動不活化相を伴っていた。
エチレン生合成系およびde nouo合成阻害剤の適用法は既報16)によっ た。エチレン生合成系阻害剤(TR;タイロン16JB・19),ラジカル消去剤。
AOA;アミノオキシ酢酸6',ACCシンタ‑ゼなどのどリドキサール酵素 の阻害剤。ABA;アブシジン酸8,16), ACCシンタ‑ゼの誘導阻害剤)および denoL'0合成阻害剤(CY;シクロへキシミド)予処理の後,イネいもち病
箭1衣 阻害剤fl処稚後,いもt',病lXf分′1‑.脂(・付傷接種により誘導したPAL の阻害度
接種または適川 友リ, .綿クヲニ疋津 7
TR ABA
イく親和性 都 36 NT
親和性 田 42 NT
RⅠF 鉄2 39 1()()
NT,測定イくuJ。
阻害剤を適用した付傷処坪区を対象として差し引いた。