OSSに対する信頼性評価手法ならびに最適バージョンアップ問題の適用例を示すために,実 行例としてFedoraプロジェクト1で開発が進められているFedora Core LinuxのKernelを取 り上げる[12].ここでは,Fedora Core 7(FC7)のリリース候補版であるTest 1のリリース 以降における信頼性評価結果を示す.評価版において十分な信頼性を確認することは,正式 版リリース後のユーザに対する信頼や人気に大きく関係すると同時に,OSSの保守コストや 保守労力の増大に関係することから,リリース候補版の信頼性評価は正式版リリースへ向け ての重要な段階となる.FC7のリリーススケジュールを表10.1に示す.
上述したデータを本信頼性評価ツールで読み込むためのデータ形式に変換する必要がある が,ここでは簡略化のため,変換後のデータであるdata.csvを利用する.実際のツールの操 作方法については,演習中に説明する.
まず,ニューラルネットワークにより推定された各Kernelコンポーネントに対する推定結果 および式(5.2)におけるモデルパラメータの推定結果を図10.1に示す.Fedora Coreを構成す るコンポーネント数は小規模なものを合わせると数百と非常に多いことから,ここではシステ ムの主要コンポーネントとしてKernelを取り上げることとする.この結果から,Kernelコン
1FedoraはRed Hat Inc.の登録商標である.
40 第10回 性能評価ツールの概要
表 10.1: Fedora Core 7におけるリリース候補版のスケジュール
Date Event
1 February 2007 Test1 Release 29 February 2007 Test2 Release 27 March 2007 Test3 Release 24 April 2007 Test4 Release
31 May 2007 Fedora 7 General Availability
図 10.1: 推定された各コンポーネントに対する重要度とモデルパラメータの推定結果.
ポーネントの信頼性に関する重要度が最大であり,Kernel-module-thinkpad,Kernel-pcmcia-cs,Kenrel-utils,およびKernel-xen-2.6のコンポーネントの重要度が最低であることが分かる.
これは,Kernelコンポーネントの成熟度が高く,Kernel-module-thinkpad,Kernel-pcmcia-cs,
Kenrel-utils,およびKernel-xen-2.6のコンポーネントの成熟度が低いことを意味する.また,
推定された式(5.2)における累積フォールト発見数の期待値の推定値µ(t)b を図10.2に示す.さ らに,式(5.11)の瞬間フォールト発見率の推定値µcd(t),式(5.15)における累積MTBFの推
定値M T BFd C(t)の推定結果を図10.3および図10.4に示す.これらの結果から,時間の経過
とともに平均故障発生時間間隔が小さくなり,今後もソフトウェア故障が頻繁に発生するこ とが確認できる.また,予測相対誤差の推定結果を図10.5に示す.図10.5から,実測値と推 定値との誤差は,2月16日以降において安定していることが確認できる.
10.9. 信頼性評価の実行例 41
図 10.2: 推定された累積フォールト発見数の期待値,µ(t).b
図 10.3: 推定された瞬間フォールト発見率,µcd(t).
42 第10回 性能評価ツールの概要
図 10.4: 推定された累積MTBF,M T BFd C(t).
図 10.5: 推定された予測相対誤差.
10.10. 最適バージョンアップ時刻推定の実行例 43
図 10.6: 推定された総期待開発労力.
10.10 最適バージョンアップ時刻推定の実行例
最適メジャーバージョンアップ時期推定の数値例として,Fedora Coreを取り上げる.ここ では一例として,FC6までの過去のデータに基づき,FC7への次期バージョンアップ時刻を 推定する.前バージョンであるFC6の評価版リリースから正式リリースまでの期間は92日で あったことから,t0を92と仮定し,2007年2月1日以降における推定された総期待開発労力 を図10.6に示す.さらに,図10.6から推定された最適バージョンアップ時刻の推定結果を図 10.7に示す.図10.6および図10.7から,総期待開発労力を最小にする最適バージョンアップ 時刻はFC 7の評価版がリリースされてから6月14日となり,そのときの総期待開発労力は
19359.0人・日であることが確認できる.
なお,実際のFC7は,2007年2月1日に評価版がリリースされ,120日後の5月31日に正 式版がリリースされている.このことから,総期待開発労力を最小にするという観点から考 えた場合,2週間早い正式版リリースであったことが読み取れる.
演習:上述したOSSに対する信頼性評価ツールの一連の操作と同様にして,サンプルデー タの信頼性を評価せよ.
44 第10回 性能評価ツールの概要
図 10.7: 最適バージョンアップ時刻および総期待開発労力の推定結果.
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