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保育者・初等教育者の「みる力」の育成

「みる力」とは、子供の造形に対する理解と、子供の造形の芸術性を感受するための

「美術鑑賞の力」によって成り立つ、保育者が持つべき「力」のことである。つまり、幼 児にとっての造形の意義(第1章)を理解し、子供の造形に関する知識(第2章)がある だけではその力をもつことはできず、また、優れた芸術作品に触れてさえいれば、子供の 造形のよさを感受できるようになるわけでもない。

では、どのようにすれば「みる力」は身に付くのか。本章では、保育者・初等教育者の

「みる力」の「育成」にアプローチする。

第1節では、筆者が実施した、保育者の造形表現指導に関する意識・実態調査から、保 育者の「美術との関わり」の現状を明らかにするとともに、保育者が子供の造形を見る

(ここでは「見る」)際に、何に注目するのか、しないのか、また自信をもっているのか、

もっていないのかについて分析する。

第2節では、保育者自身が学校教育の中でどのような「鑑賞教育」を受けてきたのかに ついて述べる。まずは筆者の所属する研究チームが、小・中学校の教員を対象に行った調 査を基に、鑑賞学習の実施の実態について検証する。保育所・幼稚園から高校までの間、

特に義務教育段階においての「鑑賞教育」のあり方は、後の「みる力」の獲得に大きく影 響するだろう。保育者になるための専門的な学習を始める前段階における芸術との触れ合 いは極めて重要であり、この段階における「美術鑑賞の力」の底上げが必要となる。そし て、検証結果から、小・中学校における鑑賞教育の拡充のための考え方と具体的な方法に ついて提案する。

第3節では大学等における保育者養成段階、第4節では保育現場における「みる力」の 育成の方法について、実践を交えて述べる。

第1節 保育者を対象とした子供の造形を見ることと美術鑑賞に関する調査

1 調査の目的と仮説

筆者は、20年以上にわたって保育現場及び保育者養成に関わってきた。その中で感覚 として懸念され続けたことは、保育者が造形表現指導について決して後ろ向きなことはな

いが、子供の造形を見るという点において自信がもてていないということである。その要 因として、保育者の、美術との関わりが薄いこと、またそれに起因して子供の造形の美 的・造形的な側面への注目度が他の側面(発達、特徴、心理)より低いのではないかと感 じていた。

これは、飽くまで筆者の感覚的な仮説に過ぎなかったが、2018年4月から9月にかけ て、保育者を対象にアンケート調査を実施し(資料2)、その実証を試みることができた。

調査によって明らかにしたいことは、保育者の、美術との関わり方と、日常の美術鑑賞の 機会の頻度が、子供の造形を見ることにどれ程影響しているか、その相関関係である。ま た、保育者が子供の造形の美的・造形的側面にどの程度注目し、その判断にどの程度自信 をもっているかである。

仮説は以下の5点である。

・保育者は、美術館での鑑賞機会を含め、美術との関わりが薄い。

・保育者は、子供の造形をみる際に、美的・造形的な側面への注目度が、他の側面

(発達的、特徴的、心理的)より低い。

・美術館での鑑賞など、美術との関わりが薄い保育者は、子供の造形の美的・造形的 な側面への注目度が低い。

・美術館での鑑賞など、美術との関わりが薄い保育者は、子供の造形の美的・造形的 な側面を見ることへの自信がない。

・造形表現指導に消極的な保育者は、子供の造形を見ることについて自信がない。

結論から述べると、いずれの仮説も支持されることとなった。加えて、小学校や中学校 教員と比較してみた場合に、筆者の予想を超える格差があることが判明した。さらに、保 育者が造形表現指導自体に消極的であるということ、また、保育者は勤務年数が10年を 超える、いわゆるベテランになっても、子供の造形の美的・造形的な側面への注目度は上 がらず、その判断の自信も高くならないという結果も出た。

以下、調査の詳細について述べた後、結果について分析していく。

2 調査の概要

調査概要は以下のとおりである。

【調査対象者】

保育者518名(保育所保育士、幼稚園教諭、こども園保育教諭など)

【調査期間】

2015+X年(5か月間)

【アンケート内容】

Ⅱ「造形表現指導について」

番号 質問項目 回答選択肢

1 幼児の造形への観 点別注目度

(1)「その幼児の発達段階」(2)「幼児らしい表現の特徴」(3)「美的・

造形的なよさ」(4)「喜怒哀楽などの心理」について、「注目する」= 4、

「どちらかといえば注目する」= 3、「どちらかといえば注目しない」= 2、

「注目しない」= 14件法

2

幼児の造形につい ての判断における 観点別自信度合い

(1)「その幼児の発達段階」(2)「幼児らしい表現の特徴」(3)「美的・

造形的なよさ」(4)「喜怒哀楽などの心理」について、「自信がある」=

4、「どちらかといえば自信がある」= 3、「どちらかといえば自信がない」

= 2、「自信がない」= 14件法 3 造形表現指導への

積極性

①「積極的である」、②「ある程度積極的である」、③「やや消極的であ る」、④「消極的である」の4件法

4

造形表現指導に対 して消極的である 理由

①「他教科の指導で手一杯のため」、②「教材研究に時間がかかるため」

③「自分に苦手意識があるため」、④「指導や評価の仕方(受容、賞賛、

共感、言葉かけを含む)がよく分からないため」、⑤「教育的な意義が よく分からないため」、⑥「相談する人が園内や近くにいないため」

⑦「その他」〈複数選択可〉

5 美術館等での鑑賞 機会の頻度

①年に3回以上、②年に2回程度、③年に1回程度、④2年に1回程度、

3年に1回以下

Ⅰ「調査対象者について」

番号 質問項目 回答選択肢

1 年齢 20代、②30代、③40代、④50代、⑤60

2 勤務年数 5年未満、②5年以上10年未満、③10年以上20年未満、④20年以 30年未満、⑤30年以上

3 取得免許状・資格 ①保育士、②幼稚園教諭、③小学校教諭、④その他

4 美術との関わり方

①専門的作品制作、②趣味的作品制作、③マンガやイラストを描く、

④美術や美術史の研究、⑤画集・作品集の鑑賞、⑥美術館や美術展等で の作品鑑賞、⑦美術番組やDVDなどの視聴、⑧造形教育の研究、その他 5 美術館等での鑑賞

機会の頻度

①年に3回以上、②年に2回程度、③年に1回程度、④2年に1回程度、

3年に1回以下

【調査方法】

選択回答方式アンケート調査(一部直接回答あり)

【倫理的配慮】

・保育者の、美術との触れ合いの内容や頻度、幼児の造形への観点別の注目度や判断 の度合いの実態を調査するものであり、思想などを聞き出すものではない。

・筆者が講師を務めた講演、講習、研修会の際にアンケート用紙を配布、回収した。

回答者の情報は、年齢(〜代)、勤務年数、取得免許状・資格に留め、個人を特定 できないようにした。また、幼児個人のことを尋ねる項目もないので、その点につ いても問題はないと考えた。

・回答する、しないは任意であり、回答者が提出することが、そのまま回答すること への同意を得ることになる。また、無記入の項目があっても可であることを告知す ることで、回答者の自由意志に配慮した。

・調査の鑑文書は、回答者に持ち帰ってもらうかたちとし、問い合わせ先を記入して いるので、疑義等がある場合に対応できるようにした。

【調査対象者就業地域、配布数、回収数】

調査対象者就業地域及びアンケート配布数、回収数は、下記のとおりである。

就業地域 配布数(枚) 回収数(枚)

Y市(近畿地方)1 46 46 S市(中国地方) 8 8 S市(近畿地方) 9 9 N市(近畿地方) 50 50 K市(近畿地方) 63 58 Y市(近畿地方)2 133 127 M市(近畿地方) 76 76 Y市(中国地方) 82 81 M1市(中国地方) 25 25 I市(中国地方) 9 9

0市(中国地方) 8 8 H市(中国地方) 5 5 M2市(中国地方) 2 2 U市(中国地方) 1 1 O町(中国地方) 1 1

配布総数518枚の内、回収数は506枚であった(回収率97.7%)。特定の項目のみ無回答 という場合があるので、有効回答数は項目によって異なり、以下の分析記述の中では〈N=

数字〉で示した。

【集計観点】

アンケート項目は全部で九つ設定したので、まずはそれらの単純集計を行い、その結果 を基に、調査目的に適合するように、条件付き単純集計を13観点、クロス集計を1観点 で行った1)

3 調査結果と分析

506枚の回答数を確保し、回答者就業地域の範囲の広さも一定確保できた(4府県14市 町)。都市圏と地方の園も混在しており、年齢、勤務年数も散らばっているので2)、限定 的とは言え、現状を浮かび上がらせ分析するに値する、ある程度の客観性を有していると 言えよう。また、造形表現指導に関する筆者の講演を自ら選択して参加した保育者や、筆 者の講演をかつて聴いたことのある保育者は、回答者全体の3%にも達しておらず、回答 内容は保育者の実状を示していると考えられる。

取得免許状・資格は、重複取得者が複数いるため、保育士資格取得者が464名(94.3%)、 幼稚園教諭免許状取得者が443名(90.0%)となっている。小学校教諭免許状取得者が35

名(7.1%)いたが、これは重複取得者や管理職者が含まれていると考えられ、全員が何ら

かのかたちで保育に従事している者である。

以下、集計結果の分析をしていくが、上記の集計観点の全ての結果に触れるのではなく、

本論に関連の深い結果についてのみ取り上げる。いくつかの項目では、小学校教員(2014

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