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第3章 心身の統合的理解をもとにした教育支援に関する

第3節 地域・家庭教育分野

5.  事 例

 これまで述べてきた家庭支援の在り方を、事例を通して考察する。

家庭への支援の在り方、地域との連携などについての現状と今後への 方向性を考察したい。

【母親からの虐待が疑われるA(小学2年男子)の事例】

 Aが3歳の時に両親が離婚して、彼は父親に引き取られて暮らすこ とになった。その径ほどなくして、父親が再婚し新しいお母さんと3 人で暮らすようになった。そして!年後に弟が生まれた。母親はAと

自分の子(弟)との面倒を見ないといけないが、どうしても自分の子

(弟)中心になっていき、母親からするとAは邪魔な存在となっていた ようで、食事も十分なものを与えてもらっておらず、小学校入学前の 幼稚園からの申し送りでは「高脂血症」であると伝えられた。また、

母親が情緒不安定になることが多くあったことも伝えられた。

 小学校に入ってからもAは一番小さく、体の発育は悪く細くて小柄 な子だった。発育測定の結果から、身長・体重などのバランスを見た

ときに、彼が低身長(一2.OSD以下)であることが発見された。保護者 に連絡するために、担任の先生に伝えると、保護者がAを受け入れて いない状況にあるので、「今、伝えるのは難しい」と言われた。担任 からAのおかれている状況の説明を受けて」緒に学校でできる支援を

考えた。

 家の中は、弟中心で回っており、母親は何かとAに辛くあたってお り、時にはしつけで手をあげることもあって、Aは頭や顔の付近に手 が近づくと咄嵯に身をかわし避けるようになっていた。それは保健室 での顔にできた傷の手当の時にも見られた。こちらが驚くほど速く身

をかわしたので異様な感じがしたのである。

 教室では落着きがない状態で、誰かれなく突っかかっていき、ケン カでもめることが多かった。担任の先生もその都度、保護者連絡をす るが、「子どもが勝手にやっていることだから」と取り合わない。で もAが家に帰れば、ひどく怒られ、食事を抜かれる目もあったようだ。

い」とはっきり言うので、担任の先生も驚いたが、それが分かってか らは、担任も些細なもめごとは連絡しないで、Aの気持ちを聞いてや るようにしていった。そのうちに大きなもめごとは少なくなってきた。

Aは放課後も学校からなかなか帰ろうとしないで、担任の先生に赤ち ゃんの様に甘えるそぶりが目立ってきた。担任が年配の女性の先生で あったので、母親に甘えられない面をそこで補っていたのだろうと考

え」られる。

 保健室で面談した時に、彼は物心ついた時から「いらない子」と母 親から言われ続けており、自分に自信がなく自尊感情が低くそれを隠 すためか、強がって見せている面があると感じられた。また、どこか そんな自分を客観視しているような面も感じられた。

 教室での落ち着きのなさは相変らずであり、全体指導では理解でき ずに学力的にも厳しい面がみられた。できないことや、分からないこ

とへの焦りは全くみられない。Aにとっては毎日の生活が精一杯であ り、それどころではないのだろうとも思われる。

 何か問題を起こした時には、「自分ではない」と頑固に突っぱねて、

決して被害児に謝ろうとしない。自分の非を認めると、その後どうな るかをAは学習しており、それを回避するためにそうした行動をとっ ていたのだと思われる。

【事例の考察】

 Aは、母親に十分な愛情をかけてもらえず、あたたかく包まれた乳 幼児期を過ごしてきたとはいえない。彼にとっての家庭は安住の地で

はなく、常に家庭が不安定な状態であるため、心身ともに安らげる場 がなかったと思われる。Aは落着きがなく、集中することができない まま成長したのだと思われる。

 エリクソンによれば、乳幼児期は母親や養育者からの共感的応答に よって、母と子の信頼感が体験されるとある。幼児期前期(1〜3歳)

に自己統制ができるようになり自律性が獲得される。この時期に母親 や養育者が励ましや承認・共感で応じたなら、子どもの自尊心を発達

させるが、子どもの行動を否定したり、強制したり、子どもの気持ち を受け入れないでいると、子どもは他者に対して怒りや敵意を向けや すくなると同時に思い通りにならない自分を恥だり、自分の能力を疑 ったりする。幼児期後期(3〜6歳)には、言葉によって世界を広げ、遊 びで自由に動き回る体験をして自発性が育つ。この時のしつけで子ど もの自発性を多く規制すると、子どもは親のしつけに沿えない自分に 罪の意識を持ち、かわって親の気持ちに沿って行動する「よい子」と なり、自分の気持ちを閉じ込めてしまうとの指摘がある(丹羽,2008)。

 Aは母親からの励ましや承認・共感を一切受けていないために自尊 感情が低い。自分に対して自信がなく、他者に対しでもそうした気持

ちが持てない。それが他者とのトラブルにつながるもとになっている と思われる。他者に対して、怒りや敵意を向けていることも、母親に 自分の気持ちを受け入れてもらえずにいたために、自己防衛で自然に そうしてしまっているのではないかと考えられる。人間は特に幼児期 に、繰り返し強い心的外傷(トラウマ)を受けた場合、自我を守るため に、その心的外傷が自分とは違うr別の誰か」に起こったことだとし て記憶や意識、知覚などを解離してしまうことがある。Aの場合もそ

うした解離の状態であったと思われる。

 母親の前では怒られないように自分の気持ちを封じ込めて、常に

「よい子」を演じており、その反動で学校では抑圧されていたものを 一気に表出し、落着きがなく友だち関係でのトラブルを頻繁に起こし ていた。そうすることで、彼は自分自身の精神(心)のバランスを取っ ていたのではないかと思われる。

 このような状態にあるAへの支援のあり方として、学校の態勢や地 域との連携をいかに進めていけばよいかを考える必要がある。

 学校では、Aためにできることを、一歩ずつでもいいから進めてい かなければならない。まずは、彼の人権や健康、安全を守るために、

安心して心身を休ませることができる居場所を提供する。このケース では、担任の先生が彼にとっての一番の理解者であり、彼が心を許せ

つかり受け止め、子どもの心に寄り添った支援を行っている。場合に よっては養護教諭がその役割を担うこともある。要するに、学校内に 誰か心を許せる相手がおり、安心して話を聴いてもらえる場があると いうことが大切である。

 地域との連携では、身近な支援者である民生委員への協力を依頼し 連携して、保護者には継続的に働きかけを行っている。緊急介入の必 要が認められる場合は児童相談所への通告も考えなければならない。

これらの整備・推進を進め、今後のAへの支援を適切なものにしてい くことが望まれるところである。

6.本校における地域・家庭教育に向けたアプローチの今後

 本校においては、紹介したようなさまざまな取り組みが進められて いる。しかし、地域・家庭教育分野に向けたアプローチが十分である

とはいえない現状もある。今後に向けて本校の取り組むべき方向性を 考察してみたい。

 Aの事例からわかるように、まだ家庭との間の意思疎通が難しい部 分がみられる。特に子どもに関心をもたない保護者への関わりには、

まだ検討の余地が残されている。ズク]ルカウンセラ]や福祉の専門 家、場合によっては児童相談所の援助を得ながら、学校がどのように これらの課題に取り組んでいけばよいのかを整理していく必要があ ると思われる。当該児童の近隣に住む人たちにも緊急時の対応をお願 いすることがあるかもしれない。民生委員など守秘義務をもった地域 の方々との連携も必要になるかもしれない。そのためにも、日常から 地域との連携を進め、保護者との出会いの機会を増やしたり、啓発活 動を充実させていく必要があると考える。今後の本校における地域・

家庭教育分野へのアプローチの充実が望まれるところである。

第4節生徒指導・教育相談分野

1.メディアを介したコミュニケーションの課題

 近年、子どもたちが携帯電話を介して犯罪に巻き込まれるケースが 増えている。携帯電話は情報を得る上でも、親子間や友だち間のコミ ュニケーションを取る上でも便利なツールである。携帯電話はもはや 電話としてだけでなく、インターネットやテレビも見ることができ、

ゲームもでき音楽も聴けるといったように多機能になってきている。

多機能になったために、使い方次第で危険な状況に陥るといった問題 も起こってくる。今日の情報化社会において、携帯電話は必須になっ てきている。それゆえに、携帯電話が子どもたちに与える影響につい て考えていかなければならない。

 今の子どもたちは、生まれた時から様々なメディアに接して成長し てきているので、携帯電話に対する抵抗感は少ない。警戒心が薄く、

初めて通信した人と友だちとの区別も十分ついておらず、つながった 人を簡単に信じてしまうといった安易なところがある。また、子ども たちは大人のように情報を、取捨選択せずに便利なものは使うだけ使 ってしまっているといった現状がある。大人はそうした子どもたちの 行為に、細心の注意を払っていないと、子どもが犯罪に巻き込まれる

ことになりかねない。

 今では、携帯電話は子どもたちの間でコミュニケーションのツール として、電話としてよりもメールが主に使われている現状がある。対 人間のコミュニケーションで会話なら、表情や反応により相手が好意 的に話しているのか、そうでないのがが推測でき、誤解があればすぐ に訂正することもできる。しかしメールでは、相手の受け止め方が分 かりにくい。基本的に文字でのやりとりのため、直接的なコミュニケ ーションと比べて誤解が生じやすいといったこともある。また、直接 相手に言いにくいことも、画面上ではさほど抵抗なく書けてしまう。

そうしたことから、人を誹諺・中傷するなどの人を傷つける内容でも、

安易な気持ちで書いて送り問題になる場合もある。文字だけで伝える

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