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6. 実証分析 3(区域指定が居住者に与える影響について)

6.1. 使用するデータ

使用するデータは,e-Stat政府統計の総合窓口が提供している国勢調査人口等基本集計に関する 集計「男女別人口及び世帯数 -基本単位区」と、東京大学空間情報科学研究センターから提供を 受けた「国勢調査基本単位区別集計(座標データTXT形式)」との結合を行い,基本単位区の座標 と世帯数の結合を行った。その後,ArcGISを用いて地図上に表示し,2017年時点の土砂災害警戒 区域,2010年時点の土砂災害危険箇所,2014年時点の商業統計データ等との結合を行った。

また,e-Stat政府統計の総合窓口が提供している国勢調査人口等基本集計「第6表 世帯の家族 類型-町丁・字等-」と基本単位区を結合させ,「一般世帯数」「6 歳未満世帯員のいる一般世帯数」

「18歳未満世帯員のいる一般世帯数」「65歳以上世帯員のみの一般世帯数」に分類した。結合方 法は,「第6表 世帯の家族類型 -町丁・字等-」と「基本単位区」に共通している「市区町村コー ド」「町丁字コード」によって結合し,割合によって人数を按分して算出した。

対象年次は,国勢調査が実施された2005年,2010年,2015年の基本単位区のデータを利用し た。

17 住居表示に関する法律に規定する街区方式による住居表示を実施した地域は,原則として,その街区を基本単位区として設 定している。それ以外の地域にあっては,街区方式に準じて,道路,河川,水路,鉄道又は軌道の路線その他恒久的な施設等 によって区画した地域を基本単位区として設定している。なお,街区の規模については,「街区の規模は,道路網の疎密の度合 及び当該地域における家屋の密度の状況を勘案して定めるものとすること。参考までに住居地域における標準を示せば,面積

3,000平方メートル~5,000平方メートル,戸数30戸程度が適当であること。」(街区方式による住居表示の実施基準(昭和38

730日自治省告示第117号))とされている。

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対象地域は,斜面市街地を多く形成している長崎県と広島県を対象とした。2015年の基本単位 区の座標データは,2010年の座標データと一致する基本単位区のデータのみを対象としそれ以外 のデータについては対象から除外した。

対象となる土砂災害の種類は,イエローゾーン・レッドゾーンの区域内において土地取引が多 く行われていた「急傾斜地崩壊」と「土石流」に限定した。地滑りについては,指定箇所が少な く,土地取引も少なかったため対象から除外とした。

被説明変数の世帯数については,住居表示に関する法律に規定する街区を単位とし,規模 が戸数 30 戸程度とされている基本単位区を利用する。また,土砂災害は急斜面直下や渓流の 近く,扇状地など被害範囲が限定されており,土砂災害を対象とする区域指定の範囲につい ても町丁目よりも狭いため,基本単位区を利用する。

ただし,基本単位区は,ポイントデータであるため,イエローゾーン・レッドゾーンに含 まれている場合であっても,対象外となっている世帯もあるが,ポイントが細かく分けられ ているため誤差は少ないと考えられる。

被説明変数(Zit)は,一般世帯数,6 歳未満世帯員のいる一般世帯数,18 歳未満世帯員のい る一般世帯数,65 歳以上世帯員のみの一般世帯数とした。

説明変数は,土砂災害リスクの指標としてイエローゾーン・レッドゾーンに含まれるポイン トを土砂災害の種類ごとに分類して採用する。

説明変数については表10に示す。

(1)トリートメント変数

急傾斜地崩壊イエローゾーンダミー (LYellowit,急傾斜崩壊イエローゾーンに含まれる場 合に1),急傾斜地崩壊レッドゾーンダミー(LRedit,急傾斜地崩壊レッドゾーンに含まれる場 合に1)としている(図10)。

そして,土石流イエローゾーンダミー(DYellowit, 土石流イエローゾーンに含まれる場合に 1),土石流レッドゾーンダミー(DRedit, 土石流レッドゾーンに含まれる場合に1)を採用 している (図11)。

また,イエローゾーン・レッドゾーンの指定が周辺の世帯にどのような影響を与えている かを分析するために以下の変数を用いる。急傾斜地崩壊警戒区域等周辺 50mダミー(L50mit, 急傾斜地崩壊イエローゾーンから 50m 以内の場合に1),土石流警戒区域等周辺 50m ダミー (D50mit, 土石流イエローゾーンから 50m 以内の場合に1)を採用している。

上記6種類のダミーにおいて,また,区域指定によって土砂災害リスクを認識しても,転居 先の選定に時間がかかったり,引っ越しに金銭的負担が発生したりするため,すぐに転居で きるわけではないことから,効果が表れるまで時間がかかると考えられる。よって説明変数 に経過年数を加える。急傾斜地崩壊イエローゾーン指定経過年数(LYyearit),急傾斜地崩壊 レッドゾーン指定経過年数 (LRyearit),土石流イエローゾーン指定経過年数 (DYyearit),

土石流レッドゾーン指定経過年数 (DRyearit),急傾斜地崩壊ゾーン 50m 指定経過年数 (L50myearit),土石流ゾーン周辺 50m 経過年数(D50myearit)を採用している。

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10 長崎市中心市街地における急傾斜地ゾーン等及び周辺50mバッファー(ArcGISにて作成)

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11 長崎市中心市街地における土石流警戒区域及び周辺50mバッファー(ArcGISにて作成)

(2)地域特性のコントロール

固定効果モデル分析においては,時間不変的な変数は説明変数として含むことはできないが,

説明変数と年次ダミーとの交差項として利用することができる18。 また,年次ダミー(Yit)との 交差項を用いて被説明変数への効果がどのように変化していったのかを確認するために,急 傾斜地崩壊危険箇所ダミー(LHit×Yit),土石流危険箇所ダミー(DHit×Yit),ニュータウン ダミー(NTit×Yit),小売業の販売面積(Shogyo×Yit),市郡ダミー(CTi×Yit)を採用する。

説明変数は表9に示す。

10 説明変数(実証分析3)

変数名 説明 出典

一般世帯数() 2005年から2015年までの基本単位区内の総世帯数 ⑦⑧ 5歳未満世帯員のいる

一般世帯数(人)

2005年から2015年までの基本単位区内の65歳以上世帯委員

のいる一般世帯数 ⑦⑧

18歳未満世帯員のいる 一般世帯数()

2005年から2015年までの基本単位区内の18歳未満世帯員の

いる一般世帯数 ⑦⑧

65歳以上世帯員のみの 一般世帯数()

2005年から2015年までの基本単位区内の65歳以上世帯員の

みの一般世帯数 ⑦⑧

急傾斜地崩壊警戒区域ダミー (イエローゾーン)

急傾斜地崩壊警戒区域(イエローゾーン)に区域指定後に1,そ

れ以外であれば0をとるダミー

急傾斜地崩壊特別警戒区域 ダミー(レッドゾーン)

急傾斜地崩壊特別警戒区域(レッドゾーン)に区域指定後に1

それ以外であれば0をとるダミー

土石流警戒区域ダミー (イエローゾーン)

土石流警戒区域 (イエローゾーン)に区域指定後に1,それ以

外であれば0をとるダミー

土石流特別警戒区域ダミー (レッドゾーン)

土石流警戒区域 (レッドーゾーン)に区域指定後に1,それ以

外であれば0をとるダミー

急傾斜地崩壊警戒区域

周辺50mダミー

急傾斜地崩壊警戒区域周辺50mのポイントにおいて区域指定

後に1,それ以外であれば0をとるダミー ②③

土石流警戒区域

周辺50mダミー

土石流警戒区域周辺50mのポイントにおいて区域指定後に

1,それ以外であれば0をとるダミー ②③

急傾斜地崩壊警戒区域 指定経過年数

(イエローゾーン)

急傾斜地崩壊警戒区域(イエローゾーン)区域指定から観測年

までの経過年数

急傾斜地崩壊特別警戒区域 指定経過年数

(レッドゾーン)

急傾斜地崩壊特別警戒区域(レッドゾーン)区域指定から観測

年までの経過年数

土石流警戒区域指定経過年数 (イエローゾーン)

土石流警戒区域(イエローゾーン)区域指定から観測年までの

経過年数

土石流特別警戒区域

指定経過年数(レッドゾーン)

土石流警戒区域(レッドーゾーン)区域指定から観測年までの

経過年数

急傾斜地崩壊警戒区域周辺50m 指定経過年数

急傾斜地崩壊警戒区域周辺50mの区域において区域指定から

観測年までの経過年数 ②③

土石流警戒区域周辺50m 指定経過年数

土石流警戒区域周辺50mの区域において区域指定から観測年

までの経過年数 ②③

18 筒井淳也・平井裕久・水落正明・秋吉美都・坂本和靖・福田亘孝(2013)「Stataで計量経済学入門 2版」p203-p204 ミネ ルヴァ書房.

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ニュータウンダミー×10

国土交通省作成の「全国のニュータウンリスト」に記載のあ るニュータウンの区域に含まれる,または隣接する町丁目内 であれば1,それ以外であれば0をとるダミーと2010年ダミ ーの交差項

②③

ニュータウンダミー×15

国土交通省作成の「全国のニュータウンリスト」に記載のあ るニュータウンの区域に含まれる,または隣接する町丁目内

であれば1,それ以外であれば0をとるダミーと2015年ダミ

ーの交差項

販売面積×10 基本単位区のポイントがあった500m圏内に含まれる売り場 面積を按分した値(千㎡)と2010年ダミーの交差項

販売面積×15 基本単位区のポイントがあった500m圏内に含まれる売り場 面積を按分した値(千㎡)と2015年ダミーの交差項

急傾斜地危険箇所×10

平成11年に実施された急傾斜地崩壊危険箇所に該当する場合

1,それ以外であれば0をとるダミーと2010年ダミーの交

差項

急傾斜地危険箇所×15

平成11年に実施された急傾斜地崩壊危険箇所に該当する場合 1,それ以外であれば0をとるダミーと2015年ダミーの交 差項

土石流危険箇所×10 平成11年に実施された土石流危険渓流に該当する場合は1,

それ以外であれば0をとるダミーと2010年ダミーの交差項 土石流危険箇所×15 平成11年に実施された土石流危険渓流に該当する場合は1,

それ以外であれば0をとるダミーと2015年ダミーの交差項 市郡ダミー×年次ダミー 広島県,長崎県内の市郡に属する都市であれば,1,それ以外

であれば0をとるダミーと年次ダミーの交差項

「区域等」としているのは,イエローゾーン・レッドゾーンは,「土砂災害警戒区域(イエローゾーン) 及び「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」に分けられる。今回の実証分析では「土砂災害特別警戒区域 (レッドゾーン)」のサンプルサイズが小さかったため,「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」と「土砂災害 特別警戒区域(レッドゾーン)」を併せて「イエローゾーン・レッドゾーン」と表している。

②:国土数値情報 ③:ArcGISにて空間結合 ④:国土基盤地図情報 ⑤:e-stat ⑥:商業統計メッシュデ ータ ⑦:e-stat ⑧:東京大学 空間情報科学研究センター

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