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第 3 章 体育における学習動機に関する研究

4 考 察

体育における学習動機の構造

本研究における目的の1つは、従来の内発的動機を中心とした体育における学習動機を外発 的動機を含む幅広い観点から再考することであった。体育の学習動機に関する因子分析から、

実用志向、優越志向、承認志向、充実志向、集団志向、成績志向の6つの学習動機が見出され た。本研究で得られた体育の学習動機の6つの因子と従来の学習動機の構造とを比較すると、

第1因子である体育における実用志向は、速水(1987)の自分の将来の幸福のために学習する という現実志向に相当すると思われる。ただし、この因子には、身体活動そのものを楽しむと いう体育独自の活動欲求が含まれていることに注意が必要である。第2因子である優越志向は、

学習動機 学習方略

実用志向

優越志向 一般学習方略

承認志向

めあて方略 充実志向

集団志向 努力調整方略

成績志向

図3-1 学習動機と学習方略との関連

(標準編回帰係数)

   p<.05, ※※ p<.01, ※※※ p<.001

†† 実線は正の係数を、破線は負の係数を示す

.353※※※

-.099 .351※※※

-.107

.200※※※

.085 .142※※※

.118※※

.184※※※

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樋口(1985)の能力志向に相当する。第3因子である承認志向は、樋口(1985)の友人承認志 向と成人承認志向、速水(1987)の承認志向、桜井(1989)の外的動機に相当しよう。第4因 子である充実志向は、樋口(1985)の課題志向、速水(1987)の理解志向、桜井(1989)の内 的動機にそれぞれ相当すると考えられる。第6因子である成績志向は、桜井(1989)の外生的 動機に相当する因子と考えられる。さらに、体育学習において友だちと仲良く行動をともにし たいという第5因子の集団志向動機は、グループやチームで学習する機会の多い体育独自の同 調的な学習動機と考えられる。このような学習における親和欲求に基づく動機としては、市川

(1995)による関係志向がある。

以上のように、本研究で抽出された6つの学習動機の成分は、体育における多様な学習動機 をほぼ網羅していると考えられることから、体育における動機づけは、本研究で明らかとなっ た学習動機の各成分に応じて以下のように可能なことが示唆される。すなわち、実用志向を重 視する場合は、活動欲求を満たし運動が将来の健康にどのように役立つかを明らかにすること によって、優越志向を重視する場合は競争意識を掻き立てることによって、承認志向を重視す る場合は、子どもが認められる場面をつくり、優れた点を積極的にほめることによって、充実 志向を重視する場合は興味ある課題を用意し、じっくり取り組める時間を保証することによっ て、集団志向を重視する場合は人間関係に注意を払い、楽しい雰囲気を作ることによって、成 績志向を重視する場合は成績に対して賞賛や叱責で動機づけるというものである。

学習動機と学習方略の関連

本研究の第2の目的であった学習動機と学習方略との関係では、まず、実用志向が強いほど 一般学習方略とめあて方略の使用を促すことが示唆された。また、充実志向が強いほど、一般 学習方略と努力調整方略の使用を促すことも認められた。実用志向は、健康や体力の向上にお ける体育の価値を認識し、運動そのものを楽しもうとする動機であり、充実志向は、内発的な 興味に基づく動機であることから、いずれも体育の内容そのものへの動機であると考えられる。

したがって、このような体育における内発的動機の側面が学習方略、とりわけ長期にわたるよ り深い方略と考えられる努力調整方略の使用を促進するのであろう。また、適切な学習方略と 結びつくという意味で、充実および実用志向に基づく動機づけは、体育学習における望ましい 動機づけであることが示唆される。

つぎに、承認志向と集団志向が強いほど一般学習方略の使用を促すことも示唆された。これ らは、いずれも他者志向的な動機であり、従来の内発的動機を重視する立場からは、あまり望 ましくない動機づけと考えられるように思われる。しかし、本研究の結果は、児童の優れたと ころをほめ、友だちと楽しい雰囲気のある学習に参加させることによって、学習方略の使用を 一定程度促すことができるという可能性を示唆している点で興味深い。つまり、このような動 機に基づく動機づけは、内発的に動機づけられていない児童に対して、学習に対する児童の自 発的興味を喚起するきっかけを与える(谷島・新井,1995)という意味で、また、導入的な役 割を果たす可能性がある(堀野・市川,1997)という意味で重要性を持つと思われるのである。

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それに対して、成績志向と優越志向が強いほど、努力調整方略の使用を抑制することも示唆 され、よい成績を得ることや他者に勝つことのみを目的に体育学習を行う場合は、体育の課題 や学習内容そのものへの興味を低下させ、自分の課題に忍耐強く持続的に取り組もうとしない のではないかと考えられる。忍耐力のある、持続的な学習行動としての努力調整方略は、課題 の習得や学力形成を促す重要な機能を持っていることが考えられることから、これらの学習動 機に基づく動機づけには注意が必要なことが示唆される。

また、成績志向がめあて方略の使用を促すという関係は、教師から強調され、期待されてい るめあて学習の実施が成績と結び付くという体育学習の現状を示唆していると考えられるので はないだろうか。

ところで、努力調整方略の重相関係数の結果は、.284であり、6つの学習動機で、努力調整 方略の分散の約 8%を説明しているにすぎない。これについては、努力調整方略尺度の信頼性 の低さが影響しているのかもしれない。また、学習方略の使用における動機以外の要因の影響 という問題もあげられるだろう。佐藤(1998)によれば、学習方略の選択・使用には、動機づ け要因以外に、学習方略に関する知識および学習方略を行う能力の有無、有効性の認知、コス トの認知、好みなど、さまざまな要因が影響するという。このことから、努力調整方略は、比 較的長期にわたって注意や努力を必要とする学習行動であり、その使用には負担が大きいと認 識されている可能性がある。また、自分にその行動を行うだけの能力がないと判断されれば、

たとえ動機が強くても、そのような方略を使用しないと考えられよう。したがって、今後、学 習方略の使用に関する問題を詳細に検討しようとする場合には、他の要因を考慮する必要のあ ることが示唆される。

2節 体育における学習動機の統合的構造-学習動機類型の検討から-(研究2)

1 目 的

子どもに応じた動機づけを考える場合、学習動機の個々の成分と学習方略との関連を検討す るだけでは不十分である。なぜなら、多様な学習動機は一人一人の子どものなかでさまざまな かたちで組み合わさっており、いくつかのタイプ(型)が存在すると推察されるからである。

事実、鹿毛(1995)によれば、質の異なる学習意欲が個人の中に独立して存在して機能するの ではないという。つまり、学習や達成行動が1つの学習意欲によって生じるということは稀で あることから、複数の学習意欲が個人の中でどのように結びつき、統合されているのかを検討 することの必要性を指摘しているのである。したがって、実際の学習場面での応用ということ を考えると、一人一人の児童が体育に対して示す学習動機のタイプを把握し、それに応じた動 機づけを行う必要があることが示唆される。そのためには、まず児童の示す学習動機の個人差 を典型的パターン(本研究では、これを学習動機類型とよぶ)に分類・整理することが前提条 件になろう。このような試みとしては、すでに西田・西田(1989)による研究がある。しかし

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そこでは、達成傾向と失敗回避傾向という2つの得点からのみの類型化が試みられており、外 発的動機を含めた多様な学習動機が考慮されていないといった問題が残されている。

そこで、本研究では、研究1で得られた学習動機を基に、体育学習場面での子どもの学習動 機類型として、どのような種類に分類可能なのかを探索的に検討することを目的とする。

2 方 法

調査対象、調査期日、調査内容、および手続きは、研究1と同様である。

3 結 果

クラスター分析による学習動機類型の検討

体育に対して子どもが示す学習動機類型としてどのような典型的なパターンが見出だされる のかを検討するために、研究1で得られた学習動機の6つの下位尺度得点をそれぞれ標準得点

(z得点)に換算し、Ward法によるクラスター分析を行った。なお、距離の測定方法は、平方 ユークリッド距離を用いた。5~10 のクラスターを設定して分析を試みたが、各クラスターに 分類される人数および解釈可能性の観点から8クラスターによる分類を採用した。8つのクラ スター、すなわち学習動機類型に分類された人数と比率を男女別に示したものが表3-5である。

自我関与 成績重視 平均 課題関与 成績不安 関係依存 統合 無動機

男子 74(21.7) 55(16.1) 56(16.4) 68(19.9) 34(10.0) 18( 5.3) 30( 8.8) 6( 1.8) 314(100.0) 女子 56(17.6) 45(14.1) 54(16.9) 62(19.4) 40(12.5) 30( 9.4) 20( 6.3) 12( 3.8) 319(100.0) 130(19.7) 100(15.2) 110(16.7) 130(19.7) 74(11.2) 48( 7.3) 50( 7.6) 18( 2.7) 660(100.0)

学習動機類型

3-5 各学習動機類型に分類された被験者数と比率(%

性別

学習動機

 実用志向 .73( .57)ab .13( .55)c -.53( .62)d .44( .68)bc -.69( .69)d -1.36( .63)e 1.05( .31)a -2.50( .81)f 161.41  優越志向 .95( .27)a .34( .51)b -.13( .70)c -.12( .73)c -.86( .72)d -1.33( .81)e .86( .36)a -2.36( .77)f 158.48  承認志向 1.19( .61)a -.21( .59)b -.20( .61)b -.19( .69)b -.71( .73)c -1.17( .47)d 1.02( .64)a -1.57( .55)e 142.55  充実志向 .63( .60)ab .00( .72)c -.19( .68)c .50( .62)b -1.20( .82)d -1.01( .74)d .93( .52)a -1.94( .95)e 109.88  集団志向 .25( .82)b .21( .66)bc -.72( .77)d .57( .61)b -.81(1.10)d -.22( .78)c 1.05( .28)a -1.78(1.14)e 66.41  成績志向 .83( .80)a .68( .55)a -.32( .68)b -.82( .75)c .76( .67)a -.73( .71)c -.69( .62)bc -1.08( .66)c 99.60 F(7, 652)値

†† 数字の右肩のアルファベット記号は学習動機ごとの多重比較(Turkey法)の結果を表し、同じ記号どうしの群は、5%水準   で同じグループを形成していることを示す。

† F値はすべてp<.001

表3-6 学習動機類型別の各学習動機得点の平均値(標準偏差)と分散分析結果 学習動機類型

自我関与 成績重視 平均 課題関与 成績不安 関係依存 統合 無動機

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