1)コンテンツの基本設計
本コンテンツは「勝川商店街における神話の創造」の一環として作成するのである から,最低限度,勝川ないしは春日井にゆかりのある何かを取り入れなければならな い。具体的にリクエストされたのは,勝川のシンボルである弘法大師(崇彦寺)と小 野道風を盛り込むことであった。アイディアとしてすぐに想起できるのは,これらの 人物が現代にタイムスリップして勝川商店街で活動する話であろう。しかし,歴史上 の人物をそのまま登場させてしまうと,どうしても一般的イメージを大きく逸脱する ことができなくなる。特に弘法大師は信仰の対象でもあるゆえに,思い切ったストー リー展開が出来にくい。「アニメでまちおこし」で十分に意識しないといけないのは,
決して「アニメ」(もしくはそれに類する)という表現手段を用いれば,アニメファン の目を引いて評判になるということではないということである。日本アニメが海外を 含めた多くのファンを引きつけるのは,その表現手段だけではなく,いわゆる「マン ガ・アニメ的設計vi)」および,それを話題にしてコミュニケーションができる所vii)に こそある。そこで,物語の展開,空海・道風そのものではなく,「書の達人」(空海・道 風)で「博識」(空海)という性質を持った同名のキャラクターを作成,その二人を軸に して話を展開させることにした。
2)コンテンツ作成までのプロセス
筆者は, 縁あって勝川の地域コミュニティの勉強会である二水会にて「アニメで まちおこしは可能か」,というテーマで発表してほしいという依頼を受け,私論を述
べたviii)。その後二水会に出席することとなり,勝川商店街で仮に「アニメでまちおこ
し」をするならばどのようなものが考え得るか,そのプロトタイプの作成を依頼され た。筆者の所属する愛知文教大学人文学部は,1・2年対象の研究室単位のゼミナー ルは存在しないが,教員の分野に興味のある学生が日常的に研究室で過ごす雰囲気で あり,筆者の研究室にはアニメ・マンガに興味のある学生が集っている。その中で幸 いにもパソコンでの描画に習熟している学生がいたために,筆者のコンセプトをもと してキャラクターをデザインしてもらった。この時点ではすでに商店街にサイネージ を設置する構想があったために,サイネージコンテンツの中にキャラクターを登場さ せることも視野に入れてほしいと依頼された。しかし,アニメーションを作成すると いうことは金銭的にも時間的にも膨大な資源が要求されるために,商店街レベルで作 成するのは困難である。そこで,静止背景といくつかの表情パターンで構成できる簡 易なノベルゲーム風の画面を使ってストーリーを展開する方法を提案した。いわば
「電子紙芝居」ともいうべき方法である。まずプロトタイプを簡便にノベルゲーム風画 像を作成できるパワーポイントで作成し,実際にサイネージに提供するものは市販の
動画作成ソフトを使用している。2012 年1月現在,2話を作成,提供している。
3)体制と作成プロセス
①作成スタッフと分担
「カフェ・びくとりばー」作成スタッフは,監修の書家波多野明翠氏の他は,筆者の 研究室に出入りしている学生5名及び筆者の妻という,文字通り家内制手工業に近い 体制である。分業体制は以下の通り
筆 者:コンセプト作成,ストーリー原案,BGM作曲(一部)
波多野明翠氏:考証,監修,タイトル文字作成
学生A:キャラクターデザイン,作画及び声優。
学生B:演技指導及び声優 学生C:ストーリー点検及び声優 学生D:声優
学生E:声優 筆者の妻:動画編集
このうち,学生ABCはコアメンバーとして地域SNS愛っちのメンバーに登録,
二水会のサイネージ部会にも出席させていただいている。
②キャラクターの基本設計
勝川地区は,駅前のホテル勝川プラザをはじめとしてスイーツに特徴がある喫茶店 が数軒あるほか,和洋菓子の店も数店舗あることから「スイーツの街」というブラン ドを構築することをできるのではないかという仮定のもとに,カフェを舞台に選ん だ。キャラクターについては,先述の空海・道風とカフェのマスターの3人の男性が メインに据えるようにした。正確な数を把握することは困難であるが,「キャラクター でまちおこし」においては,通常はゆるキャラもしくはでなければ,かわいい女の子,
いわゆる「萌えキャラ」を中心に据える方が多いと思われる。勝川では,女性ファンを 意識した「イケメンキャラ」を軸に据えることにより他と差別化を図った。詳細は後 述するが,姑く設定を以下に記す。
【舞台設定】
勝川商店街の名物カフェ,「カフェ・びくとりばー(VICTORYとRIVERの造語)」
に集う常連たちの話。「カフェ・びくとりばー」は,勝川崇彦が,勝川が「スイーツ タウン」として脚光を浴びるのではないか,というもくろみの元に開業したカフェ。
商店街の名作スイーツをマスターこだわりのコーヒーで楽しめるというユニークな
コンセプトで人気,になるのをねらっている。昼過ぎはマスター目当ての主婦で結 構賑わう。
【キャラクター】
A 住民パターン1:再開発区居住。元地権者
・小野道風:おのみちかぜ(主役1):15 才(高校一年生):身長 158cm:誕生日 2/29
小さい頃,空海に不思議なカエルのマスコットをもらったことから小野道風の 能力が突如降臨する。そのため書道については天才的。母親は書家の小野道玄。
小学校2年まで勝川商店街にほど近い住宅地に住んでいたが,親の仕事の都合 でカナダのケロウナ(春日井市の姉妹都市)に引っ越し,家も再開発エリアにか かる。子供の頃は気弱で歩美に守られる感じだったが,カナダでの暮らしで明る く活発な性格になる。再開発事業が伸展するのをきっかけに,家族に先立って再 開発で建設されたマンションに戻ってくる。カフェびくとりばーによくやってく る鷹野空海が幼少時に出会った空海であることに気づいていない。甘いものが大 好きでみんなから子供扱いされている。歩美のことが少し気になりだしている。
CV:女性:元気少年系
B 住民パターン2:詳細不祥
・鷹野空海:たかのそらみ(主役2):年齢?(見た目は崇彦と同じくらい):身長 178cm
小さい頃から最寧寺に出入りしている,住所,家族構成など,謎に包まれた不 思議なキャラ。しかし,崇彦だけはすべてを知っている。あるきっかけで弘法大 師の能力を受け継ぎ,何をやらせても超一流の天才。性格は至ってクールで,善 人と思われるのが嫌いだが,いざというときは神通力を使って人助けをすること も。最近は道風をいじって遊ぶことに密かな楽しみを抱いている。みんなからは 弘法さんと呼ばれている。
CV:男性:低音系
C 住民パターン3:駅付近住宅区在住,商店街勤務(2代目)
・勝川崇彦:かちがわたかひこ:26 才:身長 173cm:
父親は名古屋市内に勤務するサラリーマン,母親は春日井市の小学校の先生。
地域で一番の名門私立高校を卒業後,東京の名門私学でメディア学を専攻,修士
号を取得するも,突如思いつきで「カフェ・びくとりばー」を開く。カフェは空き 店舗の賃貸。性格はおだやかで何でもそつなくこなすタイプで,つかみ所がない。
メガネ男子。表面には出さないがシスコン。カフェに集まるみんなのことをから かって楽しんでいるが,沙希に対してだけは上に出られない。
CV:女性:やさおとこ系
・勝川歩美:かちがわあゆみ:16 才(高校一年生):身長 158cm:誕生日4/2
崇彦の妹で道風の同い年。明るくて活発だがどじっ子で「歩美のクッキーを食 べる」は一種の罰ゲームになっている。沙希,道風と同じ地元の公立高校に通う。
空海を落ち着いた大人と思いこんであこがれており,彼を目当てにびくとりばー を手伝う旁ら,話すきっかけとして書を習っている。趣味はスポーツ全般とカラ オケ。兄とは真反対で「何を考えているのか手に取るようにわかる」というのが 回りの評価。道風に対しては基本子ども扱いだが,たまに道風が見せるまっすぐ な瞳を意識してしまったりも。
CV:女性:いわゆるアニメ声系
D:住民パターン4:商店街在住(商店主・4代目)
・津野沙希:つのさき:16 才(高校一年生):誕生日 12/24
高校一年生で歩美と同じ高校に通う親友。商店街にある,老舗の日本料理屋の 娘。おとなしく,どこか人とずれているところがあるメガネっ娘。本来ならお嬢 様進学校に行く学力があったが,歩美好きが昂じて同じ学校に通っており,成績 は常に学年トップ。空海に片思いする歩美を観察するのが趣味ではあるが,空海 には微妙に嫉妬している。剣道は有段者。最近将棋をはじめた。
CV:女性:透明ウイスパー系
③ストーリーの基本設計
「住民パターン」とは,それぞれのキャラクターがどういう背景で勝川に住んでいる のかの設定である。勝川で暮らす人,近隣に住んでいて勝川を楽しむ人に対して「勝 川スタイル」という,一種のライフスタイルを提案したいという意見があったので設 定に含めた。またCVとは,声のイメージである。動きの少ないノベルゲーム方式を採 用する以上,動きを他の要素(ストーリー,会話)で補う必要があるが,声の印象や演 技はとても重要なファクターである。本来は知多みるくの尾高もえみ氏のようなプロ を起用するのがよいのだろうが,ほとんどを内製せざるをえない情況でもあるので,
学生スタッフの中で,設定イメージにあう声の者を配当した。その上で,「こえ部ix)」