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位相差電子顕微鏡による氷包埋したインフルエンザウイルスの粒子構造解 析

ドキュメント内 騨曜難 (ページ 112-116)

第4章 位相差電子顕微鏡による氷包埋したインフルエンザウイルスの粒子構造解

凍結水和状態での生のインフルエンザウイルスの構造は、クライオ電子顕微鏡検査14)・15)及 びクライオ電子線断層写真法16)で研究されてきた。 これらの研究によって、ウイルスの 構造に関する多くの情報が得られたが、完全なビリオンの3次元構造を理解するにはまだ 不十分である。

 著者らは氷包埋A型インフルエンザウイルスの観察に、バクテリアより小さい標本の観 察により適したゼルニケ位相差電子顕微鏡検査を用いた17)・18)。 新しい位相差画像から得 られた新しいウイルス構造が、以前の報告における画像と比較されている。 これは、ゼ ルニケ位相差電子顕微鏡検査をインフルエンザウイルス微細構造の研究に応用した初めて の報告である。

4−2 技術的背景

4−2司 ネガティブ染色法と低温電子顕微鏡(氷包埋法)

 電子顕微鏡のネガティブ染色法は、精製したウイルス懸濁液を支持膜にのせ、重金属溶 液(酢酸ウラニル、燐タングステン、モリブデン酸アンモニウム)を滴下し、余分な液を 吸い取り、自然乾燥させる方法である。 重金属が試料の周辺や間隙に入り込み、電子の 散乱を大きくすることによってコントラストを得る手法である。 ウイルス粒子は白く、

周囲が黒くなり、ネガフィルムの様な逆コントラストで見えるようになる。 ネガティブ 染色法は有用であるが、支持膜への吸着や乾燥によるアーティファクトは避けられない。

また表面構造は観察可能だが、ウイルスの内部構造までは見ることが出来ない。

 氷包埋法は、予め親水化したマイクログリットにウイルス懸濁液を一滴のせ、余分な液 を吸い取り、液体エタンに急速投入することで試料を凍結する方法である。 凍結した試 料はクライオトランスファー・システムを用いて電子顕微鏡に挿入し、液体窒素又は液体 ヘリウム温度で最小電子線照射法により撮影する。 ウイルス粒子は水分を含んだ状態で

ガラス状の氷に包埋されるため、ウイルス粒子の自然な形態が保持されると考えられる。

 球状ウイルスの多くは正二十面体構造を示すため、コンピュータを用いて更に詳細な解

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析を行うことが可能である。 同一方向から撮影された像を重ね合わせることで解像度を 上げることも可能で、X線結晶回折で得られたウイルス部品の原子レベルの情報と組み合 わせることで、ウイルスのナノメートルレベルでの三次元構造を解明できるようになった。

4−2−2 位相差電子顕微鏡

 光の吸収を見る通常法では、コントラストを付けるため必ず染色する必要がある。暗視 野法では、強い背景光を消し暗視野とし、無染色細胞の僅かな光吸収を検出する方法であ

る。しかし細胞のような透明試料の本来の観察法は、1930年代から1940年代にかけて Zemikeにより提案された位相差顕微鏡である。

 光学顕微鏡では、位相差法が早くから実現され、細胞形態学に絶大な貢献をしたが、透 過型電子顕微鏡では、位相板作製と位相板帯電の2つの難問のため、先駆的試みはあった が、発明以来60年間確立されてこなかった。 しかし2001年に永山博士らは、これらの難 題を解決し、ゼルニケ位相差電子顕微鏡の実現に成功した17)。

 位相差法は、位相板を用いて、電子波の散乱波(複素波動)と透過波による干渉現象に 基づいて高コントラストを得る方法である。 レンズによる収差やデフォーカス(ボケ)

によってもコントラストを得ることが出来るが、位相板を入れることで散乱波を1/4波長 遅らせ、最大コントラストを得ることが出来る。

 今回用いたゼルニケ位相差電子顕微鏡の構成図を図1に示す。 通常の電子顕微鏡と異 なるところは、対物レンズ後方の焦点面に中心孔を持つ位相板を装着している点である。

位相板は、対物絞りに直径約1マイクロメートルの孔のあいた薄いカーボン膜を貼ったも ので、その機能は、電子線の位相を90。シフトさせることである。 この位相板による電 子線の位相のシフト量は、膜の厚さと加速電圧によって変化するため加速電圧に応じて、

カーボン膜の厚さを変え、100kVで約20nm、300kVで約30nmのカーボン膜を使用する。

試料に当った電子線がこの位相板を通過する際に、90。の位相のずれが生じ、中心孔を透 過した電子線と干渉して、通常の電子顕微鏡では殆ど透明な物体に高いコントラストをっ

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けることが出来る。 このゼルニケ位相差法の最大の特徴は、正焦点の時コントラストが 最大化されることである。 氷包埋法による通常の電子顕微鏡の観察では、正焦点で撮影

しても殆ど何もみえないため、焦点をずらして撮影しなければならず、アーティファクト が入り込む危険があったばかりでなく、電子顕微鏡本来の分解能が得られなかった。 従 って氷包埋法とゼルニケ位相差法を組み合わせることで、正焦点で高いコントラスト像が 得られるようになった。

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通常の電子顕微鏡  (明視野法)

ゼルニケ位相差電子顕微鏡

全透過絞り

       入射波\

       (平面波)

一一一一一一一

ゥ  物体  →

  ←一 対物レンズーーレ

ー一←一 後焦点面一→

     望散乱波

<一一渇eレンズーーレ

像スクリーン

ゼルニケ位

相板(π/2)

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