• 検索結果がありません。

企業におけるクラウド・コンピューティングの利用阻害要因に関す る分析る分析

ドキュメント内 著者 高橋 靖生 (ページ 99-124)

第3章の分析では、クラウド・コンピューティング関連のサービスを利用する企業が増 加しているとはいるものの、最新の調査年度である平成25年度における利用率は35.2%

と、全体の半数にも満たないことが明らかになった。今後、企業がクラウド・コンピュー ティングのサービス利用を増やしていくには、その利用の阻害となる要因を取り除くこと が必要であると考える。

本章では、まず第1節で、クラウド・コンピューティングの利用阻害要因に先行研究を サーベイする。次に、第 2 節では、『情報処理実態調査』の個票データを用いて、クラウ ド・コンピューティングの利用上の課題について分析する。そして、第3節では、クラウ ド・コンピューティングの利用有無と利用における課題、問題点との関係について実証分 析を行う。

第1節 クラウド・コンピューティングの利用阻害要因に関する先行研究 ここでは、クラウド・コンピューティングの利用を阻害する要因について、利用者側か ら見た先行研究をまとめる。

Hsu et al.(2014)は、台湾の企業におけるクラウド・コンピューティングの導入状況 について研究を進め、導入の阻害要因として、クラウド・コンピューティングの事業者が 素早い対応をしてくれないと回答した企業が93.0%となり、予期しないトラブルでサービ スが利用できないと回答した企業が92.5%、信頼性がないと回答した企業が92.0%である、

としている。

栗田・樋口(2012)は、情報システムの新しい利用形態として「クラウド・コンピュー ティング」が注目されているが、事業の継続性やデータ保管、セキュリティなどに関して 懸念材料があると指摘し、「セキュリティに関する問題に対して「主に技術的な側面での検 討は始まっている。しかし、利用者が抱いている懸念に対して、その本質を的確に指摘し ているとは必ずしも思えない。すなわち、クラウド事業者と利用者との情報格差を是正す ることが今後のクラウド普及促進には極めて重要である」と指摘している。(栗田・樋口 2012:15)

NRI セキュアテクノロジーズ(URL20)の調査では、クラウド・コンピューティング

- 95 -

についての不安要素として、「事業者の倒産や撤退に対してサービスが停止する恐れがあ る」、「問題発生時に事業者がどこまで対応するかわからない」、「事業継続性がどの程度確 保されているかわからない」などがあることを指摘している。

Urquhart(2010)は、クラウド・コンピューティングのサービスが今後拡大し、サー ビス提供事業者間の相互接続が増えれば、複雑なシステムになり、予測不可能な挙動や想 定外の挙動が発生する危険性が高まり、「クラウド化によるフラッシュ・クラッシュ」が起 こると危惧し、警鐘している。

特定非営利活動法人ITコーディネーター協会(URL21)では、ITコーディネーターを 対象にアンケート調査を行い、中小企業におけるクラウド・コンピューティングのサービ ス導入時の課題・不安について、「自社の情報を他社に預けることに不安がある(データが 壊れたり消えたりするかもしれない)」などセキュリティに関する不安が 68.5%と最も高 く、「サービス解約後に個人データなどが残存する(適正にデータ削除されない)かもしれ

ない」と40.8%が回答している。また、クラウド・コンピューティングのサービスを導入

する前に「高いセキュリティが提供されている」と高い期待度があったものの、実際利用 した満足度は低い、との分析もある。

総務省(2010)では、クラウド・コンピューティングのサービスの課題として以下の4 点を指摘している。① 安全性・信頼性の確保(クラウド・コンピューティングのサービス は、多数の利用者がコンピュータ資源を共有するものであり、特に安全性・信頼性の高い サービスの実現に向けた取り組みは途上にある)、② データの所在(クラウド・コンピュ ーティングのサービスにおいては、データの所在を利用者が必ずしも把握できないことか ら、国外にデータが保存されている場合、データの管理体制等について問題があるかどう か確認ができないといった課題が存在する)、③ 独自の事業展開(各クラウド・コンピュ ーティングのサービス提供ベンダーが独自に事業展開をしており、利用面・技術面の両面 にわたり、多数の標準化団体等において、国際的なルール作りや標準化等に取り組み、ク ラウド・コンピューティングのサービス間の相互運用性を確保することが必要である)、④ サービスのボーダレス性(クラウド・コンピューティングのサービスは国境を越えて自由 にサービス提供が可能であることから、消費者(利用者)の権利保障、個人情報保護等の 国内法規との関係について整理が必要である)、の 4 つがあるとし、それぞれの課題を解 決するための環境整備を行うべきであると報告している。

また総務省(URL5)は、自治体におけるクラウド・コンピューティングのサービス導

- 96 -

入の阻害要因について、現行システムのデータ移行作業が困難であること、外字における 文字変換作業が困難であること、他システムとのデータ連携作業が困難であること、があ ると指摘している。

東京都市町村自治調査会(URL22)では、多摩地区などの市町村39団体に自治体クラ ウド導入に当たっての阻害要因についてアンケート調査を行っている。それによると、「ノ ンカスタマイズでのパッケージ導入が困難であること、組織内(トップや管理部門、業務 所轄など)のコンセンサスを得ることが難しいこと、導入の中心となる職員の選出が困難 であること、性能・レスポンスに不安があること、セキュリティ面での不安があること、

などが回答として上がっている。

地方公共団体情報システム機構(URL5)は、「自治体クラウド開発実証事業」に参加し た団体にアンケート調査を行い、クラウド化の課題と対策について、クラウド化検討前に 想定していたもの、クラウド化実施時に判明したもの、に分類している。それによると、

利用するアプリケーションを個別にカスタマイズすることができないこと、戸籍謄本など の表記に必要な固有文字に対応するプリンタが限られること、データセンター側ネットワ ーク機器の設定を独自に行うことができないこと、その他クラウドで対応できない業務が あること、障害発生に原因切り分けが難しいこと、個人情報の取り扱いにおける委託業者 の責任範囲を明確化することは、クラウド化検討前に想定していたためで解決に至ったが、

障害時における担当窓口の対応時間帯、対応の早さに課題が残ったとしており、事前に十 分は検討が必要であると報告している。

以上、クラウド・コンピューティングのサービスを利用する上での問題点に関する先行 研究の議論をまとめた。次に、この点に関する『情報処理実態調査』の結果をみてみる。

第2節 クラウド・コンピューティング導入・利用上の課題

『情報処理実態調査』では、クラウド・コンピューティングの導入・利用上の課題につ いて、全企業対象に複数の回答をさせる設問がある。それぞれの項目について、以下にま とめる。

① 『情報処理実態調査』でのクラウド・コンピューティングの導入・利用上の課題

「システムの信頼性・安全性が不十分」

企業は、クラウド・コンピューティングのサービスなど外部のサービスにデータを預け

- 97 -

ることに不安があり、データの漏洩は大丈夫か、他のクラウド・コンピューティングのサ ービス利用企業からシステムを覗き見られたりしないか、あるいはセキュリティ対策は万 全であるか、など不安要素がある。そのためクラウド・コンピューティングのサービス利 用に踏み切れない可能性が考えられる。

「サービス保証などに関する契約内容が不十分」

最近企業は法令遵守を求められ、そのためクラウド・コンピューティングのサービス提 供業者との契約内容についてもより一層厳密に確認することを求められている。企業は、

契約時において利用するサービスに関する品質保証基準などが明確にされていない場合、

そのサービス利用を見送る可能性があると考えられる。

「自社のビジネス・プロセスの変更が必要」

クラウド・コンピューティングのサービスは、簡単に導入できるとはいえ、導入するシ ステムに対する業務プロセスの変更が少なからず発生する。そのため、業務に関連する社 内部門の協力が不可欠となり、手間がかかる。

「カスタマイズの自由度が低い」

日本企業は社内に蓄積したその企業特有のノウハウを生かすためにソフトウェアのカス タマイズを実施している。一方、クラウド・コンピューティングのサービスは汎用性が高 いため、カスタマイズは基本的に認めていない。このため、その企業独自のノウハウを情 報システムに反映させることができない。

「重要データを外に出せない」

一部の企業では、情報セキュリティ対策の一環で、自社以外の場所にデータを保管した り持ち出したりすることを禁止している。こうした場合は、クラウド・コンピューティン グのサービスを利用することが困難となる場合があると思われる。

「既存システムとの連携ができない」

情報システムは単体で動くだけでなく、利用ユーザを識別する認証情報や複数のデータ ベースなど連携して稼働している。企業は、情報システムの一部をクラウド・コンピュー

ドキュメント内 著者 高橋 靖生 (ページ 99-124)