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他者の類型―『桃太郎   海の神兵』における他者

第 二章 で指摘 した よ うに、戦時期 には、国境 の外側 に存在す る他者 との接触 を契機 とし て、他者 の文化 を基準 として、他者像 を構成す るこ とが明 らか となった。 そ して、他者 の 文化 と比較す るこ とによって、 自らの文化 に優位性 を与 えるので ある。本章 では、終戦間 近の

1945年

4月 に公開 され た『 桃太郎 海の神兵』 を とりあげ、アニメー シ ョンが、戦時 期 において、空間を規定す る境界 をめ ぐる闘争 をいか に して表象 してい るのかを分析す る。

前述 した よ うに、 この作品は、

1944年

、12月 に完成 した

74分

間の長編 アニメーシ ョンで ある。 この作品の完成お よび公 開は、戦時期 にお けるアニ メー シ ョン制作 をめ ぐる環境 が 一変 した こ とを端的 に示 してい るが、それ だけでな く、 このアニ メー シ ョンで描 かれ てい る内容 を分析す ることで、 なぜ 、アニ メー シ ョンが戦時期 に脚光 を浴 びたのか を明 らかに す ることができる と考 える。

1『 桃太郎 海の神兵』(1945)

『 桃太郎 海 の神兵』 は、境界線で隔て られた空間 と、その空間に存在す る他者 とい う観 点か ら

4つ

のシー クエ ンスに区分す ることができる(表 3)。 まず、あ らす じを追いなが ら、

いかなる空間が描 かれてい るのかみてみたい。

シー クエ ンス

1の

冒頭 は、終戦後、海軍兵が故郷 に戻 り、村 の子 どもた ちに出迎 え られ る牧歌的 な風景か ら始 ま る。 アニ メー シ ョンでは、 日本 がアメ リカ との戦闘 に勝利 した と い う設定である。 そ して、帰郷 した海軍兵が、子 どもたちにせがまれて戦闘体験 を語 る。

ここでい う戦闘体験 とは、巻頭 に、「メナ ド降下作戦 に参加せ る海軍落下傘部将士の談話 に よる54」 と字幕があるよ うに、

1942年

1月 11日 オ ランダ領東イ ン ド(イ ン ドネ シア

)北

レベ ス・ メナ ドにお ける 日本軍初の空挺作戦の成功 を主題 としている。海軍兵 は、故郷で タンポポの綿 毛が舞 ってい る風景 と、落 下傘部 隊が敵地へ降 り立つ姿 を重ね合 わせ る。 そ して、太平洋 のある島 (東イ ン ド諸 島を想 定 してい る と思われ る

)を

起点 と した落 下傘部 隊での戦闘を回想 し始 めるのである。回想 シー ンは、シー クエ ンス2、

4の 2つ

のシー クエ ンスで構成 されてい る。 シー クエンス

2で

は、桃太郎率い る 日本海 軍が鬼ケ島へ攻 め込む 前 に、太平洋 のある島に滞在す る。 ここでは、 日本海 軍 と、大平洋 のあ る島の原住 民 との 交流 の様子 を描 いてい る。 た とえば、原住 民 と協力 し、海軍のテ ン トを設営 した り、原住 民に 日本語 を教 えた りす る場面がある。一方、シー クエ ンス

4は

、太平洋 のある島か ら、

落下傘 を用 いた上陸作戦で鬼 ケ島に攻 め込む場面で ある。 ここでは、鬼 として描かれ てい るアメ リカ軍 との戦闘 に勝利 した 日本海軍 が、アメ リカ軍 に無条件 降伏 を迫 るシー ンが描

54監督 の瀬尾は、体験入 隊 し、この空挺作戦 に参加 した将兵 に対 して行 った聞 き取 りをもと に脚本 を執筆 した。瀬尾 のイ ンタビュー を引用 (尾1986:221)。

かれ てい る。 そ して、 アニ メー シ ョンの最 後 は、再 び故郷 の シー クエ ンス に戻 る。 そ こで は、 故郷 に戻 つた兵 士 の子 ど もた ちが 、落 下傘 部 隊 を模 して 、本 か ら、地 面 に描 い た ア メ

リカ の地 図の上 に上 陸す る とい う様 子 が描 かれ てい る。

また、 シー クエ ンス

3で

は、「白人 」が東 イ ン ド諸 島 を 占領す る経緯 と、 日本 が東 イ ン ド 諸 島 を救 済す る経 緯 につ い て描 かれ た童 話 が挿入 され てい る。 この シー クエ ンスは、 自黒 を基調 と した影 絵 調 の アニ メー シ ョンで描 かれ て い る。 後 に詳 述 す るが 、 この シー クエ ン ス は、本 筋 とは異 な る物語 と して挿入 され てい る。

3で

示 した よ うに、シー クエ ンス1では、他者 は登場 しない。戦闘を終 えた海軍兵 は、

他者 が認識 され ない 「故郷」 とい う空間へ と戻 るのである。

 

日本 と他者 の関係 を端的 に描 いているのは、シー クエ ンス

2以

降である。 シー クエ ンス

2で

は、故郷か ら、太平洋 のあ る島へ といった空間の移動 に伴 って生 じる、境界外 の存在 としてのアジア・太平洋 の諸民 族 と交流 を描いてい る。 また、シー クエ ンス

3で

は、太平洋 に位置す るゴアの国を中心 と して、 日本人 とアジア・太平洋 の諸民族 と 「白人」 といつた三者 の関係 が描 かれてい る。

さらに、シー クエ ンス

4で

は、太平洋 のある島か ら、鬼ケ島への空間の移動 を通 じて、他 者 としての 「白人」との闘争 を描 いてい るのである。以上の よ うに、アニメー シ ョンでは、

シー クエ ンス ごとに、「故郷」、「太平洋のある島」、「鬼ケ島」 と海 で隔て られた空間の移動 を通 じて、他者 との関係性 の変容が描かれ てい る。

では、まず、太平洋 のある島に存在す る他者 と 日本 との関係 が描 かれ た シー クエ ンス 2 を詳 しくみてみ よ う。

2同

一性としての「動物」

シー クエ ンス

2で

は、日本海軍落下傘部隊は、鬼ケ島での戦闘(シー クエ ンス 4)に 備 え、

3『桃太郎

 

海の神兵』

空 間 他 者 内 容

故 郷 終戦後 、海 軍兵 が帰郷 し、戦 闘の様 子 を村 の子 ど

もたちに話 して聞かせる。

2 太 平洋 のある島 アジア0太平洋 の 諸 民族

海 軍設 営部 が太 平洋 の島 に、原住 民と共 同で陣を 設 営する。

日本 語教 室 にて 日本語 を教 える。

3 ゴアの国 アジア・太平洋の 諸民族

/白

白人 に 占領 された太 平洋 の島を 日本 軍が救済す る。

4 鬼ケ島 鬼ケ島に上陸、日本軍が無条件 降伏を迫る。

あ る太 平洋 の あ る島 に陣 を張 る。 この シー クエ ンス に登場 す るキ ャ ラク ター は、大 き く二 つ のカテ ゴ リー に分 け られ る。 ひ とつ めのカテ ゴ リー は、桃 太郎 の部 下で海 軍 に属 してい る、 イ ヌ 、サル 、 キ ジ、 ウサ ギ、 クマ とい った動物 で あ る。 これ らの種類 は、桃太 郎 は言 うまで もな く、金 太郎 な ど 日本 の民話 に登場す る動 物 で あ る。も うひ とつ のカテ ゴ リー は、

当時 、 日本 で は あま り馴 染 み のない ゾ ウ、 ヒ ヒ、サ イ、 ヒ ョウ、 カ ンガル ー な どの 「南方」

に生 息す る とされ る動物 で あ る。 この シー クエ ンスで は、 ヒ ヒや ヒ ョウ、 ゾ ウの よ うな動 物 が 、軍服 を着 用 した ウサ ギの指示 を受 け て、本 を切 り出 し、組 み 立 て、新 しい基 地 の建 築 作 業 を してい る。 桃 太 郎 率 い る海 軍設 営本部 のた め に肉体 労働 を行 つてい るので あ る。

さ らに、「南方 」 の動物 は、「南 方 」 の果 物 を 日本海 軍 に与 えた りと、海 軍 の陣地設 営 に協 力 的 に描 かれ てい る。

また 、 シー クエ ンス

2で

は、 占領 地 にお け る 日本語 教室 の様 子 が描 かれ てい る (図 14)。

図 14は、整 列 して着席 してい るが、シー クエ ンスの 冒頭 で は、南方 の動物 た ちは、我 先 に と席 を取 り合 つてい る。 そ こへ 、桃 太 郎 の部 下 で あ り、軍服 を着用 したイ ヌ の教師 が登場 し、笛 を吹 い て、授 業 の開始 を告 げ る。 生徒 の南方 の動物 た ちが着席 した ところで、イ ヌ の教 師 が黒板 に書 かれ た字 を指 しなが ら、「ア」 と読 む と、動物 らが声 を揃 えて 「ア」 と繰 り返す。 続 い て 、教 師 が 「ア タマ」、生徒 ら 「ア タマ」、教 師 「ア シ」、生徒 ら 「ア シ」、教 師 「アサ ヒ」、生徒 ら 「アサ ヒ」 と 日本語 の反復 練習 を してい る。 そ の後 、教師 が 「は じめ か らみ ん なで、 はい」 とい って 、黒板 の 「ア」 とい う文字 を指 す も、生徒 らは各 々動 物 の よ うに鳴 くだ けで うま く発 音 で きな い。 次 々に指名 され るが、言葉 にな らない。 南 方 の動 物 た ちが 、文字 を認 識 す る こ とが困難 で あ る こ とが示 しされ て い る。 再 び 、動 物 た ちはふ ざけ始 め、授 業 に な らな くな って しまい、 イヌ の教 師 は困 り果 て て しま う。 そ の様 子 を離 れ た ところか ら見 てい たサル とクマ の 日本 軍 の兵 士 が助 け船 を出す。 それ は、歌 を用 いた 方 法 で あ った。 クマ はハ ーモ ニカで、「アイ ウエ オの歌」 を演奏 し、サル はそ の旋律 に合 わ せ て歌 い始 め る。「アイ ウエ オ の歌」 は、五十音 に旋 律 をつ けた もので あ る。 その歌 を聞い た生徒 た ちは歌 に合 わせ て歌 い始 め、歌 い なが ら五十 音 を習得 す る様 子 が描 かれ て い る。

監督 の瀬 尾 に よる と、「アイ ウエ オ の歌」 は、実際 に 日本軍 が 日本語 を教 え るた めに作 られ た歌 で、 ニ ュー ス映画 の 中に入 る中国や 南 方 か らの現 地便 りの なか で歌 われ て い るの を聞 き、採 用 した とい う55。

55瀬尾 のイ ンタビューによる (尾1986:228)。

14 

日本語教室 のシー クエ ンス :「アイ ウエオの歌」を合唱 してい る (『桃太郎

 

海 の神

兵』)

シー クエ ンス

2で

重要な点は

2点

ある。

 1点

目は、両者 は、「動物」 とい う同一のカテ ゴ リーで描かれてい る とい う点である。シー クエ ンス

2で

登場す るのは、日本海 軍の兵士 と、

太平洋 の島に も ともと存在 していた住 民であるが、桃太郎 を除いては、すべて動物 で描 か れ てい る。 ここでは、 どち らか一方 を人間、他方 を動物 として描 いてい る とい うわ けでは な く、両者 を 「動物」 として描いてい るのであ る。 ただ、描 かれ てい る動物 の種類 で明確 に、 日本 海 軍 とア ジア・太 平洋 の諸 民族 を差異 化 してい る。 日本 海 軍 は、イ ヌ 、サル 、 キ ジ、ウサ ギ、クマ とい つた 日本 の民話 に馴染 み の あ る動 物 で描 かれ て い る。この地域 で は、

実 際 に ゾ ウ、サイ 、 ヒ ョウや カ ンガル ー とい った動物 が 、果 た して 同一 空 間 に存在 し うる のか ど うか とい うこ とは問題 で はない。 日本 に とつて、 ア ジア・太 平洋 の諸 民族 が 「珍 し い」存在 で あ る こ とを示す 必要 が あ るので あ る。 ここで重要 な こ とは、「動物」 とい う同一 のカ テ ゴ リー に両者 を包摂 した うえで 、それ ぞれ の役割 (教師一 生徒

)を

明確 に して い る

とい う点 で あ る。

2点

目に重要 な点 は、動 物 の種類 で 両者 を差異化 してい る とい う一方 で、アニ メー シ ョン で描 くこ とに よつて、そ の差 異 は あい まい にな る とい う点 で あ る。 前述 した よ うに、注意 深 くみれ ば、両者 を表象 す る動物 の種類 は異 な るが 、 それ は、意 図 され て い るか否 か は別 に して 、 アニ メー シ ョンに欠 くこ との で きないか わい ら しい動物 キ ャ ラ クター を用 い る こ とで 、 両者 の差 異 は消失す る。 とい うの も、動 物 で描 かれ た 両者 が互 い に協 力 的 で 、 同 じ 空 間 に存在 す る こ とが 当た り前 で あ る よ うに描 かれ る こ とに よつて 、 あた か も両者 が 同一 の集 団 で あ る よ うにみ え るか らで あ る。 そ うす る こ とで、巧妙 に、 ア ジア 0太平洋 の諸 民 族 を 日本 の支配 に取 り込 む プ ロセ ス を隠蔽 す る こ とが可能 とな る とい え よ う。 他 方 、 両者

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