• 検索結果がありません。

今後の課題

ドキュメント内 2015 年度 博士学位申請論文 (ページ 82-109)

第5章 おわりに

2. 今後の課題

本稿での考察と検証には、起業を資金調達面から捉え、起業の構造を主観的な評価の構 造から接近したことに特徴がある。その点競争市場の規制と起業活動の関係は、インフォ ーマル投資を論じるための補完的な変数となる。

55 レファレンス(2)参照

事業機会の認知や市場参入への恐怖やリスクに対する見立ては期待収益率の算定に影響 する56。 市場形成が規制と同時並行的に進むことは先に述べたところである。規制が設け られるのは、市場取引の約束事を明示することであり、契約関係で所有権を明確にするこ とを意味する。規制が整備されるに従い、市場はフォーマルな形を整備し、秩序が形成さ れる。この秩序は既存の財・サービスや金融資本取引の取引コストを低下させ、経済成長 に貢献する。しかし、企業家利潤を享受させるインフォーマル投資に関しては、規制緩和 が重要になる。インフォーマル投資と規制緩和は、起業活動と密接にかかわっており、こ の点をモデルに組み込む必要があった。この点は今後の課題となる。

また、本稿は、起業を促進あるいは、減少させると考えられるいくつかのファクターに ついて、いまだ関連を調べていない。失業率、所得格差、教育水準、社会インフラは市場 生成のための条件である。また文化的背景も異なる。本稿の検証は、ダミー調整後の個別 効果を採り除いた検証であるから、時系列の中で季節的にみられる一定の変量効果は取り 除かれている。しかし、これら諸条件のより積極的な考察は、今後の課題となる。これら が起業と経済成長の間の関係を明らかにするファクターとなる可能性がある。

本稿ではリスクの主観的評価を中心に論じたこともあり、量的検証は未確認の分野が多 く残されていることを指摘する必要はある。例えば、競争市場の規制とアントレプレナー シップとの関係についてもいっそう、言及する必要がある。規制の効果によって、事業機 会の認知の減少傾向は明らかであるが、これが、アントレプレナーシップの効果として期 待される事業機会から目をつむる結果となるものであったか、または、内部市場の成熟の ために、外部の市場機会に敏感でないという内部注視の傾向のものであるかは、本稿の検 証によっては明らかにならない。本稿においては、組織内部の市場と外部市場とを分ける 議論を適用しなかったためである。しかし、人間対人間の関心が直接結びついて資本を形 成し、それがインフォ―マル市場と呼ばれるものにふさわしいものかどうかは今後の議論 を待つことになるが、それが事業において、資本を形成し、その資本結合により、将来の 資産を形成する源泉になりうることを示した点において、本稿の目的はいったん果たされ たものと推測する。

56 レファレンス(3)および(4)参照

レファレンス

11(1) 規制の効果

契約社会は、結婚制度、贈与、参入障壁ほか、社会を取り巻く「制度」(institution) によって維持され、

破壊され、発展する。制度(institution)は、人間が作り上げたものであり、それは言葉と理念によって形 式化され、顕在化している意思決定の総体である。制度の奥には、それを成立させた内部のアクターによ ってなされた合意や妥当性の根拠が存在しており、制度は、社会を説明するために有効な手段でなくなる 時に、内部の構成者が行動を変化させることで、取引にかかる構造を変化させることがある。

下図に規制の効果として明らかなものを列挙した。規制手続きと所得格差との関係において負の相関が 見られている。これは、規制や許認可が、市場の取引信用を担保する契約、権利関係上の安定のための調 整過程であることを改めて示す結果となった。

起業の障害 (参入規制と創業支援)

(出所)OECD, Innovation microdata project based on CIS-2006, national data sources.より筆者作成

また、次に挙げる図は、OECD加盟国の中の、2008年に、起業活動の参入にあたり、障壁となるRegulatory

and administrative opacity(不透明な行政の許認可)、Administrative burdens on startups (行政上の手 続き負担)Barriers to competition(参入障壁)の度合いを調べたものである。

最も、障壁が少ないとされたのは、イギリスであり、オランダ、スウェーデンと続いている。フランス、

ドイツ、日本、ベルギーは中位にあり、ヨーロッパの大陸型と同様のレベルにある。参入障壁が最も高い 値を示したのは、メキシコ、アメリカ(0.83)であった。1起業の障害要因とされるこれら3つの要素が、1

人あたりGDP、ジニ係数とどのような関係にあるか、相関関係を確認した。

起業の障害と1人あたりGDP、ジニ係数との相関

上表より、ジニ係数の値は、Regulatory and administrative opacity(不透明な行政の許認可 r.-0.422) Barriers to competition(参 入 障 壁 r.-0.375) と 弱 い 負 の 相 関 を 示 し た 。 ま た 、Regulatory and administrative opacity(不透明な行政の許認可)は、Administrative burdens on startups(行政上の手続き 負担 ―0.454)と負の相関を示した。

これは、起業による参入障壁、行政上の手続きの不透明さと富の所得分配の度合いを示すジニ係数が無 関係ではないことを示す。ジニ係数が大きい所得分配の度合いが大きな経済では、参入障壁、行政裁量に よる許認可、手続負担が大きくなる傾向がある。

しかし、この分析から明らかなように、高成長の起業家(従業員20以上)の数は、手続きや許認可など の起業にかかる物理的な障害よりも、1人あたりGDPとの相関が強くでていることを勘案すると、ジニ係 数の大小それ自体は、行政裁量による許認可の大きさと逆相関があることを示すのみであり、起業活動と の相関は確認できない。さらに、下図に、ジニ係数と1人当たりGDPの関係を示した。

Country 2008 per Capita GDP Gini Index 2007 Regulatory and administrative opacity 不透明な行政の許認可

Administrative burdens on startups 行政上の手続き負担

Barriers to competition 参入障壁

Luxembourg 118,570.05 30.8 0.33 0.77 0.58

Norway 93,235.22 25.8 0.35 0.24 0.58

Switzerland 65,699.35 33.7 0.33 0.36 0.47

Denmark 62,237.76 24.7 0.33 0.21 0.60

Netherlands 53,354.89 30.9 0.04 0.41 0.41

United States 47,155.32 40.8 0.06 0.33 0.83

Australia 48,706.88 35.2 0.35 0.25 0.54

Finland 51,020.39 26.9 0.38 0.48 0.51

Belgium 47,224.21 33 0.38 0.49 0.55

Sweden 52,882.38 25 0.33 0.28 0.36

France 45,991.04 32.7 0.33 0.43 0.51

Germany 44,524.95 28.3 0.67 0.16 0.47

Japan 38,271.30 24.9 0.37 0.24 0.74

Canada 45,051.11 32.6 0.16 0.28 0.69

Iceland 53,107.81 0.28 0.78 0.38 0.82

Italy 38,887.23 36 0.00 0.55 0.52

United Kingdom 43,651.55 36 0.37 0.19 0.25

Spain 35,364.24 34.7 0.00 0.77 0.42

New Zealand 30,652.74 36.2 1.03 0.18 0.42

ジニ係数と1人当たりGDPの関係

(出所) IMF World Economic Outlook Database, 2010 (GDP) 1 World bank Indicators Database 2005 (Gini) より筆者作成

調査対象国の中では、ジニ係数の値が最も高かったのはトルコ(Turkey)43.6, TEA7.6%で、最も低いの はデンマーク(24.7,TEA3.4%)であった。ジニ係数の値とTEAとは、決定係数(

R

2)は、0.134であり、

極端にジニ係数の高いアメリカ、トルコを除くと、その決定係数(

R

2)は、0.173となった。1人あたりの 国民所得の増加により所得格差は是正されている。所得格差(ジニ係数)は1人あたりGDPの高所得の 国ほど値が小さい傾向がある。もちろん、所得の再分配による効果が想定されるが、本考の検証からも明 らかなように、先進国の起業はインフォーマル投資とともに増加し、経済成長を実現している。因果関係 の検証については今後の課題となるが、インフォーマル投資と所得格差の関係は注目されるべき視点とな る。

(2) 企業家のリスク選好と不確実性下の資金調達

リスクテイクが企業家の特性であるとするなら、少なくとも銀行からの融資計画がリスク回避的である 以上、資金調達時にリスクを補てんする信用を必要とするはずである。投資家と起業家を結び付ける関係 特殊的な投資の契約関係がそれをカヴァーすることはあるにせよ、少なくとも銀行からの合理的なリスク 算定によって期待利得は減少されなければ、出資(エクイティ)が企業家のリスクをカヴァーする構造を説 明することは困難なものとなる。

企業家の資金調達は、過去の事例も存在しないリスクの高い事業への投資を意味する。一般的に企業家 の信金調達には、貸し手と借り手の間の情報の非対称が存在する。このような情報の非対称性は、まった く新しい企業の新規プロジェクトの資金調達にあたってはとりわけ大きな問題となる1

企業家が認知した事業機会を支える資本調達と投資の形成が、もし経済成長に関係するとすれば、イノ ベーションを起こし、国民所得の増加に貢献するということになる。また、企業経営の視点のみならず、

個人の労働に対する選好という観点からも、企業家育成のために、資金調達と投資に対するリスクの考え 方は有用である。本節では、新規事業のような不確実性を有する投資プロジェクトに対する投資決定につ いて検証し、リスク回避的で、不確実性を回避しようとする投資家とリスク中立的な企業家との間の資金 調達について検証する。

まず、企業が1社存在すると仮定する。企業家は当初、開業資金を全く保有しておらず、無数に存在す

る投資家のうちの1人から、新規事業プロジェクトに必要な資金

M

を資本調達するとする。新規プロジ

ェクトはそこから得られる将来の利得と不確実性を内在しており、確率

a

でプロジェクトが成功し、

A

1

利得を得る。同時に、確率

( 1  a )

でプロジェクトが失敗し、そのとき

A

2の利得を得る。

2

1

A

A

であり、プロジェクトの期待利得

A

は、

AaA

1

 ( 1  a ) A

2

M

を仮定する。これは、

期待される新規プロジェクトの融資額よりもプロジェクトの期待利得が高いという成功事例を念頭におい

ている。このときの期待利得

A

、調達資金

M

は投資家の確実性等価(Certainty Equivalent)であり、

期待利得である、期待貨幣価値(Expected Monetary Value)

aA

1

 ( 1  a ) A

2よりも小さな額となる。

2 1

( 1 a ) A aA

CE   

のリスク回避型の選好を行うものとする。企業家がこのプロジェクトを成功させ るためには、必ず、企業家は投資家と契約を結び、企業家は投資家からは、資金調達

M

以上の利得を得

ることが求められている。

さて、この企業は新規プロジェクトを第1期と第2期の2期間実施する。第1期のはじめに、企業が投 資家からプロジェクトに必要な資金調達

M

の融資を受ける。その後、企業活動が行われ、第1期の終了 とともにその収益の一部は、投資家に分配する。具体的には,投資家は収益

A

1を得た場合

T

11、収益

A

2

得た場合

T

12の分配を受ける。投資家はリスク回避的

aA

1

 ( 1  a ) A

2

M

、経営者はリスク中立的で あるとする。

不確実性回避が存在しない(k0)のケース

不確実性が存在しない場合には,投資家が直面する問題を以下のように考えることができる。企業家 は通常、有限責任であるから、契約は以下の制約を満たす。第1期のプロジェクトの期待値は分配

T

1に対

し、

1 2 1

( 1 a ) A T aA

A    

(1)

次にこの契約は、企業家と投資家は、合理的な意思決定を行うならば、この新規プロジェクトの利得分 配後の期待利得がプラスの値をとることが企業の参加条件であり、これを満たす必要があるので、企業の 取引費用は0と仮定すれば、以下のよう参加条件を満たす。

ドキュメント内 2015 年度 博士学位申請論文 (ページ 82-109)