第 5 章 異常発情周期を発症した高週齢ラットの交尾排卵機構に関する検討
2. 材料と方法
3.4 MI ラットの卵胞における LH 受容体遺伝子( Lhr )の発現局在
組織学的に正常な成熟卵胞と嚢胞化した卵胞では Lhr 遺伝子の局在に違いが 認められた。正常な成熟卵胞では,Lhr遺伝子の発現が顆粒層細胞及び卵胞膜内 膜細胞に認められたのに対して,嚢胞化した卵胞では卵胞膜内膜細胞のみに発 現が認められ顆粒層細胞には発現が認められなかった(Fig. 5-2)。
4. 考察
哺乳類の雌は排卵方法により2種類に分類することができる。一つは自然排 卵動物でヒト,サル及びラット等が属し,もう一つは交尾排卵動物でウサギ,
ネコ及びスンクス等が属する。自然排卵動物は周期的なホルモンの変動に伴い 排卵し,交尾排卵動物は交尾刺激により排卵する。どちらの動物もLHサージに よって排卵するが,LHサージを誘起する要因が異なる。自然排卵動物は周期的 に血液中エストロゲン濃度が上昇し,視床下部に作用することでLHサージが誘 起される。これに対し,交尾排卵動物は交尾による子宮頚管への機械的刺激が 神経性に視床下部に伝わりLHサージが誘起される。
本研究でMI を雄と交配させたところ,77.8%の動物で交尾が確認され,その
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うち66.7%の動物で妊娠が確認された。第4 章で明らかにしたとおり,MIでは
LH サージが消失し自然排卵が停止していると考えられることから,MI では交 尾刺激が,LHサージを誘起して排卵を惹起し,受胎したと推察した。
正常発情周期を示すラットは,発情前期にのみ交尾を許容する。これは,雌 ラットの交尾行動にエストロゲンが重要な役割を果たし,血液中エストロゲン 濃度が上昇する発情前期に交尾を許容するためと考えられている。しかし,第4 章で示したようにMIは血漿中エストラジオール濃度の上昇を示さず,正常の発 情周期を示すラットの発情休止期と同レベルの血漿中エストラジオール濃度を 持続した。低濃度のエストラジオールにもかかわらず,多くのMI動物が交尾を 許容した理由は明らかではないが,持続発情を示す高週齢のラットが雄を許容 しロードシスを示したという報告が他にもあることから(66, 67),MIでは血漿中 エストラジオール濃度の上昇とは違う要因で交尾を許容したと考えられたが,
詳細は明らかとなっていない。
また,本研究では,交尾を許容したMIのうち66.7%の動物で受胎がみられた。
第 3 章において示唆したとおり,高週齢のラットでは着床痕を形成する前に胚 が死亡・吸収され,その結果受胎率が低下している可能性がある。したがって,
本章で交尾が確認されたMIのうち66.7%よりも多くの動物で排卵が起こった可 能性が考えられた。
第4章で示した通り,MIでは周期的な LHサージが消失していたことから,
MIは交尾によってLHサージが誘起され排卵したと推察した。この可能性を検 討する為に,MIを雄と交尾させ交尾後の血漿中LH濃度を測定したところ,血 漿中LH濃度の上昇を示す動物と示さない動物がみられ,30%の動物が交尾後に 血漿中LH濃度の上昇を示した。この数値は,無処置のMIを雄と交配して得ら れた受胎率(66.7%)に比べて低く,これにはいくつかの原因が考えられた。ま ず,1つに採血時間が考えられる。本章では交尾時間を1時間で設けた。しかし,
交尾後に血漿中LH濃度の上昇を示した2F1及び2は交尾直後に既に血漿中LH 濃度のピークを示した。また,2F10は交尾15分後に血漿中LH濃度のピークを 示しているものの,交尾120分後には基礎レベルにまで低下していた。さらに,
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2F3及び8は 18時より交尾直後の血漿中LH濃度が高く,交尾後の時間が経過 するとともに低下していったことが判明した。これらの事実から,交配開始直 ぐに交尾をした動物は,交尾時間中に血漿中LH濃度が上昇し採血時にはすでに 低下していた可能性があり,このため血漿中LH濃度の上昇が捕らえられなかっ た可能性が考えられた。各動物が交尾を許容するタイミグは必ずしも同時では ないため,交尾後の血漿中LH濃度の上昇をより詳細に捕らえるためには,動物 毎に交尾時間と採血時間を考慮する必要がある。また,別の理由として生理学 的条件の違いが考えられた。交尾後の血漿中LH濃度を測定する目的でOVX+E2
動物を使用したが,受胎率を確認する為に用いた動物は無処置であった。第 4 章で無処置のYNとOVX+E2 YNの血漿中LH 濃度を測定したが,OVX+E2 YN のサージ様LHの上昇は無処置のYNのLHサージの1/10程度と極めて低くかっ た。本章では交尾刺激による血漿中LH濃度の変化を検討したが,第4章と同様 で,生理的条件の違いによりOVX+E2動物の血漿中LH濃度はそれほど上昇しな かった可能性が考えられた。また,交尾群の中には交尾刺激に反応せず血漿中 LH濃度に変化がみられない動物がいた(2F4-7)。無処置のMIでも受胎率が100%
でなかったことから,MIの中には交尾を許容するものの,交尾刺激によってLH サージが惹起されず,排卵しない動物が含まれている可能性が示唆された。交 尾刺激によって LH サージが惹起される動物と惹起されない動物の違いは明か ではない。しかし,本実験では,少なくとも30%のMIで交尾後に血漿中LH濃 度の上昇が確認された。
MIの卵巣がLHサージに反応し排卵する成熟した卵胞を有しているかどうか を確かめる為に,MIにKp-54またはhCGを単回皮下投与した。その結果,全例 で排卵が確認され,MIの卵巣はLHサージに反応し排卵する成熟した卵胞を有 していることが判明した。組織学的検査の結果,Kp-54 または hCG 投与後の卵 巣には,排卵後に形成された新鮮な黄体と嚢胞状の卵胞が混在する像が観察さ れた。このことは,LH サージまたは多量の hCG 投与によっても囊胞化した卵 胞は排卵しなかったことを示している。囊胞化した卵胞がLHサージや hCG の 投与で排卵しなかった原因を検討する為に,卵胞の LH 受容体遺伝子(LH
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receptor: Lhr)をin situ hybridaizationで染色した。その結果,組織学的に正常な 成熟した卵胞ではLhrが顆粒層細胞と卵胞膜内膜細胞に発現していたのに対し,
囊胞化した卵胞では卵胞膜内膜細胞にのみ発現し顆粒層細胞には Lhr の発現が みられなかった。正常な卵胞は成熟に伴いLH受容体の局在が変化し,LHサー ジを受けて卵胞が排卵するには LH 受容体が顆粒層細胞に発現していることが 必須である(68)ことから,囊胞化した卵胞は顆粒層細胞にLH受容体が正常に発 現しておらず,LH サージに対して反応して排卵出来なかったものと推察した。
以上の結果から,MIの卵巣にはLHサージに反応できる正常な卵胞と,反応出 来ない囊胞化した卵胞があることが判明した。
以上の結果をまとめると,MIは雄との交尾によってLHサージが惹起されて 排卵し,受胎する可能性が示唆された。また,MIの卵巣はLHサージに反応し,
排卵する成熟した卵胞を有していることが明らかとなった。正常発情周期を示 す若いラットでも,雄と交尾することでLHサージが惹起されるという報告があ る(69)。このことから,雌ラットはエストロゲンの正のフィードバックの他に,
交尾刺激によってもLHサージが惹起される機構を有していると考えられる。加 齢し自然排卵が停止した高齢ラットでは,エストロゲンの正のフィードバック に対し視床下部の反応性が低下した後でも,交尾刺激によりLHサージが惹起さ れる機構を維持していると推察した。
本章では自然排卵機能が失われた高週齢ラットの中には雄と交尾することで LHサージが惹起され排卵が誘発される動物がいることが判明した。
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Table 5-1:交尾率(Copulatory rate),受胎率(Fertility),黄体数(No. of corpora lutea)及び着床数(No. of implantation site)
YN:正常発情周期を示す若いラット(Young rats with Normal estrous cycles),MN:正常発情周期を示す高週齢のラット
(Middle-age rats with Normal estrous cycles),MI:異常発情周期を示す高週齢のラット(Middle-age rats with Irregular estrus), a:受胎率=着床がみられた雌数/膣栓が確認された雌数,b:着床率=着床数/黄体数,黄体数及び着床数について数値は平 均値±SDを示す。
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Animals No. of animals
Copulatory Index (%) (No. of animal)
Fertility Index (%) (No. of animal)
100 100
(10/10) (10/10)
81.8 75
(36/44) (27/36)
77.8 66.7
(12/16) (8/12)
No. of corpora lutea No. of implantation site
YN 10
MN
MI
44
16
15.7 ±
±
±
1.6
1.9
2.4 15.0
15.4
14.6
12.8
10.6
± 1.9
3.0
4.9
±
±
a) b)
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Table 5-2:MIにおける交尾後の血漿中LH濃度 (ng/mL) の変動
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1F1 0.778 2.109 1.974 1.687 1.036 1.525 0.600 2.109 161.459
1F2 1.445 0.600 0.357 0.433 0.351 0.259 0.212 0.600 37.690
1F3 0.746 0.477 0.197 0.451 0.249 0.362 0.189 0.477 36.278
1F4 0.333 0.332 0.250 0.095 0.186 0.440 0.219 0.440 33.532
1F6 0.995 0.257 0.332 0.092 0.134 0.191 0.205 0.332 23.619
Mean 0.841 0.755 0.622 0.551 0.391 0.556 0.285 0.792 58.516
SD 0.405 0.768 0.758 0.658 0.370 0.550 0.176 0.743 57.809
18:00 21:00 21:15 21:30 21:45 22:00 23:00
0 15 30 45 60 120
2F1 0.508 2.512 1.550 1.487 0.997 0.803 0.395 2.512 121.291
2F2 1.475 2.086 1.944 0.790 0.618 0.412 0.256 2.086 89.080
2F3 0.521 1.023 0.869 0.747 0.394 0.313 0.200 1.023 55.573
2F4 0.449 0.364 0.377 0.316 0.260 0.266 0.133 0.377 30.981
2F5 0.377 0.258 0.250 0.178 0.180 0.147 0.087 0.258 19.185
2F6 0.443 0.353 0.236 0.218 0.168 0.130 0.206 0.353 23.061
2F7 0.936 0.908 0.442 0.383 0.402 0.315 0.386 0.908 48.627
2F8 0.505 1.357 1.210 0.808 0.642 0.364 0.357 1.357 74.418
2F10 1.499 2.622 4.310 3.235 2.502 2.443 0.879 4.310 288.343
Mean 0.746 1.276 1.243 0.907 0.685 0.577 0.322 1.465 83.396
SD 0.450 0.930 1.300 0.964 0.731 0.727 0.236 1.322 83.700
Mating Group
Animal No. Peak AUC0-120
(ng/min/mL)
pre-treatment
After mating (min)
21:45 22:00 23:00 Peak AUC0-120
(ng/min/mL) Non-mating Group
Animal No.
18:00 21:00 21:15 21:30
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Table 5-3:MIにおけるhCGまたはKp-54投与後の排卵の有無
Control - 3 0
hCG 100 IU/kg 7 7
Kp-54 100 nmol/kg 5 5
No. of animal
No. of animal exhibiting ovulation
Test article Dose
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A B
* *
*
* * *
Figure 5-1:kisspeptin投与後の卵巣
A:0.9%生理食塩水投与,B:Kp-54投与,バー:200 m,*:嚢胞状の卵胞(代表例),
▲:黄体(代表例),△:正常な卵胞
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Figure 5-2:MIラットの卵胞におけるLHr遺伝子の発現局在
A:正常な成熟卵胞,B:嚢胞化した卵胞,*:顆粒層細胞層,矢印:Lhr 遺伝
子陽性細胞,バー:50 m
A B
x10 x10
x40 x40