3 富士山噴火の企業活動への影響
3.2 交通麻痺などによる企業活動への影響 では次に、製造工程以外の要因を検討する。
(1)従業員の出勤の問題
そもそも、従業員の多くは自動車による出勤が多い。自動車が使用できない場合は、従業員が出 社できない場合も考えられる。もちろん、従業員の家屋が被災している状況では出社は望めない。
ある程度、落ちついた段階でも、どちらかといえば仕事より家庭の方を優先せざるを得ないパート 社員を多く抱える工場もあり、降灰およびその完全除去までは、操業に影響がでると考えられる(図 3.3)。
(2)従業員の移動に関する問題
また、たとえ、従業員が仮に出勤できたとしても、富士山噴火由来の降灰被害によって、従業員 が通常業務で使用するさまざまな交通手段が利用できない場合が考えられる。その場合は、商品の 入荷・出荷や打ち合わせ・営業活動に多大な影響を与えると思われる。
もっとも、大企業の場合は、本社機能・営業機能が東京にあり、工場など製造部門だけが富士山 周辺県にあるという形態をとっている企業もあり、業務が完全に停止するとは限らない。ただし、
降灰が長期にわたる場合は入出荷や打ち合わせなどが難しく、企業活動に支障が出ると想定される。
図 3.3 従業員の出勤手段
図 3.4 従業員が仕事上で利用する交通手段
また、別の設問で、富士山噴火活動に関連して、営業活動や生産活動がどの程度仕事ができなく なるか、明かにするために次の四つを想定して質問を行っている。
①富士山に異常が発生して、近いうちに噴火するのではないかと世間が騒ぎ出したとしたら
②(車が動かないくらいの)数十センチにものぼる大量の火山灰が降ったとしたら
③(ほうきで掃けるくらい)数センチ程度の火山灰が降ったとしたら
④富士山が噴火してあらゆる交通手段(電車・新幹線・飛行機・自動車・高速道路)が利用でき なくなったとき(電気、電話、ガス、水道、通信手段、食料面での問題はないとしたとき)
これら、それぞれの場合にどの程度、営業活動や生産活動に影響が出るかを問うた。結果は図 3.5 の通りであった。なお、従業員規模、資本金規模による統計的有意な違いはなかった(従業員規模 と資本金規模を独立変数とした重回帰分析、4分割した場合のカテゴリー毎のχ
2検定)。
74.6 32.3
30.2 4.5
50.9
14.8 39.1
37.5 28.8
26.8
4.5 16.2
17.6 49.0
9.0
5.3 11.6 13.9 16.9
12.3 0.9 0.9 0.9 0.9 0.9
0% 20% 40% 60% 80% 100%
営業車・自家用車 新幹線 電車 飛行機
高速道路
頻繁に利用する たまに利用する 利用する機会は少ない 利用する機会はない 無回答
23.4
59.7
91.9 43.1
24.7
4.8 22.4
6.5
10.1 6.7
10.9
2.8 3.5
79.4
2.0 0.8
1.7
2.2 0.4 0.8
0.8 0.8
0.8
0% 20% 40% 60% 80% 100%
自転車・徒歩
自動車
電車
マイクロバス
0割 〜2割未満 〜4割未満 〜6割未満 6割以上 無回答
図 3.5 営業活動や生産活動がどの程度できなくなるか(降灰の程度別)
概括して、富士周辺企業にとって、 「数センチ程度の降灰」は「噴火すると騒いだとき(社会的に 富士周辺が供給不安視、危険視されてはいるが、降灰はしていないとき)」と同程度であることがわ かる。
そして、当然のことながら、 「あらゆる交通手段が利用不可能なとき」にもっとも影響が大きいこ とがわかる。若干ながらも、 「大量の火山灰が降ったとき」よりも「あらゆる交通手段が利用不可能 なとき」の方が若干、影響が大きいと捉えられている。
これらから鑑みると、火山灰の降灰の影響として、クリーンルームなど製造工程への直接的影響 もさることながら、それよりも、交通麻痺に伴う従業員の出勤や原材料の入荷、製造商品の出荷に よる影響が大きいといえよう。
その証拠として、 「数十センチにものぼる大量の降灰が降ったとき、営業活動や生産活動に影響が 出ると思うか(問 16)」という設問(単純集計は、図 3.5 で既出)を業種別であらわした図 3.6 を示 す。この図 3.6 の業種の順序は、図 3.2 と同じ順である。上から、クリーンルームを所有する割合 が多い業種の順序である。もしも、製造業における降灰被害の企業活動への影響の主たる原因が「ク リーンルーム」 「製造工程」にあるのならば、図の上から順に影響が大きいはずである。だが、営業 活動や生産活動への影響が大きい業種はこの順序ではなく、 「パルプ・紙製造」、 「輸送機械製造」な どの業種で、影響が大きいという結果になった。原材料の移動、製造物の移動が常に行われている 業種である。
自由回答をまとめてみても(問 15-1、問 16-1、問 17-1、問 18-1)、いずれの場合でも、営業活動・
生産活動への影響としては、 「クリーンルーム」 「製造工程」 「灰の室内混入」というよりも、それ以 前の段階での、従業員の出勤不可能、交通機能の麻痺による原材料の入荷不能、製造商品の出荷不 能など、交通面での影響を挙げた回答が多かった。
また、特に山梨県の場合、地理的な事情として、実際、東京と山梨を結ぶに抜ける道路交通網は 3.3
39.2
39.4 6.0
13.6
26.2
28.1 10.8
16.7
16.8
17.8 19.7
19.2
7.4
5.6 59.8
44.9
7.6 1.8
4.6 1.9
2.3 2.8
4.5
0% 20% 40% 60% 80% 100%
あらゆる交通手段が利用不可能な時
大量の火山灰が降ったとき 数センチ程度の火山灰が降った時
噴火するのではと騒いだ時
ほとんど影響はない
だいたい2割程度減る だいたい5割程度減る だいたい8割程度減る全く業務不能
無回答中央自動車道(高速)、甲州街道(国道 20 号線)だけで、ほかに近隣の迂回路がない。冬の時期に、
大雪の時で中央自動車道が通行止めになった場合は、この地域に位置する企業の物流は滞ることが 多い。高速道路が使えなくなった時点で、ここは大渋滞することが分かっている。これは、企業・
行政聞き取り調査でも見いだされたことではあるが(関谷・廣井, 2003)、本調査の自由回答でもこ の問題点を挙げる企業があった。
図 3.6 営業活動や生産活動がどの程度できなくなるか(大量の降灰が降ったとき:業種別)
まとめて、降灰によって交通麻痺が生じた場合、従業員の出勤、取引業者との打ち合わせ、原材
料の入荷、商品の出荷が困難になることによって、企業活動を続けるのは非常に困難となる。クリ
ーンルームなど火山灰が製造工程に与える影響よりも、より企業活動に与える影響は大きいと捉え
られていることがわかる。
ドキュメント内
untitled
(ページ 30-33)