第4章 座屈および最終強度に関する検討
4.2 二軸圧縮と横圧を受ける防撓パネルの最終強度
広島大学 藤久保昌彦
1. 緒言
二軸圧縮と横圧の組み合わせ荷重を受ける防撓パネルの最終強度を JTP ルールおよび JBP ルールの方法を用いて解析し,FEM解析との比較より,両ルールの最終強度計算法の適用性を 検討する。FEM解析にはシェル有限要素解析コードULSAS を使用する。ULSAS の精度は,
ISSCのベンチマークスタディ等により既に検証されている[1]。
はじめにJTPルールで適用されるDNV準拠のPULSシステムとJBPルールで適用される GL 準拠の最終強度計算法の概要を述べる。つぎに二軸圧縮荷重下の矩形板および防撓パネル の最終強度をPULS, GL算式およびFEMで比較する。最後に二軸圧縮と横圧の組み合わせ荷 重の場合について比較・検討を行う。
2. JTP/JBP ルールの最終強度推定法の概要 2. 1 JTP ルール
JTPルールで適用されるPULS(Plate Ultimate Limit State)システムは,以下の特徴を 有する半解析的最終強度解析プログラムである[2,3]。
(1) 防撓パネルの変形を,防撓材のたわみを拘束した状態での板・防撓材連成の局部座屈モ ードと,防撓材のたわみを伴う全体座屈モードの和で表す。
(2) 局部座屈モードは,Fig.1 のたわみモードの重ねあわせで表す。例えば同図(c)のモード により,矩形板の座屈に対する防撓材の影響が考慮される。
(3) 矩形板のたわみを,4辺単純支持および防撓材辺固定・他辺単純支持の各境界条件を満 足する2種類のフーリエ級数の和で表す。長さ方向のたわみの半波数は板と防撓材で同 一とする。
(4) 局部座屈挙動は,局部構造モデルに弾性大たわみ理論を適用して定式化する。
(5) 全体座屈挙動は,防撓パネル全体を等価異方性板に置き換えて解析する。等価異方性板 の剛性は,局部構造モデルから算出する。
Fig.1 PULS local model with assumed deflection mode
(a)
(b) (c)
(d) (e)
(6) 局部構造モデルと全体異方性板モデルを組み合わせた弾性大たわみ解析から求められる メンブレン応力が,板周縁部,防撓材頂部など予め指定された降伏判定点のいずれかで 最初に降伏条件を満足する時点をもって最終強度とする。
(7) 初期たわみ形状は,上記の局部および全体モデルの弾性固有値解析から求められる座屈 モードの足し合わせで表す。溶接残留応力は考慮しない。
2. 2 JBP ルール
JBP ルールで適用される GL 準拠の最終強度計算法には,防撓材間の板の崩壊を対象とす るsingle plate fieldと防撓パネルの崩壊を対象とするpartial plate fieldの2つの評価モデル がある。single plate fieldについては横圧の影響は考慮しない。一方partial plate fieldにつ いては横圧による防撓材のたわみおよび曲げ応力と,圧縮力による曲げモーメントの増加を考 慮する。防撓材にはlateral bucklingとtorsional bucklingを考える。最終強度σuは,各崩 壊モードの最終強度の最小値として次式のように与えられる。
σu=Min[single plate, Min.[lateral buckling, torsional buckling]] (1) GL算式の特徴の一つに,single plate fieldに適用されるポアソン効果に関する補正がある。
これは,FEM解析結果のように応力成分にポアソン効果の影響が含まれる場合は,次式のよう にポアソン効果分を差し引いた応力σxおよびσyについて最終強度算式と比較を行う考え方で ある。
( ) ( )
( ) ( )
* * 2
* * 2
1 1
x x y
y y x
σ σ υσ υ
σ σ υσ υ
= − −
= − − (2)
ここでνはポアソン比,またσx*およびσy*はFEM解析結果を表す。このような補正は,最終 強度算式が周辺部材による拘束のない条件での実験結果等に基づくことによる。ただし,座屈 崩壊挙動の場合,ポアソン効果は降伏および座屈によって変化する。また式(2)の補正項-νσ
y*および-νσx*は非載荷辺が完全固定の場合に相当するが,現実にはそのような拘束状態は
存在しない。これらの点でやや合理性に欠くといえる。なお,式(2)を介して与えられる最終強 度相関関係は,σxあるいはσyによる単軸圧縮最終強度は越えないものとする。
3. FEM 解析モデル
二軸圧縮および横圧を受ける防撓パネルの最終強度をFEMにより解析し,PULSおよびGL 算式による推定値と比較する。解析には Fig.2 に斜線で示す領域のトリプルスパン・ダブルベ イモデルを用いる。このモデルでは,y 軸に平行なモデル端面(スパン中央断面)に周期対称 条件を課すことにより,x 方向に任意の半波数の座屈変形を解析できる。また横圧によるトラ ンス材に関して対称なたわみモードから座屈による非対称なたわみモードへの変化も考慮でき る。なおトランス材はモデル化せず,トランス材位置で板のたわみを拘束する。シェル要素に はたわみおよび面内変位を双一次式で表す4節点アイソパラメトリック要素を使用する。要素 分割は1ロンジスペース当たり8分割とし,板の長さ方向および防撓材のウェブ深さ方向も同 程度の要素サイズに分割する。防撓材のフランジは幅方向に6分割する。
ロンジスペースはb=800mm固定とし,アスペクト比a/b,板厚t,防撓材の形状およびサイ ズを変化させる。ヤング率E,ポアソン比νおよび降伏応力σYはそれぞれ205.8GPa, 0.3 お
よび314MPaとする。ひずみ硬化は考慮しない。
GL算式では,板,防撓材とも初期たわみは陽に考慮されていない。一方, PULSでは,既 述のように弾性固有値解析から求められる局部および全体座屈モードの初期たわみを仮定する。
局部座屈モードの初期たわみは,後出の Fig.6(a)に示すように板と防撓材で同じ半波数を有す る。全体座屈モードの初期たわみは,防撓パネル全体を周辺単純支持の異方性板と見なしたと きの座屈モードである。初期たわみの最大値には,局部座屈モードについてはロンジスペース
の1/200が,また全体座屈モードについてはスパンの1/1000がデフォルト値として設定される。
本研究の FEM 解析では,矩形板と防撓材の初期たわみを以下のように独立に仮定して両者 を足し合わせる。まず矩形板の初期たわみとして,式(3)の弾性座屈モードと式(4)のやせ馬モー ドの2ケースを考える。後者はすべてのパネルで同一方向に与える。
0 0sin sin
p p
m x y
w a b
π π
δ
= (3)
0 0 sin sin
p p m
m
m x y
w a b
π π
δ
=
∑
(4)一般に板厚に対する最大初期たわみの比は薄板ほど大きい。例えばSmithは,実測値を基に 平均的な最大初期たわみ量を細長比β=b t/ σY/Eの関数としてδp0 =0.1β2t のように与えてい る。これに対しPULSでは,細長比に依らず最大初期たわみをロンジスペースの関数としてお りやや合理性に欠く。しかしここでは比較のため,最大初期たわみ量はPULSのデフォルト値 とする。式(4)のやせ馬モードには矢尾らにより提案された実測初期たわみ形状に基づくたわみ モードを仮定する[4]。最大値はここでもPULSと同じとする。また防撓材およびトランス材を はさんで非対称な座屈たわみを誘起するため,隣接するスパンおよびベイで最大初期たわみ量
を10%変化させる[5]。防撓材には,Fig.3に示す1半波の曲げおよび曲げ捩り座屈モードの初
期たわみを与える。最大値はPULSのデフォルト値であるスパンの1/1000を仮定する。
(a) Plate panel (b) Stiffener Fig.3 Initial deflection Fig.2 A continuous stiffened panel
b b
σ y σ
x
Long.
Long.
Long.
a/2
b/2 b/2 a/2
a a a
tp
Trans. Trans. Trans. Trans.
x x
σy
σy
q
4. 解析結果および考察
4. 1 二軸圧縮を受ける矩形板の最終強度
基本的な場合として,二軸圧縮を受ける周辺単純支持矩形板の最終強度を解析した。FEM解
析では,Fig.2のモデルではなく,単位矩形板を切り出して周辺単純支持条件で解析した。PULS
ではunstiffened panel用のプログラム (U3)を使用し,入力オプションとして,すべての辺に
simply-supported conditionを指定した。
Fig.4に板厚が15mmと25mmの場合の最終強度相関関係を示す。板厚15mmではPULS
とFEMは比較的良く一致しているが,板厚25mmでは,横圧縮σyが支配的な荷重比でPULS はFEMよりかなり高めの最終強度を与える。この原因として,PULSはメンブレン応力のみ で降伏を判定するため,厚板で曲げ応力が相対的に大きい場合ほど発生応力を過小に,したが って最終強度を過大に評価することが考えられる。この点についてPULS開発グループに照会 した結果,次の点が明らかになった。
(1) PULS(U3)のunstiffened panelは,単独矩形板ではなく,multi-bay領域に渡る連続パ ネル(Integrated panel)の座屈を対象としている。
(2) Integrated panelでは,現実のやせ馬モードの初期たわみが周辺単純支持モードの座屈
の発生に抵抗する効果を考慮して,Fig.1(b)の固定モードのたわみ成分を入れている。
PULS入力画面の”simply-supported”は,この状態に対応している。Optionのrotational
constraintは,この状態にさらに周辺部材による回転拘束を考慮する場合である。
(3) 固定モードの初期たわみ成分の大きさは,推定値が既存 DNV 規則に適合するようチュ ーニングされている。
このように,PULSによる最終強度推定値には,既存のDNV規則に基づくimplicitなチュ ーニングがなされている点に留意が必要である。したがって,上述のメンブレン応力による降 伏判定が最終強度にどの程度影響しているかは不明である。
(a) t=15mm (b) t=25mm
Fig.4 Ultimate-strength interaction relationships obtained by PULS, GL and FEM
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
PULSFEM (δ
p0 of buckling mode) FEM (δ
p0 of hungry horse mode)
σ y / σ Y
σx / σ
Y aXbXt=2400X800X25mm
δp0 = 4.0mm (default value in PULS)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2
PULSFEM (δ
p0 of buckling mode) FEM (δ
p0 of hungry horse mode)
σy / σY
σx / σ
Y
δp0 = 4.0mm (default value in PULS) aXbXt=2400X800X15mm
4. 2 縦圧縮を受ける防撓パネルの最終強度
比較的ウェブ高さの大きい tee-bar 防撓材を有する連続防撓パネルに縦圧縮(防撓材方向の 圧縮)が作用する場合について最終強度を解析した。Fig.5に,パネル板厚15mmと20mmに ついて得られたウェブ高さhと最終強度の関係を示す。防撓材の断面寸法は,JTPルールの許 容寸法の範囲にある。長さ方向5半波の座屈モードの初期たわみを矩形板に,また長さ方向1 半波の曲げ捩り座屈モードの初期たわみを防撓材に仮定したFEM解析結果をCase-1として示 す。図のように,いずれのパネル板厚でも FEM解析結果は,ウェブ高さが増すほど最終強度 は低下する。これに対しPULSではh=550mm程度まで最終強度はほぼ一定で,それを越える と,最終強度はウェブ高さと共にむしろ増加する。
Fig.6にh=550mm の場合の最終強度時点の変形を比較する。PULSは,図に見られるパネ
ル・防撓材連成の弾性局部座屈モードの初期たわみがそのまま増大し,防撓材頂部が降伏した
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
350 400 450 500 550 600 650 700
PULS FEM, CASE1 FEM, CASE2 FEM, CASE3 CASE1
CASE2 CASE3
Panel m=5 m=1 m=5
Stiffener m=1 m=1 m=1+5 Initial deflection σu / σ
Y
h (mm) aXbXtp=4000X800X15mm tee-bar : tw=13.5, bf=150, tf=25mm
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
350 400 450 500 550 600 650 700
PULS FEM, CASE1 FEM, CASE2 FEM, CASE3 σu / σ
Y
h (mm) aXbXtp=4000X800X20mm tee-bar : tw=13.5, bf=150, tf=25mm
Fig.5 Relationships between ultimate strength of stiffened panel under longitudinal thrust and web height
(a) t=15mm (b) t=20mm
Trans.
Trans.