第三章 事例研究
3.4 事例研究のまとめと発見事項
本節では、PFUの事例研究をまとめる上に、本ケースの情報に与えてきた示唆に 基づき、PFU ではナレッジマネジメントをどのように推進してきたのか、また、ど のような特徴があるのかを整理し、発見事項をまとめる。
3.4.1 事例研究のまとめ
―「技術・商品・人」三つのマネジメント―
前節で分析してきたPFUの事例で分かるように、同社は、当時技術開発のスピー ドを上げることを狙い、まず技術に関する情報をデータベースにするシステムを導入 した。更に、社員の自由のアイディアを組織的に吸収し、商品企画の実現を目的とし た独自の特徴を持つ社内ベンチャー制度を組んでいた。ところが、これらのシステム や制度だけでは、開発メンバーのやる気と繋がらず、期待の成果に程遠いままである。
それで、同社は、現場からいろいろの取り組みを模索しはじめ、「見える化」、「未来 塾」、「未来塾シンジケート」などの活動が、常務、専務が直接に入っているActive-V 推進室の統括の中で上手く進み、人と組織の活性化と結び付けた。それで、会社は技 術、商品のマネジメントに加え、人のマネジメントに注目するようになった(図)。
技術のマネジメント
製品のマネジメント
Active-V推進室
人と組織 のマネジメント
図 3-5 PFUにおけるナレッジマネジメントのための「三つのマネジメント」
3.4.2 発見事項
【自由性を重んずる企業風土】
PFUは組織知識創造企業を目指すという企業方針を立てたから、6 年間の間にその ために具体的取組として社内には「Rising-V」「知空間」「見える化」「PFU未来塾」
「アイディア・スナップ」などの制度や取組活動があった。これらの活動は事例の中 で分かるように、上司から実施、参加や活用を強いられるものではなく、あくまでも 熱い想いを持った個人やグループの自主的な参加意思や目標達成のため活動である。
なお、これらを支えてきたのは技術者のチャレンジ精神と、技術者を重んずる企業 風土である。この点については、IT ベンダーとして成長してきたのと関係があるかも しれないが、同社は、技術者の自主性を重要視する企業風土がトップの話あるいは制 度からも鮮明に分かる。このような風土があったからこそ、現場から自ら知恵を出し て組織問題を変えようとする行為が拡大できてきた。また、ボトムアップの活動に働 きかけるのはトップの強い思いもあったとわかった。
【トップと直結した推進体制の整備】
人と組織活性化へのビジョンの図で分かるように、現場から発足した活動あるいは 会社が創った制度は現在、組織的に上手く運営されている。人と組織の活性化を統括 する Active-V 推進室をはじめ、当時の、Rising-V 推進専門組織、知空間推進専門組 織も同じように、同社の整備された推進体制を物語っている。こちらの支援体制はい ずれもトップの強いコミットメントを受けている。言い換えれば、トップと直結して いる。ところで、推進組織の運営は経験豊かで、知識が豊富のミドルに任せられてい る。
【ビジョンと共感したボトムアップ】
組織や地域を越えた知の流通や交流の知識ネットワークである「知空間」システム や、社員のやる気が燃え上がる基盤である Rising-V 制度の立ち上げなど、つまり、
ナレッジマネジメントの枠組みがトップから組織的に創られたものであるが、現場業 務改善による現場力の強化あるいはコミュニケーション活性化による人と組織の活 性化を目指した「見える化」活動と、「自律的に改革活動を進める風土づくりをもっ と全社レベルに拡大する」未来塾の活動はボトムアップの活動であった。一方、現場 のそういう活動は、トップのマネジメントの人と組織を活性化したいという思いと繋 げて、一気に普及できたのである。トップもそういったボトムアップを重要視し、イ ンセンティブを与えながら、全面的にバックアップする。トップとのビジョン、思い と共感するとき、ボトムの活動が組織レベルまで成長するということである。
このように、本事例分析で分かるように、ナレッジマネジメントへの道は順風満帆 ではなく、独自な改革実践方法を粘り強く試し、一連の試行錯誤を経て、「人と組織 活性化」という視点からナレッジマネジメントを取り組むべきであることをまとめる ことができた。