前小節までの議論で,Gの任意の既約超カスプ表現がZ を法としてコンパ クトな開部分群の有限次元表現から誘導されることは実質的に示されている が,その表示の一意性に関する主張を含む,より詳細な定理を述べるために次 の定義をする.
定義 5.19 Gのcuspidal type (A, J,Λ)とは,Aのchain order A, 開部分群 J ⊂ KA, J の既約スムーズ表現(の同型類)Λ からなる3つ組であって,次 のいずれかの条件を満たすもののことをいう.
(1) eA = 1, J =KA であり,Λ|UA はUA/UA1 ∼= GL2(k)の既約カスプ表現 の引き戻しの形をしている.
(2) あるsimple stratum (A, n, α), n >0が存在し,J =Jα, Λ∈C(ψα,A) である.
(3) あるF× のスムーズ指標χに対し,(A, J,Λ⊗(χ◦det))は(1)または (2)を満たす.
定理 2.1と定理4.9より,(A, J,Λ)をGのcuspidal typeとすると,πΛ = indGJ Λ はG の既約超カスプ表現である.上の定義の(1) または(2) の性質 を満たすcuspidal type (A, J,Λ) に対し,F× のスムーズ指標 χ のlevel が ℓ(πΛ)以下である時,またその時に限り,(A, J,Λ⊗(χ◦det))が再び(1)また は(2)の性質を満たすことが確かめられる.また,Gのcuspidal typeの集合 には,各成分への作用(A, J,Λ) 7→(g−1Ag, Jg,Λg)によってGの共役作用が 定まる.
定理 5.20 (A, J,Λ)7→πΛ = indGJ Λによって,Gのcuspidal typeの共役類 の集合からG の既約超カスプ表現の同型類の集合への全単射が誘導される.
また,定義5.19の(1)または(2)の条件を満たすcuspidal typeの共役類の集 合の,この全単射による像はGの既約超カスプ表現のうちminimalなものの
同型類のなす部分集合である.
証明. はじめの主張の写像が確かに誘導されることは,実質的に既に述べた.
また,(A, J,Λ) を G のcuspidal type とすると,πΛ には J の表現 Λ が含 まれるから,定理5.13 (2) (a), (c)より,定義5.19の(1)または(2)の系統 のcuspidal type からはminimal 表現が,それ以外のcuspidal type からは
minimalでない表現が得られる.
全射性を示すために,Gの既約超カスプ表現πをとる.π はminimalであ るとしてよい.ℓ(π)> 0とすると,定理5.10 (1)よりπ はあるfundamental stratum (A, n, α)を含む,すなわちπのUAnへの制限はψαを含む.定理5.13 (2) (c)より,(A, n, α)はsimple stratum であるから,命題5.16によって,
α はminimalである.ある β ∈ P−An, β ≡ α (mod P1A−n) について,π の UA[n/2]+1 への制限はψβ を含むが,補題4.3によってβはminimalで,A⊂A はβ に伴うchain order でもある.よって,π のJβ への制限はある既約表 現Λ ∈ C(ψβ,A) を含み,(A, Jβ,Λ) は(2)の系統の cuspidal type である.
Frobenius相互律により,πΛ → π が誘導され,定理4.9 (2)より indGJ
βΛ は 既約であるから,これは同型である.ℓ(π) = 0の場合は,命題5.17と定理2.1 を用いて,同様に(より容易に)示される.
単射性を示すために,cuspidal type (Ai, Ji,Λi) (i = 1,2)がπΛ1 ∼=πΛ2 を 満たすと仮定し,同型なGの表現を単にπ とおく.π はminimalであるとし てよい.ℓ(π)>0であるとする.この時,これらのcuspidal typeはいずれも (2)の系統であり,また,定理5.13 (1)よりeA1 =eA2であるから,A1,A2はG 共役である.よって,A=A1 =A2であるとしてよい.定義から,あるsimple stratum (A, ni, αi),ni >0を用いて,Λi ∈C(ψαi,A) (i= 1,2)と書けるが,
ℓ(π) =n1/eA =n2/eA であるから,n1 =n2とわかる.n=n1 =n2とおく.
命題1.2より,UA[n/2]+1 の指標ψα1, ψα2 はGにおいてintertwineするから,
定理4.8によって,これらはUA共役である.特に,定理4.6によって,指標の normalizer Jαi (i = 1,2)もUA 共役である.よって,さらにα1 = α2 = α, J1 = J2 = J としてよい.再び,命題1.2より,Λ1,Λ2 ∈ C(ψα,A)はG に
おいてintertwineするから,命題4.10によって,これらは同型である.以上 で,π がminimalでℓ(π)> 0である場合が証明できた.ℓ(π) = 0の場合は,
πを与えるcuspidal typeは(1)の系統であることに注意すれば,定理4.8や 命題4.10の代わりに補題2.2を用いることで,同様に(より容易に)示され る.
6 補足
冒頭でも述べたように,「F 上の簡約代数群の任意の既約超カスプ表現は中 心を法としてコンパクトな開部分群の有限次元表現のコンパクト誘導として得 られる」という主張はGL2(F)に限らず,ある程度一般の群についても正しい ことが知られている.
GLn(F) については,この定理は[BK93]の結果であるが,特別な場合に はもっと以前から知られていた.[Ca84]では,nが素数の場合が扱われてい る.本稿で述べたminimal元の適切な一般化(そこではcuspidal元と呼ばれ ている)を用いて有限次元表現を構成していて,n = 2 の場合には本稿の構 成と実質的に同じものである.ただし,それらのコンパクト誘導表現で全て の超カスプ表現が得られることの証明には局所Jacquet-Langlands対応が用 いられている.局所Jacquet-Langlands対応とは,n2次元のF 上の中心的斜 体Dの乗法群の既約許容表現とGLn(F)の本質的二乗可積分な既約表現の間 の自然な一対一対応のことで,その存在は大域的な手法によって証明されて いる.本稿でもn = 2の場合に少し触れたように,D× の1次元でない既約 許容表現もGLn(F)と類似の方法で構成できるが,この構成で全てが得られ ることはGLn(F)より容易に示される.局所Jacquet-Langlands対応が誘導 するD× の1次元でない既約許容表現とGLn(F)の既約超カスプ表現の間の
対応はlevelや中心指標と整合的であり,一方,与えられた levelと中心指標
を持つ表現は双方の群で有限個であるから,4.3節と類似の議論によって対応 する表現の個数を比較することで, GLn(F)の超カスプ表現も尽くされている
ことがわかる.その後,理解が進み([Bl87](または[HM89])と[Ku88]),局所 Jacquet-Langlands対応を介さない証明が可能となった.実際,nが素数の場
合に[Ca84]の構成によって全ての超カスプ表現が得られることは,本稿とほ
ぼ同様に証明できる([Ku88]の冒頭部分を参照のこと).
一方,nとF の剰余標数pが互いに素な場合にも,GLn(F)の任意の超カ スプ表現はコンパクト誘導によって得られ,しかも,関係する部分群と有限次 元表現はF のn次従順拡大体の乗法群の適当な指標でパラメトライズできる ことが[BK93]より以前から知られていた(n = 2 の場合については[BH06, Chap. 5]にも解説がある).構成は[Ho77]においてなされ,その構成が全て の超カスプ表現を与えることは[My86]において局所 Jacquet-Langlands対 応を用いた数え上げの議論で,その後,[HM90]において局所的な手法によっ て証明された.[HM90]では,コンパクト開部分群とその既約スムーズ表現λ に伴うHecke環H(G, λ)が重要な役割を果たす.本稿ではHecke環にまつわ る議論は割愛したし,ここでもその定義は述べないが,このHecke環はλ の
intertwiningに関する情報とλを含むGの既約表現に関する情報を持つ,畳
み込み積環である.この環と岩堀Hecke環という構造のよくわかる環との同 型が上述の証明の鍵となっている.
さて,[BK93]で扱われている一般のnの場合,議論はかなり複雑になる.
本稿の内容との関係が見やすい事柄について少しだけコメントしておく.定 理 1.3 と同様の定理は成立するから,部分群の有限次元表現が満たすべき intertwiningに関する条件は同じである.n= 2の場合と同様,扱いがより難
しいのはlevelが正の超カスプ表現だが,これらを与える有限次元表現は,も
はや定理4.9のようにある指標を含む表現として簡単に定義することはでき ず,小さい群から徐々に大きな群に表現を“ふくらませていく”手続きを通し て記述される.それはいくつかのステップからなるが,その中には4.3節のよ うな考察も含まれる.また,定理5.20の単射性にあたる結果を得るためには,
定理4.8や命題4.10,補題2.2のような,intertwiningから同型(共役)性を 導くタイプの性質が重要になる.定理5.20の全射性にあたる結果の証明も複 雑になる.(levelが正の)既約スムーズ表現が与えられた時,定理 5.10の一
般化(fundamental stratumの存在)は成立する([Bl87]または[HM89])が,
一般にはstratumの定める指標だけでなく,もっと大きな部分群の表現を含
むかどうかまで調べないと超カスプ表現かどうかが判定できないからである.
一方,このような考察は,typeの理論へとつながった.大雑把かつ素朴には,
typeの理論は,type と呼ばれるコンパクト開部分群とその既約表現の組のリ ストが与えられて次のような条件を満たすことを主張する([BK98], [BK99]
も参照のこと).まず,任意の既約スムーズ表現π はある typeを含む.そし て,どのtype を含むかによって,放物型誘導の組成因子として π を与える Levi部分群と既約超カスプ表現の組が不分岐指標によるtwistと共役を除い て決まる.さらに,πが超カスプ表現の場合には,コンパクト誘導によってπ を与えるような開部分群と既約表現の組がtypeをπ に応じて少し修正するこ とで得られる.また,超カスプ表現に含まれるようなtypeに伴うHecke環と
(Gの適当な閉部分群の)岩堀Hecke環との同型が示されている.これは(同 型の構成は異なるものの)上述の[HM90]と類似の結果である.
一般の簡約群に対して知られている結果として,p̸= 2の仮定の下,多くの 古典群を扱った[St05]と,一般の簡約群だがpに関する条件がついた[Yu01],
[Ki07]がある.筆者の理解不足のため詳細は述べられないが,前者はいわば付
加構造つきのlattice chainを用いる,[BK93]を発展させたような手法によっ ていて,一方,後者はトーラスの指標によって,ある意味で従順な場合をパラ メトライズすることを目指す,[Ho77]の流れを汲むもののようだということだ け注意しておく.また,level zeroの表現の構成やfundamental stratumの存 在に関する定理はもっと一般に成立するが,これらについては[BH06, Chaps.
3, 4]の文献案内を参照していただくことにする.
最後に,超カスプ表現がコンパクト誘導という比較的とらえやすい形で表さ れる以上,局所Langlands対応や局所Jacquet-Langlands対応をそれを用い て記述することは自然な問題だろう.これについては,BushnellとHenniart による一連の研究などがあるが(例えば[He06] を参照)まだ解明されていな い部分が多い.n= 2の場合は例外的に完成していて,それは[BH06]で詳述 されている(ただし,局所Jacquet-Langlands対応の特徴づけは通常のものと
異なる).
参考文献
[Bp97] D. Bump, Automorphic forms and representations, Cambridge Studies in Advanced Mathematics, vol. 55, Cambridge University Press, 1997.
[Bl87] C. Bushnell, Hereditary orders, Gauss sums and supercuspidal rep-resentations of GLn, Jour. reine angew. Math. 375/376 (1987), 184-210.
[BF85] C. Bushnell and A. Fr¨ohlich, Non-abelian congruence Gauss sums and p-adic simple algebras, Proc. London Math. Soc. (3) 50 (1985), 207-264.
[BH06] C. Bushnell and G. Henniart, The local Langlands conjecture for GL(2), Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften, vol. 335, Springer-Verlag, Berlin, 2006.
[BK93] C. Bushnell and P. Kutzko,The admissible dual ofGL(N)via com-pact open subgroups, Ann. of Math. Stud. 129, Princeton University Press, Princeton, NJ. 1993.
[BK98] C. Bushnell and P. Kutzko, Smooth representations of reductive p-adic groups: Structure theory via types, Proc. London Math. Soc.
(3) 77 (1998), 582-634.
[BK99] C. Bushnell and P. Kutzko,Semisimple types inGLn, Composition Math. 119 (1999), 53-97.
[Ca84] H. Carayol,Repr´esentations cuspidales du groupe lin´eaire, Ann. Sci-ent. ´Ec. Norm. Sup. 17 (1984), 191-225.
[He91] G. Henniart, Repr´esentations des groupes r´eductifs p-adiques, S´eminaire Bourbaki, 43`eme ann´ee, 1990-91, No. 736.
[He06] G. Henniart, On the local Langlands and Jacquet-Langlands