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中枢神経合併症

a.中枢神経合併症の頻度,種類

IE

における中枢神経合併症は,疣腫の塞栓による脳動 脈の閉塞に加え,原因菌による感染の播種,炎症などの複 合的な要因によって引き起こされる.症候性の中枢神経合 併症は,

IE

患者の

10

35%

に認められる67, 209, 230, 231). 一方で脳

MRI

を用いた研究では,

IE

患者の

65

80%

に 何らかの中枢神経合併症が認められることが報告されてお

232–235),これらは症状が軽微なものも少なくないため,

実際には中枢神経合併症の頻度が過小評価されている可能 性もある.

IE

を疑う患者では,明らかな局所神経症状を呈 する場合だけでなく,一過性脳虚血発作などの軽微な症状 や,頭痛・めまいなどの非特異的な神経症状の場合であっ ても積極的に中枢神経合併症を疑い,脳

MRI

や造影

CT

による精査を行うことが推奨される(表19および「

CQ1

中枢神経症候のない

IE

または

IE

の疑われる患者に脳

MRI

は有用か?」

p. 37

参照).また,初発症状の約半数が 中枢神経症状であったとの報告もあり209),基礎に心疾患 がある例で発熱を伴う神経症状がみられる場合は,

IE

疑って検索する必要がある.

中枢神経合併症の種類としては,脳梗塞および一過性脳 虚血発作がもっとも多く,そのほか,脳出血,クモ膜下出 血,脳動脈瘤,脳膿瘍,脳髄膜炎,中毒性

/

代謝性脳症,

てんかんなどがあげられる17, 209, 233).中枢神経合併症の原

因菌としては,

Staphylococcus aureus

が多い236–238).脳 梗塞は無症候性も含めると

IE

患者の

50%

前後に認められ,

多発性で小病変が多い233, 235).脳出血およびクモ膜下出血 は

5

10%

に認められるが233, 235, 239),無症候の場合も少 なくない.これらの出血性合併症は,出血性梗塞や,感染 性脳動脈瘤の破裂,細血管の破綻によって引き起こされる.

MRI-T2*

強調画像を用いた研究では,上記に加え,脳 微小出血が約

60%

と高率に認められる234, 238, 240).感染性 脳動脈瘤の合併率は,脳血管撮影によるスクリーニングを 行った場合,

4

9%

程度と報告されている241, 242).脳出 血またはクモ膜下出血を認めた場合,脳動脈瘤の合併率は

22%

まで上昇する241).感染性脳動脈瘤は通常の脳動脈瘤 とは好発部位が異なり,中大脳動脈の遠位に認められるこ とが多く,約

25%

は多発性である243)

IE

を疑う患者で脳 出血またはクモ膜下出血を認めた場合,脳血管イメージン グ(脳血管撮影,コンピュータ断層血管造影[

computed tomography angiography

CTA

], 磁 気 共 鳴 血 管 造 影

magnetic resonance angiography

MRA

])による感染性 脳動脈瘤の検索を行うことが強く推奨される(表19).

中枢神経合併症を有する患者では生命予後が不良となる ことが多くの研究で報告されているが67, 209, 237, 244)

1345

例の

IE

患者を対象とした観察研究では,頭蓋内出血や中 等度以上の脳梗塞だけが予後不良と関連していた67).軽 症例や無症候性の脳梗塞が予後と関連しているか否かは明 らかでなく221, 245, 246),重度ではない脳梗塞患者に対して早 期に開心術を行っても,出血性梗塞などの術後神経合併症 のリスクは低い221, 247–249).一方で頭蓋内出血を伴う場合,

早期に開心術を行うと死亡率や術後神経合併症が多いこと が報告されている230, 249).脳梗塞や頭蓋内出血を合併した 患者の開心術実施の時期については,別項に記載した(「

VI

2.

外科的治療の適応と手術時期

CQ3

:中枢神経合併症 が生じたときに

IE

手術は早期に行うべきか?」

p. 45

参照).

b.中枢神経合併症の診断法(表19

IE

に合併する中枢神経合併症の診断には,頭部

MRI

が もっとも有用である.

MRI

を撮影できない場合や,患者の 全身状態が不安定な場合は,頭部単純

CT

を撮影し,必要 に応じて

3

次元

CT

血管撮影および頭部造影

CT

を追加す る(推奨クラス

IIb

,エビデンスレベル

C

).

MRI

の撮影条 件は施設によって異なるが,拡散強調画像(

diffusion weighted image

DWI

), 水 抑 制 反 転 回 復 法(

fluid attenuated inversion recovery

FLAIR

)画像,

T2*

強調 画 像 ま た は 磁 化 率 強 調 画 像(

susceptibility-weighted imaging

SWI

),

MRA

を撮影することが好ましい(推奨 クラス

IIb

,エビデンスレベル

C

).

CT

と比較して

MRI

DWI

で は 急 性 期 脳 梗 塞 の 検 出 感 度 が 高 く250, 251), 表18 IEにおける塞栓症合併のリスク因子

疣腫の性状

10 mmまたは>15 mm

抗菌薬投与にかかわらず増大

可動性に富む

僧帽弁前尖

多弁性

ブドウ球菌,真菌 臨床背景

高齢

塞栓症の既往

心房細動合併

糖尿病合併 IE:感染性心内膜炎

FLAIR

画像と

T2*

強調画像または

SWI

を組み合わせるこ とで,急性期の脳出血やクモ膜下出血の診断においても

MRI

の診断精度は

CT

とほぼ同等となる252)

感染性脳動脈瘤は中大脳動脈の末梢側にできることが多 いため,

MRA

を撮影する際には,中大脳動脈全体(

M3

以遠)が含まれるように撮影範囲を広めに設定することが 好ましい.

5 mm

未満の動脈瘤は

MRA

で検出できない可 能性があるため253),脳出血やクモ膜下出血を合併する場 合は,腎機能障害に注意しつつ,脳血管撮影もしくは

3

CT

血管撮影を検討する.

IE

の患者では,

T2*

強調画 像および

SWI

で,脳出血やクモ膜下出血に加えて高頻度 に脳微小出血を認める233, 234, 240)

IE

における脳微小出血 の臨床的意義は明らかではないが234),少数例での検討で は開心術後の脳出血との関連が報告されており254, 255),感 染性脳動脈瘤との関連が疑われている256, 257).脳膿瘍は,

MRI

では

DWI

で著明な高信号を呈し,

CT

では低吸収と なる.また,造影

MRI

および造影

CT

にて特徴的な被膜 のリング状増強効果が認められる.

頭痛や意識障害,髄膜刺激症状があり,髄膜炎やクモ膜 下出血を疑う場合は,腰椎穿刺による髄液検査を行い,髄 液初圧,細胞数と分画,蛋白量,糖濃度,キサントクロ ミーの有無を調べる.同時に髄液のグラム染色と検鏡およ び培養検査を行い,原因微生物の同定を試みる.

CQ 1

中枢神経症候のない

IE

または

IE

の疑われる患者 に脳

MRI

は有用か?

中枢神経徴候のない

IE

または

IE

の疑われる患者に対 して,できるだけ早期に脳

MRI

DWI

FLAIR

画像,

T2

強調画像,

MRA

を含む)を撮影することを提案 する

推奨の強さ2:弱く推奨する(提案する)

エビデンス総体の強さC(弱)

【関連個所】

b.

中枢神経合併症の診断法」(

p. 36

),表

19

前節で詳述したように,

IE

患者ではさまざまな中枢 神経合併症が認められる(「

a.

中枢神経合併症の頻度・

種類」

p. 36

参照).明らかな中枢神経徴候を認めない

IE

患者においても,

MRI

を用いたスクリーニング検査を 行うと

40

80%

で中枢神経合併症が認められることが,

複数の研究で示されている231, 232, 234, 235, 247, 250, 258–260)

CT

と比較して,

MRI

では

DWI

および

FLAIR

画像を用 いることでより高率に小梗塞を検出でき,また,

T2*

調画像または

SWI

を用いることで

CT

では検出できな い脳微小出血を検出できる250, 251).脳微小出血は,これ まで高血圧性脳小血管病やアミロイド血管症などの脳 小血管病の指標として用いられてきたが,

IE

患者にお いても高率に脳微小出血が認められ240),開心術後の脳

出血254, 255)や細菌性脳動脈瘤259)との関連が疑われて

いる.

MRA

は閉塞血管や感染性脳動脈瘤の同定に有用 である.感染性脳動脈瘤は脳動脈の末梢にできることが 多いため,可能であれば

MRA

は末梢まで含めた範囲 を撮影する(「

b.

中枢神経合併症の診断法」

p. 36

参照).

中枢神経症候のない

IE

または

IE

の疑われる患者に 対して早期に脳

MRI

を撮影することで,患者の予後が 改善されるかどうかについて明確なエビデンスは存在 しない251).一方で,

IE

の疑われる患者に対する早期の 脳

MRI

撮影の有効性を検討した前向き観察研究では,

MRI

を早期に撮影することにより

32%

の症例で

IE

診断精度が改善され(

26%

possible

から

definite

に,

6%

excluded

から

possible

に改善),

18%

の症例で

MRI

の結果を踏まえた手術時期や抗菌薬の変更といっ た治療方針の変更が行われた233, 261).中枢神経合併症 を有する症例では周術期の死亡率や神経症状が悪化す るリスクが高いため,心臓手術を

2

週間以上待機すべき との論文もあるが230),近年の観察研究では,無症候性 の中枢神経合併症を有する症例では早期に心臓手術が

表19 IEの中枢神経合併症の診断についての推奨とエビデ

ンスレベル

推奨

クラス

エビデンス レベル IEを疑う患者で脳出血またはクモ膜下出

血を認めた場合,脳血管イメージング

(脳血管撮影,CTA,MRA)による感染 性脳動脈瘤の検索を行うべきである

I C

IEを疑う患者では,明らかな局所神経症 状を呈さない場合であっても,脳MRI よる中枢神経合併症精査を行うべきであ る(「CQ1:中枢神経症候のないIEまた IEの 疑 わ れ る 患 者 に 脳MRIは 有 用 か?」参照)

IIa C

IEを疑う患者でMRIが撮影できない場合 や,患者の全身状態が不安定な場合は,

頭部単純CTを撮影し,必要に応じて3 次元CT血管撮影および頭部造影CT 追加するとよい

IIb C

MRIの 撮 影 条 件 は,DWI,FLAIR画 像,

T2*強調画像またはSWI,MRAを撮影す

ることが好ましい

IIb C

IE:感染性心内膜炎 CTA:コンピュータ断層血管造影 MRA:磁 気共鳴血管造影 DWI:拡散強調画像 FLAIR:水抑制反転回復法 SWI:磁化率強調画像

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